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2017年03月06日

Dr. ミナシュラン!
第7回 私、患者になる

 Dr.ミナシュランの心に深く刻まれている、自身が病を患った時のお話。心身ともに追い詰められたときに見えた患者さんの優しさと院長のぬくもり。ふと見上げた星空が、彼女の心境を映し出していました。

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第7回 私、患者になる

私が患者になったのは、「魚屋弁当」(参照:第2回)の小さな診療所に勤務する少し前、まだ地域の総合病院に勤務していた頃のことだ。

命に別状はなかったのだが、治療のスケジュールを立てるのがやや難しい種類のものだったので(そして、その近隣には治療可能な施設がなく、片道2時間の運転で通院することとなった)、私は時々、外来の前日になって「ごめんなさい、明日の外来を休ませて頂きます」と申し出なければならなくなった。

「外来に穴を開ける」という心苦しさは、きっと、その経験のある方には分かって頂けると思う。

最初の頃こそ、事務員さんや看護師さんが患者さんにキャンセルの電話をしてくれたが、度々そんなことがあるとなんだか申し訳なく思えて来て、ある頃から私は、自分で患者さんに電話をするようになった。

外来患者さんの山積みのカルテを抱えて薄暗い診察室に入り、私はそこからひたすら外線電話をかけた。

「もしもし、○○病院の医者の□□です。大変申し訳ないのですが、明日の外来ができなくなってしまいまして。もしお薬が残っていたら、数日後にずらして来院して頂くことは可能でしょうか?」

本当に申し訳なくて、受話器を持ちながら何度も頭を下げるように(サラリーマン?)電話をかけた。

患者さんだって、予定がある。お仕事、家庭のこと、いろいろとやりくりをして通院の都合をつけて下さっているのだ。

それをキャンセルするとは、申し訳ないにも程がある、と私は思った。

しかし、患者さんの反応は、私の想像とは違っていた。

「えっ、えっ、先生ですか? 先生本人ですか? ちょっとオカン〜、先生から電話がかかってきたよ〜!」

なんだか、嬉しそうなのである。

(えっ?!)

私も、もしもキムタクから電話がかかってきたら嬉しくて電話口で軽くヒッピハッピシェイクしてしまう自信があるが、患者さんは、なんだかそういう調子で喜んでおられるのである。

……自分では自覚していなかったのだが、「病院の先生」(しかも若い女医さん)というのは、ちょっとした有名人だったらしく、電話をかけたただそれだけのことで、患者さんは喜んでくれたのだった。

「ええ先生、大丈夫ですよ、薬、残ってます。来週でももちろん大丈夫です! 先生、気にしないでくださいよー」

患者さんの優しさに支えられて、私は自分の通院を続けることができた。

(ちなみに、この時に、「多くの患者さんは飲み忘れの薬が手元に余っている」ことを知った。この時から私は、外来で必ず残薬があるか確認し、余っているようだったら差し引いて処方するようにした。怪我の功名だ。)

しかし、治療は順調には進まなかった。

片道2時間をドライブして帰る頃にはいつも空に星が浮かんでいて、四国の真っ暗な道路から見る星空は本当に美しかったが、運転しているとその星が、だんだん滲んでくることもあった。

「危ない、危ない!」

私は一旦路肩に車を止めて涙を拭いて、そしてまた運転し始めた。

「もう、仕事、辞めた方がいいのかな?」

自治医大の義務年限を途中で辞めると、在学時に受けた貸与金を一括で返還しなければならない。その額は、大体3000万円だと言われていた。

その金額も安くはないが、それより何より、自治医大卒業生は「僻地の義務を果たしてこそ」という暗黙のプレッシャーを背負っている気がしていた。

「ここで辞めたくないな」

そう思うものの、治療帰りのドライブでは、やっぱり毎回、星が滲むのだった。

職場では、葛藤が続いていた。あまり周囲に言いたくなかったが、治療のことを隠しておけなくなった。

私は院長先生と面会し、治療のことを説明した。外来を休んで迷惑をかけてしまうこと、本当に申し訳なく思っているけれど、もう少し働きながら治療を続けさせて欲しいことを話した。

院長先生からどんな厳しい一言があるだろう、と覚悟していたが、この時院長先生がかけてくれたのは、これまた、意外な言葉だった。

「ところで、ミナ先生の血液型は、何型なの?」

「はあ?」

確かに、輸血材料の入手しにくいことがある地域ではあったが、私には輸血の予定は全くない。院長先生は、なぜ唐突に血液型をお尋ねになったのだろう。

「え、AB型ですけど」

「はっはっは、じゃあ大丈夫だ」

「はあ???」

比較的在庫が確保しにくいAB型なのに、何が大丈夫なのか。(しかも輸血は必要ないのに!)「AB型ってことは、半分B型が入ってるんでしょ? じゃ、大丈夫! あまり考え詰めないで、半分は楽観のB型でいきなさいよ。仕事は大丈夫、みんなでカバーするよ」

「ありがとうございます……」

私は、血液型の性格判断や占いの類いは信じない。でも、このときばかりは、「私のB抗原、頑張れ!」と、ちょっとだけ血液型占いを信じることにした。

院長先生のお言葉に笑いながら、気がつけば、今度は星が滲むどころではなくて、目の前が何も見えない位涙が出ていた。

これからも迷惑はかけるだろう。

でも、この患者さん達やこの院長先生と一緒だったら、もう少し続けられる気がする……。そう思った。

さて、この頃、私は何を食べていたのだろうか? 病院帰りによく買ったもの、それは、ケンタッキー・フライドチキンである!!

都会ではただのファーストフードとして知られるケンタッキーだが、田舎にはケンタッキーの店舗がない。だから、ケンタッキーを買って帰ったものが勇者である!

ケンタッキーのある街に住んでいたら特に食べたくならないかもしれないが、「買えない」と思うと、無性に欲しくなるものなのである。

そしてやっぱり、ケンタッキーは美味しい!!

帰り道、車の中にケンタッキーの特性スパイスの香りを漂わせながら「明日看護師さん達と食べよう」と、それをひとつの希望にした、必死の日々だった。

追記「Dr. ミナシュラン!」の連載を書かせて頂く動機は、この回を書くことだったかもしれない、と思っています。自分が治療をしていた時、同じように治療しておられる働く女性の手記に随分励まされました。

治療が終了したのはこれから実に4年後のことでしたが、院長先生、先輩医師、看護師さん、事務の方々、患者さん……、本当にたくさんの方に支えて頂いたという感謝の気持ちを今でも忘れることはありません。

そして、いつか自分が誰かをサポートする立場になった時には、院長先生がしてくれたのと同じように、恩返しをしたいと思っていました。

それが、退職後、産休女医さんのピンチヒッター勤務に繋がるわけなのですが、それはまた後ほどの記事で書かせて頂こうと思います。もし今悩んでおられる先生がおられたら……、どうか、ちょっぴりB型で頑張ってください。

(はっ、O型とA型の先生はどうしましょ! Oは比較的大丈夫な気が……って、なんのこっちゃ)。いつか、滲まない星空を見上げられる日が来ますように……。

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プロフィール:Dr.ミナシュラン

四国生まれ、総合医。食べる事が好きで、本名「みな」とグルメの「ミシュラン」を掛けて「ミナシュラン」と呼ばれている。茶道と音楽の心得あり。自治医大を卒業し、四国の地域医療に9年間従事した。台湾人医師と国際結婚。その他の情報は徐々に明らかになる予定。


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