4ee27873 5958 4c8b 9885 eb442e6ef517医療トピックス
2016年02月10日

BOOK:産婦人科医院の壮絶な現場を
女子高校生の目線で描いた
話題のコミック“透明なゆりかご”。

妊娠、出産のさまざまなドラマが繰り広げられる産婦人科。今話題のコミック『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』はこれまで語られてこなかった、カゲの部分にメスを入れた作品です。やわらかな絵のタッチで見せる真に迫るストーリーの一部を紹介します。

透明なゆりかご:産婦人科医院看護師見習い日記 沖田×華(講談社)
第1巻第2巻

著者:沖田×華(おきた・ばっか)
1979年生まれ。小学校のときに発達障害の診断を受けるなど、他人とのコミュニケーションに苦しむなか高校時代に准看護師になり、その後は看護師として働く。しかしうまくいかず、風俗嬢に転身。その頃出会った漫画家の影響を受け、コミックの世界に飛び込む。主な著書は『ニトロちゃん~みんなと違う、発達障害の私~』(光文社)『ますます毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社)など。

自らの発達障害を題材にした作品が注目を集める漫画家、沖田×華さん。彼女の体験談である、高校生時代のアルバイトに基づいた話題作が、昨年5月の発売以来、幅広い層の女性に読まれています。それが『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』。

 舞台は20年ほど前の、地方都市にあるごく普通の産婦人科医院、××クリニック。主人公は准看護師を目指し、ここで見習いとしてアルバイトで働く女子高生、×華。彼女の目を通して描かれる中絶や死産、産み捨て、未成年への性虐待といったショッキングな出来事は、これまた産婦人科としてはごく普通の日常かもしれません。性の目覚めも生の重さもまだわからないような10代の×華は、同年代の少女たちに比べるといささかクールで感情に乏しく見えるけれど、そんな彼女が懸命に考え、必死に学び、そして目の前で繰り広げられるドラマに涙する姿に、女性医師も思わず心を掴まれるはず―――。

第1話「命のかけら」
消える命と生まれる命が交差する場所での、ささやかな行為


見習いの×華がやらせてもらえるのは、簡単な雑用と介助、そしてアウス(人工妊娠中絶) の後処理。命だったカケラを集め、火葬業者に渡す作業を、幼い女子高校生が淡々とこなしている様子があまりに印象的です。しかし×華は、その作業の合間、この世に出て来て「おめでとう」と言ってもらえないその子たちへこっそりお別れの言葉をかけ、日の光を見ずに暗い箱に入れられる前に、ケースを窓に近付け外の世界を見せてあげていました。

毎日中絶している(90年代の日本の死亡原因トップだったといいます)同じ場所で、新しい命が生まれることへのとまどい、そして命の重さについて考えるプロローグ的なエピソード。

 第6話「母性について」
お腹の中で亡くなった子が教えてくれた、命の大切さ

不妊治療の末やっと生まれた子を「想像していた子供と違った」という理由で他人の子供と取り替えようとした永田さん。臨月に胎内で赤ちゃんが死亡するという辛い死産を経験し、「もう子供はいらない」と言う後藤さん。共に短期間のうちに心情が激変した二人の女性を見て、准看護学校で教わった机上の母性の定義と、現実の産婦人科医院で目にした母性との隔たりに、×華は戸惑うのでした。

第9話「初産指導」
跡継ぎができない原因は? 男性不妊治療の厄介さ

 

 地元の名家・神楽田家に嫁いだ恵美さんは、4年間子宝に恵まれず、いくつもの大手病院であらゆる不妊治療を試みた末に、××クリニックへやってきました。「跡継ぎができなかったら私はこの家にいられない」というプレッシャーに圧されながらの検査の結果、不妊の原因は自分ではなく夫にあったのです。渋る夫を励ましながら一緒に通院を続け、数か月後、ついに妊娠し、幸せそうに初産指導に通うのですが…。一人の妊婦が〝嫁”から〝母”に変わった、その微妙な変化にすら気づくようになった、×華の看護師としての成長が頼もしい。

 全編を通して語られるのは、〝母性”のあり方かもしれません。産科未受診の「野良妊婦」だった母親が、生まれたわが子を可愛がらないとは言い切れないし、母子手帳にまめに成長記録をつけていた愛情深い母親が、その後もずっと娘を愛するとも限らない。母性とはいったい何なのでしょう。

同時に×華はさまざまなクエスチョンを抱きます。「中絶を選んだ女性は自己責任なの?」「“子だくさんだから流産してもいいじゃん”なの?」「“産婦人科の診察台でしんどい思いをするのは女性だけ”それはしょうがないことなの?」――。答えは既に出ているはずなのに、現実は女性を苦しめています。 

この漫画を読んで、「泣ける」「考えさせられる」といった感想を言うのは簡単ですが(実際、数ページごとに胸が詰まり、涙があふれます)、それだけにとどまらない動揺が読後しばらく経っても心の底に澱のように沈んでいます。それでも何度も繰り返し読んでしまうのは、私たちも×華と同じように、命の意味の答えを探しているからなのでしょうか。産婦人科に通ったことのあるなしに関わらず、すべての女性に読んでいただきたい名作です!

 文 akanegahaku


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