C7a3a35b 90c2 46f2 a409 e6db91bc001d医療トピックス
2016年02月26日

“Dr.まあや”こと、脳外科医・折居麻綾先生が伝える
「救急車で片道3時間」の道東医療の現実。

北海道・東部、釧路市や根室市が主要都市である道東地区。人口は北海道全体の2割ほどだが、医療機関を含めた都市機能は札幌市に集中し、道東はまさに医療過疎地となっている。その釧路市に、毎週土曜の朝下り立ち、月曜朝に東京に帰っていく医師がいる。joy.netで以前Dr.まあやとして紹介した、折居麻綾医師だ。普段はおちゃらけた語り口調の折居医師だが、道東医療の現実について話す姿は少し違った。

折居麻綾(おりい まあや)先生

1975年東京生まれ、岩手育ち。岩手医科大学卒業後、慶應義塾大学病院で研修を終え脳神経外科に入局。2010年にかねてから夢だったファッションデザイナーの道に挑戦しようと日本外国語専門学校海外芸術大学留学科に入学する。翌年にはロンドンのセントラル セント マーチン カレッジ オブ アート アンド デザインに約2年間留学しファッションデザインの基礎を学ぶ。帰国後は事務所『Dr.まあやデザイン研究所』を設立しアーティスト活動をスタート。現在は釧路孝仁会記念病院、神奈川の病院などで定期非常勤で勤務しながら制作活動を行っている。

医療過疎が深刻な北海道・東部エリア

本州にいると北海道の距離感がよく分からないかもしれないが、札幌市から釧路市までは直線距離で250km、これは東京と名古屋間の距離とほぼ等しい。

 釧路の病院で10年間、当直勤務を続けている折居麻綾医師は、道東の医療過疎の現実についてこう語る。

 「東京から毎週当直医として釧路に行くようになったころ、救急車に3時間乗って患者さんが来ていたんです。衝撃でした。考えられますか?特に私の専門の脳神経外科においては、この時間の長さって非常に危険なことです。少しでも多くの患者さんを救おうと、7年前から道東に悲願のドクターヘリが導入されたことで、かなりの人が救われたと思います。

 さらに驚いたのは、北海道ではわりと大きい街だと思っていた根室市に、脳外科医が一人もいなかったことです。内科医と外科医が数人、あとは出張医でまかなっていました。脳外科の患者さんは、これも2時間くらいかけて救急車で釧路にやってくるわけです。そんな環境だから、医療を諦めている人もたくさんいたと思います。

 この問題に対して、どう向き合えばいいのか。私は、今もお世話になっている釧路孝仁会記念病院の理事長である齋藤孝次先生が、道東の医療の立て直しに奮闘する様子を見てきました。ドクターヘリ導入もそうですし、医師不足を補うために都会から医師を派遣してもらったり、外国人医師も受け入れたりもしています。釧路市内の小さな病院も含めると、本当にたくさんの医師が東京から行っています。恐らく釧路に向かう飛行機には、毎回かなりの割合で医師が乗っていますよ(笑)」

 折居医師のように、東京など道外から複数の医師が派遣されることはめずらしくない。だが、交通手段が飛行機となると、天候に左右されたり定刻につかなかったりと、向かう医師にとっても困難がつきまとうことも。特に釧路市は“日本のロンドン”と称されるほど霧の多い街。濃霧の場合、道内を行き来するプロペラ機は欠航となることもある。慣れない土地での交通手段の確保もなかなか大変だ。

 「羽田からジェット機だと、霧の影響も受けないので比較的通いやすいんです。それでも、定刻に着かずに特急を逃したり、釧路上空で着陸できずに羽田に引き返したこともありました。ここでパラシュートで降ろしてくれー!と叫びそうになりましたよ(笑)。結局、飛行機は羽田に戻ってきてしまったので、すぐに北海道の他の空港行きの便を探して飛び乗って、女満別空港からタクシーで向かいました。4万5千円の料金メーターってなかなか見ませんよね(笑)。それでも、来てくれてありがとう、となるわけです」

東京から釧路まで通う理由

北海道の中でも医療過疎に苦しむ道東エリア。外から積極的に医師を受け入れ、また、それになんとか応えようとする折居先生にその本音を聞いた。

 「私の場合は当直医として携わっているので、例えばその日に私が突然行けなくなっても患者さんに直接的に迷惑がかかることはないんです。むしろ負担がかかるのは常勤で働く医師たち。来るって言っていた人が来ないと聞いた時の現場の気持ちはよく分かっていますから。私が釧路に行くのは土日の当直です。そこで万が一穴が開いたら常勤の先生が代わりに出て埋めるしかない。家族と暮らしている医師は土日ぐらい我が子と過ごしたいでしょう? 私のほうは、釧路の当直を結構楽しんでいるので、負担には思っていません。おいしいお寿司を食べさせてもらえるし(笑)。

 かれこれ10年近く釧路に通っているわけですが、地域医療の必要性を肌で感じ、これからも携わっていきたいと思っています。現場の医師やスタッフたちはギリギリの状態でやっていますから、私が離れるわけにはいきません。

 救急車で片道3時間かかっていたのがドクターヘリの導入で40分に短縮されたり、医師が少しずつ増えていったりと、環境は改善しつつあります。そうやって道東医療の質が少しでも向上していくことに、微力ながら貢献したいと思っています。

 それに、現場はすごいですよ。何がすごいって、看護師さんたちがすごい。こっちでは考えられないくらいに広範囲のことを受け持ちます。それに、患者さんからお礼にって鯨の肉をどーんといただいたこともあります。こんなことも地域医療のおもしろさですね」

全国に及ぶ医療過疎の問題

「釧路に限らず北海道全体を見ても医師不足は深刻で、北大や札幌医大などの医局に頼るのも限界があります。ではどうやって医師を確保するか。都会から呼び込むしかないんです。

 慶應義塾大学病院に勤務していた時に、私は誰が釧路まで当直しに行くかを決める担当だったんですが、やっぱり遠いし、冬は寒いし。行きたい人があまりいなかったんですね。そもそも当直自体を敬遠しがちなのに、飛行機でわざわざとなると……。でも誰かが行かないと成り立たないわけですから」

 医療過疎の問題は、道東、北海道に限ったことではない。医師を志す若者が最先端施設を求め都会に流れるのも当然のことで、その流れを止めることはおそらく不可能だ。だからこそ、地域の問題を、中核の病院がカバーする仕組みはますます必要になってくる。折居医師のように、地域医療のためにフットワーク軽く駆け回る医師たちが、より働きやすい環境を整備することも課題のひとつだろう。

■文・ふるたゆうこ 

取材が終わると黒髪ウィッグを外し、デザイナー姿になったDr.まあやは、愛車に乗って制作アトリエへ。休む間もなく、365日全力疾走中です!!

3月より連載『Dr.まあやの「今日も当直です」』がスタートします。脳外科医・デザイナーという2つの世界を行き来するDr.まあや。独自の目線で医療現場の裏話、悪戦苦闘の日々の姿をお伝えします。


<関連記事>
脳外科医デザイナー・Dr.まあやの
奇想天外、最新コレクション

 腫瘍までもがアート。
“脳外科医デザイナー”Dr.まあや参上!