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2015年06月22日

「女性医師のキャリアファイル vol.002」
精神科医×(元)衆議院議員の場合

結婚、出産、子育て、独立と、女性医師がキャリアの岐路に立たされるシチュエーションは少なくありません。この連載では、インタビューを通じて一人の女性医師がどうキャリアを築いてきたのかに焦点を当てていきます。

今回は、対人関係療法の第一人者である水島広子先生にお話をうかがいました。先生は自身のクリニック院長も務めつつ、多数の著書を通じ精神科医の専門的な立場から課題への姿勢や対人関係へのアドバイスも行われています。また、衆議院議員として2000年から2005年の2期5年間を務めるなど、大変幅広いキャリアを構築されています。

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■とにかく納得することが重要な性格

まずは、幅広いキャリアを築いてこられたターニングポイントについて伺いました。

「これという重要なターニングポイントはないんです。何でも実験みたいな感じで取り組んでは次を考えるという繰り返しだったので。というのも、私は何でもやってみて自分で感触を得て納得しないと次に進めない性格なんですね。そもそも、医師を意識するきっかけも、父が臨床医をやっていて興味を持ったという程度。当然、医師になることへの納得が生まれるはずもなく、国家試験を受けないでいようかと思ったほどです。

科目選択に関してもどこにも興味が持てない。唯一興味が持てたのは漢方でした。自分は目が悪いのですが、西洋医学では効果がなかったのに漢方がとても効きまして、そんな実体験から興味を持ったんです。そこで、北里大学東洋医学総合研究所に行って研修を受けられるか尋ねたのですが、西洋医学の専門を持っていることが必要だった。そこで改めて科目選択を考えたのですが、ある精神科の先生から言われたことが心に刺さったのです。精神科なんて処方ができるかできないかの違いだけで臨床心理士と変わらないのではという私に『精神科の患者さんは差別されているから体の病気も診てもらえないことも多い。だから、全身の治療ができるような、ジェネラリストでなければできない。そもそもキミはかなり精神科医に向いていると思うよ』と言われました。その言葉に、無医村の医者のようでかっこいいな…と妙な納得感があって、精神科を目指すようになりました。

ただ、精神科になってからは『天職』だと強く感じています。というのも、1度診た患者さんが離れていかないんですよ。『先生と話をすると安心する』と言われることも多いです。治療の原則として『約束は守るけど、約束したことしかしない』と例外を作らないことが良いのかもしれません。一度でも例外を作ると、そうでないときに相手を裏切ることになりますから。

専門は対人関係療法ですが、もともとは精神薬理をやろうと思っていたんです。でも、研修1年目に医局でコーヒーを飲んでいたとき、認知療法の第一人者である大野裕先生の研究室に誘われました。『精神分析をやらなくていいのなら』というと『今そういう人が必要なんだ』と。ちょうど慶應精神分析グループを心理研究室に名前を変えたところだったんですね。分析でなく現代的な研究室にしたいとのことで切り込み隊長のような役割を担ったわけですが、そこで「何か頭が忙しくなるような課題をください」と言って託されたのが対人関係療法の書籍の翻訳でした。ちょうど創始者である著者が来日して交流が持てたことなどもあり、夢中になっていくきっかけになったことを覚えています。」

■大学院のうちに子どもを出産

偶然の出会いのように、水島先生が選んだ精神科医の道。その一方で生活面でも変化があったと言います。

「実は大学院にいるうちに、子どもを産んでいます。ちょうど3年の終わりの時でした。もともと子どもを持つ気はなかったんです。飽きっぽい私には育てられないと思って。でも、20代で精神科医をやってみて、思春期の子どもたちを見ているうちに、子育てのポイントが見えてきたんです。子育てでこれをしなければいけないということではなく、こんなのはしなくていい、やるだけ良くないという点が分かってきた。そうするとなんだか納得した自分がいまして、子どもを産むことにしたんです。

1人目を産んでみると、やはりとてもかわいい。でも、1人だけだとずっと親が子どもの相手をしなければならないので大変です。そこで子ども同士遊んでくれることを期待して、2人目を産みました。その時は既に国会議員だったんですが、産休だけいただいて出産しました。台風の中、鳩山由紀夫さんと演説して、その足で病院に向かって出産。直後9.11テロ事件が発生し、産後休だけで国会に戻ったのを覚えています。産後休暇中も自宅で政策を作っていました。

そういえば著書を出すようになったきっかけも、第一子の出産前に新聞に投稿した『キレやすいのは大人の方だ』というタイトルの論壇でした。それを読んだ編集者さんから声をかけていただき、新書を出すことになったんです。

国会議員に関しては、2000年に選挙の話が出ました。選挙に出ようと思ったのは、患者を減らすためには社会を治さなければいけないと考えたからです。政治が変われば社会が、社会が変われば個人が変わると考えていました。ちょうど民主党が女性候補を公募していたので、夫の後押しもあってすぐに応募しました。

思えば、書籍も国会議員も、自分の中の納得感を高めるための行為だったかもしれませんね。また、国会議員を務めている間も、患者さんは診ていました。目に見える仕事は変わっても、自分のアイデンティティは精神科医であったと思います。」

たくさんの役割を持つ中で、周囲との関係性を良好に保つのは難しいもの。しかし、水島先生は精神科医としての見知からの工夫で苦労は少なかったと振り返ります。

「自分に合う人と付き合うためには、自分も正直に。私は医師であることも隠さないし、忙しくて家事ができないこともさらけ出します。そうすることで、『どうせあなたにはできないだろうから』と、周りの人が助けてくれました。特に選挙中は、よそのお宅で食事だけでなくお風呂まで入れてもらったこともあります。あなたは忙しいんだから、他は手伝うからせめて抱っこだけはしてあげてって。人間関係で苦労している人は、本来の自分とは違う人間像を演じているから、周りも適切に助けてくれないのではないかと思います。

そもそも医師って、自分から名乗っておいたほうが楽な職業だと思うんです。運動会に行かなくても『医者なら仕方が無い』と白い目で見られませんし。自分に都合のいい環境は自分で作ってしまえばいいんですよ。自分がきつくなることは絶対しないし、自分が面倒に感じる人とは付き合いません。」

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■納得と余力が鍵

最後に、キャリアを追求するにあたって最も大切だったことは何でしょうか?

「まず納得することが重要です。妥協は良くありません。小さな妥協はありつつも、ここで妥協したら後でもっと苦しくなるという妥協はしないということです。それはキャリア選択だけではなく、ちょっとした風土や文化についてもそうです。たとえば医局時代、妙な性別役割分担の風潮があったんですね。ある日、女性研修医を集めて『コーヒーの入れ方講習会』のようなものが開かれそうになったんです。あきらかに男女不平等ですよね。納得できなかった私は、男性の研修医もその会に全員呼んで、なあなあにならない状況を作りました。

ほかにも年上の男性の同僚が『ボタンくらい付けてよ』と甘えてきたことがあって。裁縫は苦手ではなかったんですが、これを認めると頼まれることが拡大してくるだろうと思い、納得できず拒否したんですね。周りも巻き込んで大変な騒ぎになりましたが、最終的には、やり方を教えてあげるから自分で縫ってもらうことで折り合いを付けました。

もうひとつ、これも大事なことですが、肝心なところは見定めてから努力するようにしています。ここは外せないなというところだけに集中するんです。無駄なことをしないで、力を余らせるためです。ギリギリまで努力すると燃え尽きてしまうんですよ。かならず1割は残すようにしてきました。精神科医としても同様のアドバイスをしています。

これは適当にやるということではなく、限界を自分で受け入れ、それを改善することで高めていこうということです。このあたりは著書『プレッシャーに負けない方法 ―「できるだけ完璧主義」のすすめ』にも書いていますので、もしよければ参考にしてください。」

■ インタビューのまとめ
・ 納得することをやる。後々困った状況を作るような

  妥協はしない。
・ 他の誰かを演じない
・ 肝心なところを見定めて努力し、力は1割余らせる

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■ 水島先生の著書
プレッシャーに負けない方法
 ―「できるだけ完璧主義」のすすめ

水島広子(著)
さくら舎
1512円

■ 取材協力
水島広子こころの健康クリニック
〒106-0046
東京都港区元麻布3-12-38
03-3470-5355
http://www.hirokom.org/clinic.htm

■文 中山記男


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