Ed50bf11 dc81 4375 b454 e55c8c8ac676ワークスタイル
2016年03月04日

BOOK:新型インフルエンザ、感染症と戦う進藤奈邦子医師。
脳外科、内科からWHOのメディカルオフィサーへの転身。

この冬も大流行したインフルエンザ、日本人で初の感染が報告されたジカ熱など、ウィルスパンデミックの不安が常につきまとう時代。その救世主として、感染症や伝染病が蔓延する危険地域に果敢に挑む医師がいます。脳外科から内科に転科し現在はWHO(世界保健機関)のメディカルオフィサーとして活躍する進藤奈邦子さんです。SARS、新型インフルエンザ、エボラ出血熱などの感染症防止活動で世界を飛び回る一方で、二人の子を持つシングルマザーでもある彼女。医師としてのバックボーン、情熱の源、そして人間的な魅力を知ることができる2冊をご紹介します。

女性だからこその苦労、母としての悩みを乗り越え
世界の人々を救う、メディカルオフィサーへ

NHKプロフェッショナル仕事の流儀
新型インフルエンザとの戦い 私たちにできること.(イースト・プレス)

著者:進藤奈那子(しんどう・なほこ)医師

東京慈恵会医科大学卒業。英国セントトーマス病院、オックスフォード大ラディクリフ病院にて外科、血管外科、脳神経外科臨床研修後、慈恵医大内科学講座第2に入局。妊娠を機に脳外科から内科に転科。専門は内科、感染症、臨床細菌学。2000年より国立感染症研究所感染症情報センターに主任研究官として勤務。その後2002年からはスイスのWHO(世界保健機関)に派遣。感染症アウトブレーク情報の収集と解析、フィールドレスポンス、WHOガイドラインの作成を担当。SARS、トリインフルエンザやエボラ出血熱なども担当。

 WHOの仕事とは――
2005年から密着取材をしたNHKの人気ドキュメンタリー番組「プロフェッショナル仕事の流儀」をベースに、本人の言葉で語られた一冊。インフルエンザおよびパンデミックの歴史や、感染症について、また進藤さんの働くWHOとはどういう機関なのかが詳しく書かれています。日本はWHOにとって大口のドナー(資金提供国)であるにも関わらず、専門職員として働く日本人はごくわずかだそう。適正人数としては「アンダー・リプレゼンテッド」であるため、日本人からの応募には積極的である、というのは興味深いです。進藤さんが携わっているのは、内戦中のアンゴラで、地雷や襲撃、マラリアの恐怖と戦いながらの過酷な仕事。読んでいるだけでホコリっぽい熱気と不衛生な空気が漂ってくるようです。そんな非常地帯にいて、自分用に持参したシリアルバーをついみんなにあげてしまったり、唯一の安全な飲み物、コカ・コーラを飲みすぎて太っちゃったらどうしようと悩んだり、なんともチャーミングな人柄が垣間見られます。

 医師を目指した理由
進藤さんは、医師一族の家に生まれ、父だけが世界中を渡り歩く商社マンでした。医師を目指す環境にも、また国際舞台で活躍する素養にも恵まれたように見え、現在の姿もさもありなん、と思ってしまいます。でも、高校までの彼女は、医師になるつもりはまったくなく、アメリカで都市計画や建築を学ぼうかと考えている少女でした。なぜその進路を変更し、さらに男性社会といわれる脳外科を目指したのか? それには、不幸にも10代で脳腫瘍に侵された弟の存在があったのです……。

 妊娠したら外科医は続けられない……。
晴れて脳外科医となった後も、女性ゆえの壁にぶちあたります。妊娠を理由に、大学から派遣され勤めていた県立病院をクビになってしまうのです。当時、産休や院内保育は看護師は使えても、女医は使わせてもらえない。ハローワークに行っても、医師に失業はないと言われ失業保険ももらえない―――。脳外科医として築いてきたキャリアをあきらめ、つてを頼って内科医に転科した彼女は、それでもやはり働きづらさを感じ、「大学に残る女医は、女性としての幸せを望んではいけないものなのか」と恨めしく思うのです。今でこそ最前線でまさにバリバリ働いている進藤さんですが、働くママとして悩み、傷ついていた過去があったんですね。

 また、WHOで働きたいと思ったらどうするべきか、具体的な方法も記されていて、読んでいるだけでわくわくします。当然、女性として働くことの難しさ、仕事とプライベートの両立の仕方についても、壁にぶつかり、乗り越えてきた進藤さんだからこその、理想論だけじゃない〝使える”格言が優しく綴られています。特に、自分に対し厳しく客観的に意見してくれるメンターを持つ、というのは、医師に限らず、つい頑張りすぎてしまう日本人ワーカーには必須なことかもしれません。

>>女性医師に強い! ライフステージに合ったお仕事探しは『Dr.なび』

人気作家・林真理子が艶っぽい医療エンタメとしてリメイク。


アスクレピオスの愛人(新潮文庫)

がらりと趣向を変えた、もう1冊が林真理子著の小説『アスクレピオスの愛人』。主人公の佐伯志帆子は、WHOのメディカルオフィサーで、美貌のシングルマザー。そう、進藤さんをモデルに書かれたフィクションです。ジュネーブのWHO内部のディテールや、前線で戦う志帆子のパワフルなキャラクター設定は、著者がスイスに赴き取材した内容がベース。「WHOのメディカルキットにはフィールド活動用のコンドームがある」といった情報を盛り込むなど、林真理子らしい視点でWHOの仕事の姿が映し出されています。とはいえ「あくまでも小説の世界」と進藤さんは新潮社の『波』にコメントを掲載。

 この小説が本格的に乗ってくるのは、皮肉にも完全フィクションの部分、志帆子の〝魔性の女”ぶりと、それに翻弄される男たちとのラブ・アフェアなんですね。とはいえ、彼女をめぐる男たち――セレブ専門美容外科医院の院長、大病院グループの総帥、医師を妻に持つ若き医師――の、経歴や日常、人間性についてはいずれも微に入り細を穿ち描出されていて、エンターテインメント性の高い医療モノ小説といえます。そして、この小説の読みどころでもあるのが、医療界のヒエラルキーや男社会ぶりを生々しく描いているところ。放射線技師の父が息子に「病院で働くからには医者でないとダメなんだ」と諭すシーンや「医者不足の原因は女がやたらと医学部に入ってくること」という男性医師の言葉などに、リアルさを覚える女性医師も多いのではないでしょうか。

 ■文 akanegahaku

医師の常勤求人検索はこちら➡『Dr.転職なび』
  アルバイト検索はこちら➡『Dr.アルなび』
エムステージ産業医サポート【医師向け】

ヘルスケアの今と未来がわかるWEBマガジン➡『HEALTHCARE Biz』

 


<関連記事>
BOOK:産婦人科医院の壮絶な現場を
女子高校生の目線で描いた
話題のコミック“透明なゆりかご”。

冒険家・三浦雄一郎を支えた国際山岳医の挑戦。 
未知なる世界だから見える景色がある。