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2016年04月28日

これからの日本の「出産」と「産後」を変えたい!
新たな境地を開いた産婦人科医・宋美玄先生が思うこと。

前回のインタビューで、女医の多くが抱える月経の悩みに対し、月経カップやIUSのミレーナでわずらわしさを軽減する方法を提案してくれた宋美玄先生。現代女性の性と健康の問題に、常に真正面から向き合う宋先生がいま一番フォーカスしているのは、「出産」と「産後」の在り方と言います。昨年11月に第2子を出産し、現在はクリニックに非常勤で勤めながら完全復職を目指す宋先生に、自身の出産経験も踏まえ、女性医師にとっての「産み時」や理想のお産と産後などを率直に語っていただきました。

                              宋美玄(そん・みひょん)先生

 1976年、兵庫県神戸市生まれ。大阪大学産婦人科勤務後、川崎医科大学講師を経て、イギリス・ロンドン大学院の胎児超音波部門に留学。帰国後、国内の病院で産婦人科医として勤務。その傍らで記した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』(ブックマン社)が50万部のヒットとなる。2012年に第一子を、2015年に第二子を出産。現役産婦人科医として女性の性や妊娠について常に前向きに提言を行い、また二児の母として、出産・産後についても積極的に啓蒙活動を行っている。

――多くの働く女性と同じように、妊娠・出産とキャリアの兼ね合いに悩む女性医師は多いようです。20代での出産と30代以降の出産、女医にとってのメリット・デメリットはそれぞれどんなものでしょうか。

 20代で産んだほうが、やっぱり出産にまつわるいろいろなリスクは低いですよね。これはみんな知っていること。とりわけ医療に携わる身だし、早めに産むに越したことはないと、どの女性医師もわかっているんです。わかってはいるけれど、忙しい研修医時代に子どもを持つのは無理……と、そんなジレンマに悩んでいるのでは。

でも、個人的には、早ければ早いほどいいとは思わないです。私自身、20代の頃は単にチャンスがなかったということもあって、1人目を30代半ばで産みました。これが、結果としてよかった。ある程度仕事で実績を作った後だったので、産休や育休でキャリアが途絶えたりスキルが落ちたりということを心配しなくて済みました。出産後も、研修医時代と違って頻繁に当直する必要もなく、仕事をコントロールすることができました。結果的に2人産むことができたから言えるのかもしれませんが、私は高齢出産でよかったと思っています。ただ、やはり生物学的なリミットがあるのも事実。いろいろなことを重ねて考えると、30代前半までに専門医の資格を取るとして、その頃がギリギリチャンスなのではないでしょうか。人にもよるし、単純に決められないことですが、産んでからの体力も必要ですし、そこを意識してプランを立てていくのもひとつの方法だと思います。

 ――30代半ばで実際に出産してみて、いかがでしたか?

 実は、ひとり目はめちゃくちゃ安産だったんですが、いきみすぎて骨盤底筋が傷んでしまって、産んだ後はしばらく尿漏れなどのトラブルに悩まされて。今まで産後のそうした悩みをたくさん聞いてきたはずなのに、聞くのと、実際に体験するのとはまったく違うんですよね。こんなこととは知らなかった。それで、もっと勉強しなくちゃいけない、と。そんなとき、出産前から勤め始めた職場で偶然、「ガスケアプローチ」というお産の方法を知ったんです。

 これはフランスの女性医師ガスケ先生が始めたもので、姿勢と呼吸を整えて骨盤底筋を傷めることなく、スムーズにお産をしようというメソッド。わかりやすく言うと、これまでのお産が歯磨きのチューブをしぼり出すようなイメージなのに対し、ガスケアプローチは、カップ入りのプリンを逆さまにしてぽこっと出すイメージで産もう、というものなんです。コレだ! と思って、産後にフランスに講習を受けに行きました。日本でも何度か講習を受けて、お産の現場でも取り入れることに。自分自身の第2子の出産も、日本でガスケアプローチを広めている助産師さんに付いてもらって、このメソッドで産みました。バランスボールを使ったりしながらトレーニング通りに呼吸を続けていたら、ぽぽぽん、という感じで生まれて。本当にスムーズでした。そして産後もとても楽でした。前のように尿漏れに悩むこともないし、女性の身体性を最も活かした方法なのだと実感しました。

 ――まさに画期的な出産法ですね! けれど、日本ではまだメジャーではないようです……。

 日本のお産の現場ではまだ、医療介入をできるだけしない出産vs医療に頼る出産、自然分娩vs無痛分娩、といった側面だけが語られることが多くて、母体へのダメージを減らす方法はおざなりになっているように思います。けれどガスケアプローチは無痛分娩や吸引分娩とも併用できるし、母体の身体能力をフルに活かす方法だから、生理的で、ある意味自然分娩とも言える。以前から続く安全か自然か、という軸のずれた論争の横で、やっと理想のお産を見つけた、という思いです。日本にも協会ができ、少しずつ広がっていっているところです。

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 ――出産に関わることで、同じく議論になる話題としてもうひとつ挙げられるのが、母乳と粉ミルクの問題です。少し前にメディアでも頻繁に取り上げられましたが、デリケートな問題ですね。

 私も第1子出産のときに母乳が出なくて、理想と現実のギャップに悩んだひとりです。産んだのが母乳育児を推奨している病院だったので、ミルクは絶対足してはダメ、という方針で。搾乳もトライしましたけど、それでも出ない。気付いたら子どもの体重が出生体重から11%も減ってしまって、戻るまでに3週間かかりました。仕方ないから気楽に行こう、とそのときは自分に言い聞かせましたけど、今思えばしんどかったなあ、という感じです。

そのときに、参考になるような授乳関連の本を探してみたけれど、偏った意見の本がとても多い。さらに、そういう片側の情報に右往左往させられているお母さんたちが多い、とも感じました。それで純粋に母乳のことを学べる本があったら、と、授乳に関する本を小児科医と共著で出版したんです。

 ――粉ミルクにも母乳にもそれぞれにメリットがあることだけでなく、授乳中のカフェインやアルコールも少量なら問題ないなど、これまで当然と思われてきたタブーなども改めて検証されていて、非常に興味深い内容です。

 おもしろかったのが、本を読んだ婦人科や小児科の先生たちの反応でした。「そうだったんだ!」「授乳中でもケーキ食べていいの!?」って。口々にそうだよね、私たち知らなかったよね、という気持ちでした。

今でこそこんなふうに語っていますが、骨盤底筋のことにしても授乳に関しても、出産を経験して当事者になったからわかったこと。実際に妊娠から出産までは、トラブルもありましたが、それまでたくさんのお産を見てきたので、どれも想定の範囲内でした。ところがその後の、母乳問題に始まる子育ては未知の世界。母乳のことがとてもデリケートな話題であることすら新しい発見でした。

でも、今まで産後の妊婦さんの多くが訴えていたのはこれだったんだ、と気付きました。それなのに何もしてあげられなかったなあ、と。これはいかん、と反省しました。その後は、猛勉強です。今後は出産と産後についての正しい知識を、ニュートラルに、本やネット、講演で伝えていきたい。日本の、出産と産後を変えていきたいです。

 ――発信する、伝えることは大事ですね。

 多くの医師があまり興味を持っていないけれど、患者にとって大事なことってあると思うんです。最初に産婦人科医としてそう思ったのが、セックスにまつわることでした。

それまで、産婦人科医でセックスのことを積極的に語る人はいなかった。でも、セックスのことで悩んでいる人はいるし、自分たちが診察している領域と深く関わっているテーマなんですよね。セックスのとき痛くて困る、という悩みを寄せてくる患者さんに「見た目はどこも悪くありませんよ」で終わってしまってはいけない。もっとしくみを勉強して、相談に乗れるようにならないといけないと思うんです。そういうことを伝えたくて、セックスに関する本を上梓しました。あんな本書いて……と思われたかもしれないけれど、「婦人科医はこういう分野にも精通していないと、いざというときアドバイスできない」ということも言いたかったんです。出産も同じ。おぎゃーっと生まれたら終わり、じゃないんですよね。

ワイドショー番組に出るのは、別に有名になりたいわけじゃなくて、そこそこの影響力を持ちたいからなんです。そうして医師として研鑽を積みつつ、適度に影響力も持ちつつ、大事だけれど知られていないことを発信していけたら。日本中に知られる必要はないけれど、妊活している人や、子育て層には声を届けられる場所にいたいと思っています。

■文・新田草子

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宋美玄先生の著書(森戸やすみ先生との共著)

産婦人科医ママと小児科医ママの
らくちん授乳BOOK(メタモル出版)

確かに母乳はいいものだけれど、
母乳偏重の風潮が、
産後の心身ともに疲れた
お母さんの負担になっている」
という思いから
産婦人科・宋美玄先生と
小児科・森戸やすみ先生が
授乳にまつわる疑問、悩みを解説。

 


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