E7bb1317 39e4 4577 be45 e37e0f43e1caワークスタイル
2016年05月13日

漢方医として、産婦人科医として、そして母として――
パラレルな役割を輝きに変える
慶應義塾大学漢方医学センター・堀場裕子先生のしなやかな日々

産婦人科専門医として、そして東洋医学会専門医として慶應義塾大学病院で診療に当たる堀場裕子先生。産婦人科専門医取得後、「外来を極めたい」という強い希望のもと、思いもよらなかった漢方の世界へ。1年の研修のつもりが、その奥深い世界に魅了され、気付けばはや5年。「楽しくてたまらない」と輝く表情で、茶目っ気たっぷりにお話される先生に聞いてみた漢方の魅力。そして漢方医として、産婦人科医として、1歳の男の子のママとしてのパラレルな日々とは――

育児と両立しやすい働き方、
プロのエージェントがサポート!
『Dr.転職なび』

堀場裕子先生

 

東京都東村山市出身。2003年杏林大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部・産婦人科学教室入局。大学病院並びに関連病院に勤務し、産婦人科専門医取得。2011年より慶應義塾大学医学部漢方医学センターにて研修。2013年日本東洋医学会専門医。2014年12月には長男を出産。現在は、同センター医局長として外来や、研修医の指導に携わりながら、慶應義塾大学病院・婦人科外来も担当している。

「外来を極めたい!」
産婦人科専門医取得後、思いもよらなかった漢方の世界へ

堀場先生が漢方の世界に飛び込んだきっかけは、上司からの何気ないアドバイスだった。「産婦人科専門医取得後、自身の専門を決めるときでした。私はオペのスキルを高めていくというよりは、外来で患者さんと話して信頼関係を構築して治療に臨んでいくのが好き。だとしたら、更年期を専門にするのがいいかなと上司の先生に相談しました」。

そこで紹介されたのが、当時研修制度を整えたばかりの慶應義塾大学医学部漢方医学センターだった。「外来を極めたいとの希望を持っているなら、治療のバリエーションを豊かにするために漢方を学ぶのがいいんじゃない?との助言をいただきました。思いがけない提案ではありましたが、西洋医学に加え、漢方で体質改善もしていけるのなら、より質の高い治療をしていける。そう思って、迷わず履修を決めました」。

思い起こせば、自身も漢方に助けられた経験があったという堀場先生。「医学生時代、水泳部のキャプテンとして部活に打ち込んでいたら、月経が止まってしまって。地元の産婦人科で漢方を処方されました。え、漢方!?と思ったのに1か月ほどで月経が戻りました」。漢方を不思議な気持ちで意識した最初の記憶。「効いたのかな」と半信半疑だった意識を、「これは効果がある」と高めたのは多忙を極めた大学医局での経験だった。

「私たちの代は、新医師臨床研修制度が始まる前、最後の年。慶應の産婦人科医局に入局してハードな日々を送っていました。朝6時の採血から始まり、8時半に始まるオペの前にカルテ書きをすませ、夕方過ぎまで手術、手術後に採血チェックやオーダー、新入院患者さんの準備…と日付が変わっても病棟にいるような毎日。病院から徒歩5分のところに住んでいたのに疲れて帰る気力もなくって、1週間病院に泊まり込んだこともありました。 “私、無理かも…”とナースステーションで泣いたことも何度もありましたね。

そんなハードな日々が影響したのか、2年ほどまた月経も止まってしまって。恥ずかしい話なのですが、当時はあまりに忙しくて止まっていることすら気付いてなかったんです。産婦人科医なのに…」。体重も激減していたが、周囲に指摘されるまで全く気付かなかった堀場先生。これではいけないと手にしたのが、大学時代に救われた漢方だった。「3か月後くらいに月経が戻りました。漢方だけが原因ではなかったのかもしれませんが、驚きを持って漢方の効能を実感しましたね」。それは、臨床においても同様だった。「婦人科手術後、腸閉塞予防のため大建中湯という漢方を使うのですが、腸を動かすことで術後の排ガスが早く出ます。漢方はやっぱり効くという思いを強くしました」。

年齢、性別、症状どれをとっても幅が広い
新鮮な驚きとやりがいを感じた漢方外来の現場

当初1年の予定で漢方医学センターに入局。足を踏み入れた漢方の世界は、あまりに奥深く、知的好奇心に突き動かされる日々だった。「古医書の抄読、生薬の勉強など漢方医学の基礎理論を学び、指導医のもと外来で診療技術を身に着けていきました。東洋医学会の専門医取得は、西洋医学の専門医を取得していることが条件になっています。私は産婦人科専門医ですが、皮膚科や精神科、内科など様々な専門医が集まっている。だから、症例検討もそれぞれのバックグラウンドを生かした学びの多いものとなるんです」。

1年では全然勉強が足りない。学びへの意欲に火が点き、研修期間も延長。自身で外来を持てるようになり、ますます漢方の魅力に引きこまれていく。「漢方外来って本当に患者さんの幅が広くて。年齢、性別はもちろん、不調の領域も様々。それまで8年ほど所属していた産婦人科では、当たり前ですが女性患者さんだけだったのでとにかく新鮮で。それだけ幅広く対応できる全人医療たる漢方のやりがいをひしひしと感じました」。

赤ちゃんからお年寄りまで様々な患者さんを受け持つ中で、漢方ならではの特長も感じているとか。「赤ちゃんに処方する場合は、直接飲ませるだけでなく、お母さんに飲んでもらって母乳を通して赤ちゃんに与える場合もあります。たとえば、癇が強く夜泣きも激しい赤ちゃんの場合は、お母さんもストレスが溜まってイライラしてしまうこともありますよね。そんなときに気持ちを落ち着かせる『抑肝散』をお母さんにも飲んでもらうと、お母さんのイライラも治まる。そうすると、赤ちゃんへの対応も変わって赤ちゃんも安心して落ち着く。母乳を通して飲んでいる『抑肝散』の効果も相まってとても良い相乗効果となるわけです。母子同服という漢方ならではの治療ですね」。

家族や母娘二代に渡って診ることも多い。「更年期など婦人科系の不調で診ていた50代、60代の患者さんが、自分が効いているからとお嬢さんを連れてくることもあります。家庭環境が似ていると、体質も似てきます。そうやって患者さん1人でなく、ご家族単位で役に立てるのも漢方だからこそと思います」。

西洋医学、漢方医学両面から最適な治療を選択するための研鑽の日々。そんな中で、自分が目指す医師像の輪郭が見えてきた。「漢方外来で患者さんの様々な悩みに接する中で、病棟にいた頃の自分は、多忙のあまり患者さんの細かい悩みにきちんと向き合えていなかったことを思い知らされました。手術への苦手意識が強く、外科系医師としてコンプレックスに感じていたこともありましたが、漢方治療に携わることで、その意識は無くなりました。

なぜなら、患者さんにとって最適な医療を提供するという観点に立てば、手術はうまい先生にしっかり担当いただいて、術後のフォローを細かな不調も含めて私が外来で丁寧に対応していく。そうして、患者さんに寄り添った医療を提供していく道を目指していきたいなと思うようになれたからです。何より、漢方は私自身もずっと飲み続けて体調がいいですから、自信を持って勧められますしね」。

女性医師に強い! 自分らしい働き方を探すなら➡『Dr.転職なび』

漢方医学センターへの復帰が決まった矢先での第一子妊娠

2013年に日本東洋医学会専門医を取得。一度、産婦人科医局に戻った後、2014年4月に漢方医学センターに医局長のポジションを与えてもらい復帰した。しかし、ここで思いもよらぬ事態が起こる。「医局長へのお話をいただき、了承の旨を伝えた2か月後に妊娠がわかりました」。諸々の調整があったうえで、10月末より産休。12月に第一子となる長男を出産した後、わずか2か月で職場復帰した。

「4月までは保育園に預けられなかったため、2月、3月は実家の助けを借りて、週3で復帰しました。4月からは息子は無事保育園に入園し、今はフルタイム勤務です」。産前産後休暇だけで復帰したのは、負い目もあったからと振り返る。「医局長のポジションをいただきながら、1年も経たずに産休に入ったことへの後ろめたさはやっぱりありました。だから復帰しなきゃという思いが強くありました。今、仕事と育児の両立が何とかできているのは、漢方は外来が中心であることと、何より、医局の同僚たちに恵まれているからです」。

とはいえ、子どもを早くから保育園に預けることの罪悪感はゼロではなかった。「4か月から保育園に預けているので、はじめてのつかまり立ちとかは全部保育園。寂しい気持ちもなかったわけではないけど、それを出さないようにしていました。おかげで息子は人見知りもなく毎日元気に登園しています。私が教えたわけでもないのに、いつの間にかできることも増えていて。いや、これはすごいぞ、保育園って(笑)!保育園様々です。自分1人で全て背負って頑張らなくてもいいと思えるようになりました」。

一緒に過ごす時間が少ない分、寝るまでの時間、休日はがっつり濃密な親子の時間を過ごしている。「私が働いているから、自分にできることを精一杯やっていくしかないですからね」。くよくよ悩まず、大らかに思い切りよく育児に向かう姿はとてもポジティブ。「子どもを育てるって日々驚きがあります。産まれた当初の大変な時期は、話の通じない子ザルを育ててると思おうって言い聞かせて乗り切っていました(笑)。でも今は喃語もしゃべって意思疎通できる!“あれ取って”というと取ってくれる。“おー、すごい!子ザルが進化している!!”と日々感動し、育児を楽しんでいます」。

漢方の良さをさらに広めていきたい
飽くなき挑戦への思い

今後も漢方医として、産婦人科専門医として両面の立場を貫いていきたいという堀場先生。「今は、指導医取得に向けて勉強中です。漢方外来、研究、後進の育成ももちろんそうですが、婦人科外来も引き続き担当していきたい。産婦人科専門医でもある漢方医というのがやはりアイデンティティですから」。

さらには、広まってきたとはいえまだまだ馴染みのない人が多い漢方の良さを伝え、日常の不調に取り入れてもらいたいとの思いも強くしている。「漢方は、医療費削減や予防医療、医療知識向上に役立つと思っています。漢方は対症療法ではなく体質から改善していくもの。それにより、病気になりにくい体になるし、未病をも治す。そうしたら病院にかかる回数がへりますよね。さらにすごいことに、私の患者さんでもそうなのですが、漢方薬に慣れてくると、ちょっとした不調の際、症状に合わせて自分で今必要な漢方薬を自分で判断できるようにもなっちゃいますよ」。

そんな漢方の良さを広めようと、講演会等の依頼も積極的に受けている堀場先生。一般向けだけでなく、医師向けの活動にも積極的だ。「漢方に関する論文もエビデンスも増え、国際学会も盛ん。そのため、昔に比べて漢方への懐疑的な見方は少なくなりました。とはいえ、副作用も全くないわけではないので、いい印象をお持ちでない先生も中にはいらっしゃいます。患者さんの中にも、主治医に漢方希望を伝えられず、紹介状なしにこっそりいらっしゃる方もいますしね。

でも、西洋医学と漢方は対立関係ではなく、協力関係にあるべきもの。そのため、医療従事者向けの情報提供もしっかり担っていきたいですね。産婦人科学会で上司が漢方のセミナーを行った際には、300人ほどの産婦人科医が集まり、漢方に対する関心の高さを実感しました」。

漢方医として、産婦人科医として、そして母として――。パラレルな日々をしなやかに過ごす堀場先生。役割の多さに疲弊し押しつぶされるのでなく、いくつもの顔を持てば持つほど、新たな楽しみを見つけ輝きに変えていく。それを支えるのは、あれこれ悩むのでなく素直に楽しもうとする軽やかなスタイル。そんなポジティブな思い切りの良さは「育児の大変さは、当直続きの若手医師時代に比べたら平気!」と取材終わりにおどけたように、限界まで研鑽に励んだ日々が糧になっているからなのかもしれない。

医師の常勤求人検索はこちら➡『Dr.転職なび』
  アルバイト検索はこちら➡『Dr.アルなび』
エムステージ産業医サポート【医師向け】

ヘルスケアの今と未来がわかるWEBマガジン➡『HEALTHCARE Biz』


関連記事
救急医療の最前線に立つ往復4時間通勤の3女の母―
聖マリアンナ医科大学救急医学助教 北野夕佳先生インタビュー

宇宙飛行士ファイナリストの産婦人科医が描く夢
選択肢が多いほど人生は豊かになる