3ee0cf73 bd70 4442 8f97 b665985f990a医療トピックス
2016年05月18日

イメージは“プッチンプリン”!?
産婦人科医・宋美玄先生が伝える
出産法「ガスケアプローチ」とは?

産婦人科医・宋美玄先生が第二子出産の際に挑戦した出産法「ガスケアプローチ」。姿勢と呼吸を整えて骨盤底筋群(ペリネ)を傷めることなくスムーズなお産をしようというメソッドで、フランスの女性医師ベルナデッド・ド・ガスケ女史が考案したものです。宋先生は「最初のお産と比べて産後の体調が明らかに違う!」と実感。“無理のないお産のスタイル”であるガスケアプローチを広めようと活動をしています。その一歩として開催されたのが<ガスケアプローチのおはなし会>。産婦人科医として、母として、臨床とは違ったアプローチでお産を伝える姿をリポートします。

                           宋美玄(そん・みひょん)先生

 1976年、兵庫県神戸市生まれ。大阪大学産婦人科勤務後、川崎医科大学講師を経て、イギリス・ロンドン大学院の胎児超音波部門に留学。帰国後、国内の病院で産婦人科医として勤務。その傍らで記した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』(ブックマン社)が50万部のヒットとなる。2012年に第一子を、2015年に第二子を出産。現役産婦人科医として女性の性や妊娠について常に前向きに提言し、二児の母として、出産・産後についても積極的に啓蒙活動を行う。日本ガスケアプローチ協会代表理事。

関心の高さは想像以上。
会場を埋め尽くしたプレママ、産後ケアのママたち

東京・渋谷にある日本ガスケアプローチ協会のスタジオには、出産を控えた妊婦さんと赤ちゃん連れのママが集まり、定員20人ほぼ満員に。宋先生は体を動かしやすいようにカジュアルなスポーツウエアで登場です。かたわらには、日本ガスケアプローチ協会理事で、宋先生の第二子の出産に立ち会った助産師の太田垣美保さんの姿も。息の合った2人で実演を交えながらのおはなし会。まずは、宋先生の第一子の出産体験談からスタートです。

 私はお産を2回したのですが、自分のお産がどんなふうだったかを語る機会がないので、今日はここで話をさせてもらおうと思います。第一子の出産は35歳で、いわゆる高齢出産でした。だいたい難産になりやすいのですが、自分でもびっくりするくらいのスピード出産。このなかでお産をされたかたは似たようなかんじだと思いますが、分娩台の足台に足を載せて、バーを握って「吸って、吐いて、いきんでー」というごく普通の出産スタイルでした。痛いのに「まだいきまないで」といわれるのは、こんなにしんどいのか。「いきんでいいよ」といわれるとホッとするなぁ、などと思いながら、いきんだのは合計10回ほど。お産が終わったら顔は真っ赤で、もし動脈瘤が頭にあったらはじけているかんじ。そのときにわかったのは、安産は痛い!ってこと。それまでは、自分の患者さんがスピード出産だったら「ラクでしたね」と声をかけていましたが、長時間の人に比べると時間的にはラクかもしれないけれど、むちゃくちゃ痛かった。「安産はラク」とかいって申し訳ありませんってかんじでした。

そんなわけでスピード出産でしたが、産後に排尿の感覚がまったくなくなるというトラブルがありました。ハッと気づくと、病室でジャバー…。お産のときに赤ちゃんの頭にゴリゴリ押されて、膀胱麻痺になっていたのです。さらに、産後4カ月ごろに対馬ルリ子先生の診察を受ける機会があったのですが、「膣壁がゆるんで出てきているみたいよ」と指摘されてびっくり。「まだ産後4か月なら、こんなものじゃない?」と励まされたのですが、「そうなのかなあ…」とやっぱりショックでした。

じつは、妊娠中に「ガスケアプローチ」という出産メソッドがあることを聞いていて、どういうものなのか詳しく知りたいという好奇心…というか、まあ、フランスに行ってみたかったんです。出産後、パリでガスケ女医の講習会に参加しました。そこで、はじめて自分のお産はこんなにもペリネ(骨盤底筋群)に悪いことをしたのか、と。日本でスタンダードに行われているお産の姿勢は、歯磨き粉のチューブの真ん中をギュッと絞るようなかんじで腹圧をかけるんですね。そうすると、医者からは赤ちゃんの頭が少し下がってきたように見える。助産師さんも「見えてきましたよ」などと声をかける。でも、赤ちゃんが下がっているのではなくて、子宮ごと下に押しているだけ。それをすると膣も下がってしまう。で、私は膣壁が下がったままになっていたわけです。

昨年、39歳のときに第二子を授かったのですが、今度はガスケアプローチのメソッドを使って腹圧をかけないで産んだら、カップ入りのプリンをポコッと出すようなスムーズなお産で、非常に快適でした。産後も下腹部の不快感はまったくなくて、やはり体に負担をかけないで産むというのはすごく大事なことだと実感しました。詳しいことは講習会で体験してほしいのですが、今日はせっかくなので助産師の太田垣さんに手伝ってもらってお産の姿勢をちょっとやってみますね。

コツは背中が丸まらないように。
自らの出産体験を交えてレクチャー

太田垣 まず、陣痛中にどうやって過ごしたかですが、ガスケアプローチでは背中を伸ばすことが大事なので、なるべく丸まらないようにしてもらいました。仰向けに寝てひざをたててもらったり、横を向いて足にクッションをはさんでもらったり。

 言葉ではわかりにくいのですが、横隔膜と骨盤が離れるような姿勢がベスト。こんなふうにバランスボールの上にうつ伏せになり、自分の手を太田垣さんに「ぐーっ」と押しつけるような姿勢をとるとラクでした。でも、やっぱり痛いので自然に丸まろうとしてしまう……。

太田垣 「先生、お腹が丸まっていますよ」って何度も言いながら、骨盤の後ろの関節をマッサージしたりもしました。

 背中をまっすぐにすると、赤ちゃんがググッと下がってくるのがわかる。下がると痛いのだけど、お産自体は早くスムーズに進めることができるのです。で、最終的に産むときはどういう姿勢かというと、私は分娩台の上で腹ばいに近い横向きになりました。分娩台ではふつう、足を広げて足台に載せますよね。でも、足を開すぎると赤ちゃんの頭が出てくるところが狭くなってしまう。だから私は横向きで。

太田垣 いまの分娩台は足台が固定されていて、位置を変えられないんです。イメージしてほしいのですが、子どもがおしっこを我慢するときには前を、ウンチを我慢するときは後ろを閉じるように力を入れますよね。同様に、お産のときに足をガバッとひらくと、後ろが閉じられてしまう。なので、足台を使わないで出口が開くように足の位置を変えます。先生の場合は、ラクな姿勢が横向きで、赤ちゃんが下りてくるスピードともあっていたのですが、仰向けでもできます。

ポイントは背中を伸ばして、脚の角度は90度以内になるように曲げること。横のバーも持たないで、バンザイするように手を上にもっていき、ご主人(or助産師)に壁のようになって支えてもらいます。いきみたくなったときに腹圧をかけるのではなく、上に伸びながらいきむと筋肉が働いて、それが子宮を押さえて自然な陣痛を促してくれるのです。

 自分で「ふーっ」と力を入れていきむのとは違うんですよね。赤ちゃんの頭が骨盤底筋の一部にあたると、反射的に力が入って自然にいきめる。骨盤底筋を下にこじ開けるんじゃなくて、跳ね上がって開いたかんじ。おかげで会陰切開をしなくても30分ほどでポコッと産まれてきました。

太田垣 先生は産科医なので状況を判断しながら進み方をコントロールすることができたと思いますが、ガスケアプローチを使うと誰もが短い時間で産めるというわけではないんです。その人なりの分娩の時間があって8時間の人もいれば、24時間かかる場合も。その人のなかでの進行の速さが違い、時間だけでなく、体に負担をかけるかどうか、自然に進むかどうかも違ってきます。

 普通は2人目の出産のほうが骨盤底筋の症状はひどくなるものなのだけど、今回は尿漏れもなかったので産みかたの違いは大きい

太田垣 私は普段、助産師としてお産を介助していますが、妊婦さん全員がガスケアプローチの講習を受けているわけではないので、自然に体を丸くしてしまう人もいます。でも、背中を伸ばしたほうがラクだとわかっている人は、ガスケアプローチっぽい進み方ができる。病院のスタッフがガスケアプローチを知らなくても、妊娠中に腹圧をかけないお通じのしかたなどを体で覚えておくと、陣痛がはじまったときにできます。頭ではなく、体で日常生活のなかで覚えておくといいと思います。

 私はガスケ先生のスタッフから「日本ではこんなに姿勢の悪い人が広めるのか」と言われたこともあるのですが、トレーニングをはじめてから正しい姿勢が気持ちよくて自然にそうなろうとするんですね。自分の体にコンシャスになっていると、自然にできるのかなと。講習会に参加してくれる病院も増えていて、これからもっと広げていきますが、産む人も意識して自分の体を整えておくとスムーズなお産につながると思います。今日の話を聞いて興味を持たれたかたはぜひ講習会に参加してみてください。

 約2時間、飽きさせることなく濃い内容のお話が展開。質疑応答の時間には次々と手があがり、プレママ&ママの関心の高さが表れていました。宋先生は医師と妊婦(ママ)という一線を画す関係ではなく、出産した女性の経験を伝えるという親しい立場で、ひとつひとつの質問にフレンドリーに答えていたのが印象的でした。閉会後は、「子どものお迎えに行かなきゃ」と、急いで帰りの支度をしながら、「産科医にとっては出産時に母子ともに健康であればいいけれど、母となった女性は産後の人生のほうが長いんですよね。せっかく快適に産めて、産後もラクな出産メソッドがあるのだからもっと多くの人に知ってもらいたい。今日は初の試みだったけど、わりと集まってくれたのでまた機会を設けたいと思います」。そう言い残して、渋谷の街へ駈け出していった宋先生。何事においてもはじまりは好奇心。自分で試していいと実感したら、迷わず広めていく。そのバイタリティーと草の根的な活動によって、日本のお産が変わる日も遠くないのかもしれません。

  一般社団法人 日本ガスケアプローチ協会

~研修内容~

【妊婦クラス】
70分3,500円
【医師・助産師コース】
3日間99,360円~

◆東京島渋谷区東1-26-32 
拓新ビル6F

☎03-6912-2895

■文・石毛幸子

 

宋美玄先生の著書(森戸やすみ先生との共著)

産婦人科医ママと小児科医ママの
らくちん授乳BOOK(メタモル出版)

確かに母乳はいいものだけれど、
母乳偏重の風潮が、
産後の心身ともに疲れた
お母さんの負担になっている」
という思いから
産婦人科・宋美玄先生と
小児科・森戸やすみ先生が
授乳にまつわる疑問、悩みを解説。

 

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