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2016年06月15日

壁にぶつかったら動いてみる。
ママドクターの会を立ち上げ、輝く
3児の母、糖尿病専門医・大西由希子先生の挑戦。

 2009年に女性医師の子育てコミュニティ「ママドクターの会」を立ち上げた朝日生命成人研究所の大西由希子先生。「育児との両立、職場の理解をどうやって得ればいい?」「当直の際、子供の面倒は誰が見ればいいの……」など、切実な悩みを周りの助けと客観的な視点でクリアしてきました。「子育ても、臨床も、研究もすべてにやりがいを感じています」という大西先生。充実した“今”を手に入れるまでの道のりをうかがいました。

大西由希子(おおにしゆきこ)先生

 

朝日生命成人研究所治験部長(糖尿病代謝科)。研究領域は糖尿病疫学。東京大学医学部医学科を卒業後、同大学附属病院、日立製作所日立総合病院で内科研修。その後、東京大学医学系大学院に入学し在学中に結婚し長男を妊娠。産休明けより朝日生命成人病研究所に勤務。現在は3児の子育てをしながら週5日のフルタイムで外来、治験部長としての業務、疫学研究などを行っている。総合内科専門医、糖尿病専門医。

 家事能力ゼロの夫と結婚してみて
見えたことがたくさんあった。

「医者と母親業。どちらも充実させた人生にしたい」と医学部の学生時代から思っていた大西先生。「交際相手がいないときにも考えていました。だからね、いろいろな女性医師の先輩方にどうやったら仕事と家庭を両立できるのか、聞きに行っていたの。でも現実は、お仕事ぶりは素晴らしくても子供との時間がなかったり、家庭に重きを置くと仕事が犠牲になっていたり。やっぱり両立は厳しいのかなと感じてました」。科学誌『nature』に論文掲載されるなど輝かしい道を進み1児の母として奮闘している先輩からは「医者も研究も第一線で続けるなら子供は1人がいいかもね」と言われ「えっ、1人しか産めないの? 私は産むなら子供は2人は欲しい、でも『nature』級の研究もやってみたいしなぁ、と欲深い学生でした(笑)」。

 糖尿病を専門とする内分泌代謝科に進み、大学院時代は研究に明け暮れる日々を送る。プライベートの時間がほとんどないなか、自分のことは後回しにして友人の婚活のお手伝いをしていたという。「同級生の男子と病棟の看護士さんとの合コンを企画してあげたりしました。最近になって同窓会で再会した外科医の同期が“外科医としての仕事に集中するためには専業主婦の奥さんじゃないと家庭が成り立たないもの”と発言しているのを聞いて、本当に女医は相手にされてなかったんだなと(笑)」。結果的にお姉さんの紹介で出会ったのが今のご主人。「君はそのままでいいから」という最高の言葉が心に響き、トントン拍子で大学院時代に結婚する。「私が研究で育てていた細胞が全滅しショックで落ち込んでいたことがあったんです。“死んだのは細胞?なーんだ人じゃなくて良かったね”と主人に言われて、確かにそうかも、と思えました」。自分とは違う視点を持つご主人に救われることが多かったという。

 「ですが、家事のスキルがまったくなかったんですよ、うちの主人」と嘆く大西先生。結婚前にご主人が住んでいた家はきれいに掃除してあるものの台所にはヤカンだけ(→自炊はまったくせず)、つぶしたビール缶がゴミ袋にビッシリ(→缶ゴミの捨て方が分からない)……。「やる気がないわけではなく、やり方が分からなかっただけので、教えていけば少しずつできるようになっていきました」。

それと衝撃だったのがご主人のBMIが25以上だったこと!私は糖尿病が専門なのに夫が肥満なんて!と思い新婚時代はご主人のダイエット大作戦。「これはすごく勉強になりました。主人に野菜を摂ってね、と言ったらマヨネーズでギトギトのポテトサラダを買って食べるのです。そっか、糖尿病の患者さんに“食事のカロリー減らしてください”と言うだけでは理解できないんだ、と気づきました」。野菜を食べるときはマヨネーズではなくポン酢を少しだけ、など具体的なアドバイスが必要だった。

患者さんのご家族側の苦労も実感しました。食べ過ぎだと食事中に注意すると“うるさい”とイライラされてしまうのです。結局主人は肥っている上司が脳出血で倒れたのがきっかけで、本気で減量に取り組むようになりました。今ではBMIが22。エラいでしょ(笑)。長年の妻からの親身のアドバイスよりもひとつの事例(上司の病気)でこんなに食生活への意識が変わる。それは患者教育上、とても役立つ事象でした」。すべてのことを“学び”と捉え自身の成長につなげていく、持ち前のプラス思考が未来を切り拓く突破口になっていた。

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年老いた親にはもう頼れない。
夫と2人でどう乗り切ればいいのか――。

 それから30歳、32歳、37歳のときに出産をした大西先生。「1人目、2人目のときは当直の夜に親が泊まり込みで助けてくれたんですが、3人目となると親も年老いてくるので頼めない。子育てフェーズはどの時期に産むかによってヘルプの求め方が変わるんです。主人と2人体制のなかで、私が当直のときは誰が夜家にいるの? 誰が子供を朝起こしてお弁当作る? とどんどん追い詰められて……。今の病院をやめて当直免除のところに転職しようかと悩みました」。

そこでご主人から一喝される。「君のプライドを保つためだけの理由で子供たちが大変な思いをするのはダメでしょ。職場にきちんと働きかけてみて、それでも解決しなかったら一緒に考えよう」と。確かにそうだと気づかされた大西先生は、病院に提案する。「私が担当している治験、外来を含めた収益の実績を提示し、利益部分を使って常勤医師の当直の一部をアルバイトの先生にお願いして常勤の当直回数を減らせないか、と相談しました。出身医局の医局長に東大病院のドクターを紹介してもらい何とか実現できたんです。そして家事能力ゼロだった主人も私が当直の朝は子供たちのお弁当を作るまでに成長しました」。感情的にならず客観的に問題をクリアできるよう後押ししてくれたご主人に、感謝しているという。

 医師の仕事と子育ての両立の難しさを実感していた大西先生は「同じ境遇にいる仲間と悩みをシェアし、解決したい」という思いから、2009年に「ママドクターの会」を立ち上げる。「みんなそれぞれに悩みがあるんですが、集って話す時間がない。だったら子供と一緒に参加できる場を持とうとスタートさせました。今では120名のメンバーが登録しています」。定期的に集まりを企画し悩みを気軽に打ち明けられるざっくばらんな雰囲気を大切にしている。さらには自分の専門外の情報もアップデートしたいと考え、<子供のアレルギー><厚生労働省事務次官・村木厚子からママドクターへのメッセージ>など多岐に渡るテーマで託児つきの講演会を行い、ママドクター仲間と共に視野を広げる機会を設けている。

仕事と育児を両立するにあたって意識していることをうかがうと、「子育てしながらお仕事もしていると、必死になりすぎて周りが見えなくなることに注意しなければ、と反省しています。私の事情でどれほど周りの方たちがカバーしてくれているのか。そのことに気づいた時点で、感謝の気持ちを伝えています。直接的な恩返しができる場合もありますし、お世話になった先輩や同僚に恩返しできない場合には、後に続く後輩の先生方へという間接的な恩返しもある。最終的には自分の子供たちを社会に貢献できるような人に育てることが20年、30年先の未来社会への恩返しになれば、という思いもこめて子育てしていますね」。

 相手の立場を理解する想像力を常に持っていたいという大西先生。「子育てや親の介護などの大変さは経験してみないと分からないな、と実感したように、相手の体調不良やさまざまな事情の真の苦労やつらさを本当の意味で実感できないこともあります。そこをできるだけ想像して理解し、“お互いさま”の気持ちで助け合える職場環境にしていきたいです」。

自身が痛みを覚えたからこそ、相手の痛みが想像できる。母として医師を続けてきた道のりは平たんではなかったけれど、情熱と周囲の助けを借りて、あきらめずに邁進してきた。「患者さんと向き合うのも好きですが、研究もすごく楽しくて好きなんです。今はあまり論文が書けないんですが、指導していただいている先生に“僕らのボスは70歳をすぎても研究を続けているじゃない。研究は一生できるんだから、がんばろう”と言われて。子育てが落ち着けば仕事に研究にもっともっと注力できる。辛抱強くサポートしてくださっている先生がたにも応えたいです」。そう話す彼女は、限界を作らず高みを目指して歩みながら、変わりゆく人生の景色を味わい、楽しんでいるようだった。

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