6b337cf8 4e6a 4d2d 8202 60ab81887e79医療トピックス
2016年09月14日

Dr.まあやが訪ねる、
伝説の白衣仕立て屋「コットン・ウェアー」。

慶應義塾大学病院のドクター御用達の白衣店といえば「コットン・ウェアー」。まじり気のない丈夫なコットン生地に、大きめの編みボタン。背中には【cotton wear】のオレンジのロゴ。この白衣を10着以上は持っているという、Dr.まあやこと折居麻綾先生(以下まあや)と信濃町の路地裏にひっそり佇むコットン・ウェアーを訪れた。

まあや わたしが研修医のころ、教授も先輩もみんなコットン·ウェアーを着ていて、すごく憧れていました。一人前の証みたいで。研修医が終わって“出張”に出る前に、ついに聖地の地図を手に入れたんですよ。先輩に書いてもらった手書きの地図を見ながら病院裏口から出て行って、ドキドキしながらドアを開けたら、『何しに来たの?』って言われて(笑)。『あの…は…白衣を作りに来たんです…!』って。8年前のことです。それから体型が変わるたびに作りに来るからよく怒られて。もうあんたのサイズはないよ!なんて。おばちゃんたち、おぼえてくれているかな…。

 8年ぶりの再会

慶應大学病院ドクター達の聖地は、「コットン・ウェアー 50m左折」と書かれた看板の先の右手に現れた…。「ああ、あの看板ね、うそなのよ。ほんとは左折じゃないから、みんな迷うのよね」。明るく笑い飛ばして出迎えてくれたのが白山とみ子さん。ワンルームマンションの真ん中に大きな裁断机。ミシンが2台。奥のミシンで黙々と作業をしていたのが水野博子さん。

 8年ぶりに進化(!)して現れたまあやを見るや否や、「あらーー!まあ!ちょっと水野さん見てよ!」と大はしゃぎの白山さん。しばらく太り過ぎを叱責した後、「きれいな髪ねえ〜」「変わったメガネね〜」「かわいいTシャツね〜」と頭の先から足の爪先までを観察していく。まあやがリメイクしたTシャツから出ていた糸をちょんちょんと始末しながら。そんな感動の再会の中、コットン・ウェアーの歴史を根掘り葉掘りお伺いした。

コットン・ウェアー始まりの物語

まあや 今まで白衣を作るためにしか来たことなかったでしょう?今日はおばちゃんたちのことをいろいろ聞かせてほしいなと思って。お2人が出会ったのはいつごろなんですか?

白山 そんな話先生たちにする必要ないもんね(笑)。

私たちが出会ったのは20代のころ。今からウン十年前(笑)。同じ白衣の製造販売会社で働いてたの。そこでバブルがはじけて、2人ともクビになっちゃった。

私たちお裁縫しかできないからこの先どうしようかって困ってたら、診察衣の部門だけ切り話して私たちに譲ってくれたの。最初はお客さんなんていないから、2人で歩き回ってね。食べるものは後回しで必死でしたよ。仕事はないからけっこう暇な時もあった。今では考えられないことね(笑)

まあや 場所は最初からここだったんですか?

 水野 最初は新宿だったの。信濃町に引っ越してきたのが21年前。慶應大学病院の先生たちに白衣を作るようになって、お互いの交通費が勿体無いから、ここに。今では先輩の紹介で若い先生たちが来てくれて、そのまた紹介で繋がっていくの。慶應の先生たちは出張に行くものだから、出張先にも必要で、何着も。たった2人で作ってるから納期は2〜3ヶ月。「忘れたころに届くから」ってね。それでも先生たちは楽しみに待っていてくれるんだから。

 

まあや わたしも10着くらい持ってますよ。ちょっと短めに作ってもらいました。ポケットの位置もちょっと高めで。腕の刺繍は科目を英語、名前を漢字にしてもらったりして。コットン・ウェアーの白衣は生地がしっかりしてるから着心地もいいんですよ。もちろん自分の身体に合ってるし。今はどんなのが流行りなんですか?

白山 若い先生はやっぱり細身ね。ウエストをこうやって絞って。裾さばきがいいわけよ。先生たちは座って仕事してるのかと思ったら、みんな歩き姿を気にするのよね。慶應の先生は白衣にネクタイ、グッチの革靴で颯爽と歩いてるじゃない。研修医の若い先生たちは立ち襟が多いね。

まあや え…!今は研修医がコットン・ウェアー着るんですか…。昔は許されなかったなぁ…。印象に残っている先生、変わったオーダーなど、長い歴史でたくさんあるでしょう?

 

水野 とにかくね、先生たちのオーダーはまともじゃないのよ(笑)。ミリ単位で指定されるし、納品後にやり直してくれって言われたこともあった。みんな細かい仕事をしている人たちだからね。だからそのこだわりに対してこちらも徹底的にやるの。手を抜くこと知らない先生たち相手だから、手を抜いたら一発で見抜かれちゃうでしょう。だから倒れるまでやる。

まあだいたい細かいことをチマチマ言って手がかかるのは内科の先生ね。外科の先生たちは会話がパッパッパッと済むし決断が早い。おもしろいもんよね(笑)。

まあや 確かに外科医は気が短いかもしれない…。

白山 今ではみんな偉くなってますよ。「おばちゃんもう1着作って」って来てた若い先生が、教授になって、有名になって。教授になったよ、結婚したよ、子どもが生まれたよ、って写真を見せに来てくれるの。議員になった先生もいたわね(笑)。みんなここに情報持ってきてくれるから、私たち本人より詳しいわよ。

それにしてもあなた全然顔出さなかったわね。

まあや あ、ごめんなさい…。だって太りすぎて怒られるから。作ってもらった白衣10着くらい、もう着れなくなっちゃって…(笑)

(お直し待ちの白衣を見ながら)今でも襟元のタグに名前が書いてるんですね。これがないと盗まれることがあるんですよ。クリーニングから戻ってくるときには畳まれていて袖のネームの刺繍が見えないから、ここに科目と名前を書くんです。懐かしいなあ…。脳外と心外はロゴマークがあって、教授になると刺繍糸が金色になるんですよ。

1着の白衣に込める思い

まあや コットン・ウェアーのこだわりはどんなところですか?

水野 完全オーダーメイド。同じものはひとつもないところ。基本形の白衣のすべてのパーツを分解するところから始めるの。採寸は出張先にも行きますよ。先生たち忙しいから、一度採寸したらカルテを作り、追加は電話1本でできるようにしてあります。

白山 特徴的なこの編みボタンも1つ1つ手作り。白衣は清潔にするものだから、どんなにクリーニングしても割れたり取れたりしないように考えました。

それから、リサイズもできるということ。袖口を広げてほしいとか。…でも折居先生のサイズはさすがに無理だわね。

まあや そうですね…。こんなTシャツでさえ、布継ぎ足してリメイクしてるくらいで…。

でも自分で作った白衣の糸をほどいて作り直すって、大変な作業ですね。わたしもリッパー(※糸を切る道具)でミシン糸解いていくのって心が折れそうになる…。ロックミシンの糸なんてさらに気が遠くなります…。おばちゃんたち、こんな細かい作業やってたんだって、自分がデザインの仕事してる今、改めてすごいなって思います。

水野 あら、さすがね、ロックミシン持ってるの? そうなの。新しく作った方が楽なこともあるけれど、リサイズを希望される先生が多いね。

白山 このコットン生地もこだわっていて、ずっと変えていません。集合写真のときに他の白衣と差がつくみたいで、化繊のものだと浮いて見えちゃうのね。実は原価は上がっているけれど、ここ15年くらい値上げはしていません。儲からないけど好きだからやってるの。

実はね、ただ単に白衣を作ってるだけじゃないと思ってる。毎日ここで白衣を作りながら、手術がうまくいくように、先生たちの仕事でたくさんの人が救われますようにって祈ってるの。私たちの心も先生たちと一緒にある。命を預かる先生たちの土台なの。そうありたいと思ってやってる。それが一番のこだわりですよ。

まあや お2人に何かあったら、たくさんの先生たちが助けてくれますよね。

白山 そう!ここでいろいろ話すでしょ?ついでに問診してもらうのよ(笑)立派な先生たちの問診がタダなんだからすごいでしょう?ここから電話で予約とってもらったこともあったわね。仕立て屋のおばさんに対しては威張ってる先生たちでも、患者さんの立場になったら優しいのよ。ついこの間まで水野さんが入院しちゃって、そのときの先生たちは本当にやさしいんだから。本当に頼もしいしありがたい。

まあや それにしてもあの先生がどこの病院に行ったとか離婚したとか(笑)、どこの給料が高いとか、なんでも知ってますよね…。

白山 そうよ。折居先生がロンドン行ったっていうのも風の噂で聞いてね。留学したいからお金貯めるんだって言ってた後だったから。ちゃんとお金貯めたんだね。えらいね。やってることも見た目もちょっと変わってるけど、それでいいのよ。人生楽しいでしょ?それが一番。それからね、連絡をちゃんとよこしなさい。次来るときは少しは痩せなさいよ……(母親のような説教が続く)…。

 まあや また、来ます、ちょっと痩せているようにがんばる…。

↑水野博子さん(左)、白山とみ子さん(中央)と、懐かしのひとときを過ごしたDr.まあや。

狭い部屋の壁一面に仕立て前の白衣と、ハンガーには作業待ちの使いこなされた白衣。軽快に話す白山さんの横で「このおばちゃんおしゃべりでしょう?」とにこやかに話しながら、取材中一度も手を止めなかった水野さん。白衣を作ることでドクターと患者さんを支える、一流の裏方の仕事を見せていただいた。

いつの日かまた、ドクターまあやにコットン・ウェアーの袖が通りますように…。

コットン・ウェアー
東京都新宿区信濃町三番地 長井ハウス102
☎03-3226-7297

■構成/ふるたゆうこ


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