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2016年09月19日

Dr. ミナシュラン!
第2回 私、地域医療する

9年間四国で地域医療に従事していたDr. ミナシュラン。コンビニもスーパーもない環境での臨床は、さぞ苦労も多かったかと思いきや……食いしん坊女医にとっては他にはない醍醐味もあった模様。今回もお腹に訴えるコラムをお届けします。

第2回 私、地域医療する

 自治医大を卒業して、9年間四国で地域医療に従事した。

 特に最後の3年間は、海の近くにある小さな診療所で、近くにはコンビニもスーパーもなかった
まるで、Dr. コトー(注)のような環境は、国内で医師が働く環境としてはひとつの究極の状況かもしれない。

「そんなところで生活できるの?」と思われるだろうが、なければないで、なんとかなるもので、……いや、それ以上に、思い返せば豊かで美味しい生活がそこにはあった。

 コンビニもスーパーもない(ましてや院内食堂やカフェなど当然ない)診療所のお昼ご飯は、近くにある個人経営の魚屋さんが作って配達してくれる、通称「魚屋弁当」であった。
 お弁当はメニューを選べず、毎回500円払うと、その日ある材料でお弁当を作ってくれ、診療所まで配達してくれる。

 手作りで魚たっぷりの「魚屋弁当」は毎日感動的に美味しかったが、時化が続けばお弁当から魚が消え、「魚屋」のソウルが感じられないお弁当になることもあった。でも、「魚屋弁当に魚がない~」と突っ込みながら食べるハンバーグや唐揚げはまた格別感があって、それもまた嬉しかった。

 そんなお弁当を、私の思い出の写真帳からご覧頂こう。

 

:弁当にきびなごの刺身! 高級な魚ではないけれど捌くのには手間がいるはずで、それなのに刺身で届けてくれることに愛情を感じる。
:鮭、肉、卵、かまぼこ! タンパク質の祭り! 「お母さん、私、タンパク質を食べているよ!」とメールしたくなる。この鮭の身がモリモリと力強いこと! しかも巻き寿司!


:焼き魚、煮付け、フライ、かまぼこ。これぞ魚屋弁当! ちなみに、キャベツの千切りには醤油をかけて食べてました。
:雨が降ると、魚なしの魚屋弁当トンカツにテンションが上がる!(カロリ……あっ、なんでもないです)

 
:祝前日にお赤飯。魚屋のおばちゃんもウキウキ作って下さったのかな、と思いながら食べるとこちらもウキウキしてきて、ウキウキのパンデミック状態に。
:ちらし寿司。たっぷり乗せられた手作りの錦糸卵とゴマがたまらない。おかずも豪華だから、梅干しご飯でも文句はないのに、豪勢なちらし寿司を作って下さることに感動。

 お弁当に季節や天気を感じたり、お祝い気分を感じたり。

 競合する店があるわけでもないので、とりあえず適当に作れば良さそうなものだが(「とりあえず適当に作ったんだな」と感じる日もたまにあったが、それはそれで人間らしくて良いと思った)、その日に手に入る食材を使ってとりあえずメインになる魚や肉料理を作り、さらにご飯も巻き寿司、ちらし寿司、炊き込み御飯(白ご飯の時は、昆布や漬け物、梅干しなどが添えられる)……と工夫して食べさせて下さるその魚屋さんの気持ちが、まるで母の愛みたいだった。

 お弁当だけではなくて、色んな事が母の愛のような優しさに溢れた、その地域だった。

 ある日、在宅医療でお宅にお邪魔すると、夕飯の準備だろうか、鰹だしの香りがぷーんと漂って来た。
 「これは何の香りですか?」と聞くと、炊き込み御飯のにおいなのだと教えて下さった。
 「こんなご飯を食べられるなんて、おじいちゃんは本当に幸せですね」と、私は心の底から思ったので、それを奥さんに伝えた。幸せな生き方に触れられる、というのは、この仕事の醍醐味だ
 「いえいえ、お料理は下手なんですよ」と奥さんははにかみ、おじいちゃんはちょっと誇らしげに微笑んだ。

 ……ところが、その数時間後。
 診療所にパックに入った炊き込み御飯が届いてしまった! 私は「ああ、欲しがったみたいに聞こえてしまったかしら!」と猛烈に反省したし(本当に、発言した時にはそんなつもりはなかったのである、天に誓って!)、患者さんから頂き物をしてはいけないのだが……、せっかく持って来て頂いたその炊き込み御飯をお返しするのは却って失礼になると思い……、
 「いただきますっ!」
 私は、頂いてしまった。

 炊き込み御飯の具は柔らかくほぐれた鯛の身だった。
 お宅に満ちていた鰹だしの香りは、口に入れるとさらにはっきりと感じられ、それはそれは美味しかった。幸せの味だな、と思った。

しかし、順調に思えた地域での仕事だったが、そこで大きな壁にぶつかってしまう。
自分が通院しなければならなくなったのだ。そのエピソードを別の原稿で紹介させて頂こうと思う。……おっと、その前に、魚屋弁当以外に「私が僻地勤務を大好きだった理由」をもう一本だけ書かせて頂こうかな?
 
注:ひょっとして、若い方には「Dr. コトー」が通じない?! 「Dr. コトー診療所」は離島で奮闘されるお医者さんの漫画で、ドラマ化もされています。離島で、あるいは船の上で大きな手術をするようなシーンもあり、「僻地の医師はみんなこんなことができるのか?!」と思われそうですが、私は……ナートすら苦手にしていました。しかし、自治医大の講義や病棟実習では「僻地で専門外でも、できることはしよう」という意欲的な教育がなされており、眼科を回った時に「翼状片位は削って差し上げられるようにしましょう」と教わった時には「そこまでやる(やれる)のか!」と、目が回りそうになりました。その後、翼状片の処置をしたことがあるかと言うと、一度もないのですが(眼科の講師の先生、ごめんなさい)、肩などの関節痛に対する局所注射や、膝関節の関節 液穿刺(いわゆる「膝の水を抜く」)等の処置は必要に迫られてやっていました。

■プロフィール:Dr.ミナシュラン
 四国生まれ、総合医。食べる事が好きで、本名「みな」とグルメの「ミシュラン」を掛けて「ミナシュラン」と呼ばれている。茶道と音楽の心得あり。自治医大を卒業し、四国の地域医療に9年間従事した。好きな魚はブリ。ブリしゃぶも好きだが、一番は刺身。その他の情報は徐々に明らかになる予定。


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