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2016年10月27日

Dr.まあやの「今日も当直です」
第8回 医者が患者になるとき~前編~

医者が患者になったら? いつもは診察室で冷静沈着にふるまっていたはずが、いざ患者になると検査結果にショックを受け、戸惑い、悩む……。患者体験談をDr.まあやが医学部講義風の説明付きで語ります。

第8回 医者が患者になるとき~前編~

最近『睡眠時無呼吸症候群』で人工呼吸器をつけているワタシ、Dr.まあやこと、脳外科医・折居麻綾です。しかし最近の医療はすごい! 自宅で簡易人工呼吸器を装着して寝るだけで、就寝中の状況をWiFiを通じてモニタリングしてもらえるんだから。おかげで日中眠くなることが少なくなってきたような……。

医者も人の子、病気になるし、怪我もする。医者の不養生という言葉もあるように、無理の多い生活に加え、なんとなく、何が起こっているかわかるし、画像も診られるため「このくらい大丈夫だろう」「時間ができるまで様子をみよう」という発想になってしまう。実はワタシもこのパターンで、時々起こる急性腹症、見つかった病気をなんとなく約1年間放置していた。

衝撃のがん告知と、医師の役得の話。

症例41歳女性 未婚 脳外科医兼デザイナー 149cm/100kg 高度肥満

主訴心窩部痛

20146月頃、夜間当直中に突然の心窩部痛、患者さんを一人お看取りし、その後、痛みに耐えられず、点滴、痛み止め使用。

そのまま、痛みをこらえながら次の仕事のため、飛行機に乗り、バスで次の病院に移動、外来を始めようとするが、心窩部痛が治らず、嘔吐数回あり。急性腹症のため、この病院(脳神経外科)に入院。採血施行したところ、炎症所見あり、肝機能障害を認めた。翌日精査を勧められるも、腹痛、嘔吐の症状の改善もあったため、退院(どうしても、デザイナーの仕事があり、自己責任退院)。

消化器の友人に相談。胆石症を疑い、発症から2日後、大学病院消化器内科受診。MRI, 腹部エコーにより、胆石症を認め、確定診断となった。

典型的な胆石症の特徴である、いわゆる「5F」に3つ当てはまるワタシ。
※5F:Female(女性), Fat(デブ)、Forty(40代), Fair(色白)、Fertile(多産)

ワタシは、外科の研修医を経て脳外科医になっている。そう、デブの手術がいかに大変か、よく知っている。研修医時代の手術では「脂肪の壁」を引っ張る作業をよくさせられていた。「脂肪の壁」「脂肪の海」が視界を狭めることを十分体験していたのだ……。

「腹腔鏡で手術にしても、開腹手術にしても、まず痩せないと申し訳ない……」。

そう思って「なんとか痩せて外科の先生に迷惑かけないようにします……」。内科の先生にそうお話しし、経過観察することにした。

その後の経過

 患者は、外来にて採血や定期的な腹部エコー、MRIなど行い、経過をみていたが、3ヶ月に1度くらいの割合で胆石発作、嘔吐、腹痛を起こし、救急外来を2回ほど受診。

1年経過した20156月に再度発作を起こす。大学病院受診。この時に、今後の治療について、手術した場合しない場合のリスクについて説明を受ける。

同時に、卵巣の腫瘍についても説明あり。精査するように指摘されていたのを放置していたことから、消化器内科医師より、婦人科受診と外科受診を勧められた。

発作の頻度も高くなり、卵巣の腫瘤も気になってきたので、メディカルスキャンニングに依頼し、骨盤腔MRIを行った。1時間後、自転車置き場で、放射線科医のレポートを一人で読んでみた。「卵巣がんの疑い」。正直、ショックだった。まさか、自分が40歳でがんに罹るなんて……

その日の夜は、一人でソファーに寝っ転がって、「ワタシ死ぬのかもしれない……。せっかく、いろんなことをやり始めたところだったのに…。今度、テレビで私の活動を紹介してもらえるところだったのに…」とやりきれない思いに押しつぶされていた。翌日、勤務先の脳神経外科病院の看護師さんと院長に報告し、そのとき初めて涙が出てきた。

 医者でよかった、と思うのは、とにかく相談相手が各方面にたくさんいることだ。婦人科専門医の友人に相談したところ、「卵巣がんだとしたら、やっぱり“がん研有明病院”には行っておくべきだろう」ということに。卵巣がんについて詳しく勉強し、いそいそとがん研へ。

産婦人科の先生と腫瘍の摘出手術について打ち合わせをしたときに、あれだけ死ぬかも…なんて感情的になっていたはずなのに、「全身麻酔ついでに、まず腹腔鏡で胆嚢摘出を行い、その後に開腹で婦人科の手術を行う、というのはどうでしょうか!」と前のめりで提案してしまったワタシ。言ってみるもんで、すんなりOKがもらえた。

 主治医と相談の結果、術中の病理診断で手術範囲を決めることになった。迅速病理で、がんであれば単純子宮全摘術+両側付属器切除術+大網切除術を行う、もしがんでなければ、病気部分のみの切除、ということに。

外科外来では、開口一番、「太っててすみません。同じ外科医として迷惑なのは重々承知でございます…。さらに重症な患者さんばかり診ている病院で、胆石ごときの手術をお願いして、申し訳ございません……」とひたすら謝罪するワタシ。外科の主治医は、「全然、大丈夫ですよ。気にしないでください」と言ってくれたものの(やさしい…)、申し訳なさでいっぱい。麻酔科と循環器内科の先生からは「脳外科医ならわかってると思うけど、太っていることはいろいろとリスクだからね…」とチクリと刺された。

入院当日の朝まで釧路で当直し、羽田空港から直接病院へ直行。2日後、午前9時から手術開始、午後1時30分には、手術が終了した。

後編に続く…

■イラスト Dr.まあや

Dr.まあやの初のエッセイ本が発売!

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脳外科医×デザイナーとして
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エネルギーの源に勇気をもらえる一冊。

  Dr.まあや(折居麻綾先生)

1975年東京生まれ、岩手育ち。岩手医科大学卒業後、慶應義塾大学病院で研修を終え脳神経外科に入局。2010年にかねてから夢だったファッションデザイナーの道に挑戦しようと日本外国語専門学校海外芸術大学留学科に入学する。翌年にはロンドンのセントラル セント マーチン カレッジ オブ アート アンド デザインに約2年間留学しファッションデザインの基礎を学ぶ。帰国後は事務所『Dr.まあやデザイン研究所』を設立しアーティスト活動をスタート。現在は釧路孝仁会記念病院、東京・小平市のあかしあ脳神経外科の院長として非常勤勤務している。


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腫瘍までもがアート。
“脳外科医デザイナー”Dr.まあや参上!