E1f85128 4649 400e aa45 721587cdbb06連載・コラム
2016年10月28日

Dr.まあやの「今日も当直です」
第8回 医者が患者になるとき~後編~

「医者が患者になるとき~前編~」でなんとなく放置していた病巣に赤信号が灯り、窮地に追いやられたDr.まあや。術後の経過は、というと……。

第8回 医者が患者になるとき~後編~

心窩部痛からはじまり、胆石症、さらに卵巣がんの疑いも出て、ワタシの人生これまでかと、一人ソファでやけほうじ茶(残念ながら酒は飲めない)……。今まで何人もの外科手術をしてきたが、大学生以来のオペ患になった、Dr.まあやこと、脳外科医・折居麻綾です。

患者さんって大変だ!

オペ開始から4時間半。厚い脂肪の壁は、どれだけ先生方の視界を狭め、ご苦労をおかけしたのだろうか……。卵巣も気になったが、そちらも気になった。

結果は――

麻酔が覚めた瞬間、病棟での主治医の先生が私の顔を覗き込み、「折居さん、よかったですね! 卵巣のう腫でしたよ!」と言ってくれた。あああ!よかった。がんじゃなかったんだ……。本当に安心した。

実は、撮ったMRI、造影CT、PET-CTなどを見て、なんとなく典型的ながんの所見、とは言い難いのでは? という疑問があった(国家試験を思い出させるほど勉強したのだ)。しかし、放射線科が「卵巣がん」だという。婦人科は「疑わしきは開腹」という。すべてを専門医にお任せすることにしたのだが、結果を聞いていろいろ腑に落ちた。とにかく白黒ついてよかった(それにしても開腹せずとも診断できる方法があればいいなぁ、と思う脳外科医であった)。

しかし、問題はここから。ワタシったら医者のくせに、とんでもない患者に変貌してしまったのだ……! 大学生の時に、急性虫垂炎の手術をした時は、少し面白い夢を見たのと、おかゆが食べられない苦労をしたくらいで、そこまでわがまま患者ではなかったと思う(自分で思っているだけ?)今回の術後は、とにかくいろんな痛みや違和感との戦いだった。

「傷が痛い」「腰が痛い」「喉に違和感」「酸素マスク邪魔!」「手につけているモニターが邪魔!!」「尿道カテーテルもなんだ?トイレ行きたいよ〜」「ドレーンも何本入っているんだ?邪魔だ〜!」

寝ても覚めても、朝にならない…! 苦痛が多すぎて時間が過ぎないのだ。こうなるだろうと前日徹夜したはずなのに。

#推測だが、睡眠時無呼吸症候群のあるワタシの場合、人工呼吸器で久々に有効な酸素化を得られたために、手術中に脳が十分休んでしまったのでは?と思われる。

 

お腹の傷が痛むため咳もうまくできず、気管挿管後の喉の違和感もなかなか取れない。腰椎から入っているPCAポンプ(硬膜外麻酔)も思うように機能しない。デブのため寝返りを打つのも一苦労、そのため、腰が痛くてしょうがない。徐々にイライラが増し、翌日午前3時頃に、とうとう発狂してしまった。

ワタシ:「痛い!もうだめだ、たえられな〜い」と言って、酸素マスクやモニター類を外そうとする。「もう、耐えられないので、眠り薬、点滴からいってください!」

看護師さん:「あともう少しで朝ですから、痛いならPCAポンプ押してください」

ワタシ:「PCA、効いてないです! いくら押しても、全く痛みが改善しないんですよっ!」

看護師さん:「そんなことはないはず。とにかく、マスクとかとっちゃダメです!」

ここにきて、ようやく患者さんの気持ちと無謀な行動の意味がわかったのだ。喉の違和感で呼吸がしづらく、乾燥した酸素のせいで喉がカピカピになっていたのだろうこと。指に挟むサチレーションモニターが、意外と重くストレスがかかっていたのだろうこと。とにかく身体中、慣れないマスク、点滴、モニター、尿道カテーテル、PCAポンプ、エアーマッサージ、創部大小4箇所などでがんじがらめにされて、何もかもが辛すぎた。

今度からちゃんと患者さんの気持ちに寄り添おうと心に誓った。

自分の身体にも向き合うべし。

ワタシの腫瘍は、幸い悪性のものではなかった。だが、月並みだが検診の必要性を痛感した良い経験となった。他人の身体ばかり見ている医者が、その時だけでも自分の身体に興味を持つということ、その一瞬こそが大切なのだ。私たち医者はよく確率論を話すだろう。例えば0.3%の確率でよくない結果が出るとして、1000人に3人なんて少ないと思ってしまう。たくさん患者さんを診てきたから。でも、その3人に自分が入らないためにどうするか考えるということが大事なんだと思う。そんな基本的なことを改めて肝に命じたことは大きかった(ダイエットを何度か誓っているのに痩せていないことは棚にあげて……)。

さて、今回はワタシがオペされちゃった話で盛り上がってみたが、みなさんどうか、検診に行ってほしい。健康管理はもちろん、自分の健康状態を数値や画像で診てみるのもおもしろいものだ。もし病気が見つかっても、最先端の医療技術に触れられるチャンスだと思って……。

次回は、ワタシもショックをうけた「ムンテラ」「インフォームドコンセント」について、真面目に盛り上がってみようと思う。

■イラスト Dr.まあや

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  Dr.まあや(折居麻綾先生)

1975年東京生まれ、岩手育ち。岩手医科大学卒業後、慶應義塾大学病院で研修を終え脳神経外科に入局。2010年にかねてから夢だったファッションデザイナーの道に挑戦しようと日本外国語専門学校海外芸術大学留学科に入学する。翌年にはロンドンのセントラル セント マーチン カレッジ オブ アート アンド デザインに約2年間留学しファッションデザインの基礎を学ぶ。帰国後は事務所『Dr.まあやデザイン研究所』を設立しアーティスト活動をスタート。現在は釧路孝仁会記念病院、東京・小平市のあかしあ脳神経外科の院長として非常勤勤務している。


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“脳外科医デザイナー”Dr.まあや参上!