
連載:富坂美織の「知ること、診ること、学ぶこと」
第12回 家庭医主導のアメリカの診療システムとは。
第12回 家庭医主導のアメリカの診療システムとは。
家庭医が基軸となっているアメリカの診療体制。ジェネラリストが患者と密接にかかわることのメリット、コメディカルとの連携についてリポートします。
第12回 家庭医主導の
アメリカの診療システムとは。
激闘の大統領選を終え「トランプ氏勝利」に衝撃が走ったアメリカ。これから変革のときを迎えるなか、トランプ次期政権でオバマケアがどうなってしまうのか。留学中にひたすらオバマケアの重要性を叩き込まれた身としては、とても気になるところです。
前回、前々回と、アメリカにおける予防医学推進のため、子供と成人、それぞれに対して、どんなアプローチをとっているかということを見てきました。子供に対しては、学校での教育、成人に対しては、検診受診の推奨と結果による保険料の引き下げなどが挙げられるかと思います。
今回はアメリカと日本の診療システムの違いをクローズアップしていきたいと思います。大きく異なるのは「家庭医」が診療の軸になってる点です。アメリカでは、家庭医がゲートキーパーとして、重症度の識別をするManaged Care Systemにより、患者さんの心身、生活両面をトータルに診ることが可能となっています。
いっぽう日本では医師のみならず、患者さん側もスペシャリスト志向が強いため、Doctor ShoppingができるFree Access Systemを好む傾向にあります。例えば、胸痛の患者は夜間でも救急医でなく、循環器内科医に診てくれるよう要求するといったケースが存在します。
もともとアメリカでは、医学部教育の時点からGeneralist(なんでも診れる総合内科医のような存在)の育成に重点が置かれ、診療体系の中でもGeneralistが基本となっています。
GeneralistがのちにFamily Doctor(家庭医)として、一人の患者の主治医、かかりつけ医となりその患者の既往歴や持病をすべて把握するとともに検診を担当します。そして、必要に応じて専門家へ紹介します。
日本では、医師側にスペシャリスト志向が強く、Generalistの育成が十分でない部分があると思います。例えば、日本の総合内科は診断がつかない患者を紹介する先になっているという声も耳にすることがあります。
コメディカルの権限が広いことの利点
日本で臨床をしていてコメディカルの人たちから時々いわれるのが、医師に権限が集中しており、ほかの医療職が活躍しにくい環境にあるということです。
アメリカでは医師以外の医療職がタスクシフティングによって患者と幅広く向き合うことで、女性患者が文化的、社会的側面を相談しやすくなっていることです。例えば、日本でも最近その存在が知られるようになってきましたが、ナースプラクティショナー(NP:特定看護師)は、女性の健康(Woman’s Health)を専門として、初期症状の診断、投薬、処方を行う権限があり、全ナースの4%程度を占めています。ただし、手術はできません。
そのほか、女性医療の分野では、SANEと呼ばれる役職があります。SANEとは、Sexual Assault Nurse Examinersつまり、性暴力被害支援看護職のことで、性暴力被害者が医療機関を受診した際に、医療現場の無神経な言動で被害者をさらに傷つけることがないよう、専門職として心身のケアにあたっています。
このようにアメリカでは女性の心身と生活面をトータルに診る医療を可能にし、タスクシフティングにより、女性が相談しやすい環境を整えているということが言えると思います。
次回は、アメリカでよく目にするCenter for Women’s Healthの存在と役割について、解説していきたいと思います。
富坂美織(とみさか みおり)先生 1980年東京都生まれ。産婦人科医・医学博士。順天堂大学医学部産婦人科教室非常勤講師。 順天堂大学卒業後、東大病院、愛育病院での研修を経て、ハーバード大学大学院にて修士号(MPH)を取得。マッキンゼーにてコンサルタント業務に従事した後、山王病院を経て、生殖医療・不妊治療を専門としている。
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