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2017年01月25日

女医も患者もハッピーになれる
女性のための総合医療クリニックをめざして
―産婦人科医・海老根真由美先生の挑戦―~後編~

前編では産婦人科医として、病棟医長として患者や仲間の厚い信頼を得た海老根先生でしたが、長男の出産を機に退職を決意。子育てと仕事の両立が可能な働き方を模索します。出産・育児に悩む女性を多く見てきた医師として、2児の母として、新たにめざした医療の形とは……。

前編:妊娠が汚点に思われた医局時代、
女性視点を貫き、拓けた未来とは。

第一線を退くも、保育園が見つからない!
子育て優先の女医はわがままなの?

入局から9年目という異例の早さで講師となり、総合周産期母子医療センター病棟医長に就任。組織をまとめる立場となり、「当時の私は相当扱いにくかったでしょうね(笑)」と振り返る。

「戦うだけでは組織はまとまらない」。そう学んだ海老根先生は“調和”をキーワードに、同じ目標に向かって協力できるチーム作りに乗り出す。より多くの患者を救うには、医師・看護婦など一緒に頑張れる仲間をいかに多く増やすか。優秀なスタッフをどこまで抱え込むかが、病棟のクオリティーに繋がる。そう考えた海老根先生は、やりがいが感じられ、自由にモノが言える風通しの良い職場環境を実現していく

管理職として忙しい毎日を送る36歳の時に結婚。すぐに妊娠。

「高齢でなかなか妊娠できないと思っていたので、論文や学科発表などいくつも抱えていました。なぜこのタイミングって、正直焦りました。産後はすぐには復帰できないから、陣痛が起こっている時に後輩が発表で使うスライドをチェックしたりしていました(笑)。

この時は、1年後には大学に戻るつもりでいたんです。産婦人科医のくせに、出産・育児の大変さが全然わかっていませんでした。

後になって、夜に眠れる生活になり、実母からは『子どもが生まれたことで、あなたが死なずにすんだじゃない』って言われました。実際、寝なくても生きられるんじゃないかって、錯覚を起こすぐらいの生活でしたから。そういう意味では、本当に息子に命を救ってもらったのかもしれません」

息子との時間を確保するために大学を退職。復帰に向けて認可保育園を探すが、結果は全落ち! アルバイトをしながらひとまず短い時間での慣らし保育をお願いした園からは「養育に欠ける子に保育を提供する場が保育園です」と言われ、大きなショックを受ける。常勤を退いたことが保育園確保においては、不利に働いてしまったのだ。

人生のある一時期、仕事をセーブして、丁寧に子育てしたいのは自分のわがままなのか。悩む海老根先生を心配した後輩が、自分の子どもが通うインターナショナルスクールを紹介してくれ、ようやく預け先が決まった。

「日本の保育園ではお迎えの時間に遅れると、親は肩身が狭いでしょう。そこのインターではお迎えが遅れても、今日は彼と30分長く一緒に遊べたわ。ありがとうって言われるんです。子どものことが大好きと言ってくれる人たちに育ててもらえることが有り難くて、私自身が励まされています」

それからしばらくは、子どもをインターに送った後、13時過ぎまで非常勤医としてクリニックで外来。昼食後にお迎えに行き、遊びながら帰宅。幼少期にひどいアトピー性皮膚炎に苦しむ自分のために、実母が手間暇かけて食事を作ってくれたように、安心・安全な料理を、時間をかけて丁寧に作るという生活に。

「論文や当直に振り回されることなく、子育て中心の生活に一時期シフトできたことが、私的にはとても良かったです」。

40歳で2人目が誕生し、生後すぐに復帰。娘をバギーに乗せて外来中に娘をみてもらう実母と共に出勤し、外来の合間に授乳をしてキャリアをつないだ。「娘は哺乳瓶を受け付けない子で、実母の助けがないと無理でした。2人の子どもを育てながら働くには、祖父母や兄弟・姉妹、近所のママ友など、助けてくれる仲間をできるだけ多く作ることが大事だと実感しました

娘が1歳になった時、恩師である竹田教授の推薦で、順天堂大学の非常勤准教授に就任。産後メンタルケアの専門外来を任された。

そうした経験をもとに、2013年6月に「白金高輪海老根ウィメンズクリニック」を開業。子どもたちの生活も落ち着き、学校への送迎もしやすい場所が見つかったことで、新たな一歩を踏み出すことに迷いはなかった。

 働きやすさと通いやすさを実現する
すべての女性を受け入れるクリニックが目標

婦人科、産婦人科、小児科、乳腺外科、泌尿器科と女性の健康を幅広くサポートする「白金高輪海老根ウィメンズクリニック」。各分野で専門的に治療を行ってきたエキスパートの女医が揃っている。

また、妊婦健診からがん検診、産後ケアや育児相談、不妊相談のほか、マタニティケアを行う臨床心理士、骨盤矯正をサポートするピラティス講師や整体師、乳がん検診を行う超音波技師、マンモグラフィーを行う放射線技師、栄養士や薬剤師に至るまで、全スタッフが女性であることが同院の特長だ。

患者もワーキングマザーが多いため、平日は8時30分から19時まで、土日祝も診療。海老根先生の専門分野である周産期のメンタルヘルスケアにも力を入れている。

医師もスタッフも子どもを持つ人が多いため、基本的に自分の都合がいい時間に、できる範囲で働いてもらえばいいという考えだ。海老根先生自身も、子どもの都合に合わせ休診にする時もある。その一方で、可能な時は土日祝日も外来をする。

「24時間ネット予約を導入したことで、365日のうち363日外来が実現できています。子どもが熱を出すのもお互い様なので、スタッフ同士が助け合いながら、気兼ねなく休みを取れる環境です。

お子さんが熱を出して苦しんでいるのなら、しっかり看病することが責任ある親の態度だというのが、私の考えです。日本では妊娠・出産は社会に対して何か悪いことをした気になるでしょう。妊娠すると母親になることを頑張るよりも、社会からフェイドアウトする罪悪感の方が大きいんですよね。

困っている時は誰かが助けてあげて、みんなで協力して子育てできれば、お母さんたちはもっと楽なのに。今の日本にはまだ妊婦さんや小さな子どもを持つお母さんを丸ごと受け入れる環境がまだ整っていません。

本当に子育てが大変なのは10歳ぐらいまでなのに、なぜ優しくできないのかしら。まずは当院がそういう存在になれるように、困ったことがあれば何でも相談できるクリニックが目標なんです」。

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女医も子育てを楽しんでいい
キャリアチェンジもポジティブに捉えて

今後も、高い専門性を持ちながら、出産・育児や体力の限界から常勤医を諦める女医を雇用し、女医も患者もハッピーになれる女性のための総合医療クリニック作りに意欲を燃やす。

「みんなのこま切れの時間を上手に使い、それぞれの事情に合った勤務体制を組めば、診療の幅はさらに増やせると思います」

そう力強く語る海老根先生が、現在特に力を入れているのが、乳がんの早期治療・早期発見だ。「乳腺外科のなかでも女性医師は貴重な存在です。男性医師の触診に抵抗があって、乳がん検診を躊躇する人も多いので、女医のニーズはますます高まるでしょう

地域の基幹病院とも連携して、初期検診は当院で。精密検査が必要な場合は大きな病院に紹介することで、地域医療にも貢献していきたいですね」

自分と同じように第一線を退くことに罪悪感を持っている人には、「一旦撤退しても、今までの頑張りがゼロになることはないし、子育てがむしろ人間としての幅を広げてくれるはず。人生に勝ち負けなどなく、50歳ぐらいになった時に、納得のいく道を歩いていればいい。そのぐらいの気持ちで、子育ても楽しんでほしい」とエールを送る。

出産・子育てによって、大きく人生が変わった経験から、同じ立場の女性に親身になってアドバイスする海老根先生の存在に救われる患者は多い。大学病院から地域医療へとステージを変え、女性のための総合医療を提供する海老根先生の生き方は、若い女医たちにもきっと勇気を与えてくれるだろう。

海老根 真由美先生(えびね まゆみ)

 

1997年埼玉医科大学医学部卒業、2003年埼玉医科大学大学院修了。埼玉医科大学総合医療センターで周産期母子医療に携わり、2004年には同センター母体胎児部門病棟医長に就任。順天堂大学医学部付属順天堂医院産婦人科非常勤講師。2013年に『白金高輪海老根ウィメンズクリニック』を開業。周産期メンタルヘルス研究会理事で、クリニックでも臨床心理士らと協力し、産後のメンタルヘルスケアに注力。2児の母として、医師として、女性ならではの視点を生かして、さまざまな角度から女性の人生をサポートしてくれる力強い存在。

文/岩田千加

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