
富坂美織の「知ること、診ること、学ぶこと」
第15回 医療の今、そして輝く未来への期待!
第15回 医療の今、そして輝く未来への期待!
富坂先生が日々の現場で感じている生殖医療のプラス面と問題点を分析。連載の最終回となる今回は、医療の可能性、輝かしい未来について熱く語ってくれました。
第15回 医療の今、そして輝く未来への期待!
皆様、こんにちは。やっと長い冬を抜け、春の訪れを感じる日々となりましたね。
今月1週目は女性の健康週間でした。今年は厚労省の講演で、山形県上山市に行ってきました。上山市は高齢人口が35%と高齢化が進んだ町で、1人あたりの医療費が県内でも高く、医療費に占める生活習慣病の割合も高いため、現在町では市長を先頭に健康寿命を延ばす取り組みが行われています。
山に囲まれた坂の多い地形を生かして、専属ガイドのもと健康ウォーキングに取り組む地元の方がとても多くいらっしゃいました。
今年も、マラソン銀メダリストの有森裕子さんとご一緒させていただいたのですが、彼女の言葉の中でもぜひ、みなさんシェアしたいなと思ったのが、「エスカレーターは使わず、とにかく歩く。自分の体を朝晩2回はしっかりチェック。無理なダイエットはせず、自分が一番体調のいい体重を見つけることが大事」というものでした。
ぜひ、院内でもなるべく歩くようにしたいですね。
さて、4月は新学期。来月から、新たな職場や、留学先、大学院などでスタートする先生方も多いのではないでしょうか。
私は、マイナーチェンジはあるものの去年からの割り振りで仕事を続ける、今年は継続の年になりそうです…..が、3月いっぱいで終わりになるものが一つだけ。
一昨年から続けてきたjoynetの連載を卒業することになりました。
アメリカでの経験を中心に書かせていただき、私にとっても自分の体験をメモして後でまとめるのは楽しい作業でした。
最終回となる今回は編集部の方より、「最近の臨床現場で感じていること、医療の未来について」とのお題をいただきましたので、ちょっと考えてみたいと思います。
私は産婦人科の中でも生殖医療を担当していますが、研修医時代は、東大や愛育や、山王などお産の多い病院に勤務しました。
その経験からか、最近とても感じるのが、生殖補助医療の技術が発達すればするほど、産科の現場が大変になるという現状。
生殖補助医療が発達すると、女性が産みたいときに産む権利であるリプロダクティブヘルス・ライツが守られやすくなり、仕事を頑張って一段落したからそろそろ子どもを考えようかなというときでも妊娠成立しやすくなります。
しかし、これは高齢出産の増加を意味し、妊娠中の合併症や帝王切開のリスクが高くなることでもあり、産科の現場をより一層過酷なものにしまうという矛盾があります。これは今後の産婦人科医療の課題であると思います。
それから、技術的には実施可能なのに、倫理的な問題からストップがかかっている技術も多くある分野で、これに関しては法整備が欠かせません。
そして、最近では、胚移植時に夫の同意がなかったために訴訟になったというようなケースも出てきており、生殖医療の分野は、夫婦のプライベートな領域に関わる事柄だけに、より厳密に夫婦双方の同意の確認が毎回求められる分野であるとも痛感します。
そんな中で、今後医療の世界に期待したいことは、自分自身がするのは難しいけれど、周りの優秀な人の取り組みを見て感じていることですが、「医療と工学」のコラボです。
人工知能などがより発達するにつれ、画像読影などで、人為的ミスを減らす可能性に期待したいですし、術前のシミュレーションでより心臓の手術が安全に行えるなど、「これまで医師個人の経験に頼っていたものが、客観的に共有できる」という大きなメリットに期待できると思っています。
少子高齢化が進む中で、医療技術の進歩は欠かせません。
同時に、高齢になってからの人生が長くなったいま、女性でいえば、閉経後の40年をより充実して過ごせるよう、健康寿命を延ばし、終末医療をより心の平安が得られるものにしていきたいと願っています。
長い間、お付き合い下さり、ありがとうございました。
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富坂美織(とみさか みおり)先生 1980年東京都生まれ。産婦人科医・医学博士。順天堂大学医学部産婦人科教室非常勤講師。 順天堂大学卒業後、東大病院、愛育病院での研修を経て、ハーバード大学大学院にて修士号(MPH)を取得。マッキンゼーにてコンサルタント業務に従事した後、山王病院を経て、生殖医療・不妊治療を専門としている。
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