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2017年05月05日

必要な医療情報が足りない!
不妊治療外来・小柳由利子先生が挑む、
思いに寄り添うネットワーク作り

日本有数の不妊治療専門クリニックとして名高い『東京HARTクリニック』で日々奮闘している産婦人科医・小柳由利子先生。「なんとか赤ちゃんを授けてあげたい」との思いで治療に取り組むかたわら、強く感じていたのは正しい不妊治療の情報が患者さんに十分に届いていないこと。そこで、ホームページを立ち上げ、今春から治療にまつわる情報発信をスタートさせました。

さらには“子供を持つこと”の選択肢のひとつとして特別養子縁組のサポートも念頭に置き、理想を一歩、一歩形にしていく姿を取材しました。

総合病院で感じた
高度不妊治療ができないはがゆさ

全身を診ることも、手術をすることもできる。さらには女性であることが生かせるという理由で産婦人科を選んだ小柳先生。キャリアのスタートは、東京・町田市民病院産婦人科。そこで多くの不妊で悩むカップルを担当したことが、不妊治療の道に進むきっかけとなった。

「なんとか赤ちゃんを授けてあげたいと思うものの、総合病院では十分な高度不妊治療を提供できないことがはがゆくて…。近隣の不妊治療クリニックを紹介すると多くの患者さんが妊娠し、妊婦健診に戻ってこられるので、高度な治療が必要な人には早くステップアップしてもらうべきだと感じていました

当時は研修医として様々な医師の先輩に接し、産婦人科医療の中で専門性を身につける必要性も感じていた時期。「オペやお産に携わる機会がなくなることには未練がありましたが、不妊の分野で一流になろうと心に決めました」

研修の最終年にあたる5年目からは、町田市民病院に加えて、週1回、木場公園クリニックでの勤務を開始。専門医取得後は、もともと興味のあった研究の道に挑戦するために大学院に進学したが、在籍中も木場公園クリニックでの週1回の勤務を続け、不妊治療に関する研究と治療技術の研鑽を両立した。

最終的に研究では大きな業績は残せなかったものの、そこでで得られたものは大きかったとのこと。

「もともと論理的にものを考えることが苦手なほうだったので、先生方からはだいぶしごかれました。毎週のミーティングでのプレゼンテーションやディスカッション……。説明がクリアでなかったり、論理的な破綻があったりすれば厳しく指摘されました。

マウスの卵を使って体外受精や顕微授精を毎日のように行ったことも貴重な経験でしたが、それ以上にこういった思考トレーニングを積んだことが今につながっていると思います」 

不妊治療は日進月歩で進化しており、その最前線にいるためには、多くの論文の中から常に最新の情報をとり入れ、内容を論理的に検討することが必要だ。「医療の中でも特に不妊治療の分野を専門にするのであれば、大学院に進むことを是非おすすめしたいと思います」

博士号取得後は臨床の現場に戻ることに。そして、卒業後の勤務先に選んだのが、現在勤務する『東京HARTクリニック』だった。

「HARTクリニックが開発した胚盤胞(受精後5日程度経過し子宮内膜に着床する前段階の受精卵)の凍結技術に感動して。『ガラス化保存法』という技術で、今でこそ世界中の不妊治療クリニックで行われていますが、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)主催の勉強会で具体的な技術内容や従来の成功率の低い凍結法に代わる方法として開発された経緯などを、院長の岡親弘先生から初めて聞いたときには衝撃を受けたんです」

先生の人柄や「最高レベルの治療実績を目指す」という方針、実際に高い実績を出していることにも魅力を感じた。「ぜひ一緒に働きたいと思ってクリニックのホームページを見たところ、ちょうど医師募集の案内が出ていて。すぐに応募し、採用していただくことができました」

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出口のない不妊治療に心悩む患者――
彼女たちにとって何が幸せなのか。

こうして新しい職場で一人ひとりに合った治療法を試行錯誤しながら治療に努めたが、患者さんと向き合う中で日に日に感じるようになったのが、不妊治療に関する情報発信と、子供を持つための方法として、不妊治療以外の選択肢もあることを知らせていくことの必要性だったという。

「日本で広く行われている低刺激の卵巣刺激法や自然周期での採卵による体外・顕微授精の妊娠率はあまり高くはなく、世界標準の治療とはいえません。しかし、患者さんには十分な情報が届いていません。

また、治療年齢が高年齢化している中、医師がやめどきをはっきりと提示しないために、患者さんもなかなかあきらめられず、複数のクリニックを転々とするような状況に陥ってしまうケースが多数おこっています。

妊娠や出産はとても貴重な経験ではありますが、長い子育て人生のほんの序章であって、不妊治療は、子育ての経験を通してハッピーな生き方をするための一つの手段です。不妊治療以外の選択肢に目を向けずに患者さんの希望のままに治療を継続するのは、患者さんの本当の幸せを考えられていないのではないかという考えに至りました」

海外には、不妊治療を希望する人に対して治療開始前にプランナーやーコーディネーターがついて養子縁組や里親制度などを含めた子供を持つための選択肢とそれぞれにかかる費用などをすべて提示し、治療プランを決めた上で治療を開始する国もある。

日本にはそのような仕組みはなく、特別養子縁組や里親制度も一般的ではない。何かできることはないかと自問した小柳先生。

その第一歩として2017年春から始めたのが、サイト『産婦人科医 小柳由利子の小部屋~女医の視点で不妊治療を考える~』を開設し、個人として情報発信することだった。

「クリニックのホームページを新しくするという話になり、やってみようと思ったのがきっかけでした。もちろん、経験はゼロ。まずはオンラインスクールで2ヶ月間、制作ノウハウを学んでみたら予想以上におもしろくて。だったら個人用にも作り、より正直な思い、必要な情報を伝えていきたいと強く思いました」

人工授精はどれくらい続ければいいのか、体外受精をする際の良い卵とは?など、患者さんが日ごろを感じている疑問や不安に寄り添う知識やアドバイスを心がけている。

「とくに意識しているのは、医師としてだけでなく同じ女性だからこその視点で伝えることです。年齢・仕事を考慮しながら不妊治療をはじめるタイミングや人生のなかで治療をどう位置づけていくのか、あるいは流産を経験された方や治療の終了を検討している方への思いなどを綴っていこうと考えています。

とくにナイーブな話は外来で患者さんに直接話すと思わず泣きそうになる……。だからブログに書いたほうが、真の思いを伝えやすい部分もあるんです」

「妊活」&「養活」というスタイルの提案

特別養子縁組に関する情報発信も、今後積極的に行っていくつもりだ。「里親には65歳未満までなれますが(自治体によっては条件付で65歳以上でも可)、特別養子縁組は40歳または45歳までを条件にしている団体がほとんど。希望するすべての人が養子をもらえるわけではないので、実際には不妊治療を終えてから検討するのでは間に合わない場合が多いんです。

斡旋団体の方に話を聞くと、治療を続けたものの最終的に子供を授かることができなかった人には『可能性がないなら早く言ってほしかった』と話す人も多いと聞きます。「妊活」に加えて、特別養子縁組へのアプローチ「養活」についての情報を広く提供し、特別養子縁組といった選択をもっと身近なものとして早い段階で検討できるようになればと思います

早めに「養活」を開始することは、夫婦の将来を考える上で役に立つと考えている。

「実際に養親登録を行うかどうかは別として、養親研修を通して様々な立場の人の話を聞いたり子供たちと実際に触れ合ったりすることにより、夫婦の価値観や子供という存在の位置づけを考え、お互いをよりよく理解することにつながるのではないかと思います。

妊活が成功したとしてもこの経験は無駄にはなりませんし、子供を持たない選択をすることになってもお互いが納得して人生の次のステップに進むことができるのではないかと思うのです」

今はまだできることを探っている段階、と話す小柳先生。

養子縁組が一般的ではない社会で、これをすすめていくことは簡単なことではないかもしれません。でも、家庭的保育を必要としている子供達が多数いて、一方では親になりたい大人がいる。両者をつなぐことで少しでも多くの人がハッピーになれるなら、その努力は惜しむべきではないと思うんです」

将来的には、不妊治療を行う医療機関と特別養子縁組の斡旋団体の橋渡しをするような団体を作ることも考えているという。

「まずは斡旋団体のリストや概要を紹介したり、特別養子縁組についての理解を促す動画を配信したりして、情報発信していきたいですね。今は、その準備段階として、自分のホームページを通して情報を広めながら同じ思いを持つ仲間を作り、動き出そうと力を蓄えているところです」

小柳由利子 先生
2006年に福島県立医科大学医学部卒業後、町田市民病院に5年間勤務し、産婦人科専門医資格を取得。2010年からは木場公園クリニックにも勤務し、2011年に東京大学分子細胞生物学研究所へ。協力研究員として不妊マウスの研究に従事し、2015年に博士号を取得。2015年より東京HARTクリニックにて不妊治療に従事している。日本産婦人科学会専門医。医学博士。2017年春にサイト『産婦人科医 小柳由利子の小部屋~女医の視点で不妊治療を考える~』をオープン。 

文/浅田夕香

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