43954f4a 8cfc 4eb9 87f5 2699259f2e91連載・コラム
2017年05月19日

Dr. ミナシュラン!
第9回 私、専業主婦になる~後編~

妊娠を機に、夫が住む台湾での生活がスタートしたDr.ミナシュラン(詳細は前編へ)。個性豊かな妻友達に囲まれながら楽しい日々を送るなか、価値観をがらりと変える“最強の妻”に出会います。異国の地に溶け込み、文化を深く知ることの大切さに気づかされ、世界が広がります。

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第8回 私、専業主婦になる(後編)

突然だが、「チューツマ」という言葉を聞かれたことがあるだろうか?

(海外)駐在員の妻」、これを略して「駐妻」である。

台湾でできた私の妻友達は大きく分けて2種類に分けられて、ひとつが(私と同じく)台湾人と国際結婚して台湾に嫁いで来た、いわゆる「」。そして、もうひとつが、この「駐妻」である。

「駐妻」は、海外に駐在員を出せるほどの大企業にお勤めの方の奥様、ということで、「結婚して駐妻になる」というのは、少なからぬ未婚女性の憧れであるらしい(全く知らなかった!)。

そういう目で見ると、確かに、周りの「駐妻」友達は、とてもエレガントだ。

「嫁」グループは、台湾在住歴に比例して化粧が薄くなっていくのに対し「駐妻」グループはいつ会ってもマスカラ率が有意に高い!(私? はい、しっかりすっぴんに近づき「嫁」グループの先頭を歩いています!<笑>。僻地勤務時代にすでにノーメイク平気になっていたという説も<笑>)。

ある時、「嫁」友達が「駐妻」友達のお宅に遊びに行ったらしい。

嫁友達「そしたらね、ミナさん! 一人ひとりに、おしぼりが出されたんですよ! うわーーー、すごい主婦力! って、戦(おのの)きました! これって、駐妻さんだと当たり前なんですかね?」

Dr.ミナシュラン「ええええっ、おしぼり?! 我が家、出したことないよ! 一人ひとり手を洗ってもらえばよくない?」

嫁友達「ですよねー! 安心しました!」

Dr.ミナシュラン「うん、きっと大丈夫だよ〜」

嫁友達「でもね、時々思うんですよ。私たちの台湾人の主人は『日本人女性と結婚した』訳ですけど、ひょっとして、彼らが求めていたのは、こういう大和撫子だったんじゃないか、って」

Dr.ミナシュラン「ぎくっ」

嫁友達「申し訳ないですねー」

Dr.ミナシュラン「でも大丈夫、多分、気付いてないから!」

もちろん、エレガントな「嫁」友達もいるし、庶民的な「駐妻」友達もいる。

ともかく、新しい友人と出会い、新しいたくさんの世界を見ることができる主婦生活は、良き友達が増える毎に楽しくなっていく。

「嫁」や「駐妻」の友人と、ふわふわマンゴーかき氷や飲茶を楽しみながらおしゃべりをするのが最高の幸せで、これがないと海外生活は乗り切れなかった、と思う瞬間が何度もあった(「かき氷は嫁を救う」というエッセイを書いたこともあるほどだ)。

そして、美味しいママ会用レストランの研究に励む私を「ミナシュラン!」と呼んでくれたのも、台湾でできた「嫁」友達である。


さて、そんな中、私が出会った「最強の駐妻」がいる。

それは、某大国の駐台湾大使の奥様だった(そう、日本人ではない)。

大使は、台湾に着任される前は日本に長く駐在されていたそうで、大使の奥様も20年近く日本に住んでおられた。日本を懐かしんでか、大使ご夫妻は時々私たち夫婦を食事に招待して下さり、私は図らずも、大使のご夫人と「妻友トーク」をすることになったのである。

Dr.ミナシュラン「じゃあ、ご夫人は、日本で出産されたんですか?」

大使ご夫人「そうです。日本の、○○病院です」

Dr.ミナシュラン「言葉も通じないし、大変ではなかったですか?」

大使ご夫人「もちろん、もちろん。でも、皆が助けてくれました」

大使の妻(超エレガント)と、皮膚科医の妻(すっぴんに近づいてきた私)

立場は違えど、異国に住む妻として共感できる部分があって、夫達を差し置いて妻トークは盛り上がるのであった。

ある日、私が子供に魚を食べさせようとした時のことだった。

Dr.ミナシュラン「はい、お魚さん、どうぞ」

こうやって、いつものように子供に食べさせようとすると、「まあ!」と、大使の奥様が小さな感嘆の声を上げた。

大使ご夫人「ねえ、『【お】さかな【さん】』ですって!」

奥様は、ご主人に耳打ちされた。

食べ物を「お○○さん」と呼ぶ呼び方は日本語独特のものであるらしく、それを久しぶりに耳にされた奥様は、「【お】さかな【さん】萌え」しておられたのだ。
(しかし、「【お】さかな【さん】萌え」して下さる外国人って、どの位おられるのだろう……)

大使の奥様が日本の文化を細かく理解し、そして愛して下さっていることが、強く伝わって来た。

さらに、奥様は日本滞在中に日本文学を勉強し、いくつかの日本語の小説を母国語に翻訳するお仕事もされたのだと教えて頂いた。(私は読んだことのないものだったので、急いでamazonのサイトを開いてポチッと購入したことは言うまでもない!)

大使の奥様は、もともと日本に関心を持っておられたわけではない。
日本に来られたのは、ご主人の都合であり、自分で選んでわけではなかった。
しかし、ご主人の都合で行くことになった遠い異国で生き、産み、働き、そしてその異国を深く愛してくださっている

究極の駐妻」だな、と、私は思う。

私も台湾に住むことになったけれど、こんな風に、新しい自分の国を愛せるように、いつか「【お】さかな【さん】萌え」の台湾バージョンを見つけられるように、そんな風に生きたいと思った(外出の口実に語学学校に通う現況から見ると、まだ遠い境地である……)。

さて、楽しみだった大使ご夫妻との会食だが、一度、大失敗をしたことがある。

場所は、台北でも屈指の高級レストランであった。

大使が私に、「二人目のお子さんの産声(voice of birth)は、いかがでしたか?」とお尋ねになった(ちなみに、大使との会話は英語である)。

 (……なぜ産声?)

確かに、子供の産声は、一人ひとり違うものである。

一人目の産声は「うぎゃああああ!」であったが、二人目の産声は「めぇぇぇぇぇぇぇ!」(ヤギみたい)で、私にとっては忘れられない、そして、一生大切に覚えておきたい、思い出の声であった。

(ひょっとしたら、大使の国では、産声を尋ねるのが一般的なのだろうか?)

国際交流では、不思議なことも起きるものである。大使がお聞きになりたいなら、聞かせて差し上げないわけにはいかない。

Dr.ミナシュランメェェェェェェェェェ!!!!!

私は高級レストランで、渾身の産声再現を行った。大使、これが、我が息子の人生で初めて発した声でした!

 ……しかし、大使の表情が冴えない。

そして、私の主人が、もっと冴えない青ざめた表情をしている。

「ミ、ミナ……! 大使が聞かれたのは、産声じゃなくて、出生体重(weight of birth)だと思うよ……」

Dr.ミナシュラン!!!!!

顔から火が出そうだった。

穴があったら……、いや、穴がなくても自分で掘って入りたいぐらいの恥ずかしさだったが、あいにくそこは地上38階のレストラン。穴掘りは現実的ではなかった。

おほほ、間違いました、と、愛想笑いでもしたかったが、大使の某国は愛想笑いの文化のない国であった。

実存的な問いを全員で共有したかのような不思議な空気がそこに流れ、そして、主人がさりげなく話題を変えてくれた。

 ……ああ、汗かいた!

いつか私も、「最強」でなくとも「強めの」妻になれるよう、まずは、軽率に産声を披露しない注意深さを身につけることから心がけていこうと思う。

なお、大使とお食事したレストランは「世貿聯誼社」という高級レストラン。ほっぺたが落ちるほど美味しい中華料理で、縫合セットの準備は必須です(私の台湾での お気に入りレストラン、ベスト5に入ります!)。

会員制なのですが、家庭画報4月号「台湾 極上の旅へ」という記事で紹介されており、家庭画報の読者に限り予約できるとのことなので、ご興味のある方はぜひどうぞ!


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プロフィール:Dr.ミナシュラン

四国生まれ、総合医。食べる事が好きで、本名「みな」とグルメの「ミシュラン」を掛けて「ミナシュラン」と呼ばれている。自治医大を卒業し、四国の地域医療に9年間従事した。台湾人医師と国際結婚し、妊娠を機に台湾に移住する。第一子の産声は「うぎゃああああ!」、第二子の産声は「めぇぇぇぇぇぇぇ!」。その他の情報は徐々に明らかになる予定。


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