E1f85128 4649 400e aa45 721587cdbb06連載・コラム
2017年06月30日

Dr.まあやの「今日も当直です」第15回 開業医と勤務医。

開業医である祖父のもとで育ったDr.まあや。休みなく患者さんに尽くす姿が医者を志すきっかけになったといいます。開業医の血を受けついだDr.まあやが新たな地域医療の形を提案します。

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第15回 開業医と勤務医。

6月の釧路はまだまだ朝晩少し冷えるが、暑い東京から釧路に降り立つと、なかなか過ごしやすくていいものだ。冬は雪、夏は台風、そしてこの時期は時折朝方に霧が発生して、欠航にならないか…と油断できない季節でもある。

ありがたいことに、最近はメディアのお仕事もいろいろお声をかけていただき、ますます身を削って(実際のところなぜか削れないどころか、膨らむいっぽう…)働いているDr.まあやこと、脳外科医・折居麻綾。

脳外科医の仕事は絶対に削るまいと決めているが、40歳を過ぎると当直もなかなかキツイものがある。

ワタシは完全にイレギュラーな働き方をしているが、世の中の多くの医者は、大学の医局の人事のもと、各地で地域医療を行いながら、学会発表や論文と、かなり勤勉で大忙しである。

高収入だなんて言われるが、それ以上に仕事はキツい。特に勤務医は年次を重ねるごとに辛いと思う。今回はちょっと個人的な思い出とシリアスなテーマで地味に盛り上がってみたい。

ワタシの祖父は岩手の開業医だった。もともと祖父は、大学病院で外科医として働いていたが、軍医として召集されることになった。そして帰国後、大病院で手術することを夢見ながらも、戦後の混乱の中で地元に開業したらしい。

田舎町で、小さい医院を約50年。休みなどほとんどなく、月曜から日曜まで毎日診察、休診は正月1日とお盆の1日のみだった。開院当初は、入院患者も扱っていたが、私が一緒に暮らすころには入院はやめ、外来だけの診療になっていた。なので、祖父が出かけることはほとんどなく、常に自宅にいて、医者をやり続けていた。

ワタシが医者を志したのはそんな祖父の背中を見てきたからでもあるが、できれば外科医になりたい、と思っていた。祖父が本当は手術をしたかったんだと話すのを聞いたことがあった。ワタシが脳外科医を目指すと言ったら「いいじゃないか、脳外科医」と目を細めてくれたことを覚えている。

しかし、私が大学生のとき、孫が医者になった姿を見ることなく、この世を去ってしまった。

祖父の医院は、私が大学に入学したころには、建物も古くなり、患者さんも近所のお年寄りくらい。そんなこともあり、ワタシが祖父の医院を継ぐのは不可能だった。そして祖父の死により、医院は閉院となった。

開業医ネットワークを使った「お看取り当番」

開業する、ということは、いろんな決心が必要で大変だろうな、と思う。自分のペースで仕事ができるというメリットもある一方で、脳外科医としては、手術や救急など、第一戦から退き、外来中心の仕事になることへの決意など、なかなか容易な決断はできないだろうと思う。

同期の脳外科医が開業するときにも、開業場所の決断もさることながら、何科を標榜するのか(標榜をしない、ということも含めて)、規模はどのくらいか、機材はどこまで購入するか、スタッフの採用、内装をどうするか、かなりのリサーチが必要だった。

近くに同じような病院がないか、もめ事の原因になるようなことはないかと医師会から細かく指摘があったりして、それを見ていても「勤務医も大変だけれど開業医も立ち上げるまで本当に大変だな…」と思ったものだ。

それでも開業医が増えているということは、やはり勤務医というのは、年齢を重ねるごとにしんどくなる仕事なんだと思う。若い頃には気合でなんとかなった当直も、寝ているところを起こされるたび、ため息が出るようになる。40歳後半になると「日中の外来だけで生きていこうかな」と思うのだろう。

都会のように開業医が多い地域は、患者さんの取り合いになる(医者のつぶしあい…想像しただけでも恐ろしい…)。

患者さんにとっては、近くに相談できる医者が増えてメリットになることもあるが、やはり最終的に手術や入院が必要な病気になると、市中病院や大学病院に頼ることになるのにも関わらず、その病院で医者が足りないなんてことにもなりうる。

ワタシが今後あったらいいと思う開業医の役割のひとつが訪問診療の延長でお看取り当番である。

現在でも、地域包括ケアの一環として地域内の看取りは在宅医療クリニックが主に請け負っている。今後の高齢化を考えるとおそらくパンクするのではないだろうか。となると地域との密着が色濃い開業医こそが適役。

しかし、主治医のみで毎日これを行うのは、やはり体力的に無理はあるので、当番にすれば地域にもよるが月1〜2回ペースくらいの設定で負担が少なくできるのではないだろうか。

市中病院を退院後、開業医で引き継いで診ている高齢者が、いよいよ…というとき、地域の当番の開業医の先生に「当院で拝見している末期ガンの⚪︎⚪︎さん、本日急変する可能性があります。その際は、お看取りをお願いします」という連絡が当番の先生のところに入るようにする(もちろん、日中など主治医が駆けつけられるときは主治医が向かい主治医が看取る、ということが前提である)。

患者さんの中には最期は自宅がいいという人が多いので、その希望を叶える意味もある。そして、市中病院や大学病院にとっては、お看取りのみの救急対応が減る意味もある。

家に帰りたいっていうから一時的に帰したけれど、やっぱり急変して救急車で帰ってくる例(救急あるある…)が減るのだ。

その日が当番の開業医がお看取りをしたら、その患者さんがかかっていた開業医に連絡をいれて任務完了である。このためには対象の患者さんのデータを共有し管理する必要はあるので、インフラの課題もあるだろうが、この仕組み、なかなかいいんじゃないか…?

開業医も勤務医も、働き方は違えど、救える病気の人を救いたいという同じ目標を持つ者同士。ここはひとつ、みんなで助け合う方向でいいのではないか…、と、当直室で絵を描きながら考えている次第である。

ちなみにワタシが当直している釧路の病院に関して言えば、当直医がお看取りをすることもある。患者さんのご家族には事前に主治医がお看取りできない場合があることを伝えてあり、たまたま居合わせたワタシが死亡確認をし、死亡診断書を作成する。主治医がすべて対応できないところでは、自然とルールができている。

釧路も1人暮らしのお年寄りが増えており、子どもや親族が札幌や東京近郊に暮らしていることがある。救急で搬送されてきて、危篤状態にあっても、札幌から釧路までは車で約4時間30分、特急でも約4時間、飛行機で40分(しかも霧などで欠航することが多い)。東京からは飛行機で1時間30分、直行便が全部で6便のみ。家族がお看取りに間に合わないこともしばしばある。

そんなワタシも、先日肺炎で治療をしていた祖母が亡くなった。このとき、ワタシは釧路で当直をしていて、立ち会うことができなかった。医者になった時点で覚悟はしていたが、やはり最期を見届けたかったなぁ、とお世話になった祖母に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

これからますます高齢化社会になるわけで、開業医と勤務医、そして医者と患者さんが幸せになれる医療のかたちを作れたらいいなあと、改めて願っている。

■イラスト/Dr.まあや 構成/ふるたゆうこ

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  Dr.まあや(折居麻綾先生)

1975年東京生まれ、岩手育ち。岩手医科大学卒業後、慶應義塾大学病院で研修を終え脳神経外科に入局。2010年にかねてから夢だったファッションデザイナーの道に挑戦しようと日本外国語専門学校海外芸術大学留学科に入学する。翌年にはロンドンのセントラル セント マーチン カレッジ オブ アート アンド デザインに約2年間留学しファッションデザインの基礎を学ぶ。帰国後は事務所『Dr.まあやデザイン研究所』を設立しアーティスト活動をスタート。現在は釧路孝仁会記念病院、東京・小平市のあかしあ脳神経外科の院長として非常勤勤務している。 

 


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