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2017年07月14日

ママ小児科医が“信頼できる情報”を発信。
発達障害の子を持つ母として、社会の架け橋に。

病院での小児科診療に加え、SNSによるママサポートに取り組む保田典子先生。「子育て中のママが少しでも楽になれば」と、診察室では伝えきれない“根拠のある”医療・子育て情報を日々発信している。育休なしで働き続ける3児の母であり、長男は発達障害。そんな彼女が発信するメッセージには“大丈夫だから”という思いが込められ、悩めるママたちに安心感を与えるもの。

小児科医による子育てコーチング、そしてSNS起業へ。「発達障害でも輝ける社会を作る」という目標に向けて、第一歩を踏み出したママドクターの姿を取材した。

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根拠のある情報で、ママたちを楽にしたい

子どもの急な発熱、忙しい時に限って保育園からの呼び出し…。子どもの病気は働くママが乗り越えなければならない壁の一つだ。

「そんな時、病気の対応や心構えができていれば、ワーキングマザーの不安は減るのでは」。そう考えた保田先生は、診療とは別にSNSによる情報発信を開始した。

ブログのタイトルは『ママ小児科医が実践している忙しくても家族の健康と発達を伸ばす子育て』

子どもの咳が止まらない時の対処法やワクチン、ステロイド、離乳食、発達障害など幅広いテーマで、子どもの病気にも焦らないコツをほぼ毎日発信している。

「熱がある時は冷やすのが常識ですが、なぜ冷やすのかを分かっている人は案外少ないもの。理由がわかれば、次に熱が出ても焦らず対処できますよね。インフルエンザも風邪の一種だとわかれば、気持ちが楽になるでしょう」。

日本のママはすごく真面目で、「離乳食は絶対に前期・中期・後期に分けるべき」と思い詰めていたり、苦労して作っても食べないとまた悩んだり。「今は、手をかけるべきところと、かけなくていい所が逆になっていることが多い気がします」と保田先生。

「成長期の子どもにとって大事なのは糖質とタンパク質です。野菜を食べないのは、あまり必要じゃないから。そのことがわかれば、無理にでも食べさせなきゃという焦りはなくなるはず。私のブログを読んで、少しでも子育てが楽になってもらえればうれしいです」。

5月24日には、“お茶会”と称した第1回目のオフ会を新宿で開催した。子どもの病気や健康にまつわる正確な情報を聞くことができ、質問も自由。もちろん子連れ参加もOKだ。

第1回の内容はインフルエンザや、離乳食が手抜きでもいい理由、子どもが発熱すると、食欲が下がる根拠など、診察中にもよく話す基本情報が中心。それでも参加者からは「小児科医から安心できる情報をたくさんもらった」と好評だった。

小児科医が診察室の外に出て活動することの意義を、改めて教えてもらったお茶会でした。情報過多の社会だからこそ、根拠のある情報が求められています。これからも信頼できる情報をキャッチできる場を提供していきたいですね」。

身近な目標は、現在月1回のお茶会を、月2回に増やすこと。医学的根拠に基づいた、子育ての手を上手に抜く方法や、子どもたちが将来自分の夢を追いかけられる体力や元気な体を作るために、小さい時にしておくべきことなども随時発信していきたいという。

発達障害へ正しい理解を広めるために。SNSでつながる仕組みづくりに着手

家に帰れば5歳、3歳、1歳の子育てママ。「小児科医だから子どもの扱いには慣れているでしょう」と言われるが、育休なしで働き続けているため、病気をしていない元気な子どもの接し方は、意外にもわからないことが多いそう。

長男は発達障害でこだわりが強く、小さい頃は夜泣きに偏食…。医療機器メーカーに勤務する夫は多忙で帰りが遅く、両親も遠方なため、突然の病気でもサポートは期待できない。自分自身がまさに「子どもが病気になっても仕事が休めないワーキングママ」であるからこそ、同じ境遇のママたちを応援したい気持ちが強いのだ。

そもそも、現役小児科医である保田先生がSNS起業にチャレンジしようと思った背景には、長男の存在がある。

実父や、恐らく自分もそうであり、長男が発達障害とわかってもショックはなかった。しかし、自分の子どもが発達障害だとわかると、現実を受け入れられず、まるで地獄に突き落とされたように感じる母親がたくさんいることに、逆に驚いたという。

「発達障害はその子のキャラクター。人よりこだわりが強く、コミュニケーションが下手なだけで社会に出られないのは、すごく勿体ないことです。世の中の人にもっと発達障害のことを知ってもらいたい。

そんな思いから、SNSでの情報発信にチャレンジしてみようと考えました。今後の展開はまだ模索中ですが、多くの人と繋がり、将来的には発達障害の人も自分の特性を活かして、活躍できる社会を作ることが夢です」。

 

育児と研究の両立に挫折、臨床復帰へ。コーチングを学び、子育てが楽に

長男が生まれたのは、臨床の場を離れ、再生医療を学ぶために東京女子医大(先端生命医科学研究所)大学院に進んだ2年目のこと。

結婚・出産と生活が激変するなか、子育てと研究の両立という最初の壁にぶつかる。

「保育園のお迎え時間までに研究を終わらせるというのが、私にはどうしても難しくて…。時間を気にして、焦れば焦るほど失敗するのです。こんな状況では、研究と子育ての両立は無理だと思い、博士号取得後に臨床の現場に戻ることにしました」。

そして、大学院卒業後の勤務先として選んだのが、現在勤務する東京衛生病院だ。職探しの条件は子育てとの両立を考え、「家から近いこと」「フルタイム勤務」(福利厚生を受けるため)「当直がない、または少ないこと」の3つ。

医師紹介エージェントを利用して、3~4カ月で就職先は決まったものの、第2子の妊娠が発覚! 実は、この時の妊娠はある程度計画的で、出産後わずか2カ月で現場復帰。最初の約束より2カ月遅れで臨床医に復帰した。

子どもは2人に増えたが、勤務時間は8時半から17時半。当直はなく、保育園の送迎に合わせた時間の融通も利く。土日に出勤する分、平日は勤務時間の融通がきく。入院患者に重症者はおらず、回診が終わればフリータイムで、育児と仕事の両立は比較的やりやすかった。

転機となったのは3人目の妊娠だ。

重いつわりに3歳と1歳男児のイヤイヤ期が重なり、子育てのイライラはピークに。発達障害の長男は寝つきが悪く、寝かしつけには特に苦労した。遂に体調を崩し「子育てが心底辛い」と感じていた頃、友人に勧められたのがコーチングだった。

実際、生後2カ月の第3子を連れて参加した初めてのセミナーから、大きな気づきを得たという。

「母親が洗い物をしながら子どもの話を聞くことって、よくあると思うんです。このセミナーで、忙しそうに目も合わせてくれない親に話しかける子どもの気持ちに初めて気づかされて、思わずハッとしました」

その後、本格的な講座を受けるうちに、無理なく子育てと仕事の両立ができている自分に気付いた。同時に「小児科医として、働くママとしての自分の経験や知識は、ワーキングマザーを楽にしてあげられるのではないか」と思ったという。

何をしたらよいか、すぐには思いつかないが「まずはできることから」と、凍結していたブログを再開。フェイスブックもビジネス仕様に変えて、働くママたちに向けた情報発信を開始した。

自分の強みと言える、小児循環器との出会いが今の自信に

女医であること、母であること、小児科医であることのすべてが活動のアドバンテージになっている保田先生。医学部入学当初は、意外にも精神科をめざしていたという。

精神科は患者と共感してはいけない。冷静に、俯瞰して見ることが必要だとわかり、「自分には無理だ」と気づいて早々に方向転換。専門に選んだのは、当時は最も遠い科だった思っていた小児科だった。

「小児科は大変で辛いというイメージしかなかったのですが、大学の実習で治療をすると劇的に変わる子どもたちの姿を目の当たりにして、小児科医になろうと決めました。この子を治したら、この先80年生きてくれると思ったら、すごくやりがいを感じたんです」

大学卒業後は、当時必須ではなかったスーパーローテーションを志願。国立国際医療センター(現・国立国際医療研究センター)で、小児科を中心にさまざまな経験を積んでいく。

ここでの3年間。仕事に没頭するなかで、小児医療についてさらに専門的に学ぶため、4年目からは大阪市立総合医療センターへ。茨城県出身で、東京の中高一貫校に通った保田先生にとって、大阪は未知の土地。大きな決断だったが、この選択が後に自分の強みとなる“小児循環器”との出会いとなる。

「救える命は少なかったけれど、NICUでの当直や小児循環器科での経験を通して、どこでも必要とされる小児科医になれたと思っています。小児科医として、ここで得られたものはとても大きかったです」。

というのも、この病院で出会うのは、9割以上が完治しない難病の子ばかり。担当した子どもを見送ることも多く、子どもを亡くした親御さんの姿を見るのは特に辛かった。

今の最先端医療で治せないのなら、研究しかない。保田先生は再生医療を学ぶため、東京女子医大(先端生命医科学研究所)大学院へ進学したのだ。

思いがけない妊娠で、研究では大きな結果は残せなかったが、「統計や理論、論文を読む力が付いたこと、実現不可能だと思っていた課題が、研究を重ねることで、数年後にはちゃんと形になっていく感動を肌で味わえたことは、貴重な経験でした」と振り返る。

そして今、再び臨床医に戻った保田先生は、病院スタッフから「循環器なら保田先生」と頼りにされる存在に。「仕事のやりがいも感じられる環境にいられるのは、小児循環器という強みがあるからこそ。女性が仕事を続けるうえで、強みを持つことは大事なことです」。

ブログで広がる人脈・ネットワーク。年内を目途に、起業へ本腰

病院での診療、ブログでの情報発信、3人の子ども子育てと1人3役をこなす日々は、実際かなり大変に違いない。それでも「子育ては今が一番大変と信じたい!」と笑い飛ばして前を向けるのは、コーチングを習得した賜物なのだろうか。

「子育ての辛さから救ってくれたコーチングを、今度は自分が広げる番」と力強く語る保田先生。当面はお茶会やブログによる情報発信を続け、ブログのフォロワーが増えてくれば、子育てオンライン講座の開講も視野に、起業を実現したい考えだ。そして、ここで得た資金を基に、発達障害のサポートにつなげていきたいという。

「発達障害の子は扱いにくいキャラではあるけれど、人よりすごく得意なこともあります。得意なことを思い切りやらせてあげて、不得意なことは周りがやってあげる、みたいなスタンスの世の中だと、上手くいく気がするのですが…。時間はかかっても、そういう考え方を社会に広げていきたいですね」。

ブログでの発信を始めて以降、今までとは違う繋がりもできてきた。ママドクターをはじめ、職場で肩身の狭い思いをしているワーキングマザーも多いなか、SNSという自分自身も輝ける新たな発信の場を見つけた。

「理想は年内に起業に向けて動き出したいと思っています」と話す表情は明るく、やる気に満ち溢れている。

自分も育児と仕事の両立に悩むママの一人。完璧ではないからこそ、人の悩みや苦しみに気付くことができる。ママ小児科医による子育てコーチングの原点は、まさにそこにある。「まずは自分にできることを全力で」という保田先生の姿勢は、今後多くの人の共感を得ることだろう。

保田典子(やすだ・のりこ)先生

 

茨城県出身。日本小児科学会認定専門医。2003年筑波大学医学群医学類を卒業。国立国際医療センター(現・国立国際医療研究センター)、大阪市立総合医療センターを経て、研究の道に。2014年東京女子医科大学大学院博士課程修了。第1子の出産を機に、東京衛生病院小児科へ。診療では、漢方や栄養指導など様々なアプローチを実践する。2男・1女の母。ブログ「『ママ小児科医が実践している忙しくても家族の健康と発達を伸ばす子育て』を発信中。現在もプレシャス・マミーの子育てコーチング講座を受講中。

文/岩田千加

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