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2017年07月26日

「もう限界……? 医師を続けながらのワンオペ育児」。センパイ医師夫婦に学ぶパートナーの役割とは。
~千葉大学医学部附属病院『立葵の会』講演Vol.1~

「家族の世話で自由時間や勉強時間がほぼない」「勤務中に子どもが熱。夫はオペがあって迎えにいけない」……。

6月に発表した女医白書によると、医師同士の結婚が半数以上というのが現状。となると、家事・育児を担うのは全面的に女医妻? それとも医師夫のイクメン化にかける? 

多くの女医たちが直面している育児と仕事の両立の悩みを解決すべく、千葉大学医学部附属病院の女性医師コミュニティ「⽴葵の会」では「パートナーと考える女性医師の働き方」をテーマにした講演会を2017年6月17日に開催。

「男性医師を夫に持つ“女医の妻”」「女医を妻に持つ“男性医師の夫”」というそれぞれの立場から、紆余曲折のエピソード、乗り越えた体験談を披露。女医ママとご家族にとって参考になるヒントと課題が見えてきました。

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外注を利用し家事の無駄を削っても限界。
夫=男性医師が協力できる体制作りが急務。

『立葵の会』の代表を務める神経内科准教授・三澤園子先生は、フルタイム勤務をしながら7歳と2歳の子育て真っ最中。「医局ではもちろん言えませんが、毎日ぐったり疲れますよね(笑)。教授が求めるような業績が、出産後はなかなか出せない現状。それを解決したくて、自分の時間の使い方をとことん考えたんです」

時間管理アプリ「Taskuma」を使って自らの行動記録を分析。お昼はタイマーをかけて食事するなどギリギリまで削り、「手抜き上手の自信はある!」というくらい家事の時間を、家電と外注などで圧縮。それでもどうしても削れなかったのが子育ての時間。

「うちは夫が平日は帰りが遅くなかなか頼れません。ですから手抜き上手を自負する私でも、週40時間は家事・育児に割かれます。そうすると、自分が仕事や好きなことに使える時間は、本当に少なくなってしまいます。家事をしっかりされている先生方はもっと厳しいはずです」

↑三澤先生の1週間を分析。円グラフは睡眠時間と起きている時間。棒グラフは起きている120時間を生きるために必要不可欠な食事や通勤などに費やされる20時間(青)、家事と育児に費やされる40時間(ピンク)、病院勤務や対外業務等に費やされる60時間(水色)に分類。余裕のないギリギリの日々が続く。

女性医師がどんなに自分の時間を削って仕事と家庭の両立に奮闘しても、ひとりでは限界があります。「医療の持続可能性や働き方を見直すなら、パートナーの育児・家庭への参画が今後、いっそう必要になる」と三澤先生は力説。

 

三澤園子 先生

千葉大学医学部附属病院神経内科に勤務。2015年からは医局長も務める。同病院を中心とした女性医師で活動する「立葵の会」を主宰。二児の母。

多忙極める外科医夫婦の子育てリアル。
ぶつかった壁の越え方と夫の意識変化。

ひとえに医師夫婦といっても外科系か内科系か、科目によって家事・育児の分担の比重が変わるものです。8歳と5歳のお子さんのママである千葉県循環器センター・脳神経外科の青柳京子先生のご主人は乳腺外科医。ハードな外科医同士のカップルの家事分担はどのようにしのぎを削ってきたのでしょうか。

青柳家は、第一子誕生のころは大学病院に勤めるご主人は仕事がとても忙しく、家にいられるのが多くて月に3日、いたとしても夜中から明け方と言った状況。そのため、パートタイムで徐々に復帰していた青柳先生がほぼ育児家事を担う、まさにワンオペ状態だったそう。

「オムツを替える、お風呂に入れるなど、育児分担を頼むのは現実的に無理でした。それに、そんなものだし、仕方がないことなのだと思って暮らしていました」と当時を振り返ります。

そんなご主人の意識が少しだけ変わったと最初に感じたのが、第二子の切迫早産で1ヶ月入院した青柳先生に代わって、ご両親とともに第一子の面倒をみたとき。

さらに、第二子誕生後にアメリカにご主人が留学し、家族帯同したこともターニングポイントになったそう。留学時は少し仕事にゆとりがあり、その上、社会的にも男性が子育てに参加するのが当たり前という環境。子供が2人に増えたこともあって、夫が育児に割く時間が増加しました。

そして帰国後、夫は少し余裕のある職場に就職。

「私より先に帰った日には、お弁当箱や水筒が洗ってあって、洗濯物がたたんであって。たったそれだけのこと、と思うかもしれませんが、私には夢のように感じました(笑)」

「夫は、やらないのではなく、やる時間がない状況にあっただけなんだ」と、ご主人の実情にここで改めて気づかされたと言います。留学時に自分の時間さえあれば育児に関わる姿勢をご主人が見せたことで、青柳先生自身のパートナーへの認識、評価に変化がもたらされたのです。

さらに「以前は私が家事育児をやるのが当たり前で、その方が完璧にできると考えていました。なんなら、私のやり方でやらないならやらなくていいぞというスタンス。でも今は、お任せするなら夫のやり方でやってもらおうと思えるようになったのです」。

この気持ち一つで、家庭がすごくうまくいくようになったと感じているそう。


↑家事分担のコツを一歩、一歩習得していった青柳京子先生。

現在は、再び忙しい職場で働くご主人。夫婦の家事育児の分担率は留学前にほぼ戻ってしまったのだとか。それでも、青柳先生は以前ほど家事育児分担の不公平感を感じなくなったと言います。それは、家事育児は私の仕事だという思い込みがなくなったことが大きいそう。

さらには、ご主人も青柳先生の学会などのスケジュールに合わせ、カンファレンスの時間を調整してお迎えに行くなど、忙しいとはいえもう以前とは違うので、このことが青柳先生の気持ちを支えています。

自分が外科医を続けるためには、職場の理解に恵まれたこと、病児保育などの施設、夫の意識変化が欠かせなかったという青柳先生。

「妻は40時間を丸ごと家事育児に費やしていると、先ほど三澤先生からお話がありましたが、男性はその40時間も働くのが当たり前と職場から言われている状態ともいえます。こういった男性医師に対する縛りが少しでも緩むと、男女ともにお互いに働きやすい環境になるのではないでしょうか」

神経内科医(夫)×産婦人科医(妻)の場合。
「私が産むなら育てるのはあなた」を実践した夫の挑戦。

「家事と育児の主役は妻」と思いがちですが、そのイメージをガラリと変える医師夫婦が登場しました。「子供は産むけど、育てるのはあなた」と産婦人科医の妻から啖呵をきられた千葉東病院神経内科の荒木信之先生。「男性医師の仕事と育児の両立」という新たな役割分担の形を語ってくれました。

会場に6歳になる娘さんを連れていらした荒木先生。娘さんはお父さんと一緒にいるのが当たり前といった面持ちで、大人に混じってお父さんの話に耳を傾けています。

現在産婦人科医として活躍されている奥様とは同期婚で、研修3年目に妊娠し、娘さんが生まれました。

奥様に常々、子育ては荒木先生がメインですることを明言されていたので、妊娠が判明してからすぐに当時の上司に相談に。「行くあてがなくなったらうちが雇ってあげるよ」と育児をすることについて背中を押してくれたそうです。その上司のことを「まるで仏のよう(笑)」と荒木先生は言います。

奥様の産休明け半年は慣れないことも多いだろうということから荒木先生が週4日、外来のみ、当直・待機なし、2人体制という非常勤で勤務。奥様が週5日、当直・待機が月に計11日前後、4人体制という常勤で育児をスタート。

病院附属の院内保育を利用し、荒木先生が育児を5〜6割、家事を半分強担い、残りの家事もシルバー人材派遣の家事代行などを利用して過ごしていたそう。出だしは順調な滑り出しだったと言います。

ところが上司からの打診で常勤になり、毎日外来があり、病棟も救急もみるようになると睡眠時間が取れないようなハードな日々が続くようになりました。

お迎えに行かなくてはならない日は無理やり終わらせて病院を出て、お迎えではない日にひたすら残った仕事をやるというスタイルです。また、ちょうどその時、奥様は勤務が少し楽な病院に移り、そのため娘さんの預け先が院内保育から認可保育園に変わりました。

すると月齢の関係もあって娘さんが月に1、2回の頻度でよく発熱するように。もちろん看病もしなくてはなりません。この時点で、奥様が待機ではない日はすべてお迎えに行かざるを得ない状況になり、「ちょっと話が違うんじゃないの? あなたが育てるって言ったじゃない」と責められる始末に。

仕方がないので、荒木先生は子供を寝かしつけてから書類仕事をこなすために病院に戻るといった働き方を続けました。すると、

「一年経たないうちに、自分が髄膜炎になってしまったんです」。

しばらく入院することになり、やっと復帰と思ったら、すぐにインフルエンザに罹患。これではやっていけないと上司に掛け合って、また非常勤に戻してもらいます。また、娘さんが2歳になる頃には発熱の頻度も減り、仕事と育児もなんとかこなせる状況に落ち着いたそう。

そして卒後7年目に荒木先生は認定医を、奥様は専門医を取得。その後「他にも子育てをしながらやっている人もいるから」と声をかけてもらった大学院に戻り、週5日、当直が月に2〜3回、外勤は免除という常勤に。免除してもらった時間を病棟仕事や子育てに当てました 。


↑男性医師の育児参加を実現させている荒木信之先生。
奥様は週5日、当直・待機が月に11〜12回、6人体制の常勤に。現在、育児の3〜7割と、家事の半分を2人が同等に担当しています。

「なんとかやってこられたのは、結果として妻が子育てをしてくれたからです(笑)。あとは上司の理解と、同僚の協力。男が子育てをすると言ったら鼻で笑われるかと思いきや、働き方について上司がかなり相談に乗ってくれました。

また、自分がどうしてもできない部分が仕事で出てくるのですが、それを快く引き受け、協力してくれた同僚たちがいたことが何より大きいです。これに尽きます。制度で言えば、最低限の仕事はお迎えの時間までに終わる分担主治医制であることですね。また、シルバー人材派遣、ベビーシッター、病児保育などの利用も欠かせません」

荒木先生が男性として家事育児に参画してみて感じた障壁は「男が仕事、女が家事育児をするものだという、本人たち・職場・社会の思い込み」「完全主治医制」「残業前提の仕事量」の3つだと言います。

「子育てをする人は支えられる・守られる側であり、男性は支える側であるという構図がある限り、男性は子育てに参加できず、女性は支えられる側からの脱却はできないんです。この問題意識を共有できるかどうか、それが大切なんだと思います」。

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会を通して見えてきた重要ポイントは、男性の育児参加への職場の理解です。いくら女性の育児参加を制度で、環境でバックアップしても、それでは片手落ち。女性が仕事を全うするためにも、もう1人の子育ての担い手である男性の子育て時間が不可欠なのです。

ですが、女性以上に男性医師の子育てを理由とした当直免除や時短は現時点ではかなり夢物語の領域。そこに風穴を開け続けている荒木先生のお話は特に興味深いものでした。

また、男女ともに育児参加できるように配慮をする際は、上司・同僚・部下、全てにおいての不平等感の払拭にも注意を払わなくてはならないということを登壇された皆さんが言及されていました。

医師夫婦が働きながら子育てをするということには、当事者以外にも様々な人を巻き込み、協力を必要とします。その重要性は医療の持続可能性や働き方を見直す上で、通奏低音的な項目であることが改めて明らかになったと言えるでしょう。

文/田中祐子 


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