12dcbf78 e4d3 400f 9639 9e8cc5024052医療トピックス
2017年08月08日

産業医は診断も治療もするな!
メンタル不調者の産業医面談でのトリセツ

6月30日に厚生労働省が公表した平成28年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する労災件数は請求・支給決定ともに前年度増となりました。年々増加の一途を辿り、労働者のメンタルヘルスは大きな社会問題となっています。

そこで重要な役割を果たすのが、労働者が常時50人以上いる事業場に選任が義務付けられている産業医。労働者のメンタルヘルスを守るには、従業員と企業、そして主治医との関係性を繋ぐ産業医による対策が欠かせません。

とはいえ臨床とは勝手の違う、「企業」が現場となる産業医の仕事。メンタル不調者の対応となると「私、精神科医でないのに…」と認定産業医の資格を持っていても不安を感じる医師も多いのが現実です。

そこで、産業医サポートサービスを手掛けるエムステージにより7月8日に開催されたのが「産業医業務 基礎・実践講座~メンタルヘルス対応~」。産業医デビューで陥りがちなポイントを解説した前回に引き続いての2回目の開催です。前回同様、日本医師会認定産業医の山越志保先生と特定社会保険労務士の舘野聡子氏によるセミナーをレポートします。

\女性医師の産業医を求める企業、増えています。/
エムステージ産業医サポートサービス』にご相談ください。


↑左:社会保険労務士・舘野聡子氏、右:産業医・山越志保先生

今回のセミナーコンテンツは、次の通り。

【講座概要】
・メンタルヘルスに産業医が対応する理由
・初めて産業医を導入する企業への対応と産業医面談の方法
・産業医面談ロールプレイ

まず、館野氏から大前提として伝えられたのは、産業医は労働者のメンタルヘルスに関わる「義務」があるということ。2000年に公表された「事業所における労働者の心の健康づくりのための指針」から、それは明記されています。17年も前から産業医の役割は明確に定められていたのです。

山越先生からは初めて産業医を選任した企業とどのように業務を進めていくか、質問形式でレクチャーがありました。


前回セミナーでも言及があった通り、初めて産業医を選任した企業でよく起こる事態が「先生、何したらいいですか?」の丸投げプレイ。企業も産業医も初心者同士でトラブルが起こることのないよう、想定質問へのケーススタディは重要ですね。

白熱のロールプレイ
うつ病?職務責任の増加で不調をきたした女性

ロールプレイでは、産業医未経験の参加者が産業医役に挑戦。面談に訪れた従業員役をエムステージの社員が務めました。その様子を少し覗いてみましょう。

面談対象者:
入社13年目の36歳女性。真面目で責任感の強い完璧主義者。5人チームのサブリーダーだったが、一か月前にリーダーに任命された。さらに新卒社員がチームに配属。その頃から異変がある様子。

<面談開始~ラポール形成>
面談者:「失礼します……」(不安げで力ない表情)
産業医:「こんにちは、産業医のOと申します。おかけください。」
 (俯きながら弱弱しく椅子に座る面談者。明らかに元気がない)
産業医:「緊張なさっていますか?」(優しく語りかける)
面談者:「そうですね」
産業医:「今日は、ご気分はどんなかんじですか?」
面談者:「いつもと変わらないです……」(消え入りそうな声で)
産業医:「いつもはどんなかんじでしょう」
面談者:「眠れていなくて……。ベッドに入っても仕事のことばかり考えてしまうんです」
産業医:「会社からも元気がないというお話があって、私も今日面談の機会をいただきました。途中で気分が悪くなったらおっしゃってくださいね。」
(O医師は面談者の目を見つめながら、ゆったりと話しかける)

 

<基本情報の確認>
産業医:「最近はずっと気分が落ち込んでいるのですか?」
面談者:「眠れないから疲れてしまうんです」
産業医:「眠れないから疲れやすいんですね。ご飯は食べられていますか」(面談者の言葉に頷きながら)
面談者:「食欲ないですし、食べてもおいしくないです」
産業医:「残業もかなり多いようですが、ご自身でどう感じていますか」
面談者:「リーダーになって負担が増えました。新しく入った新卒は仕事が終わらなくても帰ってしまうんです。その分自分が残業するしかなくて……」
産業医:「そうですか。それで残業が増えてしまうんですね」
面談者:「この間はミスをして上司に叱られました。これまではあんなミスしたことなかったのに。リーダーとしても不十分でもうだめだって……死んじゃいたいなって」(震える声で)
産業医:「……」(ハンカチ差し出す)
(終始小さな声でぽつぽつ話す面談者に対して、O医師はゆったりした話し方を崩さず、ヒアリングに徹します。)

■山越先生からの評価&フィードバックポイント
 従業員の話に共感を示す

「それは大変でしたね」「頑張られましたね」といった共感ワードを使うと、従業員は安心感を覚える。O先生の対応も「優しく話を聞けていて、面談者も安心して話すことができただろう」と評価。

業務に支障を来す程の状況には受診勧奨を!(決して診断はしない)
産業医面談は事実確認の場。カウンセリング等の治療はしない。
自殺をほのめかす場合は、細心の注意を!

自傷・自殺しないことを約束させる。また、決して社員1人にしないように本人の同意を得て家族に迎えにきてもらう。

山越先生が特に強調されていたのは、「共感」の重要性。その点、ロープレに立たれたO先生の対応は素晴らしく、面談者役の女性がロールプレイ中に涙を流したほど! 彼女曰く、O医師の対応から「受け入れてくれる安心感」があったそうです。

産業医は診断・治療をしない!

このロールプレイを踏まえて、山越先生は「産業医は事例性を視ること」と解説します。事例性とは、業務上何が問題になっているかなどの客観的な事実。産業医の役割は、メンタルヘルス疾患を抱えた労働者の症状が悪化しないように配慮・助言をすることであり、病気を診断・治療してはいけません。そのため、精神科の専門でない医師でもメンタル不調を訴える従業員の対応に苦手意識を覚える必要はありません。

前述のロールプレイの場合、O医師がヒアリングに徹底したのは正しい選択でした。うつ病と診断する必要はなく、業務上の問題点を把握し本人をケアするとともに、企業に助言をして改善をはかるのがあるべき姿なのだそうです。

診断・治療が必要な症状が見受けられた場合は、面談者に主治医への受診を促すことになります。ここで舘野氏から主治医と産業医の違いが整理されました。

 

このように産業医と主治医の職務には明確な違いがありますが、面談者にとってはどちらも同じ「医師」。参加者の中には「病気の診断を願われた」医師もいらっしゃいました。「杓子定規に“それはできない”と対応するのでなく、その気持ちを受け止めながらも、診断をするのは主治医であるとの役割の整理を優しく伝えられるといいですね」と館野氏もアドバイスをしていました。

今回は一部ではありますが、「産業医業務 基礎・実践講座」第2回「メンタルヘルス対応」の様子をレポートしました!講座のボリュームもちょうど良く、大変満足という声が多数あり、講座終了後も山越先生・舘野先生へ質問をされる方や、お隣同士で情報交換をする方でしばらくにぎわいが続きました。

企業からは「是非女性医師を産業医に選任したい」という声も度々聞かれます。興味を持たれた女性医師の皆さんも、是非次回の講座へ参加してみてはいかがでしょうか?

次回の「産業医業務 基礎・実践講座」のご案内

2017年9月16日(土)13:00~15:00
「産業医業務 基礎・実践講座(復職対応と就業規則)」

2017年10月14日(土)13:00~15:00
「産業医業務 基礎・実践講座(産業医の守秘義務)」

詳しくはコチラよりご確認ください。

産業医案件のご紹介を希望される先生はこちら➡エムステージ産業医サポート  
医師の常勤求人検索はこちら『Dr.転職なび
  アルバイト検索はこちら『Dr.アルなび』
ヘルスケアの今と未来がわかるWEBマガジン➡『HEALTHCARE Biz

講師プロフィール
◆山越 志保(やまこし しほ)
日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルトタント(保健衛生)
都内の病院で内科医として勤務しながら、日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタントを取得し、産業医としての業務を開始。これまで多岐にわたる企業で、産業医業務を行っている。現在は、都内大学病院の兼任助教・大学院生として勤務・研究をしながら、株式会社さくら事務所を設立し、臨床と産業医活動を行う。

◆舘野 聡子(たての さとこ)
特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/メンタルヘルス法務主任者経営倫理士/21世紀職業財団認定セクハラパワハラ防止コンサルタント/MBTI認定ユーザー/NLPマスタープラクティショナー/アサーティブジャパン認定トレーナー
民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。


<関連記事>
産業医デビューで陥りがちなトラブルとは?
臨床とはまるで違う現場をレポート。

女医にこそ向いている!
ママドクターが伝える産業医のススメ