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2017年08月25日

「元気な人が、元気なままでいられるように」
夢を天職に変えた専属産業医・川島恵美先生の歩み

ストレスチェックが義務化された2015年12月以降、産業医のニーズはますます高まっています。一方で、具体的な業務内容や勤務実態が見えにくいのもまた産業医の世界。そこで今回は、大手企業の専属産業医として4年目を迎える川島恵美先生のワークライフについての話を伺いながら、産業医のリアルな姿をのぞいてみました。

高校生で産業医を志し、紆余曲折を経て夢を“天職”に変えた川島先生。さまざまな葛藤を乗り越え、見えた世界とは。

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働く人々の健康を守り、会社の業績も上げる
社員も組織も幸せにできる可能性を持つ産業医。

大手化学製品メーカーの専属産業医として活躍する川島恵美先生。今年勤続4年目、昨年は産業医の専門医資格を取得し「いま仕事がとても楽しいです」と目を輝かせる。

そもそも、大企業の専属産業医ともなれば、倍率はかなり高そうだが……。

「産業医の就職は、大学の教授や先輩の紹介、大学への求人などのパターンもあります。私の場合は、求人のあった企業の中で、興味がある会社を見学して、この会社に決めました。相性もありますが、私はこの会社に就職できて、本当に幸運でした」

実際、専属産業医とはどのような仕事をしているのだろうか。

週4日勤務を基本で、残り1日は研究日という契約をしている。勤務時間は、原則朝8時半~17時。研究や調べもの、勉強に充てる時間は別にとっている。白衣は着用せず、普段は人事部の社員と机を並べ、安全衛生委員会への出席や職場巡視、面談を行い、月に何日かは工場や販売拠点に出張している。

工場では作業服にヘルメット、安全靴を着用して、熱中症等を含め、労働災害が起こりやすい職場環境を自分の目で確認する。健康診断の結果から就業管理基準範囲を超えている従業員に対して面談し就業制限を考慮している。法令の事後措置に準じて、会社としてルールを決めたことにより、働きやすい環境作りが円滑に取り組めるようになった。

「例えば、糖尿病が悪化した社員の場合、生活習慣が乱れたり、人手が少ない夜勤中に倒れたりすることはリスクと考えて、交替制勤務を禁止し、専門医と連携してしっかりコントロールします。ご本人も生活がかかっているので、健康管理を仕事の一つとして真剣に取り組まれます。このルールを定めた結果、ハイリスク者と考えられる就業管理基準以上の社員は1年で2/3まで減少しました。働く人に仕事だけではなく、いかに自分の健康に気を付けてもらうかは、産業医の大事な仕事です。私の仕事は成果が出るまで時間がかかりますが、ご本人やご家族、ひいては定年後の地域医療費の削減に良い影響を与えると思うと、とてもやりがいがあります」

一方、女性が多い販売部門では、人間関係のトラブルによるストレスや、切迫流・早流産のリスク、更年期障害などへの対策が必要であり、工場とは異なる配慮が必要となる。

産業医は臨床医とは異なり、「病気を治すこと」が目的ではない。「病気にならないよう予防すること」に加え、「病気になっても働けるように支援すること」が使命である。そのためには、社員の健康管理に加え、どのような作業(作業管理)を、どのような環境で行っているか(作業環境管理)を、しっかり把握することが重要だという。

例えば、職場のストレスが原因でうつ病になった職員1人を治しても、同じ職場の別の人がうつになることがある。

「病気を生んだ職場環境や業務フローを洗い出し、対策を講じます。その結果、社員の安全と健康を守ることで、一人一人の仕事の生産性を上げることに繋がり、会社の業績アップに繋がる。これこそが産業医の役割です。自分から企業に働きかけ、改善策を一緒に考えていけることは、産業医の醍醐味です

高校時代に産業医を志すも
産婦人科の魅力に触れ、葛藤の日々

今でこそ、産業医の必要性は高まっているが、入社当時まだ20代の川島先生が臨床でも嘱託でもなく、専属産業医を選んだ理由は一体何だったのだろうか。

「私はちょっと変わっていて(笑)、高校生の頃には既に産業医になりたいと思っていました。

受験勉強中に見つけた産業医科大学の初代学長の著書に、『産業医の目的は自分の働く職域から病人を出さないこと、より良い産業医ほど「感謝されない医師」である』という言葉を見つけました。元気な人が元気なままいられることを支援する産業医は、すごくやりがいのある仕事だと感じました

卒業後は、迷うことなく産業医科大学に入学。しかし、同級生の約8割が臨床医になるなか、川島先生にも迷いが生じる。後期研修で経験した産婦人科の世界に魅せられ、“目の前の人を助ける”臨床の仕事に強く惹かれたからだ。

揺れ動く川島先生に大学の教授はこんなアドバイスを送ったという

「これからは就労女性の健康支援が一層重要になる。ところが、対応できる産業医がまだまだ足りていない。あなたのように産婦人科の知識をもつ産業医はその懸け橋になれるから、まずは産業医としてのベースを作りなさい

その言葉で決心がついた川島先生は、大学に戻って産業医としての基礎を学んだ後、現在の会社に就職した。嘱託ではなく専属を選んだのは、「就労女性の健康を産業医の立場から支援したい」という強い思いがあったからだ。

 「仕事優先の生活を続けてきた結果、切迫流・早産で救急搬送されてくる人、高齢出産や不妊治療で苦しむキャリア女性を目の当たりにし、女性の健康支援がもっと必要だと痛感しました。『もっと早くに予防的な介入ができたのでないか』『本人の健康に対する知識がもう少しあれば、状況は変わっていたかも』。現場で感じた悔しさが、産業医として原点になっています。所属する会社は、社員の健康支援にとても力をいれており、その重点項目の一つが「女性の健康」になっています。産婦人科での知識と経験を現場の施策に活かせるのは嬉しいですね」

信頼される産業医になるために
スキルアップ、ネットワーク構築に注力

川島先生は同社が採用した初代専属産業医の一人だ。

「意外に使える!と思ってもらえたのか、この3年で専属産業医は6人に増え、今さらに数人募集しています。有り難いことに、会社から必要とされていると感じることができるので、働き甲斐があります」

もちろん、最初からすべてが上手くできていたわけではない。ご本人も「1年前にこのインタビューを受けていたら、こんなふうには話せなかったかもしれません」と打ち明ける。

「産業医になりたての頃は怒鳴られることもありました。メンタルヘルス不調に陥った社員の方は、精神的に不安定になることがあり、面談中に突然怒り出すことも日常茶飯事。今は冷静に対処できますが、最初は本当に怖かったです。一番悩んだのは、自分の判断がその方や組織にとって本当によかったのかということ。自分は会社の役に立てているのかと、葛藤の連続でした」

自分に自信が持てない川島先生がまず取り組んだのは、信頼関係を築くこと。安心して話ができる場所を確保するように人事と交渉し、相談者には「あなたが会社(上司や人事)に言わないでほしいということは口外しないので、安心してください」と伝え、必ず約束を守った。

また、スキルアップのために社外研修やコーチングの講習にも通い、現場管理者とのネットワーク作りにも力を注いだという。

「メンタルヘルス不調の方は、服装の乱れや遅刻・欠勤、仕事中のミスが増える。大事な会議なのに寝ているなど、必ず予兆があります。この予兆に気づき、キーパーソンになるのは、近くで一緒に仕事をしている現場管理者であり、ちょっとした部下の変化に気付くことは、とても重要です。

実際にその対策の一つとして、管理監督者向けの研修で、ラインによるケアを周知しています。結果、予兆のある社員の情報が産業医に早めに伝わるようになりました。自分から面談を希望する人はほとんどいませんから、こちらから呼び出せる方法ができたことが大きかったですね。深刻な状況に陥る前にケアできるので、病気の早期発見・早期治療につながります。産業医が一人でできることはごくわずかです。大切なのは、いかに周りを巻き込むか。私は多くの方に助けてもらっていて、とても感謝しています」

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専門医試験を機に、魅力を再発見。
産業医になってよかったと思えた

会社にも慣れ、仕事が順調に回り始めても、頭の片隅には常に臨床への思いがあったという川島先生。そんなときに「産業医としてのベースを作るため」の目標としていた日本産業衛生学会の専門医資格を取得したことで、逆に産業医としてキャリアをつんでいく決心が固まったという。

「産業医の専門医試験は、法律はもちろん、プレゼンテーションやグループディスカッションなど多岐に渡ります。また、指導医と契約して3年間実績を積み、その内容を細かく記した手帳を提出して試験を受ける仕組みになっています。専門医試験の準備は本当に大変でしたが、産業医学がなぜ必要で、学問としていかにおもしろいかということが、試験を受けてみてよくわかりました

臨床への未練が断ち切れたのは、社外にできた新たなネットワークの存在が大きい。

『NPO法人 女性医療ネットワーク』の次世代委員会に所属し、自分が臨床に携わらなくても、月1回開催される勉強会から最新情報が得られるようになった。

「そこで得た情報や考え方を職域にどう広げて活用するか。そういう意識が持てたことが良かったです。産業医として自分のできることに集中しようと思えたのは、この会のおかげです。最近、よく周囲から『どうしてそんなに楽しそうなの?』って聞かれるのですが、皆さんにも産業医の楽しさを知ってもらえる機会が少しでも増えたらいいなと思います。」

また、「人間関係の調整や配慮が得意な女性医師は産業医に向いている」「プライベートに合わせて時間調整できるので、将来、子どもができても、両立しやすい」と言われるが、川島先生自身もそう感じているという。

ただし、産業医の本当のおもしろさを知るには、「バイト感覚ではなく本気で1~2年。可能なら3年ぐらいどっぷりつかってみてほしい」とアドバイスする。

「組織で働くことの意味や、患者さんの働く環境がよく見えるので、その後の臨床にも必ず活きてきます」

18歳で志した産業医の仕事を、心から楽しんでいる川島先生。今一番の悩みは、「家庭を持つ、働くママたちの気持ちにどう応じたらいいか、戸惑うこと」だそう。例えば「復帰後に仕事についていけるかどうか不安」等と、目の前で涙を流す女性たちを目の当たりにしている。

「これは私自身が家庭を持ち、妊娠・出産・育児を経験しないと、本当の意味では理解できないと思います。そのためには、そろそろ真剣に考えなければ(笑)」

最後に、改めてこれまでの歩みを振り返り、

5年前にまいた種がようやく芽を出し、育ち始めた感じです。産業医の仕事はいいことばかりではありませんが、真剣に取り組むと本当にやりがいのある仕事です。今後、家庭を持つことになっても、両立しながら長く続けていきたいですね」

川島 恵美(かわしま・めぐみ)先生

 

滋賀県出身。2010年産業医科大学卒業。専門は産業医学。

日本産業衛生学会産業衛生専門医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)

 

近江八幡市立総合医療センターにて初期研修終了後、滋賀医科大学産科学婦人科学講座にて後期研修を行う。「就労女性の健康を産業医の立場から支援したい」という思いから産業医の道へ。産業医科大学産業医実務研修センターで修練した後、2014年から化学製品メーカーに専属産業医として従事。趣味はジョギング、パン作り。

文/岩田千加

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