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2017年09月29日

Dr. ミナシュラン!
第11回 私、台湾で出産す~出産3日前「食べ逃したトンカツ編」

楽しい(美味しい)マタニティ専業主婦生活を経て、いよいよ台湾での出産を迎えることとなりました。これから数回に渡って、台湾での第一子出産の思い出を振り返ってみたいと思います。
一応、医者ではあるけれど、異国での出産、進まない分娩、さらには分娩後に直面した我が身の異状、うまく乗り切れるのでしょうか?

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 第11回 私、台湾で出産す~出産3日前「食べ逃したトンカツ編」

すでに出産予定日を4日過ぎていたが何も兆候はなく、私はまだまだ余裕の日々を過ごしていた。臨月で妊婦検診は週1回のペースになっていたが、妊婦検診の楽しみは、その帰りに主人と外食できることだ。

「出産後はなかなか外食できなくなるから、今のうちに美味しいものを食べよう!」
「美味しいものを食べたら、きっと赤ちゃん、産まれてくるよ」

と、適当な口実で、二人で美味しいものを食べ続けていた。
いや、適当な口実ではない。

一旦赤ちゃんが産まれてしまえば、新生児を連れて外出できなくなるばかりでなく、授乳にオムツ交換に大忙しになる(育児マンガのタイトルを借りれば、『あかちゃんのドレイ。』になる)。

そう考えると、今、赤ちゃんのお世話がへその緒一本で済んでいるのは、本当にすごいことだと思う。たった一本のへその緒ケーブルが、栄養を運んだり酸素を運んだり、それらを恙なくこなしてくれているのだ!

考えれば考える程、へその緒がApple社の、iPodとパソコンを繋ぐUSBケーブルみたいに思えてくる(これ一本で、充電も楽曲や写真の同期も、全部できる)。

「外食にだって行ける、そう、Apple(的なへその緒)ならね!
と、誰にも通じないようなApple社の宣伝のパロディを頭の中で浮かべながら、私は幸せに浸っていた。

 

 (こんな調子なら、産まれるの、あと何日か遅れたっていいな、初産は10日も遅れたっていう人だっているし! それに、妊娠しているから普段より400Kcalも多くカロリーを摂取していいんだ、わーい! 幸せ幸せ♪ 自由に動けて自由に食べられる、ボーナスステージみたい!

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さて、台湾は、外来診療が「午前」「午後」「」に分かれている。私が出産した大学病院でもそうだった。私たちはいつも「夜」の検診枠で受診していて、この日も自分たちの番を待ちながら、検診が終わったら何を食べるか話し合っていた。

「ミナは何食べたい?」
「なんでもいいよー! あなたは何食べたい?」
もうすぐ産むのはミナなんだから、ミナの食べたいものでいいよ、何が食べたい?
(そう言ってくれると思ってた♡)とんかつが食べたい!
「じゃあ、検診が終ったら、とんかつ食べに行こう!」

台北には数軒、美味しい和式とんかつのチェーン店がある。
「あんず」「さぼてん」「知多屋」で、日本なら「普通のとんかつ屋さん」という感じの店だが(関東でいうなら「和幸」かな)、ここ台湾ではその「普通のとんかつ屋さん」が貴重なのである。 

・サクっと揚がった黄金色の美味しいとんかつが出ること

・タレが十分美味しいこと(すり立てのゴマが入るとなお良い)

・一粒一粒輪郭のはっきりとした、美味しい白米が出ること(しかも食べ放題)

・シャキっとした生の千切りキャベツが出ること(ドレッシングも美味しい)

・ダシの感じられる味噌汁が出ること

日本なら当然のこれらが、台湾ではなかなか叶わない。
例えば、和食レストランに行って「やったー、味噌汁だ!」と思っても、「味噌を溶かしただけの湯」が出てがっかりすることが稀ではない。「普通にダシの効いた味噌汁」はここでは貴重な存在で、これを飲んでこそやっと、「ああ、ふるさと日本の味……(ジーン)」と、和食を食べた気分になる、というものだ。

さて、そんな意味で貴重な台北のとんかつ屋だが、ラストオーダーは21:30である。「夜」の検診枠は人が多く、その日も混んでいて、自分たちの番が来るころには、もうすでに20時を過ぎていた。

「検診が終って、お会計して、その後ダッシュでお店に行ったら……、うん、間に合うな! ああ、サクサクの美味しいとんかつ、食べたいなあ~!」

と、主にとんかつのことを考えながら診察室に入った

予定日を過ぎているので、子宮口の開き具合を確認するために、内診を受ける。産婦人科医は診察して、こう言った。

「う~ん、子宮口はまだ開いていませんね」

そうでしょう、そうでしょう、と私は思った。
さあ、子宮口が開いてくるまでボーナスステージ続行! よし、とんかつだ!

「しかし子宮口、柔らかくなってはきています。予定日から4日超過か……。予定日を一週間以上過ぎると、胎便吸引症候群のリスクが高くなるんです。もう、入院して分娩誘発してしまいましょう。今日の午後11時に、入院してきてください

「ええっ?!」

 日本だと予定日から一週間までは経過を見るのが普通だと思っていたので、驚いた。
しかし、信頼している産婦人科医の言うことだ、その方がいいと言うなら従うしかない! 

「はい、分かりました、入院します!」
「では、入院の準備をしてきてください。きっと、明日には産まれますよ」

そう言って医師はにっこりと微笑んだ。「明日には産まれますよ」という言葉に不意を突かれてドッキリして、私は急に、ものすごく嬉しくなった。

ずっと夢見ていた出産の時、それがいよいよ来るのだ。お腹の中でポコポコと動いていた赤ちゃんが、いよいよ、産まれてくるのだ。まだ何の兆候もないのに、本当に?! 本当に明日には産まれるかもしれないの?!

予定日を過ぎているのだから、もうすぐ産まれるのは当然のことなのに、それでも「明日には産まれる」と言われたことが嬉しくて嬉しくて、主人と顔を見合わせて、二人で大きく「うわぁ!」と笑った

それからは急展開だった。
タクシーで急いで一旦帰宅して、入院セットのスーツケースを運び出す。主人は私にモスバーガー(の、焼き肉ライスバーガー)を買ってくれたけれど、主人自身は食べる時間もなく、ドタバタと同じマンションの階上に住んでいる義両親に挨拶して、軽くゴミの始末をして、タクシーに飛び乗った。

ドキドキ。
いよいよ、出産が始まる!

23時に病院に到着すると、まずは左手に点滴を入れられ、お腹には陣痛のモニターが着けられた。

「明日の朝一番に、陣痛を誘発します」

そう言われて、(あれ、明日の朝なの? じゃあ、入院は明日の朝で良かったんじゃ? とんかつ食べられたんじゃ……?!)と疑問に思ったものの、今更どうしようもない。

そんなことより、「もうすぐ産まれる」という、そのことに興奮して、嬉しさでいっぱいだった。

……いや、正直に言おう。

もうすぐ産まれるのはとても嬉しかったが、とんかつは心残りだった!

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■プロフィール:Dr. ミナシュラン
四国生まれ、総合医。食べる事が好きで、本名「みな」とグルメの「ミシュラン」を掛けて「ミナシュラン」と呼ばれている。台湾人医師と結婚し、台湾で育児中。産前産後は異国での出産の心構えのため、育児漫画(主)や育児書(従)などを読み漁る。「ママはテンパリスト」「あかちゃんのドレイ。」などテッパンの育児漫画ももちろん面白かったが、望月昭「育児ばかりでスミマセン。」(妻は「ツレうつ」の作者)など、男性目線からの作品にも大共感。最終的に最も育児の支えとなったのは、育児本でもなんでもない乃南アサ「地のはてから」。大正時代に知床に移住した女性を描いた小説で、これを読むと「平成の台湾なんてへっちゃらすぎる」と、不思議な勇気が湧いた。トンカツはロース よりヒレカツ派。その他の情報は、徐々に明らかになる予定。


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