23b613f8 45d7 4c66 a0b3 1d92c39fb795連載・コラム
2017年11月13日

私、出産す~出産2日前「お粥とやり過ごす陣痛編」
Dr. ミナシュラン! 第12回 

いよいよ近づいてきた第一子出産in台湾。食べ損ねたトンカツが心残りながらも、入院したミナシュラン。人生初の陣痛、そして、陣痛を乗り越えるための腹ごしらえは・・・・・・。

\育児と両立できる働き方って?/
Dr.転職なび」「Dr.アルなび」で案件サーチ!

入院して最初の朝が来た。

「おはよう、よく寝た~! さあ、朝ごはん、何が出るのかな~!」
「おはようミナ、じゃあ、ミナの朝ごはん、買いに行ってくるね」
「ん? 買いに……行く?

驚いた。
日本では、「入院」と「病院食」はセットだと思っていたのだが、台湾の分娩のための入院では、産まれるまでは食事は自分で準備するのだ。

『食事は自分たちで準備』……。
ここに、私の心に希望が生まれた。
(とんかつ屋さんには、持ち帰りコーナーがある! お昼ご飯は、ひょっとしたら、とんかつ弁当を買ってきてもらえるのでは……! そう、『出産は富士山に登るのと同じくらい体力が必要』って聞いたことあるし、スタミナ付けなくちゃ!)

心の中は、すでにとんかつへの希望で満たされていた。
……が、そんな希望は、長くは続かなかった。
主人が、助産師さんに質問する。

「妻は、何でも食べていいんですか?」
いえ、柔らかいものにしてください。出産となったとき、吐いてしまう人もいるので」

 私は「とんかつは柔らかいですか、硬いですか?」「硬いものでも、よく噛めば柔らかくなるのではないでしょうか? ならば、とんかつも食べて良いのでは?」と質問したい気持ちを大人の理性でなんとか抑え、「柔らかいもの」を食べる覚悟を決めた。

そうだ、私は出産のために入院しているのだ。(重要)

 間もなく、主人が病院の中のセブンイレブンで、「柔らかいもの」を買ってきてくれた。

・お粥
・おでん(関東煮と呼ばれている)の大根と練り物
・プリン
・バナナ

はぁ、柔らかそう、見事に柔らかそう……、とほほ。
元々、私は、お粥があまり好きではない。「どうせお米を食べるなら、美味しく炊いた方がいい。なぜわざわざ、ベチャベチャにしなければいけないのだ! お米粒をお粥にするのは、アイスクリームを溶かして食べるのと同じだ、もったいない。お百姓さんの八十八の努力に対して失礼だ!」と思う!
しかし、これしか食べられないとなると、食べるしかない。なにしろこれから出産なのだ。

「いただきまーす!」

んっ?!
あれっ、好きではなかったはずのお粥が、なぜか、とても美味しい!

台湾のお粥は中華風の味付けで、中にピータン(独特の発酵風味の卵)と少々の肉が入っている。この独特の風味が、お粥を、コンビニの食べ物とは思えない深い味にしていて、それは私の嫌っていた「お粥」とは、少なくとも全く別物であった。(台湾旅行で小腹が空いたら、台湾セブンイレブンの皮蛋痩肉粥、ぜひお試しあれ)

「あれ?! お粥、美味しい!」

期待以上のお粥に感動して、私はペロリと平らげてしまった。

「あれ、全部食べたの、良かったね」と、買ってきてくれた主人も喜んでくれて(私が「柔らかいもの」しか食べられないと聞いてがっかりしていたのを知っていたのだ)、病室は一気に和やかな空気になった。

しかし、その和やかな空気もつかの間、主治医が来た。

「では、これから薬を使って陣痛を起こしていきます。もし痛みが我慢できなくなったら、鎮痛剤を使いますから、遠慮なく教えてください。最初は筋肉注射の痛み止めを、それでも効かなければ、背中から硬膜外麻酔を入れます(=無痛分娩)」

いよいよだ!
陣痛を促進するプロスタグランジンを使うと、なんと20分ほどで、下腹に鈍い痛みがやってきた。

「おお、これが陣痛か!」

妊婦マンガでさんざん読んでいた「陣痛」を実際に体験して感慨に浸り、「マンガでは『ノギスで腰を締め付けられる感じ』って書いてあったけど、私の場合は『地獄で悪人を茹でる大きな釜が下腹に乗っかってグイグイ押される感じ』だな」……などと考えている余裕は次第になくなってきて、その痛みはどんどん強くなっていく。

い、い、痛い……

陣痛はまだ7分間隔程度だ。

「これ、普通の陣痛なら、『陣痛が5分間隔になったら病院に来てください』って言われるんだから、まだ病院にも行けないレベルなんだよね? でも、なんだかすごく痛い! これがもっと頻繁になったら、耐えられるんだろうか!」

昼になり、陣痛はさらに強くなってきた。これまで大きな病気や怪我をしたことのない私にとっては、すでに人生で一番の痛みと言える痛みだった。

助産師さんが来て、痛みの程度を訪ねる。
「一番痛いのを10、痛くないのを0とすると、今、どの位の痛みですか?」

えっ、と、私は困惑した。
この「ペインスケール」、私も医者として、何度も患者さんに同じように聞いたことがある。主には末期がんの患者さんの疼痛を尋ね、この聞き方に何の疑問も感じていなかった。しかし、実際に自分が答える側になると、こんな難しい質問はなかった。

 「一番痛いのを10で……、って、でも一番痛いのは経験したことがないから、今がどの位か分かりません、こういう場合何と答えたらいいんですか?」

今となれば、十分痛かったのだから、「8」でも「9」でも良かったのだと思う。しかし、痛みで動転しているその時の私は、変なプロデューサー気質を発動させてしまった。

(これから、さらに大きな痛みが来るはず……、陣痛・出産の痛みは、人生で最大の痛みと言われるし、そのピークが「10」になるに違いない、いや、そこを「10」としなければならない、今もし「8」などと答えると、もう伸びしろがない、だとすると、逆算して、「5」と答えるのが妥当か……

そして、冷静なつもりでこう答えた。

 「10の痛みがどれ位か想像がつかないんですけど、今、『5』か『6』ぐらいだと思います、でも、すごく痛いです、ちなみに、この基準だと、足の爪が剥がれたときの痛みは『3』です

すると、助産師さんは笑って、こう言った。

 「爪が剥がれるのが『3』で、それより痛いんですって?! ふふふ、じゃあ、きっともうすぐ産まれますよ。痛み止めの注射を準備しますから、待っててくださいね。」

ああ、もうすぐ産まれるのか……。
そう言われると、痛いのに嬉しくて、私は顔をゆがめながら笑った。

そうだった、国家試験の時に覚えたな、初産婦の分娩所要時間は12~16時間、経産婦では5~8時間程度。陣痛誘発が朝だったから、今夜には産まれてもおかしくない。

さあ、頑張るぞ!
痛み止めを打ってもらうと、痛みはずいぶん軽くなり、「2」位になった。
さあ、「2」になった、ということは、食事である!

「ごはん、ごはん~~!」

 私は再びお粥とプリンを買ってきてもらって、「今のうちに食べておかなくちゃ」と夢中で食べた。お粥は、美味しかった。

満腹になって(医学的には、硬いものを食べるより満腹になるほうが罪深いと思われるが)、「さあ、10、来い!」と構え、陣痛をやり過ごしていたが、なんだか痛みがそれほど強くならない。

痛み止めの注射の威力はすごいんだねぇ、と主人と感激した。この調子で、ツルっと産めればいいなぁ!

さて、分娩の進行の目安といえば、陣痛の他に「子宮口の開大度」であろう。子宮口とは赤ちゃんの出口であり、通常は閉じている(0cm)なのだが、これが陣痛(子宮の収縮)によって赤ちゃんの頭が出口へと押し下げられ、だんだんと開いてくる。10cmになると「全開」で、めでたく出産となるわけだ。

0cmから10cmを目指すのは、なんだか山登りで地上から10合目を目指すみたいで、私は「何センチですよ」と言われる度に「ああ、何合目か!」という気分になっていた。

そう、出産は富士登山なのだ。

その子宮口の開大具合を調べる診察は、数時間おきに助産師さんが来て、見てくれる。

「子宮口は……、(ぐりぐりぐり)、3cmぐらいですね」

ああ、まだまだ3合目だ!
前途を考えると気が遠くなりそうだったが、それでも3合目。登山は始まっていて、引き返すことはできない。私はひたすら、ベッドの上で登山した。

夕食もまたセブンイレブンのお粥とプリンを食べ、それ以外はひたすら、陣痛のモニターを眺める。痛みは相変わらず「3」位だが、数分おきに陣痛をこれだけこなしているのだから、きっと子宮口は開いてきているだろう。

とても長く感じられる数時間を経て、夜、助産師さんの診察を受けると……、

「(ぐりぐりぐり)3cmです」

 無情にも、3合目で足踏みしていただけだったようだ。

ああ、いつになったらあの高みへ到達できるのだろう!
私は明日のお粥を待ちながら、それほど強くない陣痛の合間合間にウトウトと眠った。

 (翌日に続く)

\女医専門コンサルタントがサポート/
Dr.転職なび』『Dr.アルなび』で求人リサーチ!

■プロフィール:Dr. ミナシュラン
四国生まれ、総合医。食べる事が好きで、本名「みな」とグルメの「ミシュラン」を掛けて「ミナシュラン」と呼ばれている。台湾人医師と結婚し、台湾で育児中。台湾にコンビニがあることに心から感謝している一人。3年前の夏には台湾セブンイレブンで森永「チョコモナカジャンボ」が発売され、発見した日には夫と8個まとめ買い。「幸せって、アイスを8個買うようなことだよね」と夫が言ったので、「うんうん」と答え、二人で幸せを分かち合ったのだが、数日後からアイスクリームの「2つ目4割引セール」が始まって、幸せがあっという間に不幸に変わる、人生の無情を実感した。その他の情報は、徐々に明らかになる予定。

\産業医、はじめませんか? 月1回~OK/
エムステージ産業医サポート【医師向け】


Dr. ミナシュラン!バックナンバー

第11回 私、台湾で出産す~出産3日前「食べ逃したトンカツ編」

第10回 女医さんのための台湾ガイド NO.2鼎泰豊

第9回 私、専業主婦になる~後編~

第8回 私、専業主婦になる~前編~

第7回 私、患者になる

第6回 地域医療の情景「だんだん」

第5回 女医さんのための台湾ガイド No. 1 晶華軒

第4回 私、国際結婚してしまう

第3回 私、地域医療する ― チョコレートの秘密編

第2回 私、地域医療する

第1回 私、検食を愛す