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2017年12月29日

夫の留学帯同、育児のキャリアブランクも超えて――進化版チーム医療「包括診療医」で家庭とキャリアの両立めざす女医の挑戦
済生会熊本病院 包括診療部 指田由紀子

「包括診療医」とは、既存の診療科には属さない「総合職」の立場から、各診療科や各病棟の支援を行う医師のこと。「入院患者のかかりつけ医」となり、外来や手術等の業務で主治医が不在となる病棟の「無医村」状態をなくすなど、医療現場が抱えるさまざまな課題の解決をめざして済生会熊本病院が導入した、まったく新しいタイプの働き方モデルである(関連記事)。

指田由紀子医師は2017年4月より、立ち上げメンバーとして包括診療部に参加。東京女子医大で培った循環器内科医としての経験とスキルを活かし、「包括診療医・短時間勤務モデル」とでも呼べる新種の医師像をゼロから創り上げた
「基本週4日、朝8時半から昼1時半まで働いています。この働き方なら、キャリアも家庭も諦めずに、働き続けることができる。しかも、女性ならではのコミュニケーション能力を活かせる、やりがいのある仕事です」と瞳を輝かせる、指田医師に話しを聞いた。

\「やりがい」感じる職場、探しませんか?/

目標とするロールモデルがみつからず、
進路に迷いがあった新人時代

――出身は東京女子医科大学ですね。

「2000年に東京女子医科大学を卒業し、同大循環器内科に入局しました。当時、女子医大の循環器内科は男性医師の多い職場でしたが、そこは女子医大ですので、同期の女医もわりと多く入局しました。

朝から晩まで忙しく深夜まで働いて、充実していましたが、仕事以外の生活も含めて自分で目標にしたいと思える女医像がなかなか見つからず、どう進んで行ったらいいのか迷っていました。研修修了後は、NTT東日本関東病院に出向し、循環器内科でカテーテルや心不全を中心にバリバリ働いていたのですが、主人がアメリカに留学するというので、仕方なくついて行くことにしました。
主人とは学生時代から交際しており、卒業して3年目に結婚。留学は卒後7年目の時でした」

――アメリカではどのように過ごしていたのですか?

「結局5年間いたのですが、最初のうちは何もすることがなくて、ショッピングをしたりしてぶらぶらしていました。しばらくして、コロンビア大学に知り合いの先生がいらしたので、ツテを頼りに循環器のラボにもぐりこみ、臨床疫学研究をさせてもらいました
そこで長男が生まれ、1年間子育てをして、1歳になった時に日本に帰ってきました」

女子医大でのチーム医療を経て
知人が誰もいない熊本に転勤

――すぐに女子医大に戻ったのですか?

「5年間もブランクがありましたので、戻ることが果たしてできるかなと不安でしたが、復職を申し出たところ、『空いているポストはCCU(冠動脈疾患集中治療室)しかないけどいいかな』と言ってもらえました。

以後、4年間、CCUに勤務したわけですが、キャリアとしては12年目、留学直前に循環器専門医の資格も取得していましたし、NTT東日本関東病院でカテーテルなど一通りのことはやっていたので、復職後は、若い先生のメンター的立場になりました」

――お子さんはまだ赤ちゃん。大変だったのでは?

「たまたま近くに両親が住んでいたので、面倒を見てみてもらえました。
それにCCUの患者さんは重症で目が離せないけれど、チーム医療なんです。なので、若い先生方はカテーテルや検査などの経験を積みたいと、遅くまで残って働く。私は、患者さんたちに目を行き届かせつつ、若い先生方に指導するといったマネジメント的なポジションで、自然と分担ができあがり、意外とCCUでも、6時とか7時には帰宅できるようになりました。夜は当直がいますので、そちらに任せて…。

4年間フルタイムで働きましたが、子どもがいても無理なく、楽しく働けました。当時は、循環器の若い先生たちも結婚されて、この先どうやってキャリアを積んだらいいのかとか、いろいろ相談されたし、皆で模索していましたね」

時短で働くなら包括診療部
院長から勧められて快諾

――その後、熊本へいらしたんですね。

「ええ。熊本地震の前年でした。主人が、熊本大学に研究職として務めたい、ポジションがあるから移りたいと言うので、急遽、来ることになりました。女子医大に戻って3年目に2人目を出産しましたので、子ども2人と主人と4人で、両親はもちろん、知り合いも誰もいない熊本に来たわけです。

その後、1年間は下の子も小さいのでお休みし、1年経ってさあ働こうと思った矢先に熊本地震があり、働くのは延期。今年の4月から、ようやく、働けるようになりました」


指田先生が入職した済生会熊本病院

――済生会熊本病院で働くことになったのはなぜですか?

「ここは女子医大の関連病院なんです。それで、院長先生に医局の方から『アルバイト先を紹介してあげてください』と依頼の電話をかけてもらいました。そうしたら「せっかくだからうちで働きませんか」という話しになり、包括診療部に配属になりました。

 当初は、子どもも小さいし、手伝いを頼める家族もいないので、時短勤務がいいなと思っていました。だから、「うちで働いて」と言われても「循環器内科でそんな働き方ができるんですか」と聞き返してしまいました。

 すると院長先生は「循環器内科ではなく、新しくできる包括診療部がいいと思いますよ」とおっしゃいました。新しいことをするのは楽しそうでいいかなと思い、お引受しました」

コラム1
包括診療部を立ち上げた、園田幸生医師(部長代行)の視点

働き過ぎの原因は「医師不足」ではない

 

医師の働き過ぎの原因は、マネジメント不在の働き方にあると思います。従来の固定観念に縛られたまま、医者をいくら増やしても、自体は改善しないでしょう。

というのも病院という組織構造そのものが、普通の企業とは違うからです。さまざまな専門職がおり、縦なのか横なのか分からない組織を形成しています。またチーム医療実践においては医師と他職種間のヒエラルキーの存在が大きな障壁となっています。多種多彩な専門職からなる混沌とした集団をまとめあげ、患者中心のチーム医療を活性化していくには、医療技術や知識だけでなく、全体を管理するマネジメント能力が医師にこそ必要だと思うのです。

 

専門分野だけでなく、もう少し幅広い知識と視野を持ち、病棟全体を考えて動ける医師がいれば、主治医も含めて、現場の人たちはもっと働きやすくなるのではないでしょうか。しかしながら、その役割を、外来や手術等々で多忙な主治医が果たすのは、現実問題困難です。

 

そこで、当院に導入したのが「包括診療医」です。地域住民の「かかりつけ医」のように、病棟にも入院患者さんに寄り添う「かかりつけ医」がいて、患者さんひとり一人の健康管理や入院中の様々な病態変化にチーム医療で対応できたら、患者さんも助かるし、主治医や病棟スタッフの働き方も変わるはず。
導入からまだ1年も経っていませんが、指田先生は、包括診療医が病棟に1人いるだけでも、たとえ短時間勤務でも、医師の働き方改革に、大きな貢献ができるということを証明してくれました。

訴えにじっくり耳を傾け
素早く対応して不安を取り除く

――包括診療医として、どのような業務をしていますか?

「心臓血管センター(循環器内科)の病棟で勤務しています。
 主治医の先生方は、外来やカテーテル治療等で忙しく、特に心房細動では何時間もかかるようなカテーテル検査もありますので、午前9時半ぐらいからお昼過ぎぐらいまで、病棟に戻って来られないことがざらにあります。

そうすると患者さんは、『昨日の採血の結果を知りたい』とか『ちょっとお腹が痛い』みたいなことを看護師さんに訴える。看護師さんは主治医を呼ぶ。でも、主治医はカテーテル中で手が離せない。
そんな時、私(包括診療医)がいれば、主治医に替わってすぐに患者さんのところへ行き、対応することができます。病棟では誰でも気軽に、声をかけてもらえるようになっているので。

 お腹が痛いという訴えがあれば、お腹を触ってみて「大丈夫ですよ」と安心させてあげられるし、私で分からない時は、包括診療医で消化器外科の専門医を持っている園田先生を呼びます。すると園田先生は、すぐに来て、『これは、腹壁瘢痕ヘルニアですね。まずはバンド等でお腹を巻いてみましょう。落ち着いたら治療や方針について外科の先生に相談しましょう』というふうに対応してくれる。

逆に、園田先生やほかの包括診療医から、『血圧について分からないことがあるので教えて』と呼ばれて、対応することもよくあります。処方のアドバイスや、心不全の既往がある患者さんが術後でご飯が食べられない時の補液の量ですとか。わざわざ循環器の外来に回さなくても、すぐに解決できる訴えが凄く沢山あり、即座に対応していると、ほとんどは昼間のうちに済んでしまいます。
そうすると看護師さんたちも、待たなくて済むのでやりやすいし、患者さんも我慢しないで済む。私自身も勉強になるし、たいしたことはしていないのに、『ありがとう』と感謝までしてもらえる。お陰様で毎日楽しく仕事しています(笑)

――昼間、主治医が病棟にいないのはあたりまえと思われている面がありますが、実は、そのあたりまえのせいで、入院患者はずいぶん我慢を強いられていたのかもしれませんね。

「そうですよね。患者さんからもよく言われます。包括診療医として働くうえで、私が特に気をつけているのは、患者さんのお話を伺う姿勢です。主治医はやはり忙しいので、どうしても話しにじっくり耳を傾ける姿勢にはなれません。
だから私は、患者さんのベッドサイドに行ったら、なるべく椅子を出して腰かけることにしています。そうすると患者さんは『ゆっくり話を聞いてもらえる』と思って、いろいろな話をしてくれます。
『食欲があまりない』とか『眠れない』とか『便が出ていない』とか、『下剤をもらったんだけど、いつまで飲んだらいいのか』とか。ささいなことでも、すぐに対応することで、入院生活をストレスなく送っていただくのに役立ちます。
 容体が急変した時も素早く見つけて、対応出来るので、患者さんの不安もずいぶん減ると思います」

コラム2
包括診療部を立ち上げた、園田幸生医師(部長代行)の視点
将来は、専門以外の病棟も担当してほしい

 

今後、指田先生がフルタイムで働けるようになった時には、循環器以外の病棟、たとえば外科なども、ぜひ担当してもらおうと思っています。最初は戸惑うでしょうけど、きっとやれる。
外科医からすれば、「循環器の先生が病棟を診てくれたらすごい安心だよね」と、歓迎されるはずです。
術後管理でわからないことあったら、僕に聞いてもらえば、喜んでアドバイスしますから。
そうして、どんどん知識の積み上げが出来てくると、周術期管理にも長けた内科医が育ち、包括診療部も「総合医」として、ますますパワーアップするでしょう。

――済生会熊本病院は昨年、カテーテルアブレーションの有名ドクター(奥村謙先生)が赴任して以来、心臓血管センターの患者数は激増しているのではないですか?

「はい、凄いです。アブレーションは現在、3ヶ月から5か月待ちの状況で、同センターの他の先生方も、相当忙しくなっています。そうなってくると、やはり、主治医が病棟に顔を出す時間も減ってしまうので、一層、私のような包括診療医がお役に立てる機会も増えます。

たとえば不整脈の患者さんがいて、『この動悸は放っておいていいのか』という事態になった時。以前なら、主治医を呼ばなくてはなりませんでしたが、私がいれば、患者さんの電子カルテを見て、「この不整脈は、この後アブレーションで焼く予定だから放っておいていいよ」とか、『これはすぐ電気ショックをかけないといけない』などの判断をして、場合によっては主治医に連絡してOKをもらい、すぐに電気ショックをかけることもできてしまいます」

――それは頼もしいですね。

「ありがとうございます。実際に働いてみて思うのですが、包括診療部は、それぞれ異なる専門を持つ先生方が集まった「総合医」なんですよね。なので、わざわざ他の診療科を受診しなくても、同じ診療部内のネットワークでほとんど解決できてしまう
 それが結局、主治医の忙しさの改善にもつながるし、患者さんのためにもなり、病院全体の働き方改革にもつながるのだと思います」

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包括診療部なら
時短でもストレスなく働ける

――女医として、短時間勤務でもやりがいがあり、かつ新たな働き方を切り拓くこともできる。いいポジションですね!

「そうですね。包括診療医の仕事には、女子医大にいた頃にCCUでやってきたことと重なる部分が多々あります。循環器内科の知識も活かせるし、病棟管理も身軽に行える、とってもいいポジションです。働きやすいし、やりがいもあるので、ぜひ、ほかの病院でも導入して欲しいし、私のように、小さな子どもがいてもキャリアを磨きたいと考えている女医にぴったりの仕事だと思います。
最初は、『アルバイトを紹介してください』とお願いしたのですが、バイトではなく、包括診療部で働けてよかったです(笑)」

――子育てかキャリアか、迷っている女医にとって、包括診療部は「両立」という回答を与えてくれる働き方ですね。

「そう思います。実際、私の大学の後輩たちにも、『それいいですね』と皆言います。仕事内容は似通っていても、循環器内科ではなく、包括診療部というポジションだからいいというのも1つあります」

――包括診療部というポジョションは、他の専門診療科にいるのとは何が違うのですか?

「たとえば循環器内科にいても、短時間勤務制度を利用している女医はいます。夕方は5時には帰れることになっている。でも、実際は、自分が主治医や班長だと、なかなか帰れません。

主治医は担当患者さんに対して責任がありますから、短時間勤務中とはいえ、他の人に任せてしまうことに対して良心の呵責があります。それから班長は、不在だと緊急入院が入りませんから、研修医が経験を積む機会が減って『ここの班はつまらない』ということになり、モチベーションをつぶすことになるんです。同僚たちも、やはり忙しくなると、口には出さないとしても、『どうして帰っちゃうの』と不満に思うでしょう。

だけど包括診療部なら、まったく別の部署ですから、時間が来れば気兼ねなく帰ることができるんです。逆に、3時過ぎてもいると、『先生まだいるんですか』と聞かれることもあるくらいです」

――現状、どこの病院でも、制度はあってもフレキシブルな働き方がしづらい状況はありますね。包括診療部なら、そこはきちんと利用できると?

「はい、自由度は高いです。実際今も、月に1、2回、朝の時間帯に小学校2年生の子どもたちに本の読み聞かせボランティアをしているのですが。ほんの15分ぐらいの時間ですので、その日だけ、出勤時間を8時半から9時半に、終了時間を1時半から2時半にずらしています。

 これがもし、循環器内科の所属だったら、朝のカンファレンスがあるので、簡単にシフトを1時間後ろにずらせば済む、というわけにはいきません。ボランティアなんて無理だったでしょう。
 こういう働き方ができるので、家庭との両立もストレスなくできて、子どもにも我慢させずに済むのがありがたいです」

コラム3
包括診療部を立ち上げた、園田幸生医師(部長代行)の視点
働ける時間は限られていても、力を発揮できる

 

フレキシブルな働き方ができるのは、包括診療部の大きな特徴です。
病棟には主治医がいて、お互いに補完しあえるからこそ、できるんですね。
そういう意味では、包括診療部は、女医に限らず、働ける時間が限られている医師たちの力を、ムリなく発揮してもらえる場所だと思います。
しかも外来と違って、継続性がある医療が出来るのもいいところです。
外来の場合はどうしても、その日、その時に来院した患者さんを診て、その次の来院は2週間後とか、一か月後だったりしますよね。それも悪くはありませんが、医師としては、きちんと患者さんを診て、病気を治してあげているという実感を持ちにくくなります。

 

ですが病棟なら、継続して診ることになるし、患者さんとの人間関係も築ける。『あの患者さん、どうなったかな』『どれくらいよくなったかな』、『こう話してみようかな』とか想像したり、楽しみにできることで、やりがいの部分でも大きく左右されるでしょう。

コミュニケーション能力が活きる
女医の得意な分野が多い

――本当にイキイキと働いていますね。包括診療部は、内容的にも、女医に向いているのでしょうか?

「ええ、女性が得意な分野が多いと思いました。
たとえば食事や栄養の管理ですね。高齢の患者さんで、一時期は食事が摂れなかったけれど、摂れるようになって。その時に、どういう形態で、どのように食べさせたらいいかを、私は理学療法士さんや看護師さんと一緒に、相談しながら進めています。主治医にはゆっくりこういうことをする時間はないですよね。また、患者さんが転院される場合の、ご家族への病状の説明、希望の聞き取り、主治医との連携といった、細やかなコミュニケーション業務も、比較的女性が得意な分野だと思います」

――今後のビジョンを教えてください。

「子育て中も子育て後も、自分のキャリアを諦めずに維持して行ける女医が増えるよう、お手伝いしたいと思っています。
 それは女医にとってだけでなく、男性医師にとっても、いいことだと思うんですよね。
 たとえば、奥さんが麻酔科医で、ご主人が循環器内科医だったとします。子どもが熱を出したけど、奥さんは今日手術で麻酔の予定があるから休めない。ご主人が休むしかないという時に、病棟を安心して任せられる存在がいたら、心強いはずです」

――医師全体の働き方も変わりそうですね。

主治医がいなければ、何も回らない、という状況は変えていくべきだと思います。それには不在の場合でも、きちっと補完できるシステムが必要です。
 他の人に任せるとなると、同じ部署の人では負担が増えるから遠慮してしまう。だから任せるなら、フリーな人がいい。それも単にフリーなのではなく、病棟のことを分っていて、患者さんたちとも信頼関係が出来ている包括診療医なら、安心して任せられますよね。しかも私たちは、二つ返事で引き受けますし、常に患者さん情報を主治医と共有していますから、同じ科の別の先生に頼むのと違って、申し送りも不要です。
そういうことがスムーズにできるような環境、雰囲気を作って行きたいと思っています。
包括診療医は、やりがいと可能性に満ちた、いい仕事だと思います」

済生会熊本病院 包括診療医募集ページ
済生会熊本病院 病院総合医育成カリキュラム

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文/木原 洋美


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