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2018年01月24日

新時代の医師たち
Vol.1:医師兼起業家・阿部 吉倫

「医局のピラミッドの頂点を目指す」
「神の手と呼ばれる手技を身につける」
かつて大多数の医師たちが目指していた“医師像”。それに背を向け、自分らしい軸と価値観で、医療に貢献しようと模索する新世代の医師たちが登場してきています。軽やかで大胆、それでいて緻密で誠実。これまでの「医療従事者」という枠では収まりきらない存在となりつつある「新時代の医師たち」の生き方に迫ります。

第1回は、初期研修修了後にAIを使った医療システムを開発するUbie株式会社を創業した阿部吉倫Drにお話を伺いました。

阿部 吉倫
Ubie株式会社 共同代表取締役医師・内科医師

 

2015年東京大学医学部医学科卒。東京大学医学部付属病院、東京都健康長寿医療センターで初期研修を修了。血便を放置し48歳で亡くなった患者との出会いをきっかけに、「患者を治療する医師はたくさんいるが、そもそも “早期発見を行うこと”“患者をたくさん作らないこと”も医療への貢献のあるべき姿だと痛感し、データサイエンスの世界へ。独学でアルゴリズムを学び、データベース構築に使用した論文は5万件以上。2017年5月にUbie株式会社を共同創業、全国の病院向けにAIを使った問診システム(AI問診UBie)の提供を始める。医師としても週1日は外来を担当。

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——もともと医師を目指したのはなぜですか?

大学入学前から医師を目指していたわけではありません。高校時代は漠然と“社会的にインパクトのある学術的なことをしたい”と思っていて、ノーベル賞を取りたいとか・・・子どもっぽいですけど(笑)。じゃあ何をしようかと思ったときに、サイエンスの中でも“医学”だけは医学部に行かないと学べないな、と。人生の選択肢の幅を広げるために医学部に進みました。将来的には臨床医というよりは研究者の道かなと考えていました。

研究に進むにしても、医学部に入ったからには臨床はしっかりやっておきたい。初期研修1年目は学術的に医学を学べる東大医学部付属病院で、2年目は直面する超高齢社会に対峙すべく、高齢者に特化した東京都健康長寿医療センターを選びました。世界最速のスピードで超高齢社会を突き進む日本で高齢医療に携わることは、世界を見据えて戦うときにも「アドバンテージ」になるだろうとの考えもありましたね。健康長寿医療センターは70代の患者さんでも“若者”と言われる世界。夜間当直に救急、とても忙しかったですが、いい経験でした。

——起業のきっかけになる患者さんとの出会いがあったんですね。

そうです。2年前から血便が出ているという女性患者さんでした。それほど体調も悪くないし、忙しくて病院に来られなかった、最近になって背中が痛くなってきてやっと受診したということでした。大腸ガンの骨転移の可能性が十分高いことを、話を聞いただけで想起できました。血便が続いているときに検査を勧めることもできた、早期治療や生存率の話、そんな前向きな話がいくらでもできたはずなんです。でも、その時点で誰も何もしてあげられませんでした。

このとき痛感したのは、病院というところは崖から転がり落ちてきた患者さんを崖の下で待っていて、上に戻すことしかできないんだということ。落っこちないようにした方がいいに決まってるんです。それをやる人が絶対必要だと思いました。

ちょっと体調がよくないな、と思ったとき、おそらく多くの人がGoogleで思いつくキーワードを入力するでしょう。でもそこで出てくる情報は全くパーソナライズされていません。確率が全然違うのに並列に紹介されていたり、これでは意思決定など不可能です。

——それで共同創業者の久保さんと医師の思考をシミュレートする症状判断システムを作ろうということになったんですね。

実は久保はそれより以前から医療体験の不条理みたいなことを利用者側の立場から感じていて、学生時代からこの分野での起業を考えていました。私は普通の医学生ですから起業など考えたことはなく、純粋に楽しそうだと思って学生時代から研修医時代も一緒に手伝っていた感じです。いつか研究の道に進むけれど、アルゴリズムは好きだし面白そう、そんな軽い気持ちでしたが、5万本の論文を読み、それを元にゼロベースでデータベースを作りました。砂金拾いみたいな作業でしたね(笑)

——研修医2年目、両立が大変だったのでは…(笑)

アルゴリズムを作るのは非常に困難を極めました。一番難しいのが、「質問選定のアルゴリズム」でしたね。これができないと、患者さん個別の状況を絞り込んでいけませんから、まさに試行錯誤の繰り返しでした。途中まで全くうまく行かず、実現可能かどうかさえ疑わしい状況でした。私は普段早起きではないのですが、異常に早く目が覚めた日がありました。目が覚めたと同時にあるロジックを思いつき、出勤前に久保に連絡しました。帰宅したその日に実装されたアルゴリズムはまだ理想には遠いものでしたが、瞬間的に、このシステムは完成する、と思いました。

一方、研修医としては2年目の少し慣れてきたころ。現場での非効率なことにいやというほど気づかされました。電子カルテの仕様が正直理解に苦しむものだったり、紙の問診票が全く役に立っていなかったり、忙しい救急外来では患者さんの目の前で問診内容をただひたすらパソコンに打ち込むことに終始してロクに患者さんに対峙できないことも正直ありました。病院から一歩出たら、Googleやapple、amazonがすごいイノベーションを起こして生活を便利にしているのに、病院というところは時が止まっているんです。電子カルテが導入されたと言っても、手書きが置き換わっただけ。自分のやるべきことが見えました。

——現場を知っているからこそできることですね。

そうです。私一人が直せる患者さんの数は限られるけれど、システムで医療現場を支えることの方が結果的にたくさんの患者さんを救える。社会的に価値があると思いました。

私たちが開発した『AI問診UBie』は、タブレットなどの端末を使用し、主訴・年齢・性別・季節などの要素をもとに質問を生成し、自動でQ&Aを行います。問診にかかる時間はおよそ3分、これだけで600以上の病名の中から疑い病名を推測することができます。もちろん、この情報は電子カルテにコピーできます

<患者側:問診入力>


<病院側:問診内容チェック・電子カルテ生成>

※画像提供 Ubie株式会社

私が外来で感じていたのが、患者さんの表現はけっこう曖昧だということ。質問の仕方によって患者さんの申告も変わるし、答え方もけっこうファジーなんです。「頭がもわもわする」とか「足がズーズーする」とか。これに対し、『AI問診UBie』的確な質問を繰り返し、自然言語処理によってファジーな言葉を医学的に解析することにも成功しました。このことは大きな差別化ポイントだと思います。

患者さんが診察室に入ったときにはすでに病名の候補が表示されているので、診察もスムーズ。診察時間内に外来が終了する、非常勤医師やその他のスタッフに発生する残業代も減る。現在導入していただいている病院からも好評です。

今は起業家として事業の立ち上げに全力で取り組んでいますが、週に1日は必ず外来で患者さんと接しています。現場感覚が薄まらないように、臨床は今後も続けるつもりです。

——今後の目標を教えてください。

現在は20件ほどの病院(病床数は200床前後まで)に『AI問診UBie』を導入してもらっています。病院への導入を進める一方で、私たちが目指している理想の形は、利用者が自宅で気軽に問診できるしくみ。Googleで調べて素人判断するのではなく、症状を入力すればどの科にかかればいいかが分かる。アプリから病院にデータが送られ、受診、診察がスムーズに行われる。遠隔医療が進めばもっと可能性は広がりますよね。患者として崖から転がり落ちる前に手を差し伸べることができる、ずっとやりたかったことです。

海外展開も考えています。アジア諸国には病院もろくにないところがあります。アメリカでさえダウンタウンのティーンエイジャーは医療保険に入っていないため病院にいくかどうか非常にシビアに判断しなければならない。医療制度は介入が難しいかも知れませんが、合理的な意思決定の手助けをしたいと思っています。UBieほど精度の高い病名予測アルゴリズムは海外にもほとんどありません

——医師として臨床も続ける一方で、起業家として世界進出も目論んでいます。阿部先生のまわりのドクター、若手と言われるドクターの働き方は変わってきていると思いますか?

おそらく、以前はもっと中央集権的だったんだろうと思います。今は分散型になっていて、情報格差もなくなり、個人ができることも増えてきました。個人主義的というか。医局で出世してピラミッドの頂点を目指す人は減ってきている印象です。市中病院が人気だったり、私のように起業したり。

臨床に労力を費やすのみではなく、“医師として何ができるか”を考えている人は少なくないと思います。私も社会にバリューがあることなら何をやったっていいと思っています。人生においてどれだけ社会に価値提供できたか『AI問診UBie』も、売上が増えるよりは使ってくれる人が増える方がうれしい。いつの日か、Google、apple、amazonに並びたいと本気で思っています。

Ubie 株式会社
http://www.company.dr-ubie.com/
社名の由来は「指」。指一本で医療情報にアクセスできる、という意味。

 

『AI問診UBie』について
https://www.introduction.dr-ubie.com/
導入のご相談・事例紹介など、上記ホームページよりお問い合わせください。

文・ふるたゆうこ


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