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2018年03月05日

医療×インテリアのコラボレーション
“光の処方箋”で片頭痛を改善に導く――獨協医科大学神経内科准教授 辰元宗人先生

大学病院の神経内科の外来診療の傍ら、片頭痛と過敏症(光・音・臭い)の研究に力を注いできた獨協医科大学神経内科の辰元宗人准教授。長年の研究から見えてきたのは、自宅の照明環境を工夫することが、片頭痛の改善に少なからず効果があるということだった。「薬だけに頼らず、患者さんの症状を良くしたい」という辰元先生の想いは、「インテリアを人の健康に役立てたい」というインテリアデザイナーとの出会いによって、さらなる広がりを見せていく。

医療とインテリアのコラボによって生まれた「体に優しい環境づくりやライフスタイルの提案」とは。活動の内容を伺うと共に、常にチャレンジを続ける原動力を取材した。

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第一人者から直に学ぶ
ギラン・バレー症候群の研究に没頭

「若い人を救いたい」
元々は小児科を志していた辰元先生が神経内科への入局を決めたのは、友人がギラン・バレー症候群になったことがきっかけだという。

「新医師臨床研修制度が始まる前の世代ですから、卒業とともに大学の神経内科に入局しました。ちょうどその頃、ギラン・バレー症候群の世界的な研究者である結城伸泰先生が当大学に赴任され、直接指導を受けることができたんです。一番やりたかった研究を、第一人者から学べるのですから、本当にラッキーでした。

 

外来が終わってから、夜は研究漬け。休日もなく、寝る間も惜しんで研究に没頭する毎日で、とにかく忙しかったことを覚えています。先生の指導はとても厳しく、課題も多かったですから、当時は22時台のニュース番組を見ると『今日はすごく早く帰れたな』と思ったものです(笑)。振り返ると、結城先生から研究の考え方について学んだことが、今につながっていると思います」

辰元先生はギラン・バレー症候群を発症する原因となるカンピロバクター感染後に上昇する抗ガングリオシド抗体の研究を約10年間続け、学位もその研究で取得している。
 
医師として、研究者として、充実した日々を送る辰元先生の転機となったのは、一人の片頭痛患者との出会いがきっかけだった。

照明を電球色に変えただけで
片頭痛患者の症状が改善

片頭痛と診断され、外来に通院中だった35歳の女性から「頭が痛いときは自宅の照明がまぶしくて辛い」と聞き、ある考えが閃いたという。

「片頭痛の方は頭痛のときに光をまぶしく感じやすい症状がみられ、白い蛍光灯が苦手であることは海外の報告で知っていました。試しに『ご自宅の照明は白色の蛍光灯ですか?』と伺うと、やはりそうでしたので、少しオレンジかかった電球色への変更をお勧めしました。
帰宅後は私のアドバイスを聞き入れたところ、再診時に『頭痛が随分よくなったので、子供部屋を除く家中の照明を全部電球色に変えました』とおっしゃったのです。その時、照明に配慮すれば片頭痛の症状を緩和できる可能性があるかもしれないと思いました」

2008年当時の日本には、医師が患者の住環境について突っ込んだアドバイスすることなど、まだなかった時代だ。なぜそんな考えが頭に浮かんだのだろうか。

「学生のころから『エル・デコ』という雑誌を定期購読していて、インテリア全般に興味があったことも関係しているかもしれません。アメリカやカナダに留学した知人からも、向こうでは部屋が暗くて頭痛が気にならなくなったのに、日本に戻って来たらまた頭痛が悪化した、という話も聞いていたので、もしかしたらとピンときました」

外来で多くの患者と接するなかで、片頭痛の薬は対処療法に過ぎないこと。50~60歳代になると症状は自然に収まることが多いので、そこまでの間、いかに頭痛発作を軽減して暮らせるかが大事だと気づいていた。

「もし、住環境を変えることで発作が減るのならば、照明環境の改善を促すことも医師の仕事ではないか」。そう考えた辰元先生は、照明や光が人間に与える影響についての研究に本腰を入れ始める。

インテリアデザイナーと二人三脚で
光過敏症に配慮した住空間を実現

照明を変えるだけでも、片頭痛の症状を緩和できる可能性があるのではないか。 臨床で得た確信を胸に、2008年に某ハウスメーカーに相談したところ、男性の設計責任者は「部屋が暗いというクレームはあっても、明るすぎるクレームはない」と、つれない返答だったという。

「ならば、自分で研究するしかない!」と、宇都宮大学などの専門家の協力のもと、片頭痛と過敏症(光・音・臭い)の研究に着手。頭痛発作を起こしにくくするライフスタイルの可能性を探るなかで、光過敏症の片頭痛患者は健常者に比べ視覚感受性が高く、色温度の高い白色LEDを不快に感じること。PCやスマートフォンなどデジタルデバイスから発せられる光刺激も、頭痛発作の誘因になることが徐々にわかってきた。

「片頭痛の方は太陽光や夜間の自動車のライトのほか、片頭痛のない人には何でもない日本の明るい室内照明をまぶしく感じて、頭痛が悪化することがデータにも表れています。

 

また、最近増えているのが携帯電話をスマートフォンに変えた途端、頭痛が悪化するというケース。寝る前に暗い所では画面を見ないこと、寝室にスマートフォンを持ち込まないよう指導したところ、改善する方もいらっしゃいます。

 

ですから私の外来では、初診の方は必ず問診で過敏症の有無をきちんと確認します。過敏症が片頭痛悪化の原因になっている可能性があれば、薬の使用は最小限にとどめ、ライフスタイルの改善を含めた治療を行います

薬だけに頼らない、“光の処方箋”による治療に力を注ぐ辰元先生に、次の転機が訪れたのは2010年のこと。多職種が集まり、光を論ずる「光論会」に参加した際に出会ったのが、心と体のケアを目的とした日本初のマンションモデルルームに取り組もうとしていたインテリアデザイナーの尾田恵さんだ。

この会で照明はもちろん、内装の色彩などのインテリアデザインやコーディネートの配慮が片頭痛の症状を和らげ、心と体の健康に密接に結びつくことを知った尾田さんは、片頭痛への“光の処方箋”をもとに、理想的な照明環境を取り入れた新築マンションのモデルルーム(京都市山科区)の監修を辰元先生に依頼したのだ。

「2011年当時は、まだ『頭痛=病気』などネガティブな捉え方をする方も多かったのですが、明るさを抑えた住環境が心身に優しく、居心地がよいということを提案できたことに、手ごたえを感じました」と辰元先生。


お2人が手がけたインテリア/2017完成|アクティブケア|戸建モデルハウス「眠れる家の妻」(大阪枚方市)

アクティブ・ケアを用いた
看護師寮が完成

辰元先生と尾田さんは、過敏症に配慮し、刺激を軽減することで健康をサポートするインテリア・メソッドを「Active Care®(アクティブ・ケア)」と名付けて商標登録。2013年には、建設中だった獨協医科大学病院の看護師寮に、アクティブ・ケアの部屋を作れないかと、辰元先生自ら看護部長や大学側に直談判し、全体の半数にアクティブ・ケアの部屋が完成した。

 
上:アクティブ・ケア室/下: 一般デザイン室

 「片頭痛は若い女性に多い病気です。夜勤などで生活リズムが乱れやすい看護師は、片頭痛に悩む人が多いのではないかと考えました。僕の思い付きでしたが、大学側も快諾してくれ、インテリアの専門家である尾田さんの協力を得て、片頭痛にやさしい理想的な住環境を実現させることができました」

この寮では、アクティブ・ケアの部屋には電球色のLED照明を使用。内装の色調は白ではなくベージュ系、扉や収納家具はブラウン系にし、光の反射を極力抑えた造りが特徴だ。さらに、壁紙は臭い過敏に配慮した消臭クロスが使われている。

旧寮と新寮の部屋で片頭痛を抱える入居者1名の45日ごとの頭痛日数を調べたところ、旧寮で13日あった頭痛が、新寮では6日に減少頭痛薬の服用日も7日から2日に減少したほか、軽いうつ状態も正常へ改善するなど、アクティブ・ケアの効果がみられた。

「実は、2棟目の看護師寮にも約半数にアクティブ・ケアを導入し、うち8室は均一発光面である有機EL照明を設置しました。7人の片頭痛患者に4週間ずつ、電球色のLED照明の部屋と有機ELの部屋で生活してもらい、頭痛状況やうつ、気分、睡眠状況を調査したところ、頭痛日数の平均が、LED 8日から、有機EL 6.9日に減少。うつ・気分状態、睡眠状況も、LEDから有機ELに変更することで改善がみられました。

注目したいのは『有機ELは光が柔らかく過ごしやすい』『入眠しやすい』『寝る前に落ち着く』という声が上がったことです。2008年には聞く耳も持ってもらえなかった、明るさを抑えた住環境が受け入れられてきていることが、嬉しかったですね。より広く、より多くの方にインテリア(生活環境)から健康を育むことの大切さを知ってもらうため、尾田さんが「日本インテリア健康学協会」を2018年2月に設立されました。心と体をケアする住環境づくりがさらに広がるように、私は今後も研究を続け、アクティブ・ケアの効果を立証してきたいです」

人の役に立ちながら自分も楽しむ

偶然の閃き、医療の枠にとらわれず困っている人を救いたいという想い、諦めずに続けてきた研究が、多くの人との出会いによって、さらなる広がりを見せようとするいま、この活動のやりがいについて辰元先生は次のように語っている。

「始まりは予防医学的発想からでしたが、自分自身がインテリアや照明が好きだったので、組み合わせてみました(笑)。私が心地よいと思うことが、過敏症のある片頭痛の人にも心地よいことだったんですよね。この活動のやりがいは、人の役に立ちながら自分も楽しめるところ。楽しんでいるから苦ではありません。病気とか障害で線引きしがちですが、人間は皆な五感からの刺激に左右されるもの。より心地よく、より楽しく暮らせる環境づくりはみんなの課題です。ライフスタイルのなかで住居の占める割合ってすごく大きいので、おしゃれだけど機能的で、片頭痛の過敏症を誘発しないようなユニバーサルデザインが、人々の暮らしに浸透していけばいいなと思います

辰元先生の次なる目標は、人を健康へと導くウエアの研究だ。アルミニウムなどが素材に練り込まれており、着用すると柔軟性が上がり、体幹が強くなるというもの。イタリアのメーカーと大学病院が共同研究するにあたり、苦手意識のあった英語を克服するため、英会話スクールにも通い始めた。

チャレンジの手を緩めない辰元先生の原動力は他でもない。目の前の患者さんだという。
「患者さんと接することで、アイデアが生まれてきます。患者さんが困っていることを、
薬に頼らず改善する方法を考えることが僕の趣味なんです(笑)」

医学とインテリアという、一見接点のないように思える両分野だが、「人々の健康な暮らしをサポートしたい」という医師とインテリアデザイナーの想いが重なった時、1+1=2以上のものが生まれることを、今回の取材で学ばせていただいた。

生活環境から人を健康に導くインテリア健康学は、医療費削減、予防医療など日本が抱える医療問題にも光をもたらす可能性を秘めているのではないだろうか。 

辰元宗人(たつもと むねと)
獨協医科大学神経内科准教授
1969年茨城県生まれ。1995年獨協医科大学卒業後、同大学神経内科へ入局。2012年同科准教授に就任。17年4月からは獨協医科大学病院医療安全推進センター医療安全管理部門 部門長を兼務。
日本神経学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本頭痛学会頭痛専門医・指導医。片頭痛と過敏症(光・音・香り)の研究成果をもとに、体に優しい環境づくりから予防医学的ライフスタイルの提案まで手がける。著書『マインドマップでつながる!わかる!解剖・機能・症状・疾患』(学研メディカル秀潤社)。趣味はスカッシュ、ヨガ、ウエイクボード。

 

※現在は、日本インテリア健康学協会における活動は終了しております。

 文/岩田 千加

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