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2018年05月10日

もっと成長する女医になるために――女性ホルモンを制し、成長するカラダを手に入れる!【千葉大学医学部附属病院『立葵の会』講演 vol.1 小野陽子先生】

医療の世界でも働き方改革が叫ばれはじめている。これまで患者の命を預かる医師ほどワーク・ライフ・バランスからほど遠い仕事はなかったのではないだろうか。なかでも出産や育児というライフイベントを経験する女性医師にとっては、キャリア形成において直面する課題は大きい。

千葉大学医学部付属病院の女性医師コミュニティ「立葵の会」は、2018年3月10日に「女性医師のキャリア ライフとワークの2つの側面から」をテーマとして講演会を開催した。これから女性医師としてのキャリアを積もうとする研修医や医学部生も多数参加し、このテーマへの関心の高さが伝わってきた。
女性のワークとライフ、そのどちらにも深く関係してくるのがカラダとココロだ。

前半は聖路加国際病院女性総合診療部非常勤医で、東邦大学医療センター大森病院心療内科レジデントである小野陽子先生が、「女性ホルモンを制するものは医療を制す!―ドクターXへの道標―」と題し、キャリアを邁進する土台となるカラダについて、産婦人科と心療内科両面からのアプローチにより、女性ホルモンをうまく活用してパフォーマンスを上げるボディコントロール術を提唱した。
後半は「立葵の会」代表を務める千葉大学附属病院神経内科准教授、三澤園子先生が「わたしがもっと輝くために~女性の弱みを強みに変える」と題し、キャリアを歩む女性のココロについて講演した。今回は、前半小野先生の講演を紹介していく。


小野先生(左)と三澤先生(右)


日本の医師の中で、産婦人科医でかつ心身医学の専門医はわずか0.03%。そのレアな婦人心療内科医となるべく勉強中の小野先生は、「女性自身がパフォーマンスを上げたいと思う場面はこれからますます増えて行くと思います。主体的かつ計画的に自分の気分の波を落ち着かせるボディコントロール術を知っておくことが必要」と、女性が自身の心と身体について学ぶ重要性を語った。

出産可能な年齢とライフステージを知る

女性の健康を考えるとき、第1のポイントとなるのが「女性のライフステージ」だ。
WHOは、健康の概念を「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と提唱している。女性を診察する際、体だけでなく気持ちにも寄り添うことを心がけているという小野先生だが、自分のライフステージをよく理解していない女性が多いとも感じている。

女性のライフステージは、10代前半から思春期、性成熟期、更年期、老年期と進む。日本人女性の平均閉経年齢は50.5歳。更年期とは、各々の閉経の前後5年ずつを指し、およそ45歳から55歳頃のことをいう。「女性には、ライフステージごとにさまざまな健康トラブルがあります(下図参照)。まず、このことに気づくことが大切です」。

女性の高学歴化、社会進出、そして長寿化。出産回数は減り、月経回数が増加した・・・・・・戦後すぐの70年前と比べて女性のライフスタイルは劇的に変化した。それらに伴って、いろいろな身体の変化も起こっている。特に医学部の女性は卒業した段階ですでに24歳だ。「そこから出産を考えるとき、出産可能な年齢を知ることや、出産後どんな支援を受けるかが大事になってきます」。

加齢に伴い、妊娠能力は低下する。まず卵子の数。出生時、女性は原始卵胞を卵巣に約200万個持っているが、思春期頃には20-40万個となり、徐々に排出されそれらがほぼなくなったことで閉経をむかえる。そうなると妊娠はほぼ難しい。さらに女性は年齢が高くなるに伴って出生率は低下し流産率が上昇するのだが、特に35歳を過ぎたころから妊娠能力が顕著に低下する。小野先生の実感として「35歳、38歳、43歳といった区切りで出生率はガクっと下がる」という。40歳くらいでの自然妊娠率は5パーセントを切る。その一方で、日本人女性の平均初婚年齢は29.0歳、第一子出産年齢は30.6歳で、「自身の卵子で妊娠できる年齢も考えながら、パートナーや仕事とのバランスを考えてほしい」と訴える。

女性の身体は2つの女性ホルモンによって
コントロールされている

2つめのポイントが女性ホルモンは大きく動くということだ。女性の身体はエストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンの働きによってコントロールされている。

月経のリズムを見てみよう。月経に関する臓器は3つ。子宮、卵巣、そして脳だ。脳もかかわっていることは一般的にあまり知られていないが、脳の視床下部、下垂体が女性ホルモンの分泌をつかさどっているのだ。

脳の視床下部から「卵巣を刺激するホルモンを出しなさい」と下垂体を刺激するホルモンが分泌される
→ 下垂体が卵巣に向けて卵胞を刺激するホルモンを分泌する
→ 卵巣で、卵子の小部屋「卵胞」が成熟しはじめる
→ これに伴ってエストロゲンが分泌される
→ 下垂体から排卵を促すホルモンが分泌される
→ 成熟した卵胞が破れ、卵子が排出される=排卵
→ 排卵後の卵胞は黄体に変化し、プロゲステロンを分泌する
→ 妊娠が成立しないとエストロゲンとプロゲステロンが激減する
→ 厚くなった子宮内膜がはがれる
→ 月経が起こる

ちなみに、正常な月経周期は約25日から38日と幅広い。この周期で2つの女性ホルモンは大きく変動する。

つまり、エストロゲンは卵巣内で卵子が成熟するときに分泌されるので、エネルギーが増して、肌はツヤツヤになり、代謝が良くなる。脳の機能も上がる。それに対してプロゲステロンは、妊娠を維持するためのホルモンなので、守りモードになる。イライラしやすくなり、代謝は滞り、水分と糖分をため込むというわけだ。これらのホルモンの働きで、月経と月経の間の排卵期を挟んで前期「卵胞期」は心身が安定し体調が良く、後半となる月経前「黄体期」は心身ともに不安定になりやすくなるのだ。

「不調の出る時期は、10代の人もいれば産後に出る人もいて、人によって違いますが、月経があるうちには何歳でも起こり得るのです。だから、何か調子悪いときに『もしかして月経前だから?』と気づくとうまくいくことがあります」。

女性ホルモンは毎月大きく増減する。ストレスや体重変化による影響を受けやすく、精神面に影響を及ぼすのだ。小野先生が注意を喚起するのが、日本人女性の痩せすぎ傾向である。

「BMI正常値は22ですが、10代から20代の日本人女性でその値の人はほとんどいません。自分で『普通』と言っている人で17~18。これくらいの値になると、およそ半数の人に月経異常が出てきます」。


体脂肪率が低いほど、月経異常率が高い。

痩せていると体内のコレステロールが少なくなる。女性ホルモンの材料はコレステロールなので、痩せていると女性ホルモンの分泌が悪くなり月経異常を起こす。女性ホルモンを安定させるには、ある程度の脂肪は不可欠なのだ。

低用量ピルでホルモンバランスを取り
女性のQOLを向上させよう

そこで小野先生がすすめるのが低用量ピルだ。ピルは、エストロゲンとプロゲストーゲン(合成プロゲステロン)の合剤で、出血コントロールと排卵コントロールができるため、避妊効果は99.4パーセント。「避妊用の薬」と抵抗感を示す女性も多いが、ピルの効果はそれだけではない。月経量が減り、月経痛がかなり改善されるというメリットがある。通常の月経ではエストロゲンが最大300~400pg/ml分泌されるところが、ピルを飲むとこれが約5分の1程度にまで抑えられる。そうなると、子宮内膜の体積、表面積ともに減るため、月経量が減るというわけだ。さらに、エストロゲン、プロゲステロンともに分泌量の増減がほとんどなくなるため、排卵自体が起こらなくなる。それが避妊率の高さに結びつくのだ。


「またピルの種類も多いので、1種類を飲んで合わなければ変えることができます。自分に合ったものが見つかるのもメリットです」。
もちろんリスクもないわけではない。「レアとはいえ、血栓症のリスクはゼロではありません。リスクとベネフィットを正しく理解し、上手に利用していくことが10代から40代女性のQOLを改善することになります」。

ライフステージ別に低用量ピルの使用目的や効果も変わってくる。ニキビ予防や肌荒れにも有効だ。

フランス人女性に聞いた「この20年で女性の人生を変えることに最も貢献したこと」という調査がある(※1)。その1位がピルで、実に59パーセントの女性が選んでいる。

フランス人女性は、50%近くがピルを女性の権利としてとらえ服用しています。一方日本人のピル普及率は韓国や中国よりも低く、世界最低レベルです。副作用や特性を知って使用すれば強い味方になるのですから、痛みに耐えることが美徳という日本人の考え方の慣習を断ち切る勇気をもってもらいたいと思います」。

産婦人科の新常識
できるだけ排卵しない方が良い!?

忍耐を美徳とする慣習を断ち切る。すなわち、薬があるのなら率先して取り入れてホルモンをコントロールし、病気も予防しようというのが、小野先生が訴える女性の健康3つめのポイントだ。

代表的な病気が、子宮内膜症だ。子宮の内側にある子宮内膜が、子宮以外の卵巣や腹膜などで増殖や剥離をし、痛みを引き起こす。不妊の原因にもなっている。「若いうちからピルを飲んでいる35歳の方が、飲んでいない35歳よりも妊娠率が高いともいわれています」。

さらに、小野先生から驚きの言葉が出た。「できるだけ排卵しない方が良いというのが、産婦人科の新常識です」。これはピルで医学的にコントロールして排卵しないということで、月経が不順で排卵しないというのとは違うので注意してほしい。

「排卵は、卵巣の病気を増やし、卵巣出血や血腫のもとになります。ピルを服用し排卵を抑えることが卵巣機能を温存することにつながり、婦人科救急疾患を減らしたり子宮内膜症を予防したりする効果があるのです」。

またプロゲストーゲンが関係している病気として、月経前症候群(PMS)や月経前気分不快障害(PMDD)がある。これは月経前に繰り返し起こる精神的、身体的症状で、月経が開始してしばらくすると症状が消える特徴をもつ。イライラや落ち込み、不眠、倦怠感、腹痛や頭痛、便秘、肌荒れ、むくみなどの症状があり、月経前の症状がひどいと気づいたら婦人科を受診し、低用量ピルや漢方などの治療をすすめる。しかし、精神的な症状が特にひどい場合は月経前の期間限定で抗うつ剤による治療が有用である。

閉経前後のホルモン補充療法もある。加齢により、男性ホルモンは徐々に減少するのに対して、女性ホルモンは急激に減少する。これが更年期障害の原因だ。ホルモンの減少をなだらかにするのがホルモン補充療法だ。

女性ホルモンで長寿、ご機嫌に
女性ホルモンを主体的に使いこなそう

女性ホルモンを主体的に扱って、使いこなしましょうと小野先生は提案する。

「女性ホルモンは長寿のホルモン、ご機嫌のホルモンです。女性が健康でご機嫌だと、自信を持って働けます。出産時期をコントロールできると子育てしながら働きやすくなるので、長く働けます。また骨粗しょう症予防になるので、介護予防にもなります。女性が主体的に動くことでパートナーや家族、職場や地域も幸せになる。何より女性自身が幸せです」。

働く女性の約60パーセントに婦人科疾患があるという調査がある(※2)。「検診に行って、女性ホルモンを取り入れてほしい」と力を入れる。「自分が自身の主治医となってください。そして一生輝ける女性医師になりましょう」。

女性医師に向けて、小野先生は

・若いときから定期的に検診を受ける
・妊娠出産時はペースダウンしても仕事はやめない
・産後復帰後もキャリアアップできるよう自分をコントロールする
・更年期以降も、次世代を育成しよう

とエールを送る。

2017年、“女性内科医が担当した入院患者は、死亡率や再入院率が低い”という論文が反響を呼んだ(※3)。

「女性医師は診療ガイドラインの遵守率が高く、コミュニケーション能力が高い。女性特有の持ち味がその要因です。女性医師が医療の今後を担うと確信しています。出産や子育てなどのライフイベントにより、女性が仕事をしづらい状況があるのも事実ですが、現場から離れることなく心身をコントロールしてください」

と力強く締めくくった。(文/坂口 鈴香 )

※1 Le Nouvel Observateur/Femmes du 6 au 12 decembre,1990
※2 財団法人女性労働協会「働く女性の健康に関する実施調査結果」
※3 Y.Tsugawa:2017 Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates for Medicare Patients Treated by Males vs Female Physicians

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