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2018年05月14日

もっと成長する女医になるために――自分で自分にブレーキかけていませんか?~アンコンシャスバイアスを乗り越える【千葉大学医学部附属病院『立葵の会』講演 vol.2 三澤園子先生】

「女性が活躍できる社会」を目指しながらもなかなか進まない日本社会・・・・・・。特にハードワークが求められがちな医療界ではその状況が顕著だ。しかし、もしかすると無意識のジェンダーバイアスによって、女性自身が自分にブレーキをかけていることも一因かもしれない。

無意識のジェンダーバイアスとは? 
それを乗り越える方法はあるのだろうか――

「女性医師のキャリア ライフとワークの側面から」をテーマとして開催された「立葵の会」講演会。小野陽子先生の講演「女性ホルモンを制する者は医者を制す!」に続いて、「立葵の会」代表を務める千葉大学附属病院神経内科准教授、三澤園子先生が講演した。タイトルは「わたしがもっと輝くために~女性の弱みを強みに変える」。

無意識の偏見が女性を阻む
経験を積まないと成長できない

「2017年のジェンダー・ギャップ指数、なんと日本は144か国中114位と、過去最低を更新しています(※1)」。

冒頭、三澤先生は女性の活躍が進んでいない現状をショッキングな数字で示した。「さらに、30代から50代医師の労働力、男性を1.0とすると女性は0.8。高齢者と同じじぐらいと見なされています(※2)。それでもある男性医師からは『実情は0.6くらいでは?』という感想がかえってきたほど」と憤る。それが自ら選んだ数字なら良い。意に反してその数字になっていることが問題なのだ。女性はまだ自分のしたいように生きていくことが難しいのが現実。どうしたらよいのか考え、自分の未来を輝かせるために力を身につけていくことが大切だという。

まず三澤先生が提示したのが、「無意識の偏見=アンコンシャスバイアス」という言葉だ。これが、女性に対するさまざまな阻害要因となっていると指摘する。たとえば、女性の活躍についてのアメリカでの調査だ(※3)。あるポストを務める人を募ったところ、女性はその仕事が100パーセントできると確信しないと手を挙げないのに対して、男性は60パーセント条件を満たしていると思えば手を挙げた。アメリカの調査でもこれだけの差が見られたのだ。三澤先生は、大学院生や研修医を指導する立場として似たような経験をしている。男性が「やります」というのに対して、女性は「できるかどうかわかりませんが…」と返事をするというのだ。

「日本では奥ゆかしいことが女性の美徳と思われているのでしょう。しかしこれでは結果的に男性に仕事が行くことになります。そうなると男性は経験を積むのに、女性はそれができないのです。

 

成人の能力開発は7割が経験に基づくものです(※4)。本来の能力に関わらず、経験した方が伸びる。つまり経験が成長に直結するのです。研修医はスタートラインで横並びであっても、気がつくと、経験値の差によって男女で差ができてしまっていることが現実に起きうることを知ってほしい。研修医の採用時に面接をすると女性の方が優秀だと思うことも少なくありません。ですが、経験を積まないことで、せっかくの能力を伸ばしていけないのならもったいない。ぜひ、積極的にチャレンジしてほしいと思います」。

女性は自己評価が低い
「やる」と一歩を踏み出そう

女性の自身のなさはどこから来ているのだろうか。そこには、自己評価の低さがあると三澤先生は指摘する。三澤先生自身多くの学会発表や講演をこなしつつも、「本当はよく理解できていない、知らないのが、今日こそバレるのではないかと、いまだに思う」と明かす。それくらい女性の自己評価の低さは根深いと。この感覚は、実は女性によくみられる感覚であることが知られている。『インポスター(ペテン師)症候群』として、Facebook社COOのシェリル・サンドバーグが著書『LEAN IN』で紹介しており、自身も同様の感覚を経験していることを明かしている。

「自己評価が低いと自信が持てない。すると挑戦できなくなる。その結果、経験ができず、実力がつかないので、さらに自己評価は低くなってしまいます。そういう悪循環を断ち切って、『やる』と一歩踏み足してほしいのです」。

幻の赤ちゃんを背負った女性
目標はできるだけ高く持とう

さらにもうひとつ、女性が自分を縛っているものが「幻の赤ちゃん問題」だ。

「学生や研修医のうちから、『将来子どもがほしいので、なるべく無理のない働き方を希望します』という人が多い。女性はとても若い時期から、幻の赤ちゃんを意識しながら、勉強したり、就活したり、最初から目標を低くしてしまっていることが少なくありません」。

目標を最初から低く設定するとどうなるのか? 達成できるレベルは初めの目標よりも低くなってしまうことが多いのだ。だから目標はできるだけ高く持って、チャレンジすることが大切だと三澤先生は強調する。

最初から限界をつくらないでほしい。ペースダウンしなければならないときは出てくるかもしれませんが、それはそのときに考えればいいのです」。

正当に評価されるためには
要求する技術と実績が必要

女性には特有のきびしい状況もある。女性は献身的だと思われており、同じことをやっても男性なら「ありがとう」と感謝され、その対価を払おうと思われる。一方女性がやっても感謝されにくい。さらに、依頼を断った場合、男性なら「しょうがない」と思われるが、女性だと反感を持たれる傾向があるというのだ(※5)。

「女性は仕事を引き受けることが大事であると同時に、自分を守ることも大切だと知ってほしい。チャレンジに対して正当に評価されるよう、適切に要求する技術も学んでほしいのです。私自身もなかなかできないことではありますが……」。

これがなかなかむずかしい。女性は「こんなことができる」と主張すると反感を持たれるが、主張しないと軽んじられるというジレンマ・・・・・・三澤先生は「『周りのために、他者のためにこうしてほしい』という要求の仕方をすれば、比較的反感をもたれにくい」とアドバイスする。

昇進の要件も、女性には厳しい。男性は「できそうだ」という可能性で昇進するのに対して、女性は実績がないと認めてもらえないのだ。これも現実の姿として知っておき、実績を積むことが大切だと三澤先生。そこで、女性のキャリアを考えたときに問題となってくるのが、出産の時期だ。「育児中は成長のスピードがどうしても鈍りやすくなります。出産前にできるだけ実績を積んでおくことが、自分の未来を開くうえでは、もしかすると楽かもしれません」。

自身、子育て中の三澤先生。「子どもが生まれてからは、大リーグ養成ギブスをつけて、強風に向かって歩く感じ」とそのハードな状況を表現する。そんなときに働く女性を襲うのが、「子どもを預けてまでする仕事なのか」という自問だ。医師は意義のある仕事なので、その自問は少ないとはいえ、その分仕事はハードだ。自分に自信を持って、やりがいの感じられる診療や研究、教育を行うことが子育てをしながら仕事をする原動力になるという。だからこそ、出産する前に医師という仕事にやりがいが持てるようになることが、仕事を続ける上では大切になるのだ。

女性は成功するほど嫌われる
女性の活躍も阻むアンコンシャスバイアス

アンコンシャスバイアスは、女性の成長だけでなく、活躍をも阻害すると三澤先生は指摘する。例として出すのが、クリントン元大統領夫妻だ。夫は人気者であったが、ヒラリーさんは結局大統領にはなれなかった。それは、彼女を嫌いな人が多かったからではないかと問いかける。

「男性は成功するほど好感度が上がりますが、女性は成功するほど嫌われる。女性は共感の生き物なので、皆と仲良くしたい、嫌われたくないと思う。すると昇進を目指さなくなり、管理職も増えません。だから結局社会の仕組みは変わらない。女性が生きやすい社会にするためにはこの意識を変えないといけないのです」。

マミー・トラックの選択は
「成長の機会を望まない」のメッセージに

育児中の女性の働き方を見てみよう。定時退社や時短勤務、パートタイム労働というイメージが強い。それは、そうした働き方「マミー・トラック」を選ばざるを得ない現状があるからだ。平日はほとんどワンオペ育児を行っている三澤先生も、そのピーク時間は18時から22時だという。

「医局長として人事を担当している視点から言うと、厳しく聞こえるかもしれませんが、『パート勤務で』『週4日勤務で』という希望は『成長の機会を望んでいない』というメッセージとして受け止められる可能性があります。特に男性上司では、その傾向は強いでしょう。

 

しかし、時短やパート勤務の場合、だれが担当しても良い仕事ばかりが回ってくることがあります。その人でなくてはならない仕事にはなかなかチャレンジできない。すると仕事にやりがいが感じられなくなり、伸び悩みにつながることがあります。そうなると通常の働き方『ノーマル・トラック』に戻るきっかけをつかむのが難しくなる。子育てが落ち着けば、ノーマル・トラックに戻ろうと思っている女性も多いですが、戻れなくなる現実もまたあるのです」。

働きやすさだけでは女性の活用は進まない
男女ともに働き方を考える時期に

「資生堂ショック」という言葉をご存知だろうか。資生堂は女性に優しい企業として、育児支援制度が充実していた。ところが、支援を受ける女性が多くなると現場が回らなくなった。そこで、育児中でも遅番や土日勤務への配置を決めたのが2015年のことだ。現場が回らなくなっている現状は、医療でも似たような傾向があるというが、同時にそれだけが原因ではないと三澤先生は分析する。

「資生堂は、働きやすさだけでは、本当の意味での女性の活用は進まないと思ったのではないかと思っています。つまり『資生堂ショック』とは、働きやすさから働きがいへと舵を切ったということ。その意味で、資生堂は先進的だともいえる。私たちも、同様の方向に舵を切らないといけない時期に来ているのではないでしょうか」。

育児中だから時短やパートという考え方を変えるときに来ているのではないか――三澤先生の問題提起は厳しく聞こえるが、それは女性だけに向けたものではない。産後、女性がフルタイムで復帰できない背景にあるのは、「無限定性」という言葉に象徴される日本人の働き方だ。「言われたことをやりなさい」という勤務内容、「行けと言われたところに行きなさい」という勤務地、「24時間365日働きなさいと言われれば働きなさい」という労働時間。それらがすべて暗黙の了解となっているのが、日本人なのだ。特に医療はそれが顕著だと三澤先生は指摘する。

「それが成り立ったのも、企業戦士と専業主婦の組み合わせの高度成長期モデルだったからできたこと。今、現場は共働き、生涯未婚、離婚、介護など何らかの制約のある人が増加していて、将来そういう人が7割に達すると言われています。制約があることを前提として、全員が働けるような働き方にしないと立ち行かなくなるのです」。

父親の育児関与のメリットは大きい
男性の家庭参画を進めよう

三澤先生が進めたいと考えているのが、男性の家庭参画だ。今、男性ができる仕事のほとんどは女性にもできる。しかし、女性ができることを男性はしているだろうか。そのトレードが成立していないため、働く女性は追い詰められることが少なくない。医師の働き方改革も検討が進んでいるが、同じように子どもを持った医師でも女性に育児や家事のしわ寄せがきているため、子どもを持つ女医の勤務時間だけが少なくなっている。そしてそれがそのまま成長の差を生んでいるのだ。一方で、育児中の女性医師の週当たりの勤務時間が40時間を超えていることも、注目すべき点である。

「もっと業務を効率化して、医師全体の働き方や勤務時間を見直すことが大切です。さらに、育児中の男性医師の家庭参画を進め、育児中の女医が働ける時間、自身の成長に費やせる時間を増やさなければいけないのではないでしょうか。そもそも日本人男性の家事にかける時間は、世界的にも極端に短いのです。もう少し家事に参画しないと、女性の社会参画は進みません」。


男性が育児に関与すると、子どもの精神的充足と認知能力が上がるというデータも出ている(※6)ので、メリットは大きいのだ。ところが、男性の育休取得率は3パーセント(※7)。この背景に、家庭を優先にすることで給与は下がり昇進は遅れる、とその代償は女性よりも男性が大きいという構造があるからだ(※8)。

「女性ができることを、男性にもできるようになってほしい」。三澤先生は「ワークライフシナジー」というキャンペーンを千葉大学病院内で行っている。良質な医療の持続可能性を高めるために、医療従事者の「ライフ」の部分もしっかり充実させる。ワークとライフの相乗(シナジー)効果を主旨とする。しかし、大学病院には、休日や夜間返上で働くことを美徳とする空気は依然根強く、理解、実践してもらうにはまだまだ越えなければならないいくつものハードルがあると明かす。

自分に自信を持ってチャレンジしよう
周りの女性も大切にしてほしい

「この講演の副題を『女性の弱みを強みに変える』としましたが、現実はまだそう甘いものではないのかなと思います。しかし、皆の意識を変えれば、弱みを弱みでないようにすることはすぐにできるはずです。

 

今日、『アンコンシャスバイアス』を皆さんが知ってくださったことで、さまざまな偏見が無意識から意識に上りました。だから次は、行動に移してほしい。自分に自信を持ってチャレンジしましょう。

 

そしてそれと同時に、周りの女性を大切にしてほしいのです。女性管理職がいたら、なんとなく嫌だと思うかもしれません。でも、それはその人のことをちゃんと見てそう感じているのか、自分に問いかけてほしい。女性が発言したら、さえぎらずに最後まで聞いてほしい。何かしてもらったら、男女同じように評価してほしい。後輩に分け隔てなくチャンスを与えてほしい。自分が変わることで世界は必ず変わります。そして自分が出会った人に少しずつ広めてください。そうすれば私たちの未来の景色は変わるでしょう」。

文/坂口 鈴香

※1 The Global Gender Gap Report 2017」世界経済フォーラム。
   ジェンダー・ギャップ指数とは各国の社会進出における男女格差の指標
※2 厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」医師需給分科会
※3 Desvaux et al., mckinsey Quarterly,Sep 2008
※4 Mc Call et al.,New York:The Free Press 1988
※5 Heilman&Chen,J App Psychol 2005
※6 Lamb,Acta Paediatrica 2008
※7 厚生労働省「雇用均等基本調査(確報)」2016
※8 Center for American Progress,Center for Work Life Law 2010

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