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2018年05月21日

リアル・アンナチュラルの世界!/千葉大・法医学教育研究センター 女医座談会「法医学は女医にむいている職場です」

法医学に興味を抱く人が増えている。
2018年冬に放映されたドラマ『アンナチュラル』(TBS)(※1)は、石原さとみ演じる法医解剖医が主人公。扱うのは死体だが、結果は生きている人々や社会に大きく還元されていく。「法医学って、こんなに科学的で面白いんだ」と感嘆し、ハマる人が続出。同ドラマは3月度最も優れたドラマとしてギャラクシー賞を受賞した。

そうして法医学に興味を持った人が、千葉大学附属法医学教育研究センターのホームページを見たら、『アンナチュラル』さながらの女性比率の高さに驚くに違いない。なんと全スタッフの3分の2近くを占めている。なぜこんなにも女性が多いのか・・・・・・疑問もわいてくるだろう。

そもそも法医学者自体、数は少なく、日本全体でわずか140名しかいない。圧倒的な人手不足や制度上の問題により、日本における不自然死(アンナチュラル・デス)の8割以上が解剖されないまま荼毘にふされている実態は、先進国中最低水準なのだが、国民のほとんどが、この問題の深刻さに気付いていない。

法医学を取り巻く環境は、医療界のなかでも突出して厳しい。にもかかわらず、どうして、法医の道を選んだのか。どう働き、どんな問題意識を持ち、どう変えて行こうとしているのか。同センターの女性医師にお集まりいただき、話を聞いた。

出席者
助教 本村あゆみ先生 (Ayumi Motomura) 
佐賀医科大学(当時)医学部卒業。8年間の救命救急医勤務を経て、法医に。2014年より、東京大学法医学講座特任所助教も兼務。2018年5月より国際医療福祉大学医学部講師。2児の母でもある。


助教 星岡佑美先生 (Yumi Hoshioka)
千葉大学医学部卒業。大学院を卒業し、この4月から大学職員に。「もともと生物が好きで、特に人体の機能や構造について興味を持ち、人体に関わる研究をしたいと医学部を志望。臨床以外も含め興味深い研究室はないかと探していたところで法医学を知り、法医学を学ぶことをモチベーションにして医学部に入りました」


特任助教 千葉文子先生 (Fumiko Chiba)
千葉大学卒業。東京大学法医学教室の助教と兼務。「基礎配属がきっかけです。解剖では執刀医が注目するところもやることも毎回異なっていて、すごいなと思ったのと・・・・・・あと、当時はこれまで予算化されていなかった解剖経費が予算化されて支払われるようになった頃で、これから良い方向に変化していく分野なのかな、と思ったのもあり法医を選択しました」

 

大学院生/医師 浦邉朱鞠先生 (Shumari Urabe)
千葉大学大学院医学研究院博士課程在学中、特任研究員。
「中学3年生の時に、法医学を知りました。それ以前は、亡くなった人は全員、警察だけが対応しているのかと思っていました。しかし、死因を決めるのは医師で、警察と関係のない第三者機関で解剖していることに驚き、かっこいいな、やってみたいなと思い、医学部に入り、初期研修医を終えてそのまま法医学に進みました」

 

特任研究員 吉田真衣子先生 (Maiko Yoshida) 
内科、放射線科の臨床医を経て、2年前から、週の前半は臨床の放射線科医として、後半は死後画像診断を軸とした法医学教室での死因究明に従事している。「放射線科にもいろいろな専門がありますが、私は新しく、関わる人のきわめて少ない死後画像診断をやりたくて、このセンターへ来ました。歴史ある法医学の死因究明に、画像診断を役立てたいと思っています」

テーマ1 法医学の魅力とは?

法医学は面白そうだが、全国に140人しかいないということは、興味を抱いても実際に目指す人は少ない分野ということになる。そんな成り手の少ない分野を、なぜ彼女たちは選んだのだろう。

浦邉:毎回イレギュラーで、どんなご遺体が来るか分からないので、状況によって(なんで亡くなったのだろう)と考える所が興味深いのかなと思っています。

本村:そうですね。亡くなるまでには、いろいろな要因が重なり合っているので、その場では結論が出ないことがほとんど。解剖するだけでなく、生きている段階で何が起きていたのかを考察したり、血液検査や組織検査などさまざまな検査を含めて調べたりしながら突き詰めていくのは大変ですが、魅力的なところでもありますね。

千葉:そうですね。でも、(正しい死因を)見つけたと思っても、直後に間違いかもと思いますし、ほかになにかもっと正しいことがあるかも・・・と、いつも思うので・・・。先生の言う通り、そこが魅力的なところだと思いますし、やりがいのある仕事だとは思いますけれど、いざ自分が執刀する立場になると自分のこととして「見つけました!」とか「これがやりがいです!」って胸を張って言うのは難しいなぁ、とも思います。

本村:それは真面目な人ほど思うでしょうね。「当たり」を教えてもらえるものではないし。自己満足かもしれないという気持ちに陥ることもあります。本当の死因を暴いてよかったのかなとか。でも、この間、粉々に壊れた頭蓋骨を繋ぎ合わせたときは達成感があったでしょう。もはや何も分からないだろうと思われていたのに。

千葉:あ、確かにあれは興奮しました。

本村:見えていなかった傷が見えたり、分からなかったことが分ったりするのは、楽しいんじゃないかな。

千葉:ですね、おっしゃる通りだと思います。

吉田:私は皆さんとは専門が違うので、見方もちょっと違うかも。医療業界では、法医は変わり者というふうに見られていると思う。だから私、千葉大に来るまでは、“へんな人の巣窟”だろうと(笑)、ちょっと覚悟して来たんですよ。

ところが来てびっくり。女の人がすごく多くて、しかも皆まっとう。かなり優秀な人たちで、プラス人間味もあって、コミュニケーション能力も高い。私は内科、放射線科など、結構いろいろ見てきたんですが、ここはすごく特殊な感じがします。何がそうさせているんだろうと。それはいい意味で不思議で、居心地がいいし、職場としてよく機能している。優秀さやコミュニケーション能力、気遣いなど、女性のよい面が全部発揮されている感じがしますね。

で、基本的に医師は、患者さん、患者さんの家族、看護師、コメディカルの人たちなど、わりと出会う人が限定された世界で生きていますよね。でも法医学は、本当に社会の境界線上にいる。警察がいて検察がいて、裁判所、児童相談所、政治家、雑誌社の人とか、多職種がいりみだれている、人間の巣窟です。そこを切り盛りして行くのに、女性の非常によいところが発揮されている感じがしていますね。だから、女医で、これから専門を選ぼうという人には、「いい現場ですよ」とお勧めしたい。

本村:いいことを言ってくれますね。

吉田:法医学は社会に貢献しているけど、抱えている問題はすごく大きい。それに対してここは教授も、若い人たちも、全体で改革して行こうという磁場があるので、一番面白いと思う。(日本の法医学を)ここから変えて行ける可能性がある。非常にむずかしいと思うけど、希望的な気持ちで仕事出来る職場だと思っています。

テーマ2 法医学は3Kってホント?

法医学は3K(汚い、危険、きついなど、頭文字にKがつくネガティブワード)とも4Kとも言われるが、実際はどうなのか。リアルなところを聞いてみた。

浦邉:「危険」はいつもありますね。警察が感染症の有無を調べてご遺体を持ってくるということはもちろんないし。身元が分からないご遺体を毎日解剖している時は、特に感染症に注意が必要なので針刺しなどに気をつけています。

本村:結核になる可能性は、現場の誰にでもあるので装備が必要ですね。

千葉:「きつい」というのは、身体的な意味では別にきつくはないです。 ごくたまにですけど、防犯カメラなどの映像を後で警察から見せてもらうことがあるんですが、法医学的な診断には重要ですし、見られるものは見たいし見るんですけれど、何度も繰り返し人が殺される場面をみるのは、やっぱりあんまり気分は良くないですが……最近はそういう映像を見た後は、積極的に同僚と話をするようにしています。

浦邉:一般の方にはなかなか話せない悩みですが、法医学のなかでなら、そういうのも気軽に話せる。あとは「臭い」というのもありますね。こういう言い方は申し訳ないのですが。腐敗した臭いは、ときに帽子を二重にして被っても残ることがあるので、解剖後に法医学とは関係のない一般の方と会うときには気を使います。

本村:悩みを分かち合えるのはすごくありがたいですよね。そういうことも、1人で抱え込んでいると結構きびしいかも。もしも男性の教授が1人で、その下に私一人しかいなかったら、弱音もはけないし。

吉田:ましてその教授がものすごいへんな人だったら(笑)

テーマ3 千葉大の法医学あるある

普通の大学の法医学教室は、教授、助手、若手医師各1名が一般的。それに対して千葉大は、30人以上のスタッフを擁し、その多くを女性が占める。独特の「あるある」がありそうだ。

吉田:私が、面白いなと思うのは、ドラマだと、二人ぐらいで解剖していますよね。だけどここは執刀医のほぼ8割は女医。周りを警察官とか何人もの男性陣が取り囲み、真ん中で女子が指示をとばしている。ちょっとない光景ですね。

本村:それはそうかもしれない。男性の方が少ないですからね。それに解剖の補助も、男女2人ずついるけれど、男性二名は、非常に大人しいから。

吉田:ほぼ、執刀医と補助の女性二人で解剖を回しているように見えますよね(笑)。

星岡:たまに、解剖の最中に具合が悪くなって倒れる警察官もいらっしゃいますね。新人の方は特に。

浦邉:私、一回だけですが、警察官が途中で気分が悪くて退出してしまって、ライティング係がいなくなって大変だったことがありました。

本村:人手が足りないから、警察の皆さんも大切な解剖補助要員なんですよね。執刀医が解剖しながら「ここのところに出血があります」とか傷の詳細を話して、書記がそのままパソコンに入力して行く。執刀医と書記は自前のスタッフだけど、そこまでが精一杯。ライティングも写真の撮影も、周囲にこぼれた血液の掃除も器具の運搬も、警察の皆さんに手伝っていただかないと、解剖の現場はちょっと回らないですね。

テーマ4 裁判と法医学

ドラマ『アンナチュラル』では、検察側の証人として出廷した主人公が、女性であることや若いことを理由に、「感情的」「信用できない」などと侮辱される場面があった。実際の法廷はどうなのだろう?

吉田:私はまだ裁判に行った経験がありません。

本村: 死んだ人ではなく、生きている人の傷を鑑定して、法廷に呼ばれたことがあるんですが。「これは何かに殴られてできた傷で、家庭科とかで使う竹製の30㎝物差しだと思われる」と検事さんが話して、私も「木材でも矛盾しない」というようなことを答えたんです。そうしたら弁護士さんが、「竹は木ではないので、木で矛盾しないというのはおかしい」と。突っ込むならもっとべつに大切なことがあるだろうと思いました。
ただ、特に「女性だから」という話ではないと思います。

千葉:教授とかから聞いた話では、昔は弁護士が法医学者を挑発して怒らせて、ちょっと動揺させところで、「こんな感情的な人間による鑑定の信頼性は低い」というようなことが結構あったようです。ただ、私が出廷するようになったのは裁判員裁判が始まってからなので、明らかに不当な挑発とかをすると裁判員の心象が悪くなるとかいうこともあり、あまり露骨な挑発をする弁護士さんはいなくなったと伺っています。 私も、女性だからということで侮辱されたり、困ったりしたことはないと思います。

それよりも、科学的な根拠をもとに話し合うというのが徹底されていなくて、情緒的なところとか、心証で争いがちなところがあるように見えることの方が微妙だな…と思います。解剖結果について検察側と弁護側の意見が対立したような時に、一人の証人の個人的な経験や気持ちと、教科書に載っていたり論文がいくつかでているようなことが同じようなレベルで取り扱われて、吟味されていたりすることとか・・・。

例えば、司法解剖の鑑定書なんかの書類を裁判で証拠として使うには、弁護側と裁判所の同意が必要になるんですけど、色々な経緯があるみたいなんですが、いま、裁判所が鑑定書について原則「不同意」とすることが多くて、鑑定書が証拠として採用されなくなってしまっています。そうすると、裁判で鑑定書が使えないので、執刀した鑑定人を証人として裁判に呼んで説明してもらおう、という話になるんですけど。

死因などの鑑定内容が争点になった時に、解剖の結果について、たとえば執刀医の私が「ここの骨が折れて、周りに血が出ています」と言っても、それを直接見ていない弁護側の“経験豊富な”別の証人が写真なんかを見て「いや折れていないし、血も出ていなかった」と言ったりすることがあります。
この食い違いをどう評価するのかっていう時に、科学的に考えるのなら残っている客観的な証拠、写真や解剖記録を調べるのが妥当なんじゃないかな、と思うんですけど、鑑定書は証拠採用されていないので裁判で使えず、裁判官や裁判員は写真を見られない仕組みになっています。裁判長に、写真をみなさんに見せても良いかと聞いても断られたりしますし。それで、じゃあ何で判断するのか、っていう時に、それぞれの証人がどれだけもっともらしいか、信頼できそうか、で決めようとしているみたいにみえます(笑)。それは裁判所が人を裁こうというときに、法医学者からすると、科学的な正しさとか客観的な証拠とかを第一には考えていないという姿勢のあらわれなんじゃないかな・・・・・・と思います。・・・ていうかすごい長く一人で喋ってすみません。

吉田:通常臨床だったら、医者がする診断に対して圧倒的な権力で押さえつけてくるべつの専門家集団というのはありえないわけですよ。ところが法医学の領域では、法律家がいて、裁判があって。せっかく長時間かけてやった大掛かりな検証が、ちゃんと活かされていない現状がある。(異状死体の)解剖率の低さも問題ですが、せっかく解剖しても、やったことが機能していない。そこは一番難しい問題ですね。他の医療分野とは全く異なる部分です。

本村:警察も検察も弁護側も、自分たちの考え、ストーリーにあう証人を連れてきますからね。

千葉:本当にそうですね。

本村:実際に解剖して、鑑定書を作って、提出してという労力を完全に無視して、ストーリーに合う内容だけしか裁判で出さないことができてしまうというのが根本的におかしい

千葉:あと、あんまり鑑定の根拠を聞いてこないですよね・・・。「どうしてそうなんですか。あなたがそう思っているだけなのか。あなたの経験をもとに思ったのか。法医学の教科書に載っていることなのか。事例報告がいくつかでている程度なのか。」…そういうことを尋ねるのが、司法の仕事であってほしいという期待を捨てきれません。証人は、聞かれたことしか答えられないので。

テーマ5 若手の悩み

ベテラン陣に比べ、若手二人には鬱々とした悩みがあるようだった。1つは、大学で働く医師なら誰もが抱えているような悩み、もう1つは、法医学で生きていくことをめざす医師ならではのものだった。

星岡:個人的な悩みですが。私はこの3月で大学院を卒業して、4月から職員になりました。大学院のときに、研究と解剖もさせてもらっていたのですが、研究と解剖の仕事を両立できなくて、最後の方は「研究に集中させてください」と無理やりお願いして、解剖を休ませてもらいました。職員になったら、研究に加えて、学生の教育とかもしないといけないし、解剖の回数も増える。ますます忙しくなったら、私は一日をどうやって過ごして行けばいいのでしょう。上手く時間を使える自信がなくて、すごく悩んでいます。

浦邉:私もそこは怖いです。この上さらに教育なんて無理です。

本村:真面目ですね。実際、それらすべてを100%でやろうとしたら時間が足りません。講義もしないといけないし、実習もある。学生さんの相談にも乗ってあげないといけないし、その間にコンスタントに解剖も入って来る。解剖に付随するいろんな作業もあるし。研究もしないといけない。

吉田:でもそのへんは、法医に限らず、医師全体が抱えている仕事です。臨床医はむしろ、もっと忙しいかもしれないです。教育はもちろん、臨床の診療プラス入院患者さんとかの管理とかも入るようなところだとしたら、本当に研究できる時間はゼロ。
だから、そういうことで悩むのは、逆にやろうと思ったら全部やれそうぐらいな状況なのかなという気がしてしまいますね。

星岡:臨床の先生方のほうが断然お忙しいのはそのとおりだと思います。私が個人的に、自分の時間の使い方が上手くないのだと思います。

本村:私はだいぶ手抜きを覚えてしまって(笑)。星岡さんは万事丁寧だし、全部全力投球だから。自分のなかで、多少ここは目をつぶるみたいなポイントをみつけたらいいと思います。どこで目をつぶるかは、それぞれの価値観によりますね。

星岡:ある意味なにも考えていないというのが正直なところですかね。あれもこれもと今は思っています。

本村:適当でいいんですよ。

吉田:だけど、手を抜くといっても、本村先生の場合、たぶん抜いたつもりでも他の人よりも実際は抜けてないですよね。
ただ、矛盾したことをいうようですが、ワークライフバランスとか最近流行っていますが、私はいやですね。それはある程度、一生懸命限界までやってからの話だと思うんですよ。医者人生の前半期は死ぬほど働くのが当然みたいな気持ちの人が、たぶん医者になっているはずだから。(星岡さんみたいに)最初は時間の調整の仕方が分からないというのは正しいと思います。

浦邉:私はまだ、大学院2年目なので。研究をして、大学職員になるための業績を出さないといけないというのが一番ストレスフルかなと思っています。

法医学の研究って、こうやればいいという指針がほとんどなくて、自分がやりたいことをやっていいよという世界なんですね。私は法昆虫学といって、日本ではほかに1人しかやっていない分野の研究をしているんですが、直接指導してくれる人もいなければ、日本語の教科書も論文もない。とても面白い分野ですが、自分で一からやっていくしかなくて、ちゃんと結果を出せるのか不安になります。

臨床の医師の場合、大学院生になったらまず、上の先生の手伝いからはじめるというのが、経歴の積み方だと思うんですけど。法医学は上の先生方の専門がバラバラ。特にうちは教授が「自由にしていいよ」というスタンスなので、もう全員違うことをやっているといっても過言ではないです。

ほかの大学では、この研究室はDNAをやっているからDNAをやる とか、中毒をやっているから中毒をやりなさいみたいな指導もあるようですが。研究者第一歩としてそういう課題を与えられる環境が、私は自発性に乏しいのでうらやましいなと思ってしまいます。研究者向きではないのかもしれませんね。

本村:難しいですね。自分がやっていることが本当に先進的で、将来ものになるものかどうか見極める力がない時点で、それをやらされるのは。

千葉法医は非常に自由度が高くて、まだ確立されてない部分も多いので、そこにやりがいを見出すことも可能なのではないでしょうか。

本村:ここで4年間修業を積んで卒業したら、それはほんとどんなところでもやっていけるということだと思いますよ。

浦邉:解剖手技や鑑定書の記載方法などについては、ここは指導してくれる先生も解剖数も多いので非常に勉強になりますが、法医学者としての研究実績をどう積んで行けばいいのかは試行錯誤。ロールモデルがない。自由があるのはいいけど結果を出さなければいけないので、冒険と挑戦と不安ばかりかなとも思うところがあります。

星岡先生は、毎朝一番早く来るし、いつも最後に教室を出てカギを締める係ぐらいのレベルで頑張っているけど、私はもう既に手抜きを覚えてしまって、最低限のことぐらいしかしてなくて。やばいなという気持ちは持っているんですけど。

星岡:最近はいつも最後というわけではないですよ。浦邉先生が入った年が、私が博士論文を書き上げなければいけない年だったので、そういう日が多かったけれど。

吉田本村:焦らないでいいの。

浦邉:どうにかなると皆さん言ってくれるんですけど、どうにかならなかったらどうしよう。

千葉:それでも。浦邉先生なら、ちゃんとどうにかなりますから…(笑)

浦邉:やっぱり臨床の先生だと、仮に何かあっても、なんとか生きていく術があるじゃないですか。博士号取得も必須ではないし、ここの病院が合わなかったから、べつの病院に行こうとか。でも法医ってポストがないので、簡単に異動できないじゃないですか。

法医学で生きていくには、大学職員にならないといけなくて、それには博士号が不可欠。それが今、すごく高い壁として、私の前に立ちはだかっています。
それなら臨床医になりたかったのかと言われたら、そんなことはなくて、法医学以外にやりたいことがないので、やるしかないんですけど・・・。

一同:大丈夫だよ、落ち着け、落ち着け。

吉田:私は今、人生で一番幸せですね。浦邉さんとは真逆で、とにかく人がやっていないことをやりたいという想いで、ここまでたどりついたので。
そういう意味では、法昆虫学ほどではないですが画像診断もほんとやっている人がいないし、ものになるかどうかも微妙なんですけど、すごく面白いですね。ほかの専門家と繋がれるのも臨床ではないことだし、自分で考えて進めて行ける。モチベーションを高く持ち続けるのは、難しいかもしれませんが、私は、どうなるかわからないほうが燃えるタイプなので、なんの不安もないですね。

テーマ6 法医学ってどうですか?

問題があるいろいろとある法医学の世界。しかし、彼女たちは法医学を愛し、変えて行かなければならないと強く感じている。

吉田法医は女性にベストな職場だと思いますよ。多職種とのコミュニケーション、発想力、気遣い、想像力が活かせます。臨床だとどうしてもいろいろ限界が見えてきてしまうと思うのですが、ここはまったく別世界。面白い分野を探している人も、今既に臨床医をしている方も含めて、ぜひ法医になってみてください。日本の死因究明を変えていく原動力になれるという非常にダイナミックな今があります。現状悲しいからこそ、それを変えていく仲間になってください。

星岡:法医学に興味を持ったら、うちの教室は特に、見学など受け入れていますので、お越しください。色々な研究をしている人がいるので、それぞれやっていることを聞いてみるのもいいかなと思います。

千葉:女性だからと言うことで不利益をこうむることは、うちの教室ではたぶんないと思いますから、興味があるのならやってみたらいいと思います。

吉田:事実じゃないことは言わない、科学的なコメントって感じですね(笑)。法医学者っぽい。

千葉:あ、つい…すみません(笑)

浦邉:うちの教室では男女関係ないですし、緊急の解剖が入ることもそうそうないので、働きやすいと思います。法医学の女性って強そうとか厳しそうとか、へんな見方をされがちですが、そんなことないですよ。

本村:基本的に法医学は、テレビドラマのように事件を解決するみたいなことはしていないんですけど、モノを言わないご遺体から、死因につながる証拠を少しずつすくい上げて、亡くなる過程をつまびらかにできたとき、非常にやりがいを感じます。特に事件性が見逃されて、病気で亡くなったと思われていたものが、実は外傷によるものだったというような事実を見つけられたときはそうですね。

あと、ちょっと未来の話になりますが、遺伝子の異常とかもきちんと見つけられるようになれば生きている方々に対して、「こういう病気が潜んでいる可能性があるので、ご親族の方も検査をきちんと受けて、必要であればきちんと治療してください」という助言ができるようになる可能性もあります。

扱うのはご遺体ですが、結局は生きている人のための学問でもあるんです。薄暗い解剖室にこもっているだけではなくて、そこから未来を見ている学問でもあります。
受け皿も少なくて、就職先にも迷うし、あまりお金持ちにもなれないですけど、やりがいはありますし、ある意味、どこも未開の土地だらけなので、何をやっても先進的と言われる分野です。ぜひ、ご興味を持たれたら、見学にいらしてみてください。いつでも歓迎しております。

   *   *   *

「科学的な根拠をもとに話し合うというのが、徹底されてないですね。情緒的なところとか、心証で争いがちなところがある」という千葉文子先生の発言が印象的だった。
科学がめざましい進歩を遂げている時代にあって、犯罪捜査、司法の現場における、この後進性はなんだろう。
法医学による客観的で科学的な証拠保全がないがしろにされている現状は、生きている私たちの安全・安心がないがしろにされていることとイコールなのに、なかなか問題視されないのがもどかしい。
「法医学は女医に向いている」という。女性がこぞって法医学の世界に参入するようになったら、未来は変わるのか。変えてほしいと願わずにはいらない。

※1 『アンナチュラル』とは?
ドラマの舞台は、不自然死究明研究所(英:Unnatural Death Investigation Laboratory)= 通称UDIラボという架空の研究機関。UDIラボは、日本における不自然死(アンナチュラル・デス)の8割以上が解剖されないままという先進国中最低水準にある解剖率の状態を改善するために設立され、国の認可を受け全国初の死因究明に特化した調査を行い、警察や自治体から依頼された年間約400体の遺体を解剖調査しているという設定だった。ヒロイン(石原さとみ)は法医解剖医。「法医学は未来のためのもの」という信念のもと、毎回さまざまな「死」を扱いながら、その裏側にある謎や事件を解明していく姿が共感と話題を呼び、“最も質の高いドラマ”に贈られる『コンフィデンス』ドラマ賞など、多数の賞を獲得した。

 文/木原 洋美

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