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2018年06月20日

医師夫婦、2人の出産・育休日誌
第4回 夫婦のこれから 夫のキャリア編

臨床医として、妻として、母として、娘として。
さまざまな社会的役割と、自分らしい生き方との折り合いをどうつけてゆくのか。

この答えのない問いに、多くの女性医師が日夜向き合っている。
それぞれ別の関東地方の病院に勤務する、精神科医の上岡真紀先生(仮名)と産婦人科医の上岡康先生(仮名)は2016年に結婚した夫婦。第一子を出産した際には康先生も育休を取得し、家族3人で水入らずの時間を過ごしたという。産後1ヵ月のタイミングで、医師カップルの子育てと今後のキャリア展望についてインタビューを行った。

5回シリーズのうち第4回では、康先生の産婦人科医としての今後のキャリアプランを中心に話を聞く。

<バックナンバー>
第1回:思いがけないタイミングでの妊娠
第2回:立会出産〜産後 実家に頼らず過ごした理由
第3回:妻と夫 それぞれの育児休業

お二人のプロフィール
上岡康先生(夫・産婦人科医/仮名)
30代/関東某病院勤務/関東出身。地方国立大学の医学部を卒業後、医師となる。
上岡真紀先生(妻・精神科医/仮名)
30代/関東某病院勤務/関東出身。文系学部を卒業し、社会人を経て、地方国立大学医学部に学士編入。30代で医師となる。

子どもが生まれて、キャリアの上であきらめるべきことが明確になった

—————インタビューの前半では、ご結婚、妊娠、そして出産や育休期間についてお聞きしました。後半ではお二人のキャリアについて教えて下さい。まず真紀さんに質問ですが、一度文系学部を卒業されているんですよね。

真紀(妻):はい、東京で一度文系の学部を卒業して、しばらく社会人を経験した後に、学士編入を受け入れている地方の国立大の医学部に入り直しました。
もともと心理学や精神医学に興味があって、高校時代も進路に悩んだのですが、文系科目のほうが得意だったしその時は文系に進んだんですね。でも30代を前にして「もうやり直しがきかないな」と思ったときに「やっぱり精神科医になれるものならなってみたい」と考えて挑戦しました。

一方、夫のほうはストレートで医師になっていて……。わたしのような紆余曲折を経てきた人間から見ると、非常に冷静な進路選択をしてきた人だなぁと感じます。

康(夫): いやぁ、わたしは地方の国立大学で学んだので「都会で一度学生生活を送ってみたかった」って思ってますよ(笑)。

真紀(妻): そんなわけでお互いにお互いが持ってない経験をしているんですよね。精神科を選んだのは、もちろんもともと関心があったからなんですけど、いま振り返ってみると30歳を過ぎてから医師になって子どもを産むのであれば精神科しか無理だったんじゃないかと考えるんですよ。

一人前の精神科医になるのにもやっぱり10年以上かかりますけど、精神科ではプライベートな時間は比較的確保される傾向にあると思います。科の性質上、そうでなければ精神的にもたないためですが。一方、内科系、外科系の医師が一人前になるまでの私生活の削り方というのはすさまじい。産婦人科医の彼だって実際、病院に住んでいるような暮らし方をしていますし。

だから医歴のスタートの遅いわたしの場合は、内科や外科で一人前になることを目指した場合、出産・育児とは両立しえなかったように思います。学士編入や再入学から医師になる人でもそれが実現できるタフな人はいるにはいるのでしょうが、自分にはそれは厳しかっただろうと。

本当は、もしもストレートに医者になっていたら、やっぱり総合診療的に内科も診られる精神科医になりたかったし、いまでもその姿に近づきたいという思いはあります。精神科に通院されている患者さんにとっては「精神科医がかかりつけ医」という部分もあると思いますから。だからこそ冒頭でお話した救急診療のローテートにも手を挙げたわけですし。

でもこの子が生まれて、あきらめるべきところがはっきりしたように思います。「まず内科を3年やって、それを経て精神科医に……」といった道にいまも憧れはありますけど「わたしにはそれはもう無理なんだ。精神科医としてやれることをしっかりやろう」と出産を経て思えるようになりました。

勤務先の上の先生にも、女性で社会人経験を経てから精神科医に転身したという方が複数おられるんですよ。そういう方が責任あるポストについておられて、かつもう大きなお子さんもいらっしゃったりします。非常に大変だったのでしょうけれど、職業と子どもを持つということを両立させているロールモデルが身近にあるというのは心強いですね。ちょっとロールモデルにするには有能すぎる上司だな、とは思いますけど(笑)。

妻の勤務時間や収入に合わせて、男性側が働き方を変えてもいい

—————一般的に、子育て期ではキャリアのしわ寄せが女性に偏りがちだと思うのですが、どう考えていますか。

康(夫): うーん。わたしは妻の働き方に合わせて自分のほうが働き方を変えていくのでもいいと思っています。わたしはそれほど野心家でもないですし。けれど子どもが生まれてみて「ああ、きちんとお金を稼ぐって意味ではがんばらなきゃいけないな」と思うようになったんですよ。やっぱり収入をキープするというのは重要なことだと考えるようになりました。

医者という仕事のいいところの1つに、ある程度がんばったら収入がついてくるというのがありますよね。なので彼女の働き方に合わせて、わたしのほうの収入を調整していくというのも一つ、やり方としてはあるのかなと考えています。

真紀(妻): 産休に入る前からすでに収入の差はあったんですよ。まずわたしのほうが医歴が短いですし。そして妊娠後は当直もしなくなって固定給のみになったので、男性と同等に働きたいと思ってきた身としては「うーん」という忸怩たる思いはあります。

仮にですけど、もしわたし一人で二人の年収合算分を稼ぐことができたとしたら、彼は「自分が仕事を辞めて家で子どもの面倒を見ているのでもいい」「いや、むしろそうしたい」って話すんですよ。「本心から子どもと一緒にいたい人なんだな」っていうのは感じますね。

康(夫): でももしわたしが専業主夫をやったら、夕飯は毎日できあいの弁当になっちゃうな(笑)。

真紀(妻): ふふふ。夫からは「育休で子どもとべったりでいられるのがうらやましい」ってよくいわれるんですけど、こっちは今後のキャリアの不安もあるし、ちょっと複雑です。

女性医師は最短2ヵ月で復帰。男性がそれ以上育休を取るのは……

—————今後、育休取得を計画している男性医師に伝えたいことはありますか?

康(夫): 1ヵ月の育休期間は、本当に幸せな時間でした。新しい家族の始まりにゆっくりと時間をかけて向き合うことができた。だから育休を取れないだろうかと迷っている男性がいたら、ぜひと勧めたいですね。

職場環境という意味では、若手医師たちは「先生、がんばって育休取ってくださいね」と応援してくれていました。実際に取得したことで、後輩にとって少しは以前より育休をとりやすい状況をつくれたのかな、と振り返っています。だけど休みの期間を有休と合わせて1ヵ月にしてしまったので「男性の育休は1ヵ月」という前例をつくってしまったともいえるかもしれない。その点は少し気になっています。

一方で、臨床現場でのブランクはできるだけ短くしたいと考える女性の先生もいますし、あるいは、医師という職業柄、女性であってもその人が家計の中心を担っているという家庭もあって、出産の当事者であっても育休はほぼ取らずに産んでから2ヵ月程度で復帰する先生もいらっしゃる。産後の女性であってもすぐに復帰するし、当直もする。そういうものだという前提がありますから、「産んでないやつ(男性医師)が女性よりも長く休むのか・・・?」みたいな、年配の先生からはそういう視線があるのは確かです。
女性自身が早く復帰しているのにっていう状況下で、男性医師の2ヵ月以上の育休はいまの段階だとやはり取りにくいのかもしれませんね。

真紀(妻): 産んでる人間が2ヵ月で復帰するのに、産んでない人間がねぇ、ってなっちゃうよね。

康(夫): ははは。今回のわたしたちの出産と同じようなタイミングで、職場の他の男性医師の奥さまも出産だったんです。その先生は育休はとらなかったのですが、今回のわたしの育休を後押ししてくれました。

その先生はわたしと違って医局派遣なので、育休は取りにくかったのかもしれませんが、それでも嫌な顔をせずにわたしの育休に賛同して下さったのでありがたかったですね。
仕事のしかたにしても、プライベートのあり方にしても「いろんなかたちがあるんだ」「あっていいんだ」っていうのをみんなが共通認識として持っておかないと、お互い息苦しくなっちゃうんじゃないかなって思いますね。

産婦人科医としての今後のキャリア展望

—————康さんのこれからのキャリアプランについて教えて下さい。

康(夫): 妻の妊娠中に専門医の試験があり、無事に合格しました。専門医取得後はさらに、サブスペシャリテリーをどうするか考える必要が出てきます。

産婦人科のサブスペシャリテリーでは、大きなものとして婦人科腫瘍と周産期があります。婦人科腫瘍にも魅力ややりがいを感じますが、自分の場合はどちらかといえば周産期だろうかと考えています。もともと産婦人科を目指したきっかけもお産に魅せられてでありますし。

ただ、子どもも産まれ、家族と過ごす時間も大切にしていきたいので、これからは仕事とプライベートのバランスを探っていきたいと思います。妻が育休中ですから、本当の意味での夫婦共働き状態はまだ経験していません。妻に甘えられる現状とは違い、彼女が復帰してからが正念場だと思うので、そこから働き方であったりサブスペシャリテリーであったりを模索していくことになるのかと思います。

真紀(妻): いま、悩み多きステージだよね。

康(夫): うん。

もっと多様な生き方や仕事のスタイルが許される世の中に

—————出産、育児を通して気がついたことや、今後こんな世の中になっていけばいいのにと思うことなどはありますか?

康(夫): もっと多様なあり方、やり方が許容されるようになってほしいと思っています。本当は男性も希望する人はみな育休が取れるようになれたらいいですよね。
わたしは幸い1ヵ月の育休を取ることができましたけど、それって職場自体にゆとりがないと難しいことだと思うんですよ。所属している産婦人科には20名近い医師がいますが、医師が数名しかいない科とかだともっと厳しいはずなんです。
病院や科によっては、医局派遣の先生に「派遣中は妊娠しないように」といっているという噂も聞きますし。

—————それは表に出せばセクハラ、マタハラにあたる発言でしょうけど、働いていると現実としてそういう言動に出会うことは頻繁にありますよね。

康(夫): そうですよね。だから育休だけの話じゃないと思うんですよ。
うちの科では「子どもが熱を出したので」と、急に早退しないといけなくなってもカバーできる余裕があるんですけど、それは人的なゆとりがないと物理的に実現できないことなんですよね。考え方とかでカバーできることではないんです。

—————30年近く前の個人的な話ですけど、うちの両親は自営で店をやっていて、妹を出産する直前まで母は立ち働いていました。夜中に店を閉めたあとに「あっ」っていって自分で車を運転して病院にいって、朝5時には産まれていた。そういう思い出があります。物理的余裕がない職場では産休という概念自体、存在しえないんですよね(笑)。

康(夫): うわー、それ『魔女の宅急便』みたいですね(笑)。パン屋のオソノさんが「あんた、生まれるよー!」っていって、だんなさんがあわてて。でもそうか、個人経営だとそうなりますよね。

ほんとに、これから子どもも大きくなっていって急な病気になるとかケガをするとかいろいろあると思うんです。自分も医師という働き方をしていて子どものそういう場面にどれくらいきちんと向き合えるかって、所属している組織の物理的な許容度にもよると思うんですよ。制度とか雰囲気とかだけでなんとかなる話ではないんですよね。

これは子どもを持っている人だけの話じゃなくて、誰にでも仕事以外の生活部分というのがあるわけですから、そういうところと職業とをどう両立していけるのか。もっともっと柔軟な社会になっていってほしいなというのは強く思っています。

次回最終回は「夫婦のこれから 妻のキャリア編」をお届けします。

文/松田 ひろみ 

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