3901827e e198 4906 b857 2db9adf78730ワークスタイル
2018年08月16日

0歳児ママ女医が大学病院、フルタイム、当直アリ勤務を乗り切る方法とは――自らを実験台に奮闘する昭和大学呼吸器アレルギー内科 伊田瞳先生

昭和大学呼吸器アレルギー内科で、ママ女医第2号となった伊田瞳先生。出産後、わずか3カ月で職場復帰。大学病院でフルタイムの当直あり勤務という、ハードルの高い環境に敢えて挑む決意をした背景には「後に続く後輩たちの実験台になる」という想いがあった。研究好きな伊田先生らしさが光る家事時短法や、夫選びの極意とパートナーとの家事協力法、ママになったことが仕事のプラスになったお話など、仕事も子育てもあきらめたくない女医たち必見の情報が満載です。

医局の後輩のために
ワークライフバランスの症例を作る

今年4月、産後3か月で職場復帰した伊田瞳先生。昭和大学呼吸器・アレルギー内科での勤務に加え、4月に開設された睡眠医療センターのセンター員として、8時半から17時までフルタイムで勤務している。

医局で出産したのは自分がまだ2人目。今後、後に続くであろう多くの後輩たちのためにも「親と同居していない状態で、どこまでできるのか。まずは、自分が実験台になって、いろいろ試してみようと思ったんです」と明るい笑顔で話す伊田先生。間もなく始まる当直についても、自然体で受け入れると、肩に力が入りすぎていない様子だ。

「子育てをしながら、これまで通りのペースで仕事も続けるという選択は、当医局ではレアケースですから、失敗することもあるかもしれません。でも、その失敗だって後輩たちの参考になると思うのです。例えば、『こんなサポートがあれば、ここまでだったら働けるかも』とか、『自分にはこの支援がないんだから、どんなに頑張っても無理だよね』といった具合に、比較・検討材料になる症例を、どんどん作っていけたらいいなと考えています。と言っても、後輩に同じことをやって欲しいとは思っていなくて。私が勝手に実験台になろうとしているだけなんですけどね(笑)」

子育てと仕事を両立するために、まず伊田先生が手を付けたのが、家事の徹底的な時短だ。

「育児の手を抜くというのは、心情的にやりにくい人がほとんどですよね。でも、家事ならどんなに効率化しても、後ろめたさは感じません。私は育休中に家事をどこまで時短できるかということを、ひたすら考えていました(笑)」

研究を重ねて編み出した
4つの家事時短法

来たるべき仕事復帰に向けて、伊田先生が考えだした“マックス家事時短法”は以下の4つだ。

1.食洗機とロボット掃除機を導入

妊娠がわかってすぐに購入したのが食洗機とロボット掃除機。これまで使っていたドラム式乾燥機付き洗濯機と合わせて、時短家電3つを使いこなせるように日々研究を続けた。「どのタイミングで食洗機を回せば最も効率がいいのかなど、時短家電に自分の生活リズムを合わせることがポイント」だという。

2.食材宅配サービス

出産直前に新たに導入したのが食材宅配サービスだ。実は、使いこなすコツを会得するために、少々時間を要したという。理由は、注文後1週間後に食材が届くため、利用に際し2週間後の献立を組み立てたうえで注文しないといけないからだ。
「2週間のサイクルをつかみ、うまく回せるようになるまでに約2か月かかりました。元来、女医は考えることは得意ですから、コツさえつかめば、仕事復帰の大きな味方になってくれます。面倒な買い出し時間も、“今日は何作ろう・・・”と献立に悩む時間もカットできる。私はこのおかげでフルタイムに復帰できたと思っているくらいです(笑)」

事実、仕事復帰後は一度もスーパーで買い出しをしていないという。保育園のお迎えから、そのまま帰宅できる。このメリットはワーママにとっては外せない要素だろう。

3.ベビーシッター

仕事復帰後の子どもの突然の病気や、何らかの理由で自分が動けなくなった時のバックアップ体制を整備するために、ベビーシッターを確保。現在は週1回の利用で、外勤先に出勤する際、朝早くに出なければならない日に、保育園までの送りを依頼している。

4.家事代行サービス

仕事復帰後に利用を開始したのが家事代行サービス。当直がなく、週に1日半休があった最初の3カ月間に、日々の生活に家事代行をどのように取り入れるのがいいのか研究したという。その結果、月1回、野菜を中心とした作り置き料理(約20皿分)を依頼することに。

「メインの料理は肉を焼くだけなど簡単にすますことができるため、自分で作ります。でも、副菜となる野菜料理は意外に仕込みに時間がかかる。そのため、その部分を外注することにしました。作り置きをチンする間に、主菜は自分で作るのが我が家の時短テク。作り置きを2品解凍する際には、1品は湯煎にするのも無駄な時間を作らないコツです」

伊田先生にとって大きな壁となったのが、離乳食づくりだった。

「初めて作った時に、『こんなの無理だ!』って泣きわめいてしまったんです(笑)。その思いをそのまま家事代行さんに話したら、わざわざ勉強してくださって。『こういう形であれば、作れますよ』と言ってくださり、以後は離乳食もお願いすることにしました」

このような良い家事代行やベビーシッターに出会うためには、自分が選ばれる“いい客”になることも大事なポイントなのだとか。いかに自分が「お得な客」になるかがカギだという。

*さらに詳しい時短ノウハウは先生のブログをご覧ください。

ワンオペ育児回避のカギは
パートナー選びと夫婦の協力法

上記の4つは導入済み。それでも両立は簡単ではないという先生も、読者のなかにはいらっしゃるだろう。次にポイントとなるのは「パートナー選びと夫婦の協力法」と「子どもの性格」だと伊田先生は話す。

放射線技師の夫は医師の働き方への理解もあり、結婚当初から仕事も応援してくれている。また、育児にも積極的に関わりたいタイプなのだとか。

「実は、最初の結婚相手は医師でした。仕事に余裕がなかったのもあり、結婚後もお互いのキャリアを尊重しあうということができず、うまくいきませんでした。そんな経験があるから、自分は医師との結婚が向いていないと気づき(笑)。次に結婚するなら、絶対医師以外でと決めていました(笑)」

将来、フルタイムで仕事を続けるには、ワンオペ育児となったら不可能であることがわかっていた伊田先生。いかに夫にも家事にコミットしてもらうか、いろいろ工夫を重ねたという。まず取り組んだのが、復帰後を見越し、勤務時間に相当する時間帯は、たとえ育休中であっても家事をしないということ。

男性は家事の存在に気づいていない場合も多い。だから、“家事やってよ”というだけではうまくいかないんです。家事ってこういうことがあるんだよと見せることがスタート。それができて初めて “これだけのことをやらなきゃいけないんだ・・・”“あれ、妻ばかりやってる?”と気づくことができるんです」。

今では夫が朝起きて出勤するまでと、子どもが落ち着いている夜8時以降に、二人で家事をするのが伊田家のルールだ。

家事をすべてイーブンにするのは、実際のところあまり効率的ではありません。夫婦のどちらかがメインになるのは仕方がないこと。大事なのはメインの人(伊田先生宅の場合は妻)がサブ(夫)をいかにうまく動かすか。そして妻の家事とサブの夫の家事をはっきり明確にして、お互いの担当の家事には手を出さないことです。妻が我慢できずに手を出してしまうと、夫の仕事がなくなってしまうので、夫は「やらなくていいんだ」と思ってしまいます。例えば、お皿を洗ってもらったのに、洗い方が気に入らないと、妻がもう一度洗いなおすのはNGです」

夫婦の約束事は、お互いのキャリアを尊重し合い、子どもを一緒に育てること。

「夫が研究で忙しい時は私が仕事をセーブ、私が学会発表などで家を空けるときは夫が仕事をセーブする。そんな関係性がとても気に入っています」

また、復職の時期は子どものキャラクターを見て決めることも大事だという。

「生後2カ月ぐらいで、この子は私と性格が一緒だなと思いました。家にいると泣きわめき、1日1回は外に出て、何かを見せてやらないとストレスで泣くような子で(笑)。おもちゃを見ると、その瞬間私のことを完全に忘れて、30分ほど遊びに没頭するんです。これほど、外の世界に興味を持っているなら保育園に預けてもいけると確信し、生後3カ月で復帰することにしました」

いよいよ始まる当直について、息子が一晩ママなしで過ごせるか少し不安だが、不測の事態に備え、伊田家の子育てチームのメンバーの一人である妹の家でも、現在お泊りトレーニングを実践中だという。

支援のない現状を嘆くより
今できることを全力で

伊田先生が大学に残ることにこだわった一番の理由は、大好きな研究を続けていきたいという想いが強かったからだ。

「教授が研究に非常に力を注いでいらっしゃる方で、医局員のやりたいことは何でもやってみなさいと、バックアップしてくださいます。例えば、助教以上はほぼ全員留学していますし、日本呼吸器学会の発表などは、毎年医局員ほぼ全員が出題します。海外の学会発表も年10人以上出しているような医局なので、ずっとやりたかった研究を続けるためにも、絶対に残りたかったのです」

と打ち明ける。
そんな研究ハイパーな医局で、フルタイムのママ女医は極めて少数派。ほとんど前例がないなか、医局側も「どう扱っていいかわからないのだろう」と感じることもある

「復帰した当初は、上の先生方もすごく気を遣ってくださって、なるべく負担の少ない仕事しか回ってきませんでした。せっかく頑張って復帰したのに、何もすることがなく、時間を持て余してしまうこともありました。フルタイムに見合う仕事が与えられないことに、最初はすごくストレスを感じましたね

世の中的には働き方改革、男性の育児参加と、結婚・出産をめぐる意識が徐々に変わりつつあるが、大学病院にその波が来るのは、もうしばらく先になるのではないかと伊田先生は見ている。

「私たちの世代の医師が教授になる頃には、大きく変わると思うんですよね。でも、今は育児支援と呼べるようなものはほとんどありません。そんな現状を嘆いてばかりいても仕方がないので、今ある武器のなかで、自分でやれることを全力でやっていくしかないという気持ちでいます」

大学病院でも女医の占める割合がどんどん増えるなか、働きながら子育てもできる環境の整備が、どこの大学でも喫緊の課題となっている。

医局の全員が定時で帰れるようにするためには、全員で当直を回して、一人ひとりの負担を減らすことが必要不可決です。その意味では、子育て中の女医だって、本当は当直をやっていくべきなんだと、個人的には思います。ただ、それぞれの事情があってなかなか難しい。だからこそ、サポートしてくれるパートナー選びが大切なんですよね」

母親になったからこその気づきを強みに
今後は母子の睡眠衛生に注力したい

子育てと育児の両立はまだまだ試行錯誤の連続だが、ママになったからこそ女医としてさらに成長できたと感じることあるという。きっかけとなったのは4月から勤務する睡眠医療センターの仕事に携わったことだ。

「ここでは睡眠時無呼吸症候群などメインとなる疾病を軸に、さまざまな科の先生が関わります。例えば、私は呼吸器、センター長は循環器が専門。他にも精神科や耳鼻科、小児科、口腔外科など、普段の診療では全く絡むことのない先生方とコラボができることが大きな魅力です。別の分野のことを知ることで、世界が広がっていくと日々実感しています」

睡眠医療医として、日本の子どもの睡眠時間の短さや、働く母親の不眠などにも携わり、自分も母になったからこそ気づく問題や課題があるという。

母親と子どもの睡眠衛生については、今後もライフワークとしてしっかり勉強して、追求していきたいと考えています。睡眠医療センターのホームページも作成しており、私のブログと連動させて、睡眠に関するお役立ち情報もどんどん発信していきたいですね」

大学病院のフルタイム、当直あり勤務の呼吸器内科医。そんなワーママが特別でなくなる時代が来るように、夫や家族と共に挑む伊田先生。しかし、そこにはひと昔前のワーママが放っていたような悲壮感は感じられない。むしろ、家事の時間を減らして、子どもと過ごす時間を増やす方法を見つけることを楽しんでいるかのように、肩の力が抜けている。

「自分で試した育児や家事時短ノウハウなどは、ブログでも紹介しています。私と全く同じことをする必要は全くなくて、これはできる、これはできない、の一例として、誰かの参考になればうれしいです。後輩たちに対しても同じで、私が当直するからといって、みんなもやろうなんて言うつもりは一切ありません。あなたたちが子どもを生むときには、もうちょっと良くしておくから、待っていてねという気持ちなんです(笑)。女医さんへのメッセージですか?呼吸器内科は随時入局募集中です(笑)。新専門医制度ができた後こそ、意外と当科は穴場ですよ」

伊田 瞳先生
2012年昭和大学卒業後、初期研修を経て、2014年に昭和大学呼吸器アレルギー内科に入局。その後大学院に進学し、2015年に内科認定医を取得。2016年から大学からの出向で荏原病院(大田区)に1年半勤務。2017年に結婚。出産・育休を経て2018年に復帰。現在は、呼吸器アレルギー内科の診療と、睡眠医療センターのセンター員として勤務。仕事と子育てに奮闘する様子をブログtwitterで随時発信中。

<合わせて読みたい>
妊娠が汚点に思われた医局時代、 女性視点を貫き、拓けた未来とは。 ―産婦人科医・海老根真由美先生の挑戦―~前編~

joy.netは、女性医師のワークライフの充実を応援するメディアです。
Dr.転職なび」「Dr.アルなび」を運営するエムステージがお届けしています。
キャリアについてお困りの際は、こちらよりお気軽にご相談ください。
取材のご希望や、記事へのご提案、ご意見・ご感想なども是非お寄せ下さい

文/岩田 千加