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2018年08月29日

医師は長時間労働で当たり前なのか? 医師120名による「医師の働き方改革」への5つの提案

東京医大の女子受験生差別を引き起こした大きな要因の1つが「過酷な医師の働き方」。熾烈なブラック勤務環境の改善に取り組むことなく性差の問題にすり替え、女性受験生差別を行っていた東京医大の怠慢は、何度も何度も指摘したいし、この状況において出された「医師の残業規制に関する厚労省方針」(=一般より規制は緩く。救急、産科は上限規制の適用から除外の可能性も)にも盛大にツッコミを入れたいところ。でも、そこにだけ囚われていても建設的な議論は進みません。そこで、過酷な医師の働き方の改革には何が必要かについて、医師たちにアンケートを実施。集まった120名の医師たちの声を考察してみました。現場の最前線で奮闘する医師の声が、システムを作る側に届いて、少しでも乖離が解消されることを願って・・・。

医師たちからの5つの改善案――複数主治医・交代制、タスクシフティング、適正待遇、大病院集約化、患者意識変革

チーム担当医制及び勤務シフト制、オンコール有料化やオンコール外注による労働軽減、医師がしなくて良い仕事を他にふる、などのとりあえずの環境整備が第一。そして、マンパワーをうまく回すためには、集約化、病院アクセス制限(救急車や小児救急の有料化、老人医療費負担の見直し)など行政に絡む体制改善が必要。もっと言えば、このままでは医療費高騰か医療水準を下げざるを得ない事を国民に飲んでもらうしかない(今の体制が無理の上にあるのだから)(産婦人科、都道府県非開示)

 

複数主治医、交替制度の確立。主治医神話の排除。コンビニ受診の抑制(内科、鹿児島)

 

ノーワークノーペイの原則。当直料をちゃんと払う。時短正社員(給料はその分少ない)を入れることで、夜勤明けの外来をなくせば、短時間なら働ける医師も、当直明けの医師も、どちらもハッピーになれる。人類の残り半分を上手に使ってください。0か100か、だけではない、25とか、70とか、「スペクトラム」な働き方ができるようになって欲しい。
(産業保健、岡山)

 

男女問わず医師の数を増やすこと。オンコール制をやめてシフト制にする。大病院は集約化し、かかりつけ医への通院を奨励する。人気のある科や都市部はもっとシビアに人数制限をする。(精神科、京都)

医師たちからの提案を分類すると、「複数主治医・交代制」「医師以外の職種へのタスクシフティング」「当直やオンコール対応における適正待遇・待遇改善」「急性期機能を持つ大病院の集約化」「患者意識変革」の5つが見えてきました。それぞれの項目が意味するところ、その実現性、課題とは? 各項目について医師たちの声からさらに掘り下げていきます。

1)複数主治医制・交代制―課題は、母体となる医師数

チーム医療という言葉があるが未だ主治医制でそれぞれの医師が1人で多人数の患者を抱えている病院もある。主治医をチームにして交代で見ても同じ質の医療が提供できる方法を模索するべきではないか(改善には長期かかるかもしれないが)。少なくとも誰かの負担が大きくなってその不満を制度やシステムではなく、働く同僚に矛先向けるような状況は不健全で共倒れする未来しかない(麻酔科、都道府県非開示)

 

多数の医師での主治医制。術後集中治療専門医による管理へ引き継ぐ体制。(心臓血管外科、都道府県非開示)

 

シフト制、グループ制などにして、忙しすぎない環境を作っていけば男性、女性にとってもメリットになるのではないかと思う。(産婦人科、東京)

 

女性医師の離職率が高いのは、ベッドを持つ医師は24時間365日病院に縛り付けられる奴隷的な勤務形態が、常識とされているから。こんな前近代的で非現実的な働き方は早くやめて、シフト制、チーム制に移行すればよい。そうすれば、もっと働きやすくなるはず。(内科、京都)

主治医制でなく、複数主治医制にすれば、交代制も確立でき、1人の医師が24時間対応に責任を持たなければならない状況も改善される。さらには、複数の目による質の高い医療も実現しそうです。実際、医師からも「看護職にできていることが、なぜ、医師職にできないのだろうか。とても良い見本がすぐ横にあるのに。(産業保健、岡山)」との指摘があるほど。ただし、科目ごとに複数主治医制・交代制を実現させるには、そもそもその母体となる医師数が必要。事実、「交代制は理想だが、上司と2人体制なので現実的ではない(内科)」という声もあがっています。ある程度の規模以上の病院でないと、交代制を可能にする医師数の確保に課題が残りそうです。日本は、世界一の病院数を誇り、各病院に医師も点在。それを踏まえると、実際問題としてはまだまだハードルは大きいのかもしれません。

2)クラークや看護師へのタスクシフティング

医者でなくてもできる診断書などの書類仕事やデータまとめなどの仕事を、医療事務などコメディカルに任せて、日常診療に集中する。病院はコメディカルが少なすぎる。(放射線科、京都)

 

全て医師が抱え込む権力一極集中を辞めて、ナースプラクティショナーなどへの権利依託。また、作業効率を重視した仕事内容。当直明けの強制帰宅。長く働く=良い医師 ではないことを徹底。(内科、福岡)

そもそも医療行為でない事務作業は医師から医療クラークへ、一部の診療行為はナースプラクティショナー(NP)やフィジシャンアシスタント(PA)へ。医師に集中した業務を他職種へシフトするタスクシフティングも進めて、医師の負担を減らしたいところ。とはいえ、日本では「特定行為研修」を受講した「特定看護師」の数がまだまだ少ないという現状が大きく立ちはだかっています。。。

3)当直やオンコール対応における適正待遇・待遇改善

当直医師への給料増額。相応な金額がでれば当直志願者も増えますし、その分緊急対応など学ぶ時間も夜間に増えると思います。(腎臓内科、東京)

 

スポ根男性医師の考え方は100年たっても変わらないだろうため、システムで変えるしかない。たとえば給与体系の改革による勤務時間の制限。具体的には、勤務時間上限厳守と残業手当の支払い徹底と、オンコール待機手当の導入を提案したい。そうすると医師の給与が膨大になるので、雇い主側も、シフト制を導入して、勤務時間を制限せざるをえなくなるだろう。(内科、京都)

 

大学の給料をあげてほしい。じゃないとバイトで稼ぐしかなく、その分その病院の当直も増えて当直数増えるの悪循環。専門医取らないとって言うなら、専修医の大学の給料を上げるべき。(精神科、東京)

 

特に大学病院は医者の給料が低すぎる。時間外、休日にバイトに行かないといけない仕組みになっており、女医が子育てしながら時短で働くと、手取り15万以下になることもザラ。病院によっては専門医取るために無給で働かせているところもあり、友人は無給で働いてるので専門医取ったら辞めるってずっと言ってます。

どんな時も駆けつけて当たり前、医師には給料払わずバイトで稼がせる、時間外働いて当たり前(そもそも時間外手当が100%出る病院はほとんどない)という働き方を見直さないと、子育てしている人もそうだけど、安心して妊活できる環境にはないと思う。(小児科、都道府県非開示)

勤務医の当直、オンコール手当ての少なさは、編集部も何度も耳にし、そのたびに驚きに震えています。負担に比べて金銭的インセンティブがあまりに僅かだからこそ、妊娠や育児による当直免除の女性医師の代わりとなることに不公平感を生んだり、女性医師側も罪悪感を覚えてしまったりするもの。負担した分はきちんと金銭的インセンティブを享受する。そんな当たり前が実現するだけでも、現場の閉塞感は改善していくのではないでしょうか。大学医局の無給医制度は・・・労基法違反にならないのか心の底から疑問です(医師は労働者でないとの見解、唖然としました。。。顎が外れるほどに)

4)急性期機能の集約化

医療業界のすすめるべきことは、病院機能の細分化だと思います。厳しい症例はハイボリュームセンターに集約する。回復期や慢性期を専門に見る病院はそれに専念する。救急病院の集約、超急性期のみをみてすぐに後方病院に転院
ただ、経営のこともあり実現は難しく、それぞれ機能を分散すれば医師の専門性も高くなりすぎ、総合的な医師個人の能力は落ちるかもしれない。あるいはモチベーションも下がるかもしれない。(外科、福岡)

 

海外にならって、病院の集約化が必要だろう。中途半端な規模の病院に中途半端な数の医師が集まっても効率の良い医療にはならない。住民側も検診や生活習慣の見直しなど予防医療に心がけ、簡単には病院にかかれない状況を受け入れなければならないだろう。(産婦人科、都道府県非開示)

世界一の病院数となっている日本。特に急性期機能の集約化で、1病院あたりの医師数も増え、当直負担の軽減や交代制も実現できるかもしれません。ただし、地方やへき地の医療アクセスが極端に制限されることも避けなければならない。適正なバランスをどう取るかは、大きな議論が必要となりそうです。

5)患者意識改革

よっぽどの事でなければ、主治医以外が対応しても了承される、病状説明を当たり前のように時間外に求めるのをやめるような患者教育。(一般外科、愛知)

 

医師は24時間いつでも医療に身を捧げて当たり前の風潮をどうにかしなければ。コメディカルスタッフは「もう私担当の時間終わったんで」で済むのに、医師にはそれが許されないのが納得いかない。当番制にして、いつでも対応するわけではないことをコメディカルにも患者にも理解してもらいたい。(消化器外科、兵庫)

国民皆保険によるフリーアクセスで、質の高い医療を安く受けられる日本。世界に誇る素晴らしさとは思いますが、それに慣れすぎて「いつでも医療を受けられて当然」といった意識が根付いていることも確か。コンビニ受診、深夜のウォークインで便秘を訴える・・・など「患者側の意識に疑問を投げかけたい事例」は枚挙にいとまがないですよね。改革は、医師だけでなく患者意識にも踏み込んでいかなければ前に進めることはできません。

番外編。ちょっと極端だけどこんな改善案も・・・

医療従事者の労働負荷=医療サービスの提供総量、をコントロールするために、フリーアクセスを制限する。
治療の費用対効果を検証して効果が一定より低いものは保険診療対象外とする。
200床以上の病院で、女性医師の一定以上の雇用割合、総医師労働時間(もしくは契約時間)のうち女性医師が占める割合を一定以上にする(例えば3割、医師免許を持つ女性医師の割合によって随時割合は変更していく)すると医療費加算がつく、と言ったアファーマティブ・アクションを導入する。(産業保健、東京)

 

自治医大のように、卒業後の進路をある程度制限して、受験させるようなことがあってもいいと思う。少なくとも自由診療にはいかないとか、休職はしても廃業はしないとか。他の大学とは違って、医学部は職業訓練校の意味合いが強いので。
その分、結婚したら、単身赴任や妻が退職しなければならないようにするために勤務地には配慮するとか、そういう配慮は大学医局側には必要だと思う。結婚しているのを知っていて遠くに転勤させるとか、人の人生を何だと思ってるんだろうと思うことも少なくない。(科目非開示、大阪)

 

外科系の給料をあげる。科ごとに給料を変えるパートの方が給料が高い現状を変える。(泌尿器科、千葉)

医師の絶対数を増やす。その上で、分業やワークシェアリングを徹底して、男女問わず、子供の有無を問わず休暇・休養をきちんととれるようにする。男性だって、しわ寄せが来たら優しくなれないと思う。そのために、応召義務や国民皆保険制度の廃止。安全と健康にはお金がかかるのです。日本は資本主義社会なのだから、医療を受けたい高齢者は相応のお金を支払うべきだと思う。そうすれば、現状に見合わない医療費抑制・診療報酬抑制の動きは多少マシになるのではないか。その分のお金を人件費に当てたらいい。(小児科、神奈川)

医師たち120名からの声を聞くにつれ、その過酷な現状と一筋縄ではいかない働き方改革のハードルの高さに気付かされます。とはいえ、理想論かもしれないけど方向性はうっすら見えてきた。医療は人の命に直結するからこそ、「あるべき論」「そもそも論」ばかりで医師に負担を押し付け議論が進まない状況になりがち。でも、もう医師個人の高い責任感だけに依存した「責任感搾取」では立ち行かない状況であるのは明らかです。現状を踏まえ、前向きに現実ラインをどうデザインしていくか。真剣で建設的な議論と改革が進んでいくことを願っています。命を守る人が、命を削っていては守るものも守れなくなるから。だからこそ、「医師の残業規制は緩く」なんていう長時間労働にお墨付きを与えるような方針には、明確にNOの意思を示したいです。

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文/joy.net編集部