21511ac7 1c3e 4aee a0a7 5cad388f6f7d医療トピックス
2018年10月03日

国際派看護師は見た!オーストラリアの医療から学ぶ「医師も患者もハッピーでいられるヒント」

豪州シドニーの公立病院で、看護師として7年、放射線科専門看護師として1年、計8年のキャリアを持つ高橋奈央子さん。人気ブログ「オーストラリアでおたんこナース」の読者の要望に応え、2015年からはドラッグ乱用防止や国際看護などをテーマに日本でも勉強会をスタートされました。

joy.netは今夏、東京・大阪・名古屋で開催する看護師向け講演会のために帰国された高橋さんにインタビューを実施。日本とオーストラリアの両方の医療現場を知るナースのお立場から、日本の医療の不思議な点を指摘していただきました。折しも、日本では東京医大の女子受験生入試差別を受け、過酷な医師の働き方へ注目が集まっている時期。ブラックを前提とした勤務環境をいかに改善していくべきか。オーストラリアの医療を参考に、医師の働き方改革、救急・産科危機など、疲弊する日本の医療現場の解決策となるヒントを探ります。

働き方は週1でも、フルタイムでもOK
医師はキャリアを自分でデザインできる

―― オーストラリアと日本では、医師の働き方にどのような違いがありますか?

オーストラリアでは研修医修了後は、フリーランスもしくは勤務医という選択肢があります。フリーランスの場合は、例えばA病院に3日、B病院に2日など、医師が病院と直接契約をします。私と同い年の放射線科医は、自分の生活の質を維持するために、週4日勤務を選んでいます。平日1日は自分の時間、週末は妻との時間を大切にして、生活を充実させていますよ。妻は自分より忙しい外科医なので、食事の準備は主に彼の役割だそうです(笑)。

勤務医の場合も、日本のように「勤務医=フルタイム」という縛りはありません。まだ独立できない若いドクターは常勤が一般的ですが、専門医の場合はパートタイムや非常勤という形態を選ぶこともできます。そういう意味で、産休の取り方なども柔軟です。

もちろん、オーストラリアにもフルタイムでバリバリ働くドクターもおり、キャリアアップにも積極的です。ただ、ライフスタイルに応じてスピードを落としても、道が閉ざされないことが、日本との大きな違いでしょう。病院側も「月・火のみ勤務」など、足りない部分を埋めてくれる人材を募集するので、小さなお子さんのいる女医さんでも負担なく復帰できます。日本のように1度、キャリア研鑽のスピードを緩めたからといって、フルタイムに復帰しづらかったり、スキルアップの機会が閉ざされることはありません。オーストラリアでは、決められたキャリアプロセスに乗るのではなく、自分でキャリアを選び、そのスピードやプロセスもデザインすることができます。

女医さんは医療系キャリアの頂点のような立場なのですから、日本でも自らの意思で選択して、デザインして、長く続けていける配慮が、長い目で見たときに、大きな意味があると思います。決められたルートに乗り続けよう、外れないようにしようと苦心されるのは、もったいないですね。

―― 日本の女性医師にとって出産・育児がキャリアの壁となることも多いです。オーストラリアではいかがですか?

勤務先であるシドニーの公立病院の放射線科には約50人のドクターが在籍しており、現在産休中のドクターが6人います。医師の場合は、職場に直接交渉して産後の働き方を決めます。例えば、9時スタートの短時間勤務にしたり、オンコールや週末勤務を希望することもできます。ペースを落として働く期間も、病院と直接交渉して決めます。

病院は活用できる人材を最大限活用して、埋まらないポストはテンポラリーでフリーランスの医師などで穴埋めします。ただ、コストの関係で、病院側が女性医師にお願いして、勤務時間を増やすこともあります。ただ、募集をかけると、条件にフィットする人が出てくるので、いまのところ大きな問題なく回っています。
 
日本では休んでいる間、カバーしてくれる同僚に気を遣うことも多いですよね。私もいま、看護師長が不在の半年間、師長代理の役割を担っています。仕事量も責任も増えていますが、給料は師長待遇の額を頂いていますし、キャリアップの意味でも納得して働いていますが、給料はそのままだったら不満が出るし、そもそも引き受けなかったかもしれません。日本でも、女医さんが当直できない間は、穴を埋める人へのインセンティブなどがあると、お互いにとっていいかもしませんね。

―― 募集しても人材が確保できない場合は、どうするのですか?

そもそもオーストラリアは病院の数がとても少ないうえ、都市部に集中しています。その分、ひとつの病院のドクターの数は充実しています。それでも人材が確保できない場合は、患者の安全性が保てないと判断し、診療科の規模を縮小します。例えば、年末年始は患者の数も手術件数も減りますし、医師やナースなどスタッフの数も減ります。そうすると外科病棟まるごと閉鎖、なんてこともあります。

逆に、医師やスタッフの数が増えれば、拡大していくのが一般的です。こういう考え方は、日本ではあり得ないですよね。今の職場で「日本で働いていたときは、夜勤で患者さんを1人で20~25人診ていた」と話すと、「嘘でしょう」「そんなの無理だ」と言って信じてくれません。「そんな危険なことはできない」と驚かれるのですが、日本ではこれができるんです!日本人は好意的で、働き者な上に、同時にいろいろなことができる国民ですから、「困っている患者さんのためなら」と頑張ってしまうんですよね。

―― そういう日本人の働き方を、オーストラリア人はどう見ているのでしょう。

同僚には「日本人はなぜノーと言わないの?」と驚かれます(笑)。夜間でも一定の安全が守られて、誰もが比較的簡単に医療を受けることができるのは、患者さんにとってはもちろんいいことです。でも、それは医療スタッフの“自己犠牲”の下に、維持されているのが現実です。日本の医療従事者は病人をケアするために誠心誠意、身を削って仕事をするので、自分が病んでしまうことも多いと思います。

そもそも日本には働き方とか、自分の意思で自分の人生をデザインするという教育がありません。小学校や中学校などもっと早い段階から、キャリア教育をしていく必要もあるのではないでしょうか。

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高度医療にたどり着くには、いくつものスクリーニングが必要
過剰医療を防ぐオーストラリアのシステムとは

―― 日本では救急医療の崩壊が大きな問題となっています。オーストラリアの救急はどのような状況ですか?

オーストラリアの場合、公立病院は市民権および永住権保持者は無料です。医療費がかかりません。私立の病院は待遇や設備は整っていますが、その分高額な費用が掛かります。公立病院は誰でも無料なので、救急は常に一杯です。さらにナースのトリアージによって診察の順番が決まるため、非常に待ち時間が長くなるのが特徴です。
 
また、救急を受診しても、本当に緊急性の高い患者以外は入院することができません。私自身が4~5年前に、救急を受診しました。日本であれば、即入院して手術になるような状態でしたが、「痛みが治まったのならモルヒネを打って、3~4時間後には帰ってください」と言われてしまいました。日本で同じことをやったらニュースになりますよね(笑)。

―― 救急では緊急対応のみということですね。その後の処置はどうなるのでしょう?

まずはかかりつけ医を受診し、紹介状をもらって専門医のクリニックを受診するという流れです。私の場合は、最終的に手術は不要で、経過観察で本当にいいのかどうかわかるまでに1カ月かかりました。公立病院の医療費はタダですが、かかりつけ医の受診も、専門医を紹介してもらうことも、専門医を受診するにもすごくお金がかかります。その上、採血やレントゲンなどはまた別の施設に行かなければなりません当然ながら、予約も自分で取ります。この例からも、日本の医療がいかに手厚いかがわかると思います。

オーストラリアでは高度医療機関にたどり着くまで、いくつもフィルターが入ります。その分、大学病院などの業務は減り、本当に緊急処置が必要な患者さんに、スムーズに医療を届けることができます

費用がかかっても構わなければ、このプロセスを早めることはできます。ただし、日本のように「プラス5000円を払えば、紹介状がなくても大学病院でも受診できる」わけではありません。
日本は国民皆保険なので、安全で高品質な医療を誰もが平等に、安く受けられることは大きなメリットです。しかし、この便利さに慣れすぎてしまっている患者の意識こそが、医療の改革を難しくする要因のひとつだと思います。

―― 産科危機も問題になっています。オーストラリアではいかがですか?

オーストラリアはコミュニティー、日本でいう訪問看護が発達しています。特に問題がなければ、分娩後24時間で自宅にお返ししますが、退院後は助産師または看護師が自宅に伺い、産後のケアを行います。日本では「24時間で病院から出された」「ひどい」という感覚ですが、実は退院後もしっかりケアが受けられるのです。

当院の産科の分娩における在院日数は平均1.5日ですが、これを24時間以下にすることが目標です。患者さんを24時間で帰宅させる代わりに、訪問看護師、助産師によるケアの一層の充実を図ります。患者側も基本的には病院にいるより家にいる方がハッピーだという考え方です。入院しないのでベッド代も不要。自宅に訪問助産師が来てくれるならその方がいい、とプラスに考える人が多いですね。コミュニティーナースの派遣費用は、公立病院の予算内でまかなっているので、うまくいく仕組みが出来上がっています
 
費用はかかってもラグジュアリーなケアを受けたい人もいます。そういう人は、自分のニーズに合った病院を選びます。日本は病院によって「松」「竹」「梅」のような差が少なく、医療の質に差をつけることに、医療関係者も患者も非常に抵抗があります。しかし、各病院がある程度一律で、質の高い医療を提供しようというところに無理があるのではないでしょうか。
公立病院が提供する無料の医療にもメリットはあります。受けられる医療の差を病院単位でつけるのではなく、地域や市、県、国レベルで考えることも必要でしょう。

役割分担 ワークシェアリングの導入が
医師の負担軽減へのカギ

―― 日本の医師の負担を減らすにはどのような方法があるとお考えですか?

ひとつは役割分担です。日本でPICC(ピックカテーテル)ピックライン(中心静脈カテーテル)挿入のセミナーに参加した際、すごく驚いたのが、そのセミナーに参加していた人の中には、ほとんどPICCピックの件数をこなせないような心臓血管外科医までいたことです。

オーストラリアでピックの挿入は、放射線科医もしくはPICCピックを入れられるスペシャリストナースの仕事です。また、術後に患者が感染した場合、日本では担当医がわざわざ放射線科に行って、ドレーンを入れますよね。オーストラリアでは外科医がオーダーすれば、放射線科のドクターとナースがドレーンを入れます。外科医はオーダーを出すだけです。オペ前後の外科医はものすごく忙しいので、分担できるところは別の科のドクターに任せることで、医師の業務を軽減することは可能だと思います。

―― 米国のような「ナース・プラクティショナー(NP)」が、日本にも必要だと思うのですが、なかなか進みません。

NPに限らず、オーストラリアでは看護師が普通に、日常的に行っている医療行為を、日本ではいまも医師が行っています。例えば、抜糸やドレーンを抜くなど。これらは、NPでなくても普通の看護師でも問題なくやれます。何か異常があるときは、ドクターを呼べばいいわけです。その部分を看護師に託すだけでも、ドクターの業務はかなり軽減されます。

NP資格を推進することも大事ですが、ナースの業務をいま一度見直して、もう少しナースに仕事をさせてもいいのかなと、個人的には思います。そういう意味では、「分業」もひとつのキーポイントです。

日本で分業ができれば、私はものすごく強いと思います。日本人の国民性である「真面目さ」「正確さ」「効率的な仕事の仕方」「責任感の強さ」などが、分業に適しています。実際は、まだ分業することが悪であるかのような扱いですよね(笑)。例えば、「主治医が最後まで患者さんを診る」という意識が、日本ではまだまだ根強いですから。

―― クレーム対策ではどのようなことを心がけておられますか?

自分自身にもスタッフにもよく言っているのが「できないことは最初に言うこと」です。日本でも主治医が看取ってくれなかったことがクレームになるようですが、「この病院では主治医が看取るわけではありません」と最初に明言します。「主治医が来られない場合も、必ずドクターが来て看取ります」など、代わりにできることも説明するようにしています。
 産科であれば、分娩の前に助産師とはなにができる仕事なのか。ドクターは何のためにそこにいるのか。それぞれの役割についても説明します。大事なのは情報の提供の仕方だと思います。

―― 最後にメッセージをお願いします。

今年は私の出身である秋田県の金足農業高校が甲子園で大旋風を巻き起こしました。高校野球では、一人のピッチャーが決勝まで投げ切ることが美談とされがちです。そのピッチャーは素晴らしく、もちろん感動するのですが、海外では虐待と言われかねない起用法です。私には、日本の医療にも同じことが言える気がしてなりません。ナースもドクターも疲弊して、使い捨てのようになってしまっているのが、いまの日本の医療の実態です。

「この人がいないと成り立たない」医療では、近い将来立ちいかなくなるのは明らかです。医療を提供する側がヘルシーでないのに、患者を救うことなどできません。オーストラリアの医療体制がベストだとは全く思っていませんが、今日の話が少しでもお役に立てば、こんなにうれしいことはありません。

高橋奈央子さん
秋田大学医療技術短期大学部看護学科卒業、豪州グリフィス大学看護学士取得。日本の病院で6年間看護師として勤務。その後、オーストラリアNSW州シドニーの公立病院で2011年からRN(正看護師)、2017年からClinical Nurse Specialist(専門看護師)、現在看護師長代理(半年間)として勤務中。放射線科外来で看護師約30名、ドクター50名、放射線技師100名計185名のビッグな職場で、主にカテーテル室(アンギオ)を担当。シドニーの自宅や帰国時には、医療関係者を対象とした勉強会を開催。ブログでの情報発信も積極的に行っている。

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