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2018年10月16日

「外科系女性医師」が輝き続けるために――第一線で働く産婦人科医に聞く、働き方・環境づくり・女医本人に必要なこと

女性医師がキャリアを重ねる上で、出産や育児というライフイベントをどう乗り越えるかは大きな課題です。東京医大の女子受験生入試差別を受け、過酷な医師の働き方へ注目が集まるなか、子育てと仕事の両立をめざす女性医師にとって、最もハードルが高いと思われるのが外科系でしょう。メディアでも「女性医師が増えたら外科医不足を招く」といった極論も聞かれるほどです。そこで今回は、婦人科悪性疾患の腹腔鏡手術の第一線で活躍する、聖マリアンナ医科大学病院婦人科医長の出浦伊万里先生のキャリアを紹介するとともに、ライフもワークも輝かせ、「腕のいい外科系女性医師」となるためのヒントを探ります。

出浦 伊万里(でうら・いまり)先生
聖マリアンナ医科大学病院 婦人科医長

 

長野県出身。2000年鳥取大学医学部卒業後、同大学産婦人科に入局。同大学大学院を修了。倉敷成人病センターで腹腔鏡手術の研修を経て、日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医を取得。鳥取大学では産婦人科病棟医長として、後進の教育などにも携わる。2017年5月より現職。主に婦人科腫瘍、腹腔鏡手術を担当。日本産科婦人科学会指導医。日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医。

ライフイベントを控える女医こそ
早い段階で技術を習得すべき

元々は生殖医療を専門とし、腹腔鏡手術に取り組んでいたという出浦先生。現在の専門である悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術にシフトする転機となったのは、日本国内で婦人科悪性腫瘍の腹腔鏡手術を確立させたパイオニアの一人である、倉敷成人病センターの安藤正明先生との出会いだったという。

「内視鏡手術関連の学会で、安藤先生の手術を見たときに、惚れてしまいまして(笑)。それ以来、自分も内視鏡手術に携わりたいと強く思うようになりました。いつか先生の下で学びたいという想いを胸に、産婦人科医として日々研鑽を積み、2008年についにチャンスが巡ってきました。そこでの1年間の研修が、現在の私のベースとなっています」

当時、生殖医療に携わる者が畑違いの婦人科腫瘍を学び、専門医を取得することは異例中の異例。その道筋を作ってくれたのは、出浦先生の熱意を受け止めてくれた上司の存在が大きかったという。

「上司からは、腹腔鏡手術だけではダメだ。本気でやりたいなら、手術だけでなく、化学療法から放射線療法、緩和療法まで、がん診療をトータルに勉強しないといけない、と言われ続けました。私もその通りだと思い、がん診療に専門をシフトすることに決めました」

研修を終えて鳥取大に戻った出浦先生。しかし当時は、子宮摘出のような手術は山陰地方ではまだ行われていなかった。

「悪性腫瘍に関する手術自体、まだ保険適応外で、山陰では全く行われていませんでした。そのような状況下で約10年間、山陰地方の腹腔鏡下手術の普及や底上げ、後進の教育などに携り、大学では産婦人科の病棟医長として管理職を経験させていただきました」。 

その後、縁あって2017年5月に聖マリアンナ医科大学に入職。主に悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術を担当している。さらには、聖マリアンナ医科大学東横病院に10月から新設された低侵襲手術に特化した婦人科でも、非常勤として手術を担当し、若手医師のトレーニングの場を作り上げるべく構想中だ。婦人科医として研鑽を重ねることはもちろん、人材育成の最前線にも立つ。そんな出浦先生に外科系女性医師に立ちはだかる課題の乗り越え方を聞いていく。

キャリアに対する具体的なビジョンをもち
現場に戻ることが大事

―― 外科系の医師が、出産後もキャリアを継続するために大切なことは何だとお考えですか?

 技術の習得にはそれなりに時間がかかります。結婚・出産というライフイベントによって、途中で中断してしまうと、少し厳しい道のりになることは確かです。

 しかし、技術を一度身に付けてしまうと、基本的に衰えることはありません。もちろん技術を維持するための努力は必要ですが、個人的には「女性医師には早い段階で技術を身に付けてもらう方がいい」と考えています。確固たる技術を習得した後に出産された方は、周りのサポートがあれば復帰もスムーズで、子育てとの両立もうまくいっているように思います。

 私自身は仕事人間で、一度もキャリアを中断していないので、正直にいうと本当の大変さはわからないのですが・・・。辞めていく女性医師をたくさん見てきて感じるのは、自分の将来のキャリアについて、確固たるビジョンがあるかどうかが鍵だと思うのです。例えば、「腹腔鏡手術を誰よりもうまくなって、患者さんにその技術を提供したい」といった、具体的なビジョンがあれば、一旦中断しても、戻ってきやすいと思います。

 戻ってきた後も重要です。以前とまったく同じようには働けないことに、葛藤を覚えることが多いからです。女性医師は30代で出産する方が多いですが、20代のように体の無理はききません。また、お子さんが熱を出せば、仕事の途中で帰らなければならないこともあり、「周りに申し訳ない」とつらい気持ちになってしまうこともあるようです。

 自分の思い通りにいかない状況で、自分のキャリアに核たるビジョンがないと、安易な方向に流れがちです。完全にドロップアウトしてしまう人も見てきました。しかし、外科系医師は技術が勝負の仕事ですから、とにかく続けることが重要です。続けるためには本人のモチベーションと、周りのサポートが非常に大事だと思います。

―― 具体的なビジョンをもち、きちんと現場に戻ることが大切なのですね。 

 その通りです。自分が休んでいる間に、仕事をカバーしているのは男性医師や独身の女性医師です。組織内での公平性を考慮すると、産休・育休明けに女性医師がいずれはきちんと現場に戻ることが求められます。

 いまは現場に戻っても、仕事を大幅にセーブして働く状態を長く続ける女性医師の方が多いように思います。もちろん、ワークライフバランスは大事ですし、出産後に時短や当直免除で働くことは何の問題もありません。しかし、ずっと時短勤務を続けていたのでは、キャリアは積み上がりません。専門性を有する医師が少なくなれば、良質な診療を患者さんに提供することが難しくなります。そうならないためにも、女性医師が時短勤務を無理なく終了し、その後のキャリアを伸ばせるシステムを作ることが重要なのです。 

―― 産婦人科の管理職として、できることはなんでしょう。

 産婦人科は特に女性医師が多いですから、出産後に戻りたくても戻れないという人材が、本当にもったいないんですよね。産婦人科医になろうという人はもともとやる気のある人が多いので、頑張りたいと思っている女性医師のモチベーションを維持し、キャリアアップができるような組織をつくることが今後の課題だと思っています。ライフを重視したい医師とそうではない医師の間には、報酬や役職などきちんとした区別も必要だと考えます。そうすることが、休む側の医師にとってもストレスの軽減につながるのではないでしょうか。

産休・育休中も復帰への準備を
トレーニング次第でスキルは維持できる

―― 産休・育休中も手術のスキルを維持するために、手軽にできるトレーニングなどがあれば教えてください。

 腹腔鏡手術の場合、スキルの向上や維持には、手術以外のドライボックストレーニングは必須です。私自身も毎日トレーニングをします。産休・育休中にトレーニングを続けると、実際に手術をしていなくても、ある程度までスキルは向上しますし、維持することもできます(少なくともやらないよりは)。子育て中に時間を取るのは難しいかもしれませんが、細切れの時間でも、工夫次第でトレーニングはできるはずです。お母さんのトレーニングを真似してお子さんがすごく上達したという例もありますよ。私自身、生涯の手術件数は決して多くはありません。むしろ少ない方だと思います。症例数は少なくても、日々のトレーニングを欠かさなければ、スキルは向上するのです。

―― いつでも戻れる準備をしておくことが大事なのですね。

 外科医はある意味アスリートと同じです。アスリートは本番で活躍するために、日々トレーニングを続けています。外科医も、日頃のトレーニングなくしていいパフォーマンスはできません。トレーニングの成果を発揮する機会が与えられたときに、いいパフォーマンスができれば、任されることがどんどん増えていきます。
 
 私は自分がやりたい仕事を「仕事」、あまりやりたくないけどやらなければならない仕事を「労働」と言っています(笑)。時短で働いていると、「労働」以外の「仕事」ができなくなってしまうことが多いので、モチベーションの維持が難しくなりがちです。ただし、子どもがいる、いないに関わらず、自分のやりたい「仕事」をするためには、「労働」もしなければならないと認識することは、とても大切です。同時に、組織が「労働」や「仕事」を公正に評価して、個々の努力を認めることも重要です。医師は長時間労働が当たり前の世界ですから、それが報われる組織だと思えるかどうかは、キャリアを継続するうえで本当に大きいと思います。

―― 最近は、女性医師が使いやすいように改良された手術器具もあると伺いました。

 そうですね。医療機器開発のために女性医師としての意見を求められることがあります。そもそも、腹腔鏡手術は背が高い、腕が長い、手が大きい男性の方がやはり有利です。私自身は体格的には恵まれていますが、最初のうちは筋力が弱く、鉗子で把持した組織をぽろぽろ落としたり、重く固い手術器具を両手で扱ったりしていました。筋力をつけるトレーニングをして改善しましたが、最近はそんなことをしなくても、軽くて操作性のよい手術器具がたくさんあります。

例えば、エチコンのハーモニックHD1000iなどは、非常に軽くて操作性もいいので、筋力が弱く手が小さい女性医師でも使いやすく、手術のストレスも軽減できます。腹腔鏡手術は“具術”と言われる手術です。もちろん、どんな道具を使ってもいい手術ができる方がいいのですが。最近はどんどんいい手術器具が開発されており、上手に活用することで、手術の質をより高められるようになっています。そういう意味では、ハーモニックHD1000iは私にとっては頼りになる“武器”のようなもので、好んで使っています。

―― 腹腔鏡手術は繊細な手術なので、女性の方が得意だったりしますか?

 脳科学的に、女性は同時にいろいろなことをするのが得意です。腹腔鏡手術は腹腔内で2本の鉗子を動かすと同時に、フットスイッチを押すために足も動かします。そういう意味では、女性に向いていると言えるかもしれませんね。

 ただ、どんなにいい道具を使っても、我流では良質な手術はできません。私自身は倉敷成人病センターで安藤正明先生から学んだことが、自分の手術のベースとなっています。今後は、自分が後進に技術を伝承する立場として、良質な手術ができる外科医をどんどん育てていきたいですね。

スキルアップをめざす医師を応援したい

―― 後進の育成で先生が心がけていらっしゃることはなんですか?

 大学では手術の初期教育システムの立ち上げ・実践など、初心者の教育について長年注力してきました。今後は「専門性の高い産婦人科医の育成」に力を入れていきたいと思っています。私は元々、生殖医学が専門でしたが、悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術に魅せられ、専門を腫瘍学に変えました。大学病院に勤務しながら、畑違いの私が婦人科腫瘍専門医の資格を取得できたのは、ある上司が努力を認めてチャンスを与えてくれたからなんです。その上司がいなければ、今の私はありません。私自身がそうしてもらったように、頑張る意欲がある人にはどんどんチャンスを与え、努力が報われるようにしていきたいですね。

 医師という仕事は真摯に取り組まなければならない仕事です。女性はライフイベントによる変化があって大変ですが、長い人生において、仕事を最優先に没頭する時期がないと、キャリアを得ることが難しい仕事でもあります。そういう中で人材を育てるためには、自分自身が人一倍仕事をしなければいけないと思っています。組織のなかではトップが一番仕事をしていないと、人はついてきません。私は家庭との両立という葛藤がなく、仕事だけに集中できた分、気楽だったのかもしれませんが・・・。

―― キャリア形成について、女子医学生にはどのようなアドバイスをされていますか。

 「女子は生き急いだほうがいい」と伝えています。男子ほどゆっくりしている時間は女子にはないと。学生時代から「卒業したらいつまでに専門医を取る」など、きちんとプランニングすることが大事です。いくら完璧な計画をつくっても、その通りにいかないことは多いですし、結婚や出産の時機を計画しても、理想通りにはいかないかもしれません。たとえ多少計画がずれたとしても、その都度、修正しながらキャリアを積みあげていけばいいのです。
 
 残念なことに、いわゆるマイナー外科以外の外科系を志望する女子医学生は減っています。これは首都圏より地方で特に深刻な問題です。女性医師の増加に合わせて、外科系医師の働き方を改善する必要があるのは確かです。ただし、現状を改善するためには人材が必要で、制度のみを変えても本質は変わりません。国や自治体の制度によって医療の現場、特に地方は大きな影響を受けるので、ぜひ現場の声を聞いて改革を進めていただけると、大変ありがたいですね。

―― 専門性の高い産婦人科医の育成で、具体的なプランはありますか?

 聖マリアンナ医科大学東横病院に今年10月、婦人科が新設されました。女性医師2名が常勤でスタートし、婦人科検診の精密検査をはじめ、子宮筋腫や子宮内膜症などの良性疾患、不妊症、婦人科悪性腫瘍にも対応する低侵襲手術に特化した診療科を目指しています。私は非常勤ですが、定期的に手術を担当することになっています。武蔵小杉という地域性を考えると、多くの患者さんが集まるだろうと予想しています。腹腔鏡手術のトレーニングを希望する人材を受け入れられる体制を整え、専門性を獲得したい若手医師に環境を提供できる施設となることを期待しています。将来的には、「ここに行けば腹腔鏡手術の技術が習得できる」と、産婦人科医が集まる修練の場になればと考えています。意欲のある若手医師は、男女問わず大歓迎です。

文/岩田 千加

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