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2018年11月20日

女性専門医率わずか2%!2児のママ消化器外科医が取り組む「母になっても“普通に”キャリアアップできる道づくり」

消化器外科における女性医師の割合は6%、専門医に至ってはわずか2%にも満たない。そこには、せっかく消化器外科医をめざしても、出産・育児との両立の難しさから、道半ばにして夢を断念せざるを得ない現実があるという。現在、2児の子育てと仕事の両立に奮闘中の長谷川芙美先生は「消化器外科の場合、専門医や技術認定医に必要な症例を経験する外科修練の時期と、妊娠・育児のタイミングが重なることがネックだ」と話す。では、長谷川先生自身はいかにして専門医および日本内視鏡外科学会技術認定医を取得したのか。その過程で感じた課題や葛藤とは。自らの経験をもとに、育児中の女性外科医がキャリアアップをめざせるシステム作りに取り組む、「消化器外科女性医師の活躍を応援する会」の活動についても話をうかがった。

長谷川芙美先生
自治医科大学附属さいたま医療センター
一般・消化器外科 


2005年福井医科大学(現福井大学)大学卒業。消化器内科へ進むことを念頭に、都立駒込病院で内科初期研修を開始。後期研修で外科に転科し、消化器外科で学びながら呼吸器・乳腺外科などもローテートして、外科専門医に必要な症例を収集。その後、2010年に自治医大さいたま医療センター一般消化器外科に入局。2011年に外科専門医、癌治療認定医取得。専門は大腸外科。日本消化器外科学会消化器専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医。1歳と6歳の子を持つ2児の母。長谷川先生いわく「毎日がてんてこまい」の日常では、ロボット掃除機、食洗器、宅配食材の利用など、家事は「頼れるものには頼る」がモットー。

本当にやりたいことをするために
消化器外科へ入局

前述のとおり、消化器外科は外科系科目のなかでも、女性医師の数が特に少ない科だ。専門医や指導的立場にある女性消化器外科医にいたっては、極々少数に過ぎない。そんな超男社会の診療科を敢えて選んだ理由について、長谷川芙美先生は次のように話す。

「私も当初は将来の結婚・出産を考えて、消化器内科へ進むつもりでした。初期研修は内科医としてスタートしたのですが、当面はその予定もなく(笑)。自分が本当にやりたいことをしようと考え直し、消化器外科をめざすことにしました。途中で内科から外科に変わるのは難しいけど、外科から内科はいつでもできる。だったらまずはやりたいことをしよう、くらいの気持ちでだったんです」

 その後、希望通り消化器外科に進み、同じ病院に勤務する消化器外科医と結婚。結婚当初から、お互いが自分のやりたいことを学ぶために別居するなど、結婚が仕事の継続に影響することは全くなかったそうだ。そんな夫婦の自由な生活を一転させたのが、第1子の妊娠・出産だった。

「子育ては大変だとは聞いてはいましたが、子どもの世話にこれほど時間がかかるとは思ってもみませんでした。実際に産んでみて、食事や着替えから排泄、入浴、寝かしつけなど、小さい子どもは1人では何もできないという当たり前のことに、初めて気がつきました」

生活の激変に戸惑いながらも、出産からわずか2カ月で復帰。だが、復帰早々に「今まで通りには働けない」現実を実感することになる。

手術だけして早く帰るママ女医に
後輩から不満が噴出

 そもそも消化器外科は労働時間や休日をはっきり線引きしづらい。緊急手術などの呼び出しや当直があるのは当たり前で、子どもを持つ女性医師にとってはかなり働きづらい環境だ。しかも、長谷川先生は自治医大附属さいたま医療センター初のママ消化器外科医。前例がない上に、育児は妻任せという人や独身がほとんどの職場で、育児と仕事の両立の大変さを本当に理解している人は自分も含め誰もいなかった。

「最初は早朝・夜間の緊急の呼び出しにも、親や夫に無理やり頼んで対応していたんです。でも、呼び出しの度に子どもの預け先を探すのはとても無理だと思い、勤務体系の変更を申し出ました。仕事を続けるためには、言わずにはいられない状況でした」

 “職場で生き抜く”ために、長谷川先生がまず始めたのが、育児のなにが、どう大変なのかを、具体的に周りに伝えることだった。

「例えば、保育園に預けられる時間には制限があること。熱を出したら預かってもらえないことも、はじめはみな気づきませんでした。子どもは一人では育たず、とにかく世話に時間がかかります。家にいる間は四六時中子どもの世話に追われている現状も詳しく話をしました」

 この訴えに上司は快く理解を示し、朝のカンファレンス、3歳までの当直および夜間呼び出しの免除と、最長20時までの勤務が認められた。ほっとしたのも束の間、思わぬ強敵が現れた。長谷川先生より年下の医局員たちから、男女問わず不満が噴出したのだ。その背景には外科ならではの事情があったという。

朝はカンファに出ず、夜は早く帰るのに、手術だけは今まで通りというのはおかしい。給料が変わらないのもずるいと言われました。外科系の医師なら『手術をして修練を積みたい』気持ちはみんな同じで、私においしいところ(手術)だけを取られるという意識が強かったです。後輩たちもいずれは同じ悩みにぶつかるのですが、やっぱり当事者になるまではわからないと思います。子育て中の女性外科医がキャリアを継続するためには、根気強く、周囲に協力してもらうしかないと痛感しました。そのためにも、できることには全力で取り組みました

逆風から6年、第2子出産の頃には
「出産後も働く」ことが当たり前に

 後輩からの風当たりは強かったが、「やるしかない」と頭を切り替えた長谷川先生。自分がいない時間に周りに負担をかけている分、勤務時間中は休まず働き、頼まれた仕事はなるべく断らないように心がけた
第2子出産後も2カ月後に職場に戻ったが、今度は短時間勤務で復帰した。第1子出産から6年間で、子育てしながら仕事を続ける女性医師への理解は、かなり進んだと感じている。

「周りが理解してくれたというのも大きいと思いますが、『大丈夫?』『大変だったら帰っていいよ』と声をかけてくれる人が増えました。先日出産した女性医師が、妊娠中に私に相談に来てくれた時は、すごくうれしかったですね。実は、私への風当たりが一番強かった子なんですけど(笑)。私の時と同様に、後輩たちには彼女に対する不満があり、彼女には当事者にしかわからない辛さがあることも私にはよくわかります。でも、今は子どもを産んだ後も、周りに助けてもらいながら働き続けることができます。みんなが協力して、やがて女性消化器外科医の妊娠・出産・育児が当たり前のこととして受け入れられるようになればいいなと、心から思いますね」

 周囲のサポーティブな変化は、長谷川先生の丁寧なコミュニケーションと、制約がある中でパフォーマンスを高めてきた実績こそがもたらしたものだろう。ファーストランナーとして、子育てと仕事を両立してきた長谷川先生。その原動力となったのは何だったのだろうか。

「日本内視鏡外科学会技術認定医の資格を、どうしても取りたいという一心で頑張ってきました。子育てしながら働いている人は、何か目標がないとやっていけないと思いますよ(笑)」

 同資格は合格率約30%、外科系の専門医資格の中では最も難易度が高い。長谷川先生は2児を育てながら、2016年に見事難関を突破した。

子どもがいても技術が磨ける
支援・環境づくりが必要

日本内視鏡外科学会技術認定医に占める女性医師の割合はわずか2.2%。元々の母体数が少ない上に、専門医をめざす女性が非常に少ないことから、他科に比べ学会の支援体制が整っていないのが現状だ。

「技術認定医の取得にはビデオ収録した腹腔鏡手術の動画を提出する必要があります。加えて、内視鏡外科学会への参加、論文・学会発表、講習会、セミナーへの参加、内視鏡手術歴などが必須条件で、子育て中の女性医師にとっては高いハードルです。

 

専門医取得に必要な症例を積むには、育児中でも手術のできる体制づくりが必要ですし、学会に参加するためには、子どもの預け先を探さなければいけません。専門医取得に学会参加を課すのであれば、子連れ参加や学会のオンライン参加を認めるなど、今後はなにかしらの処置が必要なのではないでしょうか」

 実際に、託児所を設置している学会もあるが、託児所の設置がない学会や、あっても有料の学会などさまざまだ。事前登録制で、発熱時は預かってもらえないため、「学会発表の日に子どもが熱を出してしまったら、現状ではドタキャンするしかない」という。

 ただ、状況は徐々に変わりつつある。

「消化器外科学会はオンラインでのセミナー参加を認めていますし、内視鏡外科学会は有料だった託児所を今年は無料にしました。外科医減少を食い止めるには、やはり女性医師の活用が今後のカギだと考えます」

 声を上げ始めた女性消化器外科たち
「とにかくあきらめないでほしい」

 現在、長谷川先生は「消化器外科女性医師の活躍を応援する会」に参加し、女性消化器外科医が技術認定医を効率的かつ確実に取得できるシステムの構築に向けた取り組みを、仲間とともに行っている。託児所付きのトレーニングの場を提供するのもその一つだ。

「女性医師が働きやすい環境整備や働き方改革ももちろん大事ですが、その前に辞めてしまう人が多いのです。合格率は低くても、あきらめずに頑張れば、子育てしながらでも、確実にキャリアアップできる道をつくりたいと思っています。私がこの活動に力を注いでいるのは、2人の子どもを育てながらでも、周りの協力は必要だが、資格取得は十分可能であることを、少しでも知ってもらいたいからです。とにかくあきらめないでほしい。途中であきらめてしまうのは、本当にもったいないです」

 この活動を通して、新たな発見もあった。全国の消化器外科医や消化器外科医を妻に持つ夫、管理職などが集まり、定期的に意見や情報を交換することで、現状打破への新たなアイデアが沸いてくるという。

「各施設、女性消化器外科医は1~2人。みんな手探りで奮闘している人ばかりで、他の人の意見を聞ける時間は貴重なんです。いいと思ったことは、自分の職場にも取り入れるなど、自分だけでは思いつかない発見がたくさんあります。今後は病院のなかだけじゃなく、外に向けて発信していく重要性も感じています」

 現状では子どもを2人育てながら、専門医も取得する長谷川先生のような女性はまだまだレアケース。ご自身は出産と専門医を取るタイミングについてどのように考えているのだろうか。

「外科医は寿命が決まっているので、あまりゆっくりしている時間はありません。手術ができるのはせいぜい60歳まで。子どもを持ちたいと考えているのなら、早い段階で産んでしまってもいいと、個人的には思います。昔のように産んだら働けないということはないですからね。ただし、外科の基本的な技術を身に付けるためには、5~6年連続して働く時期は絶対に必要だと思います」

夫の職場も同等の負担を!
意識改革が外科医減少のカギ

 現在、夫は仕事の都合で別居中。休日は帰宅し、以前よりは家事を手伝うようになったが、平日は長谷川先生のほぼワンオペ育児の状態だ。一方、子どもができても、夫の勤務は何ら変わっていない。

『育児中の妻の職場は他の医師の仕事分担が増えるのに、夫の職場の医師には何ら影響がないのはおかしくないか』と、職場の人に言われてドキッとしました。そういう発想は全くありませんでしたが、本来は夫の職場も同等の負担を負わなければおかしいですよね。今後は、夫の職場でも育休取得や早期帰宅できる環境を作っていくべきですし、私も積極的に発信していきたいと思っています。育児期の負担の痛み分けに止まらず、外科医全体の働き方の改善に繋がっていけばいいですね

 何事にも前向きな長谷川先生の今後の目標は、後進の育成だ。自分が育ててもらった分、これからは自分が身に付けた技術を下の者に伝えて、恩返ししたいという想いが強いという。家庭をもっても外科医を続けられる環境づくりの取り組みも大きなテーマだ。

「私のような育児中の女性医師がいることで、若手医師が子育てに興味を持ってくれるようになってきました。『妻の大変さや、手伝ってほしいことが分かりました』と言ってくれたり、『保育園はどうしたらいいですか?』という質問を受けたり、育児を“自分事”として捉える人が男女問わず増えたので、改めて子を持つ医師の実態を声に出すことの大切さを感じています」

長谷川先生が声を上げたことで、職場の環境は確実に変わった。周りの負担は増えたかもしれないが、育児を意識するものが増えた。

「当院のような理解のあるそういう職場が全国に増え、外科全体が変われば、外科医をめざす人も増えるでしょう。外科医が増えれば、一人ひとりの日常業務や当直の負担が軽減できるし、シフト制などで勤務時間を区切ることもできかもしれません。今の私の一番の願いは、とにかく外科医が増えること。そのためにもあきらめないでほしいですね」

消化器外科を含む外科医のなり手が減る一方で、外科を志望する女性は増加傾向にある。女性外科医が育児中も無理なく技術を磨き、継続したキャリアアップをめざせるシステムを整えることは、男性医師も含めた外科医全体のワークライフバランスの改善につながるに違いない。


学会等でも女性外科医のキャリア構築や、医師夫婦の抱える課題への提言など積極的に行っている。

文/岩田 千加

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