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2018年12月08日

産業医は「同僚」! 働き方改革にチームで取り組む横浜市立大学附属市民総合医療センターの事例

過酷な医療現場の働き方に注目が集まっている。2024年からは、猶予期間にあった医師への長時間労働規制も始まる予定だ。つまり、今は2024年に向け医療現場の働き方を適正化していく過渡期ともいえる。では、各医療機関で実際にどのような「働き方改革」への取り組みが行われているのか。

それを探るべく、リサーチを進めたが「産業医面談を適正に行い、過重労働の是正に結び付けている」医療機関を見つけ出すのはものすごく難しかった。こんなに大変だとは想像もしなかった。医療現場における産業医の活用は有名無実化しているのが現状なのだ。

なぜだろう。どうしたら産業医の活用は進むのか。それとも、そもそも無理なのか。それを探るべく、この秋、産業医を活用した取り組みに成功している病院の事例を求めて首都圏の有名病院を調べまくり、ようやく一件探し出し、取材させていただくことが叶った。
横浜市立大学附属市民総合医療センターの事例をレポートする。

産業医を含めたチームでの活動が肝

取材に応じてくれたのは、横浜市立大学附属市民総合医療センター(以下医療センターと略す)の産業医で、医療安全管理学准教授、救急医、安全管理指導者兼務の中村京太氏、同じく産業医で呼吸器病センター講師兼務の西井鉄平氏、同健康管理室医で精神医療センター部長兼務の高橋雄一氏の3人と、管理部総務課・人事担当の富安光世氏だ。

 取材を打診した際、富安氏からは「今回のご依頼については産業医を含めた、就業・健康管理に対するチームの活動という形でのご紹介とさせていただきたく思いますがいかがでしょうか」との返信があった。
「産業医を含めたチームでの活動」こそが、同センターにおける事例のキーワードだ。

基本情報
●健康管理体制改善の経緯

2011年(H23年)
横浜市立大学附属市民総合医療センターで独自に健康管理室を設置。当時の安全管理室長が産業医として健康管理室長を兼務し、リエゾン精神看護専門看護師とともに教職員のメンタルヘルス相談への対応を開始。同年、大学(金沢八景キャンパス)で保健管理センターの再体制化が始まる。

2012年
従来、学生の救急応需・相談対応中心だった大学の保健管理センターが、教職員・学生の健康管理を行う学内共同組織として改められた。これに基づき、保健管理センターと附属病院、医療センターを含めた相談体制作りが始まり、保健管理センターの臨床心理士が医療センターに派遣されるとともに、精神医療センター医師(精神科)、総合診療科医師(内科)が健康管理室医として運営に参加、総務課の人事担当を事務局とする健康管理室としての活動が本格化した。

●活動体制
 健康管理室長(八景キャンパス保健管理センター長・産業医)、産業医2名、健康管理室医(精神科医)1名、リエゾン精神看護専門看護師1名、臨床心理士2名(保健管理センターより派遣)
*スタッフは全員兼務

●健康管理室の活動
 主にメンタルヘルス相談、休復職支援、健康診断に基づく健康指導、長時間残業者の面談等。ただし、当初医師は各医局が労働管理をしているという認識になっていたため、面談対象者とはしていなかった。しかし、長時間労働者が多い医局に対して、産業医が問い合わせをしたり、長時間労働者に面談を勧めるなどを敢行。月1回の健康管理室ミーティング(現在も継続)では、保健管理センター長や人事担当者も参加し、情報共有を行っている。
 以降現在まで、法人全体の健康管理体制と歩調を合わせつつ、産業保健活動に取り組んでいる。

 

――多くの病院で、医師に対する産業医面談が全く行われていない実情があるようです。貴センターでは、必要に応じて着実に実行されていますが、どのような流れで行われているのでしょうか?

富安:総務課の労務担当のほうで健康診断やストレスチェックを実施し、問題がある方に産業医面談を受けていただいています。特別なことはしていないと思います。

中村:加えて、時間外勤務が物理的に規定の時間を超えている方についても、面談しています。日程や時間については事務方がすべて調整してくれますので、我々は指定の時間に健康管理室に来て、話しをするという流れです。

西井:対象者を確実にすくいあげ、面談にもってくるシステムはできあがっていますね。


中村京太氏(産業医、医療安全管理学准教授、救急医、安全管理指導者兼務)

産業医は「同僚」にして代弁者

――他の病院で面談ができていない理由としては、自分の健康状況やメンタルの問題を、同じ医師である産業医には知られたくない、というのがあるようです。どう思いますか?

中村:我々面談を行う側としては、もちろんご本人の健康チェックは重要ですが、それだけでなく、長時間労働せざるをえない職場環境やシステムの改善にアプローチしていく視点が大切だと思っています。
 本人からはなかなか上にあげにくい問題も、我々健康管理室なら、ズバッと言えますからね。「そんなことしたら大変ですよ、ブラック病院ですよ(笑)」と。

――皆さん、素直に話してくれますか?

中村:「どうしたらいいんだろうね」みたいな感じで一緒に考えて、ディスカッションするようにしているのですが、結構話してくれます。
 ただ環境やシステムの問題は、あくまでも面談の流れの中で、自然にでてくるだけで、最初からそこを聞きだそうとしているわけではありません。

西井:実は私は、面談の仕事を始める前は、皆、口を閉ざして何もしゃべってくれないんじゃないかと予想していました。
 所属している診療科の問題点とかは、いいにくいというのがきっとあると思ったからです。なので、こちらから促してもたぶん「大丈夫です」で済まそうとするだろうなと。ところが、実際面談をしてみると、意外にも話が弾むんですね。「問題点、なんかありますか」と投げかけると、きちんと話してくれます。

 私の方で、どこまで本音を汲み取れているかは分りませんが、今後も面談を積み重ねて行くことで、システム改善にもつながって行くんじゃないかと感じています。
 ただそうした内容をどう病院側に伝えて、病院の管理の者がどう反映させてくれるかというところまでは分からない。悩ましいところではありますが、意見を上げるシステムとしては、役に立っていると思っています

中村:(ディスカッションで)決定的な改善策がでるわけではないですが、突っ込んだ議論はしています。チーム内での引き継ぎの問題が多いです。引き継ぎは、それ自体が医療の質にも影響してきますので。そのへんのトレードオフですね。
 ただ、システム面についても、掘り下げて聞いて行くいくと、思うところがいろいろとある人もいる。そのあたりを、我々産業医から所属する診療科等にきちんと話を上げて行くことが重要だと思っています。

西井鉄平氏(産業医、呼吸器病センター講師兼務)

――一般企業では、「産業医は会社側の人間だから本音は話せない」という社員の声を聞くことがあります。貴センターではどうですか? 本音を言ってくれていると思いますか?

西井:確かに。一般企業はそうかもしれませんね。正直に話すと、へんに労働に制限をかけられたり、本人の立場が悪くなるというところはありそうです。

でも我々はたぶん、一般の企業の産業医と社員さんよりも、もう少し現場の人間同士で近い立場にいると思います。もともとある程度知っている人間なので、知っている人間からアプローチされたことで、話を聞いてもらおうかなという気になるのでは。お互い赤の他人だと、もっと気を使うところが大きくなったりしますよね。

――「現場の人間同士」ということで、事情を理解してもらえるという安心感もあるかもしれませんね。

中村:一般企業の産業医以上に我々は、病院側の人間ですよね。だけどその一方で、これだけいろいろ話してもらえるのは、「同僚」だからなんですよね。同僚だからこそ、腹を割って話してくれるのかもしれない

――高橋先生は精神科医として面談を担当しておられますが、やはり、協力的にお話していただいていますか?

高橋 :私の場合は、精神科診療が必要かもしれないという場面で、本人の意向を確認して声をかけていただいていますので、だいぶ協力的にお話しいただいている印象があります。時にご本人のことを心配した上司や同僚からの相談を受けることもあります

高橋雄一氏(健康管理室医、精神医療センター部長兼務)

実態把握のため 2 日間張り付き調査も

――立場的に、超過勤務が多いのはどういう方々でしょう。どうしたら、改善が進むのでしょう?

中村:データに基づく話ではありませんが、超過勤務が多いのは若手よりも中堅です。 というのも、うちは大学病院の特性として、若手医師がすごく多い。彼らをいかにカバーするかというところで中堅の負担がすごく大きいのかなという印象は持っています。

チームとして、引き継ぎ体制をどうするか。特に休日・夜間をどうサポートするのか。個々の診療科における、やりかたですね。

たとえば若手が急患で呼ばれたら、多くの場合中堅が一緒に行きます、これは避けられない。そういう負担がすごく多いことも踏まえて、急患で呼ばれるところだけに焦点を当てるのではなくて、一週間トータルのスケジュールで負担を軽くすることを考えましょうとか。全体をきちっきちんと俯瞰して、考え直すことが必要だと考えています。
それも、個人でやるのではなくて、診療科として取り組む。診療科ができなければ病院全体で取り組むということです。

――取り組みにおいて、重視、工夫していることはありますか?

中村産業医、精神科医、臨床心理士、看護師、人事担当職員が連携して、病院のあらゆる職種の健康管理に取り組めるようにしています。サポートの内容も、心身の問題からプライベートの相談、勤務体制への介入など、多岐にわたります。また、病院を超えて、大学の保健管理センターとも連携しており、大学全体で職員の健康管理の把握に努めています。

 加えて、院外からもかけられる専用の電話やメールアドレスを設けているほか、専用の面談室も設置して、相談者のプライバシーを守りながら対応出来る環境づくりをしています。

富安:実態を把握するために、一度、ある先生に対して2日間ぐらい、事務方の職員が張り付いて調査したことがあります。朝何時に何をやって、何時に何をやって、この間に食事はどのように摂ったかなどをすべて把握した上で、改善できることを提案しました。
 うちは病院長も巻き込んで活動しておりますので、診療科の協力も得やすいですね。

――事務方凄いですね。

富安:産業医の先生方に、そんなところまでお願いするのは、大変な負担になってしまうので、病院として支援するのも重要だと思っています。

富安光世氏(管理部総務課・人事担当)

コミュニケーションを密にする

――個々の対応は、健康管理室で話し合って決めるのですか?

中村:超過勤務の件は、健康管理室だけではなく、病院の幹部も入った安全衛生委員会でも議論されます。

富安:一部の職員や一部署に任せるのではなく、組織として問題解決に取り組んでいます。経営や人事が絡んでくることもありますし、単純に人員を増やせばいいのか、それともシステムを改善しなくてはいけないのかなど、問題の中身もさまざまなので。先生方の日々の業務を観察して、把握するようにしています。

――コミュニケーションを密にして、縦にも横にも連携して取り組んでいるんですね。

中村西井:そうなんです。特に産業医と人事担当の場所が近いので 、富安さんは本当に気軽にやってきますね。

富安: 事務方も頑張ってはいますが、先生方でなければ対処できないことは多いですので。医師の面談もそうです。面談スケジュールを調整するなど、まずは事務方で、先生方が動きやすい土台を作り、対応してもらうという流れがいいんじゃないかなよいのではないかと思っています。

――ほかに苦労していることや改善したいと思っていることはありますか?

富安職員に、健康管理室の存在を知っていただくために苦労しました。廊下にポスターを貼ったり、採用オリエンテーションでリーフレットを配布したり、ホームページ上に専用ページを設置したり、職員の目に触れるよう、周知する工夫をしてきました。

中村:健康管理室のスタッフは全員兼務であり、日中業務中で対応しなければなりません。臨床・研究・教育の傍ら、面談や部署へのフォローなどを行うには多忙を極めます。そこはなんとか改善したいと思っています。

――苦労して、取り組んでおられるのですね。成果を実感していることはありますか?

高橋:私は、健康管理室が設置されて3年目ぐらいから担当している んですが、相談の敷居は低くなってきていると思います。
現状では医師と比べて看護師や事務職員からの相談が多い のですが、相談件数は全体的に増えて来ています。健康管理室が周知されて相談しやすい体制に なっているからでしょう。
 いろいろとこじれる前に相談してもらえれば早期対応できます。ほかの先生方とも相談し、連携しながら対応していますので、働き方改革にも貢献できていると思っています。

中村働き方に対する意識はこの2、3年で医師、病院側も、だいぶ変わって来ていると思います。患者さんに質の高い医療を提供するためにも、ブラック病院であってはいけないと。

西井:今は、面談に来られる皆さんの想いを、どうしたらしっかりと上層部に届けられるか、とても悩んでいます。我々産業医に対する期待にお応えしたいので。
これからも、これまで通り、多職種との連携のもと、サポートを行っていくことはもちろん、システムの改善をはかり、事務部門との調整も行いつつ、より健全な職場環境を整えて行きたいと思っています。

*   *   *   *   *   *

 取材をして印象的だったのは、長時間勤務の是正にしても、産業医面談の実施についても、担当部署任せにせず、縦横幅広く、緊密な連携をはかりながら取り組んでいることだった。加えて、産業医も事務方も、活動しているスタッフ一人一人が、責任感を持って職務に当たっているのにも感心させられた。彼らは本気なのだ。

 それは、ただ実施すればいい的な、形だけの産業医面談とはぜんぜん違う。「同僚」として親身に耳を傾け、改善策を一緒に悩み、考えてくれる。そして意見を上にあげてもくれる。決してやりっぱなしにしない、面談を無駄にしない姿勢があるからこそ、医師たちも、多忙業務の合間を縫って面談に応じ、積極的に本音を明かしてくれるのではないだろうか。
文/木原洋美

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