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2019年02月10日

小児救急の最前線で働くママ女医に聞く、働きやすさの実態と仕事のやりがい/国立成育医療研究センター 大西志麻先生

国内最高峰の小児医療施設として有名な国立成育医療研究センター。緊急を要する小児患者を24時間365日受け入れる救急外来には、年間約3万人が受診する。軽傷から、緊急性・重症度の高い患者まで、すべての患者を受け入れる小児救急医療の最前線で、忙しい日々を送る大西志麻先生は、2歳の子どもを育てる母親でもある。ある出来事をきっかけに小児救急に魅せられ、チャレンジすることで夢をつかんだ大西先生。出産後も働きやすい環境づくりを進める成育ERの働き方改革や、小児救急のやりがいなど、ママ救急医の本音を伺った。

大西志麻先生
筑波大学医学専門学群卒業。東京都立広尾病院での初期研修を経て、東京医師アカデミーのシニアレジデントとして小児医療の研鑽を積む。その後、国立成育医療研究センター救命救急科フェロー、日本医科大学千葉北総病院救命救急センター勤務の後、2015年から現職。2012年日本小児科学会小児科専門医、2015年日本救急医学会救急科専門医資格を取得。BLS/PALSインストラクター。1児の母。趣味はテニス、ダンス。子育て中の今は、旅行に出かけておいしいものを食べることが楽しみ。

外来でのんびり診療、のつもりが一転
小児救急の世界へ

「将来は子どもに関わる仕事をしたい」と医学部の学生時代から思っていた大西先生。「小児科は医者になると決めたときから興味がありましたが、外来やクリニックで、のんびり働ければいいかなぁ、くらいの気持ちだったんです(笑)」

 しかし、実際に進んだのは、 “のんびり”とは対極の小児救急の世界。転機となったのは、人生初の小児科当直で起きた衝撃的な経験だった。

「初めての小児科当直の時に、心肺停止の患者さんが搬送されてきました。上級医やいろいろな科の先生に手伝っていただき、何とか蘇生したのですが、何もできない自分が本当に悔しかったです。それ以上に強く心に残ったのが、現場に駆けつけてくださった、国立成育医療研究センターの搬送チームの、鮮やかな仕事ぶりでした。こんなにすごい人たちが本当にいるんだと、衝撃を受けたことを今でもはっきりと覚えています」

 その後、患者は後遺症もなく、無事に退院したと聞き、初動に携わる医師の正しい判断と対応力が、いかに重要かを改めて痛感させられたという。小児救急のスペシャリストの仕事を目の当たりにして、心が揺さぶられたものの、「自分にあんな仕事ができるわけがない」と、一旦は諦めたという大西先生。それでも、あの時の経験を忘れることはなかった。
それから数年後。成育医療研究センターで重症患者を診るトレーニングを受けるチャンスが訪れた。

「成育の救急診療科やICUの現場で働く先生方は、想像していた通りすごい方ばかりで、私にはやっぱり無理だって思いました(笑)。それでも、この道で頑張ってみようと思ったのは、適切な初期診療とは何かを、現場で学びたいと思ったからです」

鼻水から気管挿管、育児相談まで
診療分野の幅広さが魅力


 
大西先生が所属する救急診療科は、小児を対象に、内因系の病気から外因系の病気のほか、事故によるケガ、やけどなどの外傷も分け隔てなく診る「ER型救急」を展開。また、成育医療研究センターは、小児専門病院として全国から特殊な疾患や重症度の高い患者を受け入れており、救急診療科はその窓口として、搬送元病院との調整を行っている。重症度が高い場合や、長距離の搬送でリスクが高い場合などは、搬送チームが現場に出向いて搬送を行なっている。

 搬送チームの一員となった大西先生は、地方への搬送をこれまでに2回経験。今年度も既に1件が予定されている(注1)。

「転院搬送なんて、患者さんをただ救急車で運ぶだけでしょう、と思われがちですが、実際は違います。特に重症患者の場合、搬送に精通した医師が、集中治療を継続しながら運んだ方が、予後がいいと言われています。例えば、搬送チームが前日から現地に入り、自衛隊機やヘリに乗って患者さんを運んでくることもあります。小児の重症患者を集中治療しながら、病院から病院に運ぶことに特化した取り組みを行っている医療機関は、全国でもあまり例がありません

 一方、救急外来を受診する患者は年間約3万人。専門のナースによるトリアージを全例実施し、重症度・緊急度の高い子どもを優先して、小児救急医が24時間365日診察している。

「緊急度が最も高い、すぐに医療行為が必要な『蘇生』は全体の1%、5分以内に診療が必要な『緊急』は10%程度です。つまり、当科を受診する子どもの約9割は軽症なんです。普段は熱や具合が悪い状態が長く続いているお子さんや、クリニックでは診断がつかなかった患者さんが多く来られます。また、骨折やけがなど外傷を診ることも多いですね。軽症患者の中に隠れてやってくる重症患者を、いかに見つけ出して適切に治療するかが私たちの仕事だと思っています」

小児救急の魅力について、大西先生は次のように語る。

「例えば、風邪を診た後に、インフルエンザの呼吸不全の挿管をして、次は骨折の固定に傷の縫合、夜中には『子どもが泣きやまやない』と駆け込んできたお母さんの育児相談に1時間乗る、みたいなのが小児救急医です(笑)。こんな風に、鼻水から気管挿管まで、幅広く診られることが小児救急の醍醐味ですね」

注1:救急診療科としての搬送は送り搬送・迎え搬送を合わせて146件、個人では42件(2018年)

女性救急医の活躍を可能にしたシフト制
育児と仕事を無理なく両立

 現在、2歳児の子育てと仕事の両立に奮闘中の大西先生。朝8時からのカンファ、9~17時の診療、診療後のカンファを終えて、18時過ぎには退出。当直は免除されており、土日に出勤する日もあるが、休みは月8日しっかり取れる「働きやすい環境」だという。

「私がフェローだった5~6年前は、当直は月10日、休みは月3日取れればいい方でした。あまりにもきつい現場で、人が減ってしまった時期もあり、『このままではいけない』『みんながちゃんと休める環境を作ろう』と、上の先生方が真剣に働き方改革に取り組んでくださいました」

その結果、当直明けは必ず休みを取ることを徹底。日中の診療と、17時から翌日8時までの当直の完全2交代制で、土日に出勤すれば平日に振替休日も取れる。

「しっかり休みが取れれば、人が集まってきます。人数が確保できると現場に余裕が生まれるので、急な休みの際はお互いにサポートし合うという雰囲気があります。約10カ月間の産休を経て、職場復帰した際も『子どもが小さいうちは、当直はしなくていいよ』と皆さんが言ってくださり、とても有り難かったです」

子育て中でも働きやすい雰囲気を作ってくれたのは、2児の母である先輩女性医師の力も大きい。日勤のみという勤務ながら、当直明けの医師たちが安心して患者を任せられるよう、日中の診療は自分が全面的に受け入れることで、仲間からの信頼を得ていたのだ。

当直ができなくても、自分にできることはある。そう思うと心が楽になりました。復帰後は、私自身も昼間にできることは積極的にやるように心がけていますし、土日の昼間など都合がつく時は出るようにしています」

 完全シフト制で、定時帰宅も可能。病棟業務がない救急は、子育て中の女性医師はもちろん、男性医師にとっても働きやすい職場だと大西先生は言う。

「当科の男性医師の中には奥様も医師として働いている夫婦がいます。彼らはシフトを上手に使って自分のキャリアを積みつつ、子育てもしっかりこなしています。オフ日の計画も立てやすく、奥様が当直の時は自分が休む、なんてことができるのも救急ならでは、なのではないでしょうか」

虐待、貧困、育児放棄・・・
子どもへの支援を進めるために医師ができることを模索中

 2015年には日本救急医学会の救急科専門医を取得。これまで救急外来を利用する多くの親子を診てきた大西先生は、子どもを取り巻くさまざまな社会問題に直面することも少なくない。

「救急診療科は、単に時間外に具合の悪くなった人を診る科ではありません。急な発熱や体調の急変のほか、初期治療が不十分で症状が悪化して搬送されてくる方、けがや養育的な問題に困って駆け込まれる方もいらっしゃいます。けがで受診した子どもは虐待の可能性もあるため、親子の何気ない言動にもアンテナを張っておく必要があります」

けがで救急外来を受診する子どものなかに、虐待や貧困など社会的に困難な状況に陥っているケースがあることに気づいたのは、日本医科大学千葉北総病院救命救急センター時代のことだ。母親を虐待に追い込んでしまう社会的背景も垣間見え、「虐待に至る前にサポートできることがあったのではないか」と自問したという。

「虐待や養育困難な親子が受診した場合、成育には医師・看護師・ソーシャルワーカーが対応を話し合い、道筋をつけていく院内チームがあります。子どもの健康のことだけでなく、子どもが安全に生活していくための環境をいかに整えていくか、という社会生活面まで配慮できるよう、私自身も研鑽を積んでいきたいです

大西先生がめざすのは、軽症から重症まで、病気に対する適切な初期対応はもちろん、虐待や貧困、自宅でのケガや異物の誤飲など、子どもたちが抱える困りごとにすべて対応できる小児救急のスペシャリストだ。

「地道に臨床を続けながら、適切な初期診療とはどのようなものかをさらに追及することが今の目標です。小児救急医としては、成育の現場で得た知識や情報を、どうすれば分かりやすく伝えることができるのか、今模索しているところです。そのためには学術的な研究もして、自分のスキルをさらに磨いていきたい。やりたいことはたくさんあるのに、まだ全く形になっていませんね(笑)。でも、やらずに後悔するより、やってみてダメならやり直せばいいというタイプなので、自分のできることから始めていこうと思います」

 医師数が確保されていることが条件ではあるものの、シフト制の導入が進む救急医療の現場は、意外にも女性医師に優しい現場だった。憧れに過ぎなかった小児救急の世界に飛び込み、子育てをしながら、目標をもってイキイキと働く大西先生。なかなか一歩が踏み出せない後輩たちへのメッセージを求めると、

「こんな私でもなんとか働けています(笑)。やりたいことがあるなら、あきらめずにチャレンジした方が絶対にいいと思います!」 

そんな力強いメッセージを送ってくれた。

文/岩田 千加

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