3a69d15e 322c 4ad3 ba63 1295295606ed医療トピックス
2019年03月10日

女性外科医にも子連れで気軽に参加できる腹腔鏡スキルアップの機会を! 託児所・キッズセミナー付き腹腔鏡講習会 潜入レポート

消化器外科女性医師の活躍を応援する会」とコヴィディエンジャパンの共催による「第2回Master Class for AEGIS-Women」が2019年2月2・3日、神奈川県川崎市のメドトロニックイノベーションセンターで開かれた。腹腔鏡外科手術の技術向上を目指した託児所付き講習会をメインに、外科医としてのキャリアプランを仲間とともに考えるワークショップも開催。さらには、同行する子どもたち自身も腹腔鏡(デモ機)操作を体験できるキッズセミナーも同時開催するなど、親子で楽しめる盛りだくさんの企画が人気だ。報道陣に一部公開された講習会の様子をレポートする。

消化器外科医がママ目線で企画した
親も子も楽しみながら学べる講習会

 土曜日の午後。15時半の受付開始を前に、親子連れの参加者たちが、全国から続々と会場に集まってくる。今年で2回目となる同会には、消化器外科医を中心に産婦人科医など外科系医師29人(男性7人、女性22人)が参加。女性医師はもちろん、夫婦での参加や、男性医師が子どもと一緒に参加する姿もあり、2年目にして 予想以上の広がりを見せているという。

 1日目は北里大学医学部下部消化管外科学教授の渡邊昌彦先生による特別講演や、秋田大学医学部総合地域医療推進学講座准教授の蓮沼直子先生によるグループディスカッション「外科医のキャリアプランを考える」を実施。2日目は、大腸や胃のスペシャリスト4人を講師に迎え、腹腔鏡手術の手技を実戦形式で学ぶ実習が行われた。

秋田大学医学部総合地域医療推進学講座准教授 蓮沼直子先生

 女性外科医の増加により、子育て中でも参加しやすいようにと、託児所を設置する学会は増えたが、AEGIS-Women主催の講習会は、「子どもたちにも楽しい時間を」という母心を活かして、キッズセミナーを同時開催していることも特徴の一つ。
 
消化器外科女性医師の活躍を応援する会:Association for Empowerment of Women Gastrointestinal Surgeons (AEGIS-Women)」の副会長(会長代理)で、東京大学大学院医学系研究科 消化管外科学准教授の野村幸世先生は「単に子どもを預けられればいいのではなく、子ども自身も楽しめて、親の仕事の一部を垣間見られるような、有意義な企画を目指しています」と話す。

 ご自身も小学生の子ども2人をもつ母として、「親よりもむしろ、子どもの方から積極的に参加したいと言い出すくらい楽しく、親子で勉強できる企画にしたい」と意欲を見せる。

気分はパパやママと同じ外科医!
子どもが夢中になる腹腔鏡手術体験が好評

 今回参加した子どもは19人で、親が集中できるように、託児所は小学生以上と未就学児に分けて2か所設置。保育資格を持つスタッフ6人が安全面に配慮しながら、年齢に応じた多彩なアクティビティーを提供し、子どもたちを飽きさせない工夫を凝らしている。
 
「医師家庭に育つ子どもたちならでは」だったのは、小学生以上の部屋に全身骨格模型が設置されていたこと。また、会場のメドトロニック イノベーションセンターは、医療者向けのトレーニング施設(非公開)で、心臓ペースメーカーの開発の歴史がわかる展示や、有機ELの美しいスクリーンに映し出された鮮明な心臓の画像などにも触れることができる。いろいろな角度から心臓を見ることができ、その様子を興味深そうに眺める子や、目が釘付けになって動こうとしない子もいた。
やはり、カエルの子はカエルだ。

 親と別れ、託児室に入室した子どもたち。小さい子も、日頃から保育園に通い慣れているだけあって、落ち着いた様子。小学生たちも初対面でもすぐに打ち解けていた。絵本の読み聞かせや、ビデオ上映などのお楽しみもあり、小腹が減った頃を見計らって、軽食も提供するなど、至れり尽くせり。

なかでも小学生以上の子どもたちが心待ちにしていたのが、2日目に行われたキッズセミナーだ。
デモ機を使った腹腔鏡の操作が体験できる企画が、昨年も好評を博した。今年はリピーターを含む12人が参加。別室でトレーニング中のパパやママと同じ腹腔鏡に、デモ機とは言え、自分も触れることができるとあって、子どもたちのワクワクは止まらない。手術着を着用してセミナーに挑む子どもたちは外科医さながらの引き締まった表情で、みな真剣に取り組んでいた。

 昨年に引き続きキッズセミナーを監修した日本バプテスト病院外科副部長の大越香江先生は、子どもの高い学習能力を実感し、今年は「縫合結紮」に挑戦など、昨年よりレベルアップした内容も盛り込んだという。鉗子を使ったビーズ運び(らぱびずゲーム)や縫合結紮タイムトライアルなど、時間と技術を競う個人戦もあり、「今年こそは!」と昨年の雪辱に燃える子もおり、大いに盛り上がった。

 成績優秀者には修了式で、親たちと同様に野村先生から景品が授与された。帰宅後もキッズセミナーの話題で盛り上がるほど、子どもたちは充実した時間を過ごしたようだ。

年齢、性別、立場を越えた
ディスカッションはネットワークづくりにも最適

 一方、親たちの1日目のハイライトは、秋田大学医学部総合地域医療推進学講座准教授の蓮沼直子先生によるグループディスカッションだ。そもそも、消化器外科における女性医師の割合はわずか6%。専門医となると2%と極端に女性率が低い。各施設、女性消化器外科医は1~2人。手探りで奮闘している人がほとんどで、会員同士の親睦も役割の一つと掲げる、AEGIS-Womenらしさが光る企画と言える。

 今年は「外科医のキャリアプランを考える」をテーマに、5グループに分かれて活発な話し合いが行われた。蓮沼先生は事例検討のテーマとして以下のような問題を提起した。

・子育て中の女性外科医に外科的手技をどのように習得させるか?
・術者として成長させるために必要なことは何か?
・周りとの軋轢を防ぐために必要な工夫は?

 その上で、実際にあった意見として3人の医師の意見を紹介した。

女性医師A
「子育て中の女性医師は時間制限があるから、長い手術はさせない」ではなく、保育園の迎えの時間になったら、指導医である自分が手術を引き継いでいる。

 

女性医師B
術前の準備から手術の執刀、術後の管理を一貫して主治医がするのがベストだが、それが難しい子育て中の女性医師は、分割してでも、とにかく経験させることが大事。

 

女性医師C
担当主治医が最後まで患者を診ることは当然のこと。子どもの迎えや熱が出たぐらいで医師が早く帰るのはどうかと思う。子どもの迎えに医師免許は不要。よほど緊急の場合は別として、医師としての仕事が優先されるべきではないか。

 20分間のディスカッション後に、シェアされた意見で多かったのは、チーム主治医制や一部の手術のみを分けて担当するパート性の是非など。一部抜粋してお伝えする。

チーム主治医制について
「外科医は当直や緊急対応をしたくないわけではない。子育て中は、どうしてもできない事情があることも理解してほしい」
「チーム主治医制であれば補い合える」
「主治医制は子育て中の医師には対応できない。そういうルールがあること自体が問題。男性にも女性にもメリットのある制度ができればいい」
「チーム主治医制を導入する場合、医局だけでなく病院全体で取り組むことが大事
「複数主治医制への患者や家族の理解など、社会的意識の変化も不可欠

 

手術について
「外科医としてのスキル確立には7~10年はかかる。子育て中の医師をサポートするにはマンパワーが必要。人数に余裕がない場合、どうやってサポートすべきか悩む
「部長クラスが子育て中の女性医師には手術を一切させない方針。そういう施設からは、一度逃げてみるのも選択肢としてはあり」
「『長時間の手術ができないから、やらせない』ではスキルが身につかない。男性医師も介護や病気などの緊急時に、自分の首も絞めることになる」
手術の分担は、子育て中の医師だけでなく、若手育成にも有効

 このような前向きな意見が出る一方、改革が簡単でないことをうかがわせる意見も。

「患者は外来から入院、手術、退院後のケアも一貫して主治医に診てほしいと思っている」
「自分たちがいくら言っても、ボスの考え方が変わらない以上、何も進まない」
「子育て中の先生を大事にすることは大切だが、優しすぎると感じることがある」
「実際、子育て中の女性医師がいると、男性医師に負担がかかる」

 今回講師として参加した管理職の医師たちからはこんな意見も出た。

男女関係なく、医師の労働時間の削減は医療界全体の課題。しかし、すべての人が納得のいく解決策は何か、まだ結論は出ない」
「チーム制は賛成だが、休みたい人と休みたくない人がいるのも事実」
チーム制を導入した際、安全性の確保が課題。例えば、半年間など期間限定で、休日なしで働くチーフレジデントを置き、緊急時に必ず対応できる体制を整備することも大事なのではないか」

 若手女性消化器外科医にとって、同じ悩みを抱える仲間や、先輩医師たちと率直な意見を交わす機会を得ること自体、貴重な経験だという。参加者からは「技術認定のポイント獲得」「腹腔鏡手術の基本手技の習得」以外にも、「同じ境遇でがんばっている女性外科医の先生たちに会えて元気をもらった」「女性医師だけでなく男性外科医も協力して行える環境作りを考えることができた」など、全国の仲間と定期的に意見や情報を交換することで、仕事のモチベーションや、現状打破への新たなアイデアが沸いてきたという意見も寄せられている。

野村幸世先生に聞く!
男女の区別なく、働きやすい環境をつくるには?


消化器外科女性医師の活躍を応援する会副会長(会長代理)野村幸世先生(東京大学大学院医学系研究科/消化管外科学准教授)

Q:「消化器外科女性医師の活躍を応援する会」とはどのような会なのでしょうか。

:消化器外科における女性医師の割合はわずか6%。専門医となると2%、指導医に至っては1%にも満たないのが現状です。せっかく消化器外科医をめざしても、出産・育児との両立の難しさから、道半ばにして夢を断念せざるを得ない女性医師も多いのです。そこで、一人でも多くの女性消化器外科医が楽しく、意欲的にキャリアを積めるシステムを作ろうと、2015年にメドトロニック(コヴィディエンジャパン)の協力を得て この会を立ち上げました。現在は、臨床・研究および手術手技向上のための支援、情報交換、教育啓発活動、会員同士の親睦を深める活動などを行っています。

Q:消化器外科はなぜ女性が少ないのですか?

:消化器外科は「主治医が24時間365日患者に尽くし、よい医療を提供すべきである」という考えが根強い上に、手術時間が長く、緊急手術などの呼び出しや当直は当たり前。また、外科のなかでも特に“男社会”の傾向が強いのではないでしょうか。以前に比べ、外科をめざす女性は増えましたが、内視鏡手術歴が専門医取得の必須条件であるにも関わらず、そもそも手術の機会を与えてもらえない、ということは私自身も経験しました。同級生の男子の方が、明らかに手術件数が多いんですよね。それは今も昔もあまり変わりません。
仕事はただでさえ大変なのに、妊娠・出産でブランクが空いたり、時短勤務中だと、さらに手術に携わる機会は減るわけです。手術はできない、正しい評価もされないとなると、モチベーションが上がらないのは当然で、「育児を優先したい」と非常勤になったり、現場を離れていく先生も多く見てきました。

Q:ご自身も多忙のなか、先生がこの活動に力を入れる理由は?

出産や子育てを理由に、女性が冷遇される環境は絶対に間違っているという強い想いがあるからです。私は横やりが入れば入るほど「絶対に変えてやる」という意欲が湧いてきます。ただ、術後に自分が執刀した患者さんの具合が悪くなれば、すぐに行って診て差し上げたいと思うのが消化器外科医でもあります。実際、行くなと言われるのも苦痛なのです(笑)。今後は、そういう文化も変えていかなければならないと思っています。また、子育て中の女性医師も、努力すれば普通に専門医を取れる環境を作ることも目標です。

Q:今回、男性医師も多く参加されていました。この点についてはどのようにお考えですか?

:この会を企画した理由のひとつに、子育て中でも技術取得のトレーニングができる機会を作りたいという目的がありました。今年はお子さんと一緒に男性の先生が参加されるなど、新たな動きも出てきました。当会の趣旨に賛同してくださる男性医師が増えることはとてもうれしいですね。女性の働き方改革を進めるには、男性の協力が不可欠です。子育ては母親だけでするものではなく、父親も参加しないとうまくいきません。男性も子育てに参加し、ご自身の人生観や価値観などを伝えることはとても大事ですから、今後も男女の区別なく参加でき、むしろお子さんから「行きたい」と言ってもらえるような、楽しい会にできたらいいなと思っています。
 今回、産婦人科の先生も1人参加されています。腹腔鏡の経験ゼロの先生もいらっしゃいます。診療科や子どもの有無にかかわらず、興味のある方は気軽にご参加ください。

Q:各職場で男女共同参画、ダイバーシティーに取り組む上で、必要なことは何でしょうか。

:一つは物を言える立場に、ある程度の割合で、女性を登用することでしょう。また、改革を推進する立場の方が、自ら率先して家事や育児に参加することも大事なのではないでしょうか。日本では、女性管理職の割合を決めても、肝心の女性が手を上げないとよく聞きます。私からするととても不思議なのですが。ある研究によると、100%の自信がないと仕事を引き受けないのが日本人女性だそうです。驚きだったのは、日本人男性は50%でも手上げをすることでした(笑)。日本人の女性には「100%できる確信がなくても、引き受けていいんだよ」とお伝えしたいですね。

Q:最後に、読者にメッセージをお願いします。

:育児と仕事の両立に悩み、自分の仕事のペースを緩めることが「子どものためにもよいことだ」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、教育学的にはそれは間違いだと証明されています。子どもの精神的な発達を中学生になるまで長期間フォローアップした研究によると、最も精神的に安定していたのは、母親がずっと常勤で働き続けたグループです。つまり母親が働き方を変えない方が、子どもは精神的に落ち着くということです。非常勤だった母親がある日突然常勤に変わり、帰宅時間が遅くなったり、ずっと家にいた母親がある時点で仕事を始めたりする方が、子どもにとっては大きなストレスなのですね。

  私の子どもたちは「お母さんは働いていて当たり前」の生活を小さい頃から続けてきました。それは自分が働きたいからだけではありません。自分が働いている方が子供の教育上良いと思っているからです。家庭をもって子どもをもつということは、私にとって大事な人生の仕事です。朝から晩まで働き詰めでも、子どもを大切にする気持ちはちゃんと子どもに伝わっています。若い先生方には「途中で仕事の形態を変えてはいけない」というメッセージを送りたいです。最後に、パートナー選びを妥協しないこと(笑)。家事、育児をしてくれる男性じゃなかったら女性の社会生活は成り立ちません。

文/岩田千加

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