1cd2ad8a 2697 48db a8aa 2c5062471a57ワークスタイル
2019年06月23日

働く世代の健康を“知識のワクチン”で支える!医師、看護師、保健師のタッグによる街の医務室「マチーム」

都内の大学病院で研究者として勤務する竹宮たかこ先生は、中央省庁や都立高校の産業医などの仕事もこなす多忙な女性医師だ。さらに、昨年10月には株式会社Machiimを設立。忙しさに拍車がかかり「毎日分刻みで動いています」と話すが、その表情は明るい。街の医務室「マチーム」は医師・看護師・保健師がチームを組み、主に従業員50人未満の企業を対象に、医療職ならではの情報、ネットワーク、経験をフル活用して社員の健康を支える健康管理サービスを提供。自身の健康はもちろん、親が介護になる前に知っておくべき知識などを伝える出張セミナーなど、予防に重点を置いたきめ細かいサポートが特徴だ。この活動を始めるきっかけや狙い、予防医療に情熱を注ぐ想いなど、ベテラン研究者の新たな取り組みを取材した。

小規模オフィスにこそ必要な健康管理を
医師・看護師・保健師がチームで支える

「マチーム」は医師、看護師、保健師の出会いをきっかけに、2018年10月に設立された。メンバーは竹宮先生が絶対の信頼を置く看護師の本山鈴子さんと、保健師の早川未来さんの3人で、いずれも医療職に従事して25年以上のベテランだ。


竹宮たかこ医師

活動のきっかけについて、竹宮先生は次のように語る。

「私と本山はもともと知り合いで、まだ『健診は受けるだけ』という時代に、社員の健康の大切さを訴え、企業や組織の中で健康管理の仕組み作りに奮闘する本山の姿をそばで見て来ました。最初は産業医の立場で協力していたのですが、予防や未病に対する3人の想いが合致して、ベテラン医療職チームによる健康管理サービスを提供する会社を設立しました」

社会福祉法人やNPOではなく株式会社にしたのは、医療相談はボランティアになりがちだが「自分の健康を得るための知識や情報には、モノを買うのと同じぐらい価値があること。価値あるサービスに対しては、しっかり対価を支払っていただくことで、医療職自身のやる気や仕事へのモチベーションアップにつながると思ったから」だという。


看護師の本山鈴子さん

マチームのメインターゲットは従業員50人未満の小規模オフィスだ。社員の健康管理が手薄な小規模オフィスの従業員の健康を守ることこそが、マチーム設立の原点だと、竹宮先生は言う。実は、この取り組みは早川さんの悲願でもあったそうだ。

早川さんの父親は小さい会社を経営していたが、中学生の頃に脳卒中で他界。「私が保健指導をしていたら、父は死なずにすんだのに」という思いから、約10年前にフリーの保健師となり、小規模オフィスに保健指導に出向く仕事を1人で始めた。しかし、なかなかうまくいかず、諦めかけたときに本山さんから「マチーム設立のメンバーとして参加しないか」と、声をかけられたという。


保健師の早川未来さん

「私自身もフリーランスの友人を3年前に亡くし、本山も家族の病気を経験して、健康管理が届きにくい人こそ支援が必要だと感じていました。起業という形をとったのは、違う分野の人と出会ってみたい、経営にも挑戦してみたいという想いもあったからです。医者ってどうしても視野が狭くなりがちですからね。何よりも同じ想いを共有できるこの二人となら、一緒にやってみたいと思ったんです」

社員の本音を聞き出すのは看護師・保健師
医師は裏方に徹することがうまくいく秘訣

マチームの主サービスである「小規模オフィス健康管理サービス」は、健康診断の異常の有無にかかわらず、全員に個別の手紙を送り、その人のライフスタイルに合わせた食事・運動などの生活アドバイスや病院受診の提案までを行う、きめ細かい対応が強み。看護師・保健師が企業に出向き、面談が必要な社員に、直接生活習慣改善のアドバイスをするほか、年に1回健康ミニセミナーを開催。契約期間中は、看護師・保健師が電話で健診結果の相談にも対応する。マチームのセミナーをホームページやSNSに掲載することで、企業側はイメージアップも期待できるという。

また、小規模事業場が産業医・保健師などと契約して産業医活動などを実施した場合、最大60万円の助成金が受けられる制度「小規模事業場産業医活動助成金」の申請などもサポートする。

「このサービスは、産業医の選任が定められていない小規模な会社に、まずは健康診断を受けてもらうことが目的なんです。必要であれば無料セミナーを開催し、会社にとって社員の健康がいかに重要かを理解していただいた上で、健康支援を医療のプロが丁寧にフォローするプランをご提案します。また、弊社で一定の認定基準を設け、条件を満たす企業には経営者が従業員の健康を大切にしている証として『Machiimu50』のステッカーを配布します」

 セミナーの充実も特徴の一つで、従業員向けの健康指導セミナー、そのセミナーの実践テクニックを学ぶ企業内医療職向け産業保健研修セミナー、安全衛生推進者向け研修セミナーと、3種類に対応する。

とはいえ、主な相手は従業員50人未満の小規模企業。どれだけ従業員の健康管理の重要性を伝えたところで、なかなかその重要性に気付き、さらには対応まで取ってもらうのは至難の業だ。そんな中、経営者のマインドチェンジを図るのは「人に寄り添って悩みを聞き、信頼関係を築いていく看護師と保健師の力が大きい」と竹宮先生は話す。

「2人が企業を訪問することで、本当に困っていることや人には言えない不安など、社員の方の本音が出るんです。私が行く前に既に信頼関係ができているから、『この2人が連れてくる先生の言うことなら聞いてみよう』と思って下さるので、とても助かっています。そういった小さな変化の積み重ねを目の当たりにすることで、経営者の意識も変わってくる。そういう意味では、この仕事では私は裏方。いざという時のダメ出し要員として控えているぐらいのスタンスの方がうまくいく気がします(笑)」

「健康支援」+「リラクゼーション」の両輪で
働く世代に知識のワクチンとリフレッシュを提供

 新たな取り組みとして現在計画中なのが、マチームの強みであり、他にはない特徴を持つ健康トータルサポートだ。それは、ベースの「健康支援」に、オプションの「ヘルスケアリラクゼーション」を組み合わせたもの。その第一歩として今年8月、河田町(新宿区)に完成予定のマチームの建物内において、アロマセラピーやストレッチ体操、ヨガなど、心身をリフレッシュし、病気を予防するための心と体のリラックスプログラムを提供する。

 企業会員のほか、女性専用個人会員「ガトーショコラ」コースも用意し、肩こり・腰痛対策ストレッチをはじめ、心身ともにリラックスできるセミナーや、癒しの健康ドリンクつきの健康ワークショップなど、職場の仲間と仕事帰りに楽しく参加できるメニューを多数用意する。打ち合わせや仕事、趣味の会などに活用できるレンタルスペースもあり、医師・看護師・保健師が個別で健康相談にも応じる。さらに、9月3日には「ヘルシー&リラックス」がコンセプトのテイクアウト専門カフェ「こかげ」もオープン予定だ。

「働く世代には健康指導だけでなく、心も体もリラックスできる場所が必要です。SNSなどを通して、いつでもどこでもつながる時代だからこそ、マチームに来ている間だけは現実から離れられる。そういう空間にしてもらえればと思っています」

 ワークショップやセミナーに参加した人たちに「知識のワクチン」を提供することもマチームの狙いの一つだ。

「ワクチンを打っておくと免疫がついて、感染に強いでしょう。それと同じ考え方で、知識を先に入れておくと、更年期や親の介護など、何かあっても落ち着いて対処できます。

 

病気の早期発見も目的のひとつで、マチームに来ることで自分の体をもっと身近に感じていただきたいです。自分の体の変化は本人が一番よくわかっているはずなのに、忙しさなどを理由に、見て見ぬふりをしている人は多いですよね。マチームで自分の体と向き合う時間をもつだけでも、健康に対する意識がかなり変わると思います。

 

病院に行くほどではないけれど、リフレッシュに来たついでに医療職の話を聞いたり、個別相談したりすることで、病気の早期発見・治療につなげられたらと考えています」

 本山さんと早川さんは、この場に医師がいることに大きな意味があると話す。

「竹宮先生は大学で脳の研究もされており、看護師や保健師とは違った専門的な視点で体の仕組みなどのお話をしてくださいます。年齢による身体やメンタルの悩みなどを先生のお話と合わせて聞くと、本当に腑に落ちるというか、納得できるので皆さんに喜ばれます」

 それぞれを尊敬し、三者三様の強みを生かしながら、抜群のチームワークで人々の健康を支える。そんな新しいチーム医療の在り方が、マチームの活動にはある。

親が介護になる前に
家族会議のきっかけをつくる

 今後は、介護離職予防対策に力を入れ、大企業なども対象に出張セミナーを積極的に実施していくという。

「介護に関しては、誰もがいつか必ず直面する問題です。親が倒れてから考えるでは遅すぎます。40・50代から情報収集し、知識のワクチンを打っておくと、介護に対する備えができるので安心です。実際に介護になった場合、7割は意思疎通ができないのが現実で、マチームではご家族で話し合うきっかけづくりに『家族会議のレポート添削』を企画しました」

 親の介護を想定した治療選択や損をしない介護制度活用法などを知り、どんな医療・介護を受けたいかなどについて、親が元気なうちに意思確認をしておくのがベストだが、“死”や“お金”について生前に語ることを嫌がる親は多いという。そこで、長年医療に携わってきた3人だからこそ考えついたのが、宿題形式での家族会議の提案だ。

「息子や娘が、レポートを出さなければいけないから手伝ってというと、親は付き合ってくれます。自分の地域にどのような介護支援サービスがあるのかを知り、詳しい情報を入手できる地域包括支援センターに足を運ぶきっかけになれば、いざという時にも安心です。セミナーでは質問タイムも設けますし、受講者の方のご家族に実際に問題が起こった場合は、早急に対応(有料)するなど、医療職のマチームだからこそできる役割を今後も担っていきたいですね」

 呼吸器内科から研究者の道へ進んで20年。結婚・出産を経験し、女性医師応援コミュニティ(Women Doctors’ community)の副代表も務める竹宮先生。新たなチャレンジはまだ課題も多いが、そこはやはり研究者。「最初は失敗するのが当たり前。トライ&エラーを繰り返す中で、どうすればうまくいくのか考えるのは、楽しみでもあります。いま、ご自身のキャリアに悩んでいる女性医療職の方がいらしたら、こんなチャレンジをしているベテラン医療職もいるんだよ、と思ってもらえるとうれしいです」


マチームの現オフィスが入るFARO神楽坂にて。
右から早川さん、本山さん、竹宮先生、マチームの活動に共感し創業支援を行う㈱スモールトーキョーの堀遵代表取締役

竹宮 たかこ
内科医・研究者として都内大学病院に勤務しながら、都立・私立学校の産業医/校医や中企業の産業医、中央省庁の健康管理医などを20年以上継続。『健康診断結果の見方・考え方』『メンタルヘルスのセルフケア・ラインケア』『ダイバーシティの推進』などの企業セミナー、管理職セミナーの実績多数。Women Doctors‘ Community副代表. 女性のワークライフバランス推進に貢献。心と体の変化を生理的、病態的に観察・分析し患者さんにとってのベストを共に探すカスタマイズサポートをモットーにしている。

 

本山 鈴子
看護師として都内大学病院などで勤務後、大手自動車会社、大手航空会社、大手総合商社などにて長年産業保健業務に従事。前職は国家公務員として中央省庁に勤務。働く方、上司、部下、医療職との連携を通して、複数の組織の健康管理の仕組みづくりを構築。医療職の立場から働き方改革、両立支援対策、ダイバーシティ、ワークライフバランスの推進に携わる。健康相談、仕事と病気・介護の両立相談、健康セミナーの企画・運営の実績多数。

 

早川 未来
看護師として大学病院勤務後、企業・市役所・学校で、健康管理などの保健師業務に長年従事。健康管理室の設立・運営、健康相談・健康セミナーなどの実績多数。健康教育ツールの開発、医療職向け勉強会の企画・運営、他職種連携支援など、専門職へのサポートや業務効率化にも力を注ぐ。医療職歴25年。仕事でのモットーは『今できることを誠実に』。

文/岩田千加
撮影協力/FARO神楽坂