C9f104aa 45c2 4f49 9248 db3b4cb1fe3e医療トピックス
2019年06月30日

千葉大総合診療科が日本初!セカンドオピニオンに特化した理由

専攻医の募集者は
全体の2%しかいない

 医学は日進月歩・・・とはいえ、原因がよく分からない、診断がつきにくい、治療法が確立されていない等、まだまだ未解明な病気が多いのはご存知の通りだ。

 生坂政臣教授率いる千葉大学医学部付属病院・総合診療科は、「どこに行っても診断がつかない、臓器横断的な見方でないと診断がつかないような、隙間に落ち込んでいる病気、あるいは複合的な原因が合わさり、診断がつきにくい病気を診る、医療の駆け込み寺的な診断科」として、迷える患者とその主治医らから絶大な信頼を寄せられている。

 そういう意味では、今一番のびしろの大きい診療科でもあることは間違いないのだが、状況はなかなか厳しいものがある。

たとえば総合診療科は2013年、厚生労働省から19番目の新しい基本診療科として認められ、2017年より専門医の育成が始まった期待の診療科だが、専攻医の募集者数は1年目にあたる昨年が9000人弱いる専攻医の中でわずか184人(2%)、今年も179人しかいない

「総合診療医は、身近な医者でなければ存在意義がありません。かかりつけ医あるいは家庭医として頻度の高い疾病の初期対応を担当し、必要があれば機能別の専門医を紹介する。自ら対応できる患者には継続して医療を担う。高齢者対応として他職種と連携して介護サービス、医療サービスを看取りも含めて包括的かつ柔軟に提供する、といった幅広い役割が期待されている医療費抑制政策の要です。どこにいるか分からない、大学病院に行かなければ診てもらえないみたいな総合診療医ではまったく国民のためにならないので、全国的な改革に取り組んでいるところです」

 と、生坂教授も嘆くように、その数は圧倒的に足りていない。

 一方で、病院経営的にも、総合診療科ならではの難しさがあって採算がとれないため、千葉大の総合診療科は昨年からセカンドオピニオン外来に特化し、地元以外から紹介状を持って訪れる患者に対しては1回につき4万円(+消費税)43,200円での自費診療を開始した。公立病院の一診療科がセカンドオピニオン外来に特化するのは、世界でも極めて珍しいという。

 総合診療科の重要性と抱えている問題について、生坂教授に解説してもらった。

診療科になったはいいが
普及が難しい理由

――総合診療科は、欧米では以前から診療科として確立されていたそうですが・・・

 OECDに加盟する先進諸国では70年代あたりから、臓器別医療が進むなかで横櫛が刺せる医療として必要性が認められ、診療科として確立されました。
 日本はかなり遅れているわけです。80年代に入ってようやく、スペシャリティを追求する一方で横断的な領域も必要になるということで、総合診療科を興そうという機運が盛り上がりました。

――80年代ですか、そんな前から必要性は認められていたというのは驚きです。

 大学で臓器別の専門領域に特化した診療を長年行ってきた先生が、もうそろそろいいかなという感じで退官して、突然地域医療の担い手になるというのもかっては通用しましたが、今はそうはいきません。

 かなり専門性の高いところをやってきた先生が、いきなり全領域を診るかかりつけ医になるのは、必要な医学の知識量からいっても手に余る。それでも、そういう形でやっているのが、現在の地域医療の実態です。

 総合診療専門医が出て来て近くで開業すると、そういう先生方は困りますよね。改めて、総合診療を学ぶのは大変だし、自分の患者さんをとられるのも困る。

あとイギリスでは人頭制と言って、GP(日本では家庭医)は地域の患者さん2000人ほどの主治医になるんですね。そうするといくら診療しても全然診療しなくても、住民一人当たりいくらという計算で診療報酬が国から入るようになる。これには誤解もあるのですが、そういう制度に結び付けられると、国から診報報酬だけでなく、診療内容や開業場所までコントロールされるのではないかという懸念の声があり、特に「家庭医」という名称には医師会が反対してきた経緯もあります。

――でも、時代の流れから、否が応でも総合診療科が必要になった?

 そうですね。医療費が高騰し、日本経済を圧迫するようになり、これ以上は無理だと。高齢者もどんどん増えるし、医学も進歩して、効果は高いけど非常に高額な抗がん剤が登場し、必要とする人全員に投与していたらとてもじゃないが財政的にもたない、ということでどこかで抑制をかけないといけない。その手段として注目されたのが総合診療科です。

総合診療医として一人の医者がいろんな病気をまとめて診れば、複数の医療機関を受診して、一回一回初診料、再診料を払うよりずっと医療費を抑制できる。欧米では既に、総合診療医がいると地域の医療費が抑制されるということが証明されているので、厚労省も重い腰を上げたわけです。

――2017年から専門医の育成が始まったわけですが、「総合診療医になりたい」という若手が、全体の2%しかいないというのは大問題ですよね。

 そうなんです。今年、厚労省から発表された将来の需給予測では医者が多すぎてこれ以上いらないという領域も結構あるのですが、総合診療科はその試算に載せようがないほど全く足りていません。
本来であれば厚労省が音頭を取って、毎年、診療科ごとに人数の割り振りをしてもいいのではないかと思うのですが、そこは選択の自由など人権の問題があり、単純にはいかない。

総合診療を巡っては80年代より医師会と対峙してきた歴史がありますが、わが国の地域医療は医師会によって支えられているという現実があり、また10万人の開業医に頼る以外、目前に迫った2025年問題を乗り切る方法はありません。そのために、総合診療専門医が公的に認められた今こそ、若手医師だけでなく、すでに地域で頑張っている医師にも、働きながら総合診療を学べるツールを提供し、試験に合格すれば総合診療専門医の資格を授与する仕組みを早急に構築して、地域医療の底上げを図る必要があります。言うまでもなく日本の総合診療を牽引していく若手の育成は重要ですが、それを待っている時間的猶予はないのです。

――原因不明みたいな病気と対峙する先生のような総合診療医と、地域のかかりつけ医では、同じ総合診療科でもだいぶ違います。

 はい、総合診療医には2種類あります。

 1つは、先ほどから申し上げているように、患者さんの近くにいて、何でも相談にのって、必要に応じて専門医に紹介する医師。医療の入り口的な役割を担う総合診療医ですね。
※中小病院で入院患者さんを担当する場合もあります。

 2つめが、どこに行っても診断がつかない、臓器横断的な見方でないと診断がつかないような患者さん、臓器別医療の隙間に落ち込んでいる病気、複合的な病気(1つの病気ではなく、3,4つなど病気が複合的に絡み合って正体がつかめない)などを診る、大学病院の駆け込み寺的な総合診療医です。

要するに、最初にかかる医者と最後の砦的な医者、両方とも総合診療医です。砦の方は基幹施設毎に数名いれば何とかなりますが、最初にかかる総合診療専門医は少なくとも全医師の3割、つまり10万人ほど必要です。ですので早急に手を打たなければならないのです。

――でも、40代を過ぎればほとんどの人の病気は複合的なのではないでしょうか。

おっしゃる通り。高齢になるほど、病気が1つだけということはありえない。必ず複数の病気を持っています。

ただ、若い方でも、実は臓器に問題が起きて症状が出るだけでなく、メンタルあるいは社会的なことの影響で症状が出ている場合も多々あります。臓器は悪くない、心も健康。だけど社会的に追い詰められていろいろ症状が出ている。内科にも精神科にもあてはまらない患者さんがいます。現代はストレス社会ですからね。

つまり、高齢者は複数の臓器、若い人は心理的・社会的要因で、症状が形成されているということは普通にある。そういう意味で、総合診療の視点は今後ますます必要になるでしょう。

――現代の医療は身体医学と行動心理学、精神医学が完全に分かれているせいで、痛み一つとっても診断がつかず、彷徨い歩いている患者さんが沢山いると、慢性痛医療のドクターに聞いたことがあります。慢性痛は複雑系なので、単純な原因で診断しようとしても無理なんだと。

 同感です。腰痛なんか、その最たるものだと思いますね。
腰痛の診断で難しいのはMRIとかを撮ると、ちゃんと異常があることです。確かに異常はある、でもそれだけでは患者さんが抱える全部の痛みの説明はできない。特定の動作で生じる痛みは説明できても、それ以外の、鎮痛薬が効かないとか、ストレスが加わると悪化するといったことの説明ができない。それはやはり心理的、社会的要因が複合的に組み合わさって一つの症状ができている。

 しかも、それぞれの要因は、バラバラに見ると、全部大したことないんですよ。メンタルとしてもそんなに悪くない、社会的に見てもストレスはそれほどでもない、腰だけ診ても骨等の異常は大したことない、でもそれらが合わさると激痛になる。
こうした症状を一人の医者が診断する仕組みが、全然足りていない。

腰痛においては、本当に単純に、たとえばヘルニアがあるから痛みがあるなんていう、純粋に一つの原因による痛みだけを訴える人はむしろ少数派でしょう。

――複合的な要因によって症状が出ている患者さんの診断は難しそうです。

 患者さんの7割8割は問診で、診断がつきます。2割ぐらいが診察。検査で診断がつくのは1割ぐらい。なので、総合診療科には、7:2:1というおおざっぱなルールがあります。
心理的、社会的な要因によるもの、あるいは初期で、まだ十分に検査に出るような臓器障害がない場合には、問診でしか診断ができないのです。
なので私どもは問診にかなりの時間をかけます。

――どのくらいですか?

慣れにもよりますが、私がやっても20分、30分ぐらいかかります。
というのは患者さんの言葉から、患者さんのイメージと病気のイメージ、その両方を作らなければいけないからです。

かかりつけ医であれば、患者さんのことを分かっているので、いつものイメージはできていますよね。ですから問題になっている病気のイメージだけ、加えて作ればいい。それは簡単ですが
私どものところでは全員初めての方ですので、ゼロから作らなければいけません。

よく「そのうち外来診療はAIで全部置き換えられる」という話があり、私どももそれをめざして研究しているのですが、全然だめですね。
たぶんこの領域は、最後の方になると思います。

――問診だけで診断がつく、というのは一般の感覚では驚きなんですが。

 そうなんです。皆さん「診断は検査だ」と思っていますよね。でもすべての病気において、検査で分かるのはほんの1割。検査で異常が出たとしても、それだけでは分からない
たとえば一般外来でみる頭痛の場合、とりあえずCT、MRIを撮る施設もありますが、それで異常がみつかるのは500人に一人ぐらいしかいません。頭痛のほとんどは機能性なので、画像では映らない。ちなみに、救急外来でみる頭痛患者で異常がみつかるのは二人に一人ぐらいです。

――頭痛やめまい、腰痛等々がつらくて病院を受診して、検査を受けたけどまったく異常がないから病気ではないと言って帰されて、困っている患者さんは物凄く多いと思います。

でしょうね。でも問診で、病歴を詳しく伺えば診断ができるんです。ですから私どもは問診に時間をかける。
しかもここは教育病院ですから、私が問診する前に、研修医あるいは専攻医にやらせるので、もっと時間がかかります。患者さん一人当たり1時間から2時間は確実にかかりますね。診られるのは1日10人ぐらいが限界です

――そんなに時間をかけていたら、採算がとれないのではないですか。

 とれません。国立大学も独立行政法人化以降、採算性については年々厳しくなっています。そこで当科も去年、「もうこれ以上は厳しい」ということで、人員削減に加え、診療内容をセカンドオピニオン外来にして保険診療は緊急性が高い場合や追加検査が必要な場合に限り、それ以外は自費診療に変更させていただきました。セカンドオピニオン外来は、自費診療をすることが認められていますので、1回につき40,000円(+消費税3,200円)を頂戴しています。
 それでも受診は3か月待ちですが。

――がんの治療方針についてのセカンドオピニオンはだいぶ浸透していますが。

 診断に関するセカンドオピニオン外来に、公立病院が特化するのは世界でも珍しいと思います。
というのも、治療方針のセカンドオピニオンなら、患者さんも分かりやすいですよね。でも診断というのは、つくかどうかさえわからない。検査で証明できるのは1割ですから。ですので、担当医は下した診断を患者に納得してもらえるように、診療費に見合った丁寧な説明が要求されるのです。
これは、患者さんとの信頼関係がないとできないことです。

診断を信頼してもらい、臨床の先生にはこういうふうに対処してもらってくださいとアドバイスし、お帰りいただく。そこまでの信頼は、この1年で勝ちえたと思っています。一応、患者さんはひきもきらないので。

      *   *   *   *   *

患者さんがひきもきらない現状に、総合診療科の必要性と可能性がある。「最後の砦」としての総合診療科の未来には明るい光が見える。次は「入口」としての総合診療科の普及だ。

※ 専門医療は必要ないが、外来では診ることが困難な肺炎患者などを診る役割を担っている総合診療医もおり、最近、「病院総合医」という資格を検討する動きが全国で広まっている。

生坂政臣(いくさか まさとみ)
千葉大学 医学部附属病院総合診療科科長。同大学院医学研究院診断推論学教授。同医学部付属病院副病院長。1985年、鳥取大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院博士課程、アイオワ大学家庭医学レジデント修了後、東京女子医科大学助手、聖マリアンナ医科大学講師、診療所副院長などを経て、2003年より現職。米国家庭医療学会認定専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本内科学会指導医、日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医・指導医。

文/木原 洋美

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