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2015年11月23日

宇宙飛行士ファイナリストの産婦人科医が描く夢
選択肢が多いほど人生は豊かになる

2009年にJAXAが行った宇宙飛行士選抜試験。963名の応募者から選抜されたファイナリスト10名の中の唯一の女性が産婦人科医・江澤佐知子先生です。
2015年夏に放送されたNHKドキュメンタリー『宇宙飛行士になりたかった~夢への挑戦から6年~』でも圧倒的な存在感を放っていたスーパーウーマンは、現在も宇宙への夢を追いながら、産婦人科クリニック理事、会社経営、NPO代表、法学研究と挑戦を続け、活躍の場を広げられています。さらには、双子の男の子のママとしての顔も。「人にポジティブな変化を起こせる存在であり続けたい」とお話される江澤先生に聞いてみた挑戦し続けるエネルギーの源、そして今後の展望とは――。


江澤佐知子先生

医学博士/産婦人科専門医/社会起業家

 

医学部卒業後、慶應義塾大学医学部・産婦人科学教室入局。産婦人科医として臨床に携わる一方で、サプリメント会社、化粧品会社、電子母子手帳運営会社、医療情報啓蒙のためのNPO法人の代表も務める。2009年には宇宙飛行士選抜試験に挑戦。日本人女性唯一のファイナリストとなる。2012年には早稲田大学法学部に学士入学。医事刑法や最先端医療に必要な法制度についての研究を重ね、2014年卒業。卒業論文「臨床研究と臨床応用の規律 医学と医事刑法の側面から」は早稲田大学法学会学術賞を受賞。2014年8月に出産した双子の男の子、スコットランド人の夫との4人暮らし。

自分のキャパシティは変えられる!
限界まで自分を追い込んだからこそ見えたもの

理路整然とした語り口、しっかりとこちらを見据える視線、凛とした雰囲気ながらも、生き生きとしたエピソードで笑いを誘う江澤先生。数多くの顔をお持ちで経歴を説明しきることさえ難しい。そんな恐るべきバイタリティを兼ね備えた先生が“挑戦を続ける土台”を築いたのは、医師としての研鑽に没頭した慶應義塾大学・産婦人科医局での12年間にあるという。

「慶應での日々で、自分の限界だと思っている枠は変えていけるということを学びました。月の3分の2を当直し、緊急手術で一睡もできないまま連続勤務ということもしょっちゅう。もともと体力はあるほうですが、さすがにハードでした。いざ眠れる時がきても“ポケットベルが鳴っても気付かなかったらどうしよう”との不安に駆られ目が冴えてしまってさらに疲れる。その繰り返しでした。でもそのおかげでこんなにも自分のキャパシティは変えていけるのかと気付かされました」。

そんなハードな日々を「穴グラ生活でした」と振り返る江澤先生。でも、「どんなに辛くともそれがワガママなのか、甘えなのか、本当の自分の限界なのか分からないうちは続けよう」と覚悟していたという。

「自分が志した道ですから、途中で辞めたら何より自分に恥ずかしいような気がして。結果や成果を確かめたいし、やっぱり向いていなかったという諦めや我慢の限界はある程度続けなければ分からないものだと思うんです。だから、見極められるまではやり続けようと思った。それが私の医師の道です。」

医師としての研鑽の途中なのに他のことに手を出すのは中途半端
自分に課したケジメは博士号

今でこそ、医師以外にも多数の顔を持つ江澤先生。駆け出しの医師の頃から、様々な道への挑戦を続けていたものだと思いきや意外な答えが。

「博士号を取得するまでは医師としての研鑽に集中しようと思っていました。もちろん、医師以外にやってみたいこと、学んでみたいことはありました。でも、医師としても研鑽の途中なのにあれこれ他のことに手を出しても中途半端だと思っていたんです」と潔い言葉。プロフェッショナルとしての軸があってこそ、+αの自分に説得力が増すと思ったという。

そんな先生に訪れた転機は、何気ない光景だった。全速力で走り続ける研鑽の日々を繰り返していたある日。救急外来を終えて外に出たときに飛び込んできた光景に心が揺さぶられる。「空は青くて、雲は白かったんです。ただそれだけ。それなのにその美しさに涙さえこみあげてくるほど感動したんです」。「禁欲的な生活を送っていたからでしょうか」と笑いながらも、「やりたいことをやろう。今までできなかったことを全部やろう」との希望が湧きあがってきたと振り返る。本業でプロフェッショナルにならなければいけない。そう思って没頭した博士論文がアクセプトされるころの出来事だ。

それからは、医療に取り組みながらもやりたかったことに片っ端から取り組む毎日。ビジネススクールに船舶やセスナのライセンス、はたまたハープまで学ぶ喜びに突き動かされていく。医療をしながらの挑戦だが、研修医のころは日々のto doをこなすだけでいっぱいいっぱいだったキャパシティも、10年以上の研鑽を経た頃には随分と広がっていることを感じた。「幼いころから父が“若い時の苦労は買ってでもせよ”と何度も言っていたのはこういうことだからだと実感しました」。

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宇宙への憧れが実現可能な夢へ
きっかけは向井万起男先生との顕微鏡越しの会話

そんな数多くの挑戦の1つに宇宙飛行士選抜試験があった。ちょうど、医師として12年ほど研鑽を積み、医学博士を取得したタイミングでの10年ぶりの募集だった。

「昔から宇宙への憧れはありました。『銀河鉄道999』も好きだったし、兄が好きな星新一さんの小説の表紙にあるロケットを素敵だなとも感じていました。誰しもが抱く宇宙への憧れですよね」。そんなただの憧れが現実味を帯びてきたのは、慶應義塾大学病院で向井万起男先生と顕微鏡越しに話をしたことがきっかけだ。「病理医の向井先生に手術後の病理切片の病理学的指導をしていただいていた時のことです。何の気ない調子で『妻が宇宙から帰ってきてね』と話し始められたんです。『鉛筆を落としては重力を楽しんでいるんだよ』と笑って。その時ですね、宇宙を現実的な存在に感じたのは。実現可能な夢ってこういうことを言うのかな、チャレンジしたい!と強く思いました」。

1年に及ぶ選抜。963名もの応募者の中から最終選考に選抜されたのは10名。江澤先生は唯一の女性ファイナリストだった。最終選考は狭い閉鎖空間での共同生活。さぞ激しい戦いが繰り広げられたかと思いきや意外な答えが。

「最高のチームワークでした。あれほどのプロフェッショナルな集団に会ったことは後にも先にもありません。目指す場が一緒でベクトルが揃った最強のチーム。個々人の強みと役割をわきまえているから、課題へのアプローチも無駄がなく処理も迅速。だから目標到達がめちゃくちゃ早いんです。これだけのプロフェッショナルが揃ったハイレベルの戦いで求められるのは、『競争』ではなく『協調』なんだと実感しました」。二次試験からずっと油井亀美也宇宙飛行士と同じチームだったという江澤先生。ファイナリスト10名とはお互いに「人生の友」と言い合い、今でも飲みに行ったり、結婚式で集まったりと交流を深めている。

リスタートへ背中を押したもの

あと一歩のところで届かなかった宇宙飛行士への道。人生を賭けて挑んだ挑戦の結末に一時的にバーンアウトのような状態になったという。そんな江澤先生を再び立ちあがらせたのは同じく産婦人科医の父の言葉であり、背中を押したのは臨床現場での患者さんたちの声だった。

「試験に落ちて落ち込まない人はいませんよね。そんな気持ちを抱えながらも仕事をしていると患者さんから『先生と会って元気になりました』『パワーをもらいました』と言われるんです。元気になるからと私に会うことを目的に来てくださる患者さんもいらっしゃって。“自分が役に立てる居場所があって嬉しい”と素直に思いましたね。それで、人の背中を押してポジティブな変革を起こしていくことが私の役目なんじゃないかと思い至ったんです」。その結果、臨床はもちろん講演やイベント、各種取材にも可能な限り取り組まれている。未来を作る子どもや学生向けの講演には特に力を入れているという。

宇宙への挑戦後に開けた法学と母への道

その一方で、新たな領域へのチャレンジもスタートした。臨床現場で痛感するドラッグ・ラグ、サプリメントや美容クリーム会社経営に当たって直面する医療規制など医療と欠かせない法制度を学ぶために早稲田大学法学部に学士入学。医学博士取得の際、難治性卵巣癌の新薬への可能性を研究しているにも関わらず、実際の患者さんにすぐに使用できない臨床医としてのジレンマがそのきっかけであった。医事刑法のゼミに所属し、権威である甲斐克則教授に師事。法規制の歴史的考察、各国比較、応用への道筋のあり方をまとめた論文は、早稲田大学法学会学術賞を受賞した。「further studyを博士課程のテーマにと思っていたところで双子を妊娠。一旦中断していますが、必ず追い求めたいテーマです」と展望を描いている。

2014年8月に生まれた双子の男の子の子育てについて尋ねると「保育園とヘルパーさんさまさまです。育児も仕事も自分の力で全てをやることは不可能ですが、最低限食事はきちんと自分で作るように心掛けています」との答え。手術や当直で家を空けることも多い生活。お風呂や寝かしつけに人の手を借りることはあっても、食事に手をかけることを守っているのは自身の幸せな経験があるから。「忙しい両親ではありましたが、ものすごい愛情を与えられて育ちました。特に食事の思い出が鮮明ですね。家族みんなで鰹節を削ったり、昆布から丁寧に出汁を取ってみたり。食事は幸せを彩る重要な要素だと実体験から感じています」。自身の経験に裏打ちされた信念があるから、育児スタイルにも揺らぎがない。「最初こそ子どもに“ごめんね”と思う気持ちはありました。でも、そういう気持ちでいるより“お母さんはこうやって頑張っているんだよ”という姿を見せるほうが絶対いい。信頼できる人に手伝ってもらうことは恥ずかしいことでもなんでもないんです。全てを自分でやろうとして余裕がない姿や感情を見せることのほうが子どもにとっては良くないと思います」。

信じる道に迷いがなく、挑戦の数だけ輝きを増していく江澤先生。はたしてどんなご主人なのか気になって尋ねてみた。「キャリアに関しては完全に私を信頼して心から応援してくれるタイプです。宇宙飛行士の試験を受けようと思っていることをイギリス出張中の主人に電話で伝えたときも“That’s (fucking) good idea!”と即答。普通夫婦の会話に宇宙とか聞き慣れない言葉が出てきたら驚くものだと思うんですけど。そういえば、せっかくビジネススクールに通ったんだから会社を作ろうと思うと言ったときも“めちゃいいじゃん!”と明るく即答でしたね」と笑う。

選択肢が多いほど人生は豊かになる

最後に仕事にプライベートに邁進する女性医師の先生方へのメッセージをいただいた。「もし現状に煮詰まる思いをされているとしたら、何か変化を与えてみることが重要なのではないでしょうか。ずっと妥協しているような生活は一番良くない。何か一歩別のことへ歩みを進めてみる。そうすると見えなかったものが見えてきます。選択肢が多ければ多いほど人生は豊かになる。選択は渋々迫られるものではなくて、選択できることそのものが幸せで贅沢なことなんです。医師はただでさえ忙しいから、何もしなければずっと現状維持。自分から変えていくしかないんです。選択で広がる世界は自らを磨きます。変わっていく自分を楽しんでみてもいいのではないでしょうか。どんな選択でも何もしないよりは必ず以前よりプラスの自分になるのですから」。

好奇心に突き動かされ、挑戦を重ねるごとに輝きを増す江澤先生の姿そのものが、その言葉に説得力を与える。幼いころは「なるほど!ザ・ワールド」のリポーターになりたかったという江澤先生。いつまでも尽きることのない好奇心と行動力を携えて、その挑戦は世界を飛び越え宇宙まで広がっていく。

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江澤先生が理事を務めるクリニック
南流山レディスクリニック

千葉県流山市南流山4‐6‐9 
04-7158-5191


現在、全曜日で日勤の定期非常勤医師を募集中です。
募集状況はこちらよりご確認ください。

 

 

江澤先生が挑戦された宇宙飛行士選抜試験の密着レポート

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)

応募総数史上最多。熾烈を極めた10年ぶりの宇宙飛行士選抜試験のドキュメンタリー。江澤先生が女性唯一のファイナリストとなった最終試験の一部始終も綴られています。

 


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