5e761d7f a251 4fe6 8204 a4d1377523c3医療トピックス
2015年11月20日

NICUにいた小さな赤ちゃんが、爆発的な生命力で育つ喜び。
ドラマ『コウノドリ』の医療指導医が語る新生児科の24時間。

産婦人科医・鴻鳥サクラが主人公のマンガ『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ作)は未受診妊婦、妊娠中の風疹、切迫流産などの問題がリアルに描かれていると、医師の間でも評判の作品。綾野剛さん主演でドラマ化され、現在放映中です(TBS連続ドラマ『コウノドリ』金曜・22時~)。産婦人科医だけでなく、助産師、新生児科医といったチーム医療が描かれているのが特徴でもあります。

なかでも「新生児科」はあまり聞きなれない科ですが、超低出生体重児といったハイリスク新生児の集中治療を担当し、重要な役割を果たしています。ドラマでは大森南朋さん、坂口健太郎さん、山口紗弥加さんが熱演。作品の医療指導を務める日本赤十字社医療センター新生児科の中尾厚先生に、ドラマ制作の裏話、周産期医療現場についてお話をうかがいました。

可能な限りリアルに再現しようとする、
作り手の熱意が伝わってきます。

――ドラマ『コウノドリ』での医療指導というのは、具体的にどのようなことをされているのですか?

 中尾先生(以下、敬省略)

ドラマのシーンが実際に行われている医療に則しているかを確認するのが私の役割です。台本の内容をチェックした後、制作担当者の方と打ち合わせして終わることもあれば、撮影現場にいって新生児科医を演じる俳優の方たちに手技や話し方などを伝えることもあります。難しいのは、本物の赤ちゃんに医療行為をすることができないので、再現が限られる点。それと、赤ちゃんは演技ができないわけで、泣き止むまで待つなど時間がかかることもあります。原作は出産の現場がリアルに描かれているので、制作サイドの方たちはできるだけ厳密に再現したいという熱意があり、生まれたての新生児が登場することもありました。俳優の方たちはみなさんよく勉強されていて、「いきなり深刻な話を伝えたら親御さんは身構えたりしませんか」など、細かいところまで質問されます。

――”深刻な話”といえば、ドラマでは医師が「産むべきか産まないべきか」といった厳しい選択を親御さんに求める場面が出てきました。その決断はご両親に任せるものなのですか?

 中尾
アメリカなどでは完全に親御さんに決めてもらうことが多いようですが、日本の場合、ご両親任せにすることは少ないです。ただ、医者がすべて決断するのはおかしな話で、だからといって親御さんだけで決めてもらうのは酷なこと。だから「一緒に考えていきましょう」というのが一般的なスタンスだと思います。お子さんにとって一番いいと思える道を一緒に探っていくのが大事なステップなんです。

 ――物語では主人公の産婦人科医・鴻鳥先生(綾野剛)と新生児科医・今橋先生(大森南朋)とのチームプレーで困難を乗り越えていく姿が描かれています。

 中尾
実際の現場でもよくあることです。一定のリスクを有している分娩の場合は、私たち新生児科医も立ち会います。たとえば、予定日よりかなり早い段階で産まれそうな時や、病気を持っている赤ちゃん、双子さんや三つ子さんなど難産になりやすいお産などです。たとえ、立ち会えなくても24時間いつでも駆けつけられる体制をとっています。私のいる日赤医療センターでは産婦人科医が20~30人、新生児科医が7人いる、都内でも規模の大きな総合周産期母子医療センターですので、誰が担当としてもクオリティが保たれるように統一基準を設け、ミスのない連携体制をとっています。

新生児のケアだけでなく
親御さんの精神的フォローが重要。

――今回のドラマで「新生児科」の存在を知った一般の方も多いと思います。限られた病院にしかないのですか?

中尾
新生児科医はNICU(新生児集中治療管理室)で働く場合がほとんどなので、NICUの設備がある病院に限られています。新生児科に属しているのは基本的に小児科の医師です。かつては産婦人科医が新生児医療を担当していた時代がありましたが、その後のお子さんの発達を診ていく必要があることから、現在は小児科医が担当することがほとんどで、新生児科として独立した病院も増えてきました。私たち新生児科医は、集中治療室からGCU(継続保育室)に移り退院された後、フォローアップ外来で健診や診療を行い、長いお付き合いになる場合もあります。お子さんの成長や発達を診ることは、自分たちがやってきた医療が正しかったかどうかの確認でもあります。処置をした直後だけでは、結果が分かりませんから。長いスパンで診ることが新生児医療の発展につながるのだと思います。

――中尾先生がいらっしゃる日赤医療センターは、東京都から「母体救命対応総合周産期母子医療センター」の指定を受けている病院。重篤なケースや他病院で対応できない妊婦さんの受け入れを行っています。ベッドは常にいっぱいなのでしょうか。

中尾
うちの病院は超低出生体重児や合併症のある赤ちゃんを治療するNICUが15床、急性期以降を担当するGCUが40床と都内でも規模が大きいですが満床の場合が多いのは事実です。東京都は少子化対策としてNICUを増やし、ハイリスク出産に対応できる環境を整えようとしていて、改善されつつあります。しかし、埼玉、千葉、神奈川といった周辺の都道府県ではまだまだ病床数が足らず、東京都まで運ばれて来ることが多いので、結局、都内の病院がすぐにいっぱいになってしまうんです。

 ――ハイリスク出産が多いとなると、救える命と救えない命が背中合わせともいえます。厳しい結果の際、どのようなことを心掛けているのですか?

 中尾
親御さんには、事実は事実としてお伝えしますが、絶望だけを残すような話し方はしないように努めています。一筋の光でも希望が持てるように……。恐らく親御さんにしたら、厳しい現実に直面してパニック状態で頭は真っ白なはずです。そういうときに多くの情報を伝えても理解できないと思うので、本質的な内容だけに集中します。つまりは、お子さんが大丈夫なのかどうか。「今は落ち着いていますよ」など、少しでも肩の力を抜いてもらえるようにサポートします。若い時は親御さんが自分より年上の場合が多かったので、言葉をどう選んでいいのか迷いましたが、いろいろな背景の親御さんに出会い、上司の姿や同期のやり方を見て、工夫できるようになりました。

新生児科は研修医の間でもマイナーな科ですが
誕生する命から力がもらえる、やりがいある現場。

 ――24時間の受け入れ体制と精神的なタフさが求められる新生児科。原作では女性医師の新井先生がバーンアウト(燃え尽き症候群)になってしまいます。やはり過酷な環境なのでしょうか?

中尾
そんなことないんですよ。ドラマでその話をされると、新生児科医を目指す研修医が減ってしまいそうで心配なんですが(笑)。確かに集中医療領域と救急医療領域を備えた科なので忙しさはありますけど、新生児科だからといってドクターがすぐに辞めてしまうことはないです。原作では女性医師がバーンアウトになりましたが、実際には女性医師のほうが精神的にタフな気がします。現場でも4割くらいが女性医師のような印象です。お産はお母さんが主体になるので、女性医師のほうが話しやすいという方もいらっしゃると思います。私たちが常駐しているNICUは医者だけでなく、看護師さん、保育士さん、心理士さん、薬剤師さん、リハビリテーションのスタッフさんなど、さまざまな分野の専門家が携わっています。みんなの知恵を合わせて問題を解決していく体制をとっているので、ひとりで抱え込む必要はない。それはドクターだけでなく親御さんにもいえることです。

――達成感、喜びを感じるのはどんな瞬間ですか?

中尾
新生児科にいて実感するのはスピードの速さです。残念ながら悪くなるスピードも速いんですけど、一方で良くなるのも速い。800gにも満たなかった小さな赤ちゃんが、日を追うことに目に見えて大きくなる。重症だった子が山を越えるといっきに元気になる。その生命力というか回復力は、診ている私たちも元気がもらえます。命が産まれる瞬間は、たとえ小さくても合併症を持ったお子さんでもおめでたいことです。その命のエネルギーのおかげか産婦人科の先生も含めて、お産にかかわるスタッフは明るい人が多い気がします。病院の中で命が誕生する唯一の場所が産科ですからね。ドラマでは視聴者に分かりやすくするため、現実と多少違っていたり大げさに表現されていたりところもありますが、新生児科の存在が少しでも世の中に知られるようになったらうれしいです。

新生児を傷つけないように爪がきれいに整えられていた中尾先生の手。「保育器にいる小さな子供に処置する手のひらがいつもやさしかった」とある患者さんのお母さんが話してくれました。新生児科医は技術だけでなく、厳しい状況に置かれた母と父に希望と勇気を与える“精神面での手当て”が欠かせない医療現場なのです。

中尾厚(なかお あつし)先生

1975年鳥取県生まれ。筑波大学医学専門学群卒業後、同大学附属病院小児科に勤務。新生児科の専門となり、2010年に日本赤十字社医療センター新生児科に入局し、新生児集中治療の臨床に従事する。日本周産期・新生児学会周産期(新生児)専門医・評議員、新生児蘇生法Aコースインストラクター。

■写真・柳原久子

Joy.netパートナーの女性医師たち聞きました。
ドラマ『コウノドリ』のここがリアル、ここが違う!

<リアルなシーン>

 

「オペの器具、NICUのモニターなど、どの部分もかなり本物に近いです。交通事故の妊婦の搬送のときのエコーの流れもリアルだった。鴻鳥先生のオペ前の手洗いがうまかった。緊急だから、本当はもう少しスピーディにやってほしかったけど……」(総合内科)

 

「赤ちゃんがすごくリアル。出産シーンは本当に出産直後の赤ちゃんだと思った」(内分泌内科)

  

「患者さんが急変した時、研修医の先生が自分の見落としではないかとカルテを何回も確認するのは、実際の現場と同じ。昔担当した患者さんの判断ミスをひきずっている四宮先生の姿にも共感しました」(内科)。

 

「大森南朋さんが演じる新生児科の今橋先生がいい! 出産の際にNICUが全面協力体制の病院は、あまりないと思う」(総合内科)

 

「NICUで働いていました。緊急のとき新生児科も呼ばれる緊迫感はよく描けていると思います」(小児科)

 

「『正常の妊娠は当たり前ではなくて奇跡』というような発言。もっと浸透して、妊婦も周りの人も、妊娠期を大事に過ごせるといいと思う」(放射線科)

 

「赤ちゃんの命が救えなくて患者さんの前では涙を流せないが、心では号泣し無力さを痛感するところ。現代の医学ではどうにもならないことがまだたくさんある。第2話の綾野剛さん演じるBABYが泣きながらピアノを弾いているところは、そういう心情を描写したものと受け取り非常に共感した」(産婦人科)

 

「喫煙の妊婦に嫌われてもきつく注意すべきだったと反省していたシーン。何かが起こってからでは遅いと、あらためて思い知らされました」(形成外科)

 

「鴻鳥先生と助産師の小松さんとのやりとりのように、研修医時代のことを知っているコメディカルには、強くいえないところ」(形成外科)

 

「小栗旬さんが演じていた、まだ父親になり切れていない妊婦の夫の姿はリアリティがある。まさにあんな感じという描写」(産婦人科)

 

「新生児科の今橋先生が、今日も帰れないと娘に申し訳なく電話するのが共感」(総合内科)

 

「下屋先生のような後期研修医は患者から見たらドクターだけど、経験が浅いのでハプニングが起きた時に柔軟な対応ができなかったところが現実的だと思いました」(内科)

 

 <違うと思うシーン>

 

「第2話で救急救命医の加瀬先生がギネ(産婦人科)のカンファ中に乗り込んでいくシーンがありましたが、実際にはないでしょう。ピッチで連絡すれば済む話です。そちらの方が早いし。ドラマを盛り上げるための演出だとは思いますが」(内分泌科)

 

「下屋先生のように後期研修医が上級医に言い返すことはないと思う。脳出血妊婦の緊急帝王切開の際に、救急の先生がひとりで5分以上心臓マッサージするのも実際とは違う」(総合内科)

 

「産婦人科医の数、当直などを考慮すると、院内はもっと汚くてもいいと思います(笑)」(産婦人科)

 

              

産婦人科の現場が描かれた原作コミック
コウノドリ 第1巻(モーニングKC)

出産は病気ではない。
だが何かが起こりうるから
産科医は必要なのだ──。
産婦人科医・鴻鳥サクラが
さまざまな問題を抱えた妊婦を助ける、
人間ドラマが描かれた作品。
現在も雑誌『モーニング』で連載中。

 


関連記事

女性医師たちに聞いてみた。
医療ドラマ、観る?観ない?

先輩医師から、あなたへ 
―ともに緩和ケアへの適切な理解と普及を目指す仲間として―